角野隼斗と愛猫のチェロちゃん、プリンちゃん。

猫と音楽家の二重唱 第7回 [バックナンバー]

角野隼斗にインスピレーションを与える実家の愛猫プリン&チェロ

「仲間だと思われていたでしょうし、 僕自身もそう思ってました」

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角野隼斗が受ける猫からの影響

なお、角野が敬愛するフレデリック・ショパンの作品には「猫のワルツ」という作品もあり、彼自身「ショパンのワルツからは影響を受けてます」と、その影響を認める。

椅子の上でくつろぐチェロちゃんとプリンちゃん。

椅子の上でくつろぐチェロちゃんとプリンちゃん。 [高画質で見る]

「ただ、ショパンの『猫のワルツ』は『華麗なる円舞曲』というピアノ独奏曲集の一部であって、『猫のワルツ』というのは愛称なんですよね。ショパン自身が猫を意識して作ったわけではないような気もします。ショパンは『小犬のワルツ』という曲を書いてますが、この曲は(ショパンの恋人であった)ジョルジュ・サンドが飼っていた子犬の様子を見て作られたと言われています。それもおそらく即興的な遊びから作られたんだと思いますね。『小犬のワルツ』があるんだったら、『大猫のワルツ』があってもいいんじゃないかと思って書きました」

角野によると、ショパンを筆頭に、19世紀のヨーロッパの作曲家たちはたびたび動物をモチーフにした楽曲を作ってきたのだという。

「(カミーユ)サン=サーンスは作ってますね(『動物の謝肉祭』など)。あと、20世紀の作曲家ですけど、(オリヴィエ・)メシアンも鳥の鳴き声を細かく再現しています」

グランドピアノの上で眠るプリンちゃん。

グランドピアノの上で眠るプリンちゃん。 [高画質で見る]

では、21世紀の作曲家である角野は、猫という存在からどのような影響を受けているのだろうか。

「音楽家はコンサートでもなければ、ずっと家で楽器を演奏しているわけですから、同じように家にいる猫や犬から刺激を受けることは自然に起こりうるでしょう。ピアノの奏法で言うと、(ピアノの鍵盤を)素早くタッチするような演奏をすることがあって、先生から『猫がひっかくときのように弾くように』と言われたことがあるんです。獲物を素早く捉えるような素早さと加速度をイメージして弾くことはありますね」

確かに猫の動きは独特だ。猫パンチを筆頭に彼らの身体の動かし方は明らかに人間とは違うものであり、ありえないムーヴはいつも我々を驚かせる。そもそも「自分とは異なる何か」は、常に創作上の刺激となる。19世紀の作曲家にとって、最も身近な「自分とは異なる何か」が猫や犬だったのだろう。角野は猫の鳴き声にも着目している。

リュックからひょっこりチェロちゃん。

リュックからひょっこりチェロちゃん。 [高画質で見る]

「音楽家にとっては鳴き声もインスピレーションの源になると思います。僕の場合は『bad guy』のアレンジに使ったぐらいですけど、鳥の鳴き声から着想を得て作品を書いた作曲家は実際にいます。ただ、彼らにとって鳥の声は、単なる模倣の対象というより、自然そのものを感じさせる響きの一部だったのではないでしょうか。グリーグやシベリウスの音楽から自然豊かな情景が立ち上がってくるのも、彼らが北欧の自然の中で、鳥の声を含むさまざまな音に親しんでいたことと無関係ではないように思います。僕は千葉県の八千代市という住宅街に住んでいたので、そんなに自然の音にも触れてこなかったんですが」

「Chopin Orbit」に込めたショパンへのアンサー

先月リリースされた角野の最新アルバム「Chopin Orbit」では、「幼い頃からずっと親しんできて、自分にとって最も近いと感じる作曲家の1人」というショパンの作品に改めて取り組んでいる。ただし、ここには過去に角野が向き合ってきたショパンの楽曲に加え、角野のオリジナル曲も含まれている。

「ずっとショパンを弾いてきたものですから、自分が創作をするときにもその影響は如実に現れるわけですよ。それはショパンを意識していないときですらも現れてしまう。今回のアルバムでやりたかったのは、ショパンから刺激を受けながら自分というフィルターを通して出てきたものを、ショパンの作品と交互に組み合わせるということ。そうすることで、21世紀を生きている僕から19世紀の作曲家へのアンサーのようなアルバムにできたらと考えていました」

マスクメロンとチェロちゃん。箱の中からひょっこり。

マスクメロンとチェロちゃん。箱の中からひょっこり。 [高画質で見る]

威厳のあるお顔のプリンちゃん。

威厳のあるお顔のプリンちゃん。 [高画質で見る]

先の「大猫のワルツ」もまた、ショパンに対する21世紀からのアンサーとも言えるだろう。また、常にたくさんのインスピレーションを与えてくれる猫たちに対するアンサーなのかもしれない。

なお、角野にもこの連載名物の「猫と一緒に聴きたいプレイリスト」を選んでいただいた。件の「大猫のワルツ」から始まり、無類の猫好きとしても知られる矢野顕子の「Soft Landing」、振付に猫のムーヴも取り入れられたILLIT「Billyeoon Goyangi (Do the Dance)」なども選曲されたジャンルレスなプレイリストとなっている。猫とお住まいの方はぜひご一緒に楽しんでいただきたい。

角野隼斗が猫と一緒に聴きたい曲

プロフィール

角野隼斗(スミノハヤト)

2018年に「ピティナ特級グランプリ」、2020年に「東京大学総長大賞」を受賞。2021年の「ショパン国際ピアノコンクール」でセミファイナリストとなり、2025年に「レナード・バーンスタイン賞」や「オーパス・クラシック賞」を受賞。世界の著名オーケストラとの共演のほか、“Cateen(かてぃん)“名義で活動するYouTubeチャンネルの登録者数は155万人超。東京大学在学中に結成したシティソウルバンド・Penthouseのメンバーとしても活躍している。2023年よりアメリカ・ニューヨークを拠点とし、2024年にアルバム「Human Universe」で世界デビュー、同作は「日本ゴールドディスク大賞」を受賞。2025年にはアメリカ・カーネギーホールや、ソロピアノ公演最多動員でギネス世界記録となった神奈川・Kアリーナ横浜での公演を完売させた。作曲や幅広いメディア出演など多岐にわたり活躍し、2026年1月に最新アルバム「CHOPIN ORBIT」をリリースし、全国ツアー16公演を開催した。

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大石始

地域と風土と音楽をテーマとする文筆家。主な著書・編著書に「異界にふれる」「南洋のソングライン」「盆踊りの戦後史」「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。NHK-FM「エイジアン・ミュージック・ニュー・ヴァイブズ」出演中。2匹の保護猫と東京都下で生活中。

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tonia @tonia_ysmgo

「猫と一緒に聴きたいプレイリスト」
> 無類の猫好きとしても知られる矢野顕子の「Soft Landing」

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