「MUSIC inn Fujieda」と後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)。

「MUSIC inn Fujieda」ができるまで~ゴッチのスタジオ設立奮闘記~ 第6回 [バックナンバー]

藤枝に「MUSIC inn Fujieda」が完成して見えた課題、次世代に“いい音”を継ぐために

「BUMP OF CHICKENみたいなバンドが出てきたら最高」スタジオ創立者・後藤正文が抱く希望

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後藤正文、アジカンをスタジオに誘致

──今はアーティストモードと経営者モードのスイッチを切り替えながら活動しているのか、それが混ざっている感じなのか、どちらが近いですか?

アジカンに関しては「MUSIC inn Fujieda」を活動の中心に据える気持ちがないから、そこは分かれてますよね。アジカンは機材も多いし、このスタジオだと正直ちょっと窮屈だから、俺たちはやっぱりランドマークスタジオとかに入るほうがいい。今回はスタジオ経営のためにアジカンを誘致したっていう感じ。

「MUSIC inn Fujieda」コントロールルームにあるコンソール。

「MUSIC inn Fujieda」コントロールルームにあるコンソール。 [高画質で見る]

FeederのTAKAが作ったギター。「MUSIC inn Fujieda」コントロールルームの壁にかけられている。

FeederのTAKAが作ったギター。「MUSIC inn Fujieda」コントロールルームの壁にかけられている。 [高画質で見る]

──後藤さんが、アジカンをスタジオに誘致したと。

基本的にインディーズのアーティストには支援価格で使ってもらって、メジャーとか予算のあるアーティストには定価で使っていただいて、差額分を支援に回すイメージでいるので、メジャーのバンドに入ってもらえるとありがたいんですよ。だからアジカンもテストとはいえ「ちゃんとお支払いいただけますか?」という相談を最初にマネジメントとして、ご祝儀じゃないですけど、使っていただいて。僕はアジカンの一員でもあるから、不思議な立場ではありますけど、今回に関しては完全にアジカン誘致ですよね。普通そんなコネないですから。

──いきなりメジャーのバンドにスタジオを使ってもらえるのは後藤さんだからこそ。

いきなりソニーに電話して、「10日間くらい借りてもらって、満額お支払いいただけますか?」とは言えないじゃないですか。そこは職権乱用ってわけじゃないけど、つながりはやっぱり使っていかないと。なので、僕がアジカンのメンバーと友達でよかったです。アジカンのメンバーはここに泊まったわけじゃなくて、「駅前にいいホテルあるし、うまいもん食わせます」って(笑)。

──正式なオープンは3月22日を予定しているそうですね。

なので、それより前の段階でホームページに利用料金や予約方法の説明が出ると思います。

──すでに問い合わせは来てますか?

仲間たちからはけっこう来てますね。よくライブハウスで会うインディーの人たちとか、そういう人たちの現場のスタッフとかからは問い合わせをもらってます。条件面に関してはまだ手探りで、もちろん採算を度外視するわけにはいかないけど、NPOとしてはやはり支援が目的なので、申請してもらえればインディーとかアマチュアのアーティストは割引価格で使える予定です。ただアマチュアの中にも金銭的に恵まれている人もいれば、メジャーでも予算が厳しい人もいるだろうし、そこは事務局で話し合いながら、臨機応変に対応できればと思います。

地域から生まれるバンドのマジックを見たい

──現在の課題はどんな部分でしょうか?

スタジオに併設しているビル全体の活用方法はもっと詰めて考えないとですね。2階はゲストハウスにしたいと思っていて。そこは音楽をやってない人も泊まれる場所にしたいので、今、林檎酢会員(「APPLE VINEGAR -Music Support-」のサポーター)にどういうところだったらうれしいかを聞いたりしてます。「ドルビーアトモスを体験できる場所があったらいいよね」という意見もあったり。音楽を楽しめるゲストハウスになるといいなと。ツアーバンドの支援もしたいので、ZINEとかグッズ作りのサポートもできるようにしたい。ここでみんな自作して、その収益を活動費にしてレコーディングしたり、「MUSIC inn Fujieda」を通してそういうことが手伝えるといいなと思う。ツアーバンドが名古屋と東京の間にワンクッション入れるような場所になってもいいし。

天気がよければ屋上で富士山が見えることも。

天気がよければ屋上で富士山が見えることも。 [高画質で見る]

──自費でツアーを回るのはやっぱり大変ですもんね。

みんな東京で疲弊する必要はないと思うし、だんだん埼玉とか千葉とか神奈川に移ったり、下北のやつらが多摩川を渡る流れもあるじゃないですか。アメリカで言うと、マンハッタンからブルックリンに移って、ブルックリンからニュージャージーに移って、みたいな。高いところだと住めないから、音楽をやるために、なんなら藤枝に来てもらってもいいですしね。中古の古民家もけっこうあるから、それをDIYで直して住むのも全然ありだし。静岡は製造業が盛んだったり、意外と仕事があるんですよ。なので、長い目での目標としてはもうちょっと仕事が作れたらいいなと思ってます。働きながら音楽をやり続ける方法って、今のところまだ明確な解がなくて。みんなそれぞれ工夫してるけど、まだ運頼みになっちゃってるところがある。そうじゃなくて、仕組みとしてちゃんとお金を循環させるエコシステム、生態系を作れるともうちょっとみんな創作しやすいよね、みたいな。

──昨年末にnoteの日記で「何度も藤枝に足を運んで、ずっと足が遠のいていた地元への気持ちがいろいろと変わっていった一年でもあった」と書かれていましたが、今みたいな話も藤枝に通う中で出てきた発想ですか?

そうですね。やっぱり音楽のことや街のことを考えると、働くことについても考えなきゃいけないし、お金のことも考えなきゃいけない。そうするとこれは社会的な課題とリンクしてきて、そもそもみんな休みを取れるようにしなきゃとか、アートが許される社会を作らないといけないとか。俺、最近「なんで大学生の頃にインターネット通販でCD売るとか思いつかなかったのかな?」って思うんですよ。そしたら俺がZOZOTOWN的な会社を持ってた可能性もあるわけじゃないですか。

──前澤さんも元バンドマン、Switch Styleのメンバーだったわけですもんね。

俺だったら月に行かないで、でっかいスタジオを作ったと思う(笑)。すごく難しいことを言ってますけど、自分のできる範囲で、どうやって音楽にまつわるいろんな人たちの働き方にアプローチをして、環境をよりよくしていけるか考えないと……となるとお金のことは避けて通れないかな。例えばですけど、アーティスト印税の中から何%かをスタジオに戻すスタイルにすると、将来的に大きな成功を収めるバンドが1つでも出てくれれば、スタジオ的にはまた新しい還元も考えられる。どうやって持続可能なスタジオにしていくかは、やっぱりみんなで考えないと。僕にしろNPOの代表の小林くんにしてももう50歳なわけで、いつかは俺たちも去らなきゃいけない。だから、スタジオの未来について考えることは、僕らだけの課題じゃなくて、ここを使う人たちとか、将来使うであろう人たちの課題でもあるんです。どうやってみんなのスタジオにして、どうやって長く使えるか。築130年の土蔵を、どうやってここから130年後の人たちに手渡すのか。スタジオですごくいい音が録れるようになったとして、じゃあ、このいい音をどうやってその次の世代にパスするのか。そういうことを、関わる人たちと一緒に考えていきたいですね。

「MUSIC inn Fujieda」外観

「MUSIC inn Fujieda」外観 [高画質で見る]

──そうやって藤枝サウンドを継承していく。

いつか「MUSIC inn Fujieda」からBUMP OF CHICKENみたいなバンドが出てきたら最高ですよね。藤くん(藤原基央)の楽曲が素晴らしいのはもちろんだけど、バンプはあの4人だからあんなに素敵なバンドになっているわけで。地域から生まれるバンドのマジックをここでも見たい。そういう人たちの登場が、このスタジオの助けになったり、新しい文化になっていくはずだから。自分が引退するまでの当面の目標はそれかな。「ついに出てきた!」みたいな、そういうやつらの登場をいつか見てみたいですね。

屋上から藤枝市の景色を眺める後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)。

屋上から藤枝市の景色を眺める後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)。 [高画質で見る]

<完>

「APPLE VINEGAR -Music Support-」最新情報

2026年3月22日に滞在型音楽制作スタジオ「MUSIC inn Fujieda」運営開始。スタジを拠点にさまざまな音楽支援の取り組みを展開している。多くのミュージシャンの活動を支えるために、毎月1000円~継続的な寄付を募る「APPLE VINEGAR ミュージックサポーター(林檎酢会員)」を募集中。

プロフィール

後藤正文

1976年生まれ、静岡県出身。1996年にASIAN KUNG-FU GENERATIONを結成し、2003年4月にミニアルバム「崩壊アンプリファー」でメジャーデビュー。2004年にリリースした「リライト」を機に人気バンドとしての地位を確立させる。バンド活動と並行してGotch名義でソロ活動も展開。the chef cooks me、Dr.DOWNER、日暮愛葉、yubioriらの作品にプロデューサーとして携わるなど多角的に活躍している。文筆家としても定評があり、これまでの著作に「ゴッチ語録」「凍った脳みそ」「何度でもオールライトと歌え」などを刊行した。ASIAN KUNG-FU GENERATIONとしては、2026年3月25日に「フジエダ EP」をリリース。4月に東京・有明アリーナで結成30周年ライブ「ASIAN KUNG-FU GENERATION 30th Anniversary Special Concert "Thirty Revolutions"」を2日間にわたって行う。

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金子厚武

1979年生まれ。インディーズバンドでの活動や音楽出版社勤務を経て、現在はフリーランスのライターとして音楽を中心に雑誌やWebで執筆している。2015年発売の「ポストロック・ディスク・ガイド」を監修。

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