左から加茂啓太郎、ヤマモトショウ。

加茂啓太郎×ヤマモトショウが語るアイドルとTikTokの10年

やっと時代が追いついた?平成と令和のヒットメイカー対談「時代を先読みする力と令和の原石の探し方」

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2020年、TikTokの時代が来た

──ヤマモトさんが作曲家として扉が開いた曲、手応えをつかんだ曲というとどれになりますか?

ヤマモト 2020年にフィロソフィーのダンスを離れることになって。その頃にオファーをもらって、リルネードというグループに「もうわたしを好きになってる君へ」という曲を書いたんです。「2020年代のオシャカワ」をコンセプトにした曲にしてほしいと言われて、正直何言ってるか全然わかんないなと思ったんです(笑)。でも、それをふぇのたすでやっていたことをそのままアイドルでやればいいんだと解釈して、曲を作りました。ものすごくブレイクしたわけじゃないんだけど、自分としても手応えはあって。で、その後に書いた「わたしの一番かわいいところ」のオーダーに「『もうわたしを好きになってる君へ』みたいな曲が欲しい」というのがあって、間違ってなかったんだなと思ったんですよね。

【MV】リルネード「もうわたしを好きになってる君へ」

加茂 そのオーダーは木村ミサ(KAWAII LAB.総合プロデューサー)さんから?

ヤマモト そうです。木村さんが「もうわたしを好きになってる君へ」が好きで、ああいうことをやりたいという話をもらって。1つのわかりやすい例になったなと思いました。アソビシステムの皆さんはふぇのたすのことを好きでいてくれて、活動していた当時も交流はあったんですけれど、ここに来てタッグを組むことになったという経緯もあります。それもあってふぇのたすで考えていたことが今につながっている実感もあったし。実際にそう思ってくれる人がいる中で作ったから、リルネードからFRUITS ZIPPERへの流れについては自分の中でも腑に落ちたというか、1つのきっかけにはなったと思います。

──2020年はコロナ禍で活動ができず、アイドルにとっては一番キツかった年だと思います。この時期、アイドル陣営に関わっていたお二人としては、どんなことを考えてましたか?

加茂 ちょうどフィロソフィーのダンスをメジャーに渡してプロデューサーから退くことになったタイミングでした。でもコロナ禍によって、すごくいい話が来てたのに、全部なくなってしまったし、何もかもうまくいかないな、どうしたもんかなって感じでした。新しいスタッフと会って僕のビジョンを伝える事もままならなかったので、うまくコミュニケーションも取れず、日々悩んでましたね。

ヤマモト その状況は共有してた部分もありますけど、僕は大変なときこそチャンスがあると捉えるタイプなんです。1つは地元の静岡でfishbowlを立ち上げました。それまではローカルアイドルのブームは終わったし、地方でやることなんてないと思ってましたけれど、コロナ禍になったことで、逆に地方でやることが生まれたと思ったので。あとは、家にいたまま、会いに行かなくてもアイドルを応援できる方法を提示できれば勝てると思ったので、これはTikTokの時代が来たぞと。それぞれの場所で真似をしてTikTokに投稿することが自動的に応援になるシステムをFRUITS ZIPPERでやろうと考えたんです。それまでだったらCDを買いに行って、特典会やリリースイベントに行かなきゃアイドルを応援できなかったけれど、曲を聴いてダンスを踊ればそれが応援になるし、かつ自己実現になる。それを自然にやってもらえる構造にアジャストしたものを作れば、可能性はあるんじゃないかという感覚でした。もちろんうまくいかなかったこともいっぱいあるんですけど、FRUITS ZIPPERの成功はそこからだったと思います。

加茂 木村さんが「最初に『ねえねえねえ』って声をかけられると、ついつい聴いちゃう」って言ってたよね。あれは発明だと思うよ。

【MV】FRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ-Watashino Ichiban Kawaii Tokoro」Official Music Video

ヤマモト それも、当時の研究がだいぶ役に立ってました。そのときに得ていた知見から、“スワイプされないように呼びかける曲”を提案したんです。ただ、それがちゃんと自然な音楽の魅力の1つになっていることが大事なんですよね。音楽として気持ちよく「ねえねえねえ」って言われたら、やっぱり受け入れちゃうみたいなところがあるという。

バズるような仕掛けは作れます

──ヤマモトさんはいつぐらいからTikTokをチェックするようになったんですか?

ヤマモト 2017年、18年ぐらいからですね。その頃すでに15秒の曲を100曲作って投稿して、流行ったやつだけをフル尺にするという作り方をやっていました。そういうことをするのはたぶん僕が一番早かったと思います。当時、加茂さんをはじめメジャーレーベルの人にも「この方法でどうですか? 何が売れるかわかんないんで、売れるってわかってる曲作りましょう」と提案したんですけど、ほぼ受け入れられなかった記憶があります(笑)。

加茂 でも、そのアイデアを聞いて面白いなと思ったのは覚えてますよ。

ヤマモト 当時はコロナ前だしそのやり方がベストだったかどうかはわからないですよ。でも、その後コロナ禍になって、TikTok発のヒットが出てきたときも「もう自分は実験をやってるからその通りやればいい」と思ってました。ふぇのたすの「おばけになっても」でやっていた簡単なダンスを付けるという経験もありましたし。今、TikTokが流行れば、あの頃思っていたようなことが、もっとポップに、もっと気楽に実現するんじゃないかということ思ってました。だからFRUITS ZIPPERの曲を作るときにも、そこで得た知見をそのまま生かして。

──TikTokって、お金をかけてバズを仕掛けよう、流行らせようとしても、決してそれがバズるわけではないですよね。

ヤマモト そうなんです。僕もFRUITS ZIPPERを始めるときにスタッフチームに言いましたよ。「バズらせようと思ったら99%バズらないと思います。でもバズるような仕掛けは作れます。それがバズるかどうかは皆さんの努力と運次第なんで」って。

TikTok時代の新人発掘

加茂 TikTokは僕も使ってるんですけど、最近の新人発掘の人たちはバズった数字だけ見て声をかけるようになっちゃってるんですよね。そうすると、アーティストにとっても、音楽的才能じゃなくて数字を評価されただけになっちゃうから、あんまりいい関係ができない。僕は、ヤマモトくんもそうだし、NUMBER GIRLだってBase Ball Bearだって、何者でもないときに「君、才能あると思う」って言うからしっかりと関係性ができているわけで。自分に唯一才能があるとしたら、アーティストの才能を見極めることなので、それをTikTokでもやっています。時間があるときには何時間もずっとTikTokを見て、いいなと思ったら「もう契約ありますか? なければ1回オンラインで話しませんか?」とDMを送る。今は1日1アーティストにDMを送ることをノルマにしてます。

ヤマモト おお、すごいですね。

加茂 それを夏前ぐらいからやり始めたんですけど、今のところ才能があるなと思った2人とコンタクトが取れています。才能発掘の場がライブハウスからTikTokに変わっても、僕のやることは変わらないんですよ。もう1回原点に戻ろうと思って、最近は新人発掘をがんばっています。それをどうビジネスにしてマネタイズするかまでは考えられてないんですけど……。昔に比べたらアーティストとの出会いはすごく楽になりましたよ。送られてきた封筒を開けて、入っているCDをかけて聴いてみて、いいなと思ったら連絡をするというのが、今ではワンクリックでもう曲からビジュアルから全部わかるわけだから。

ヤマモト アーティスト側からしてもそうですよね。デモを送るのってだいぶハードル高かったので。

加茂 今はもうレコード会社にデモテープを送るよりTikTokに曲を上げて見つけてもらう時代になりましたからね。フジロックとかフェスのオーディションはあるけれど、レコード会社やマネージメントのオーディションもあまりなくなった。僕の感覚ですけど、数字上の話ですが3000本のデモから1人デビューできる子が見つかるんです。Great Huntingでも年間1万弱のデモが来て、その中で年間や約3アーティストがデビューしてました。TikTokの普及で新人を見つけやすくなったので、新しい才能を探すのが楽しいです。

ヤマモト TikTokが当たり前になっても、ヒット曲の定義って昔も今も変わらないと思うんです。今だと「バズる」曲みたいな言い方をしますけど。ざっくり言うと、僕に今「バズる曲作ってください」というオーダーがいっぱい来ているわけです。でも、これって昔に「ヒット曲を作ってくれ」って作家にオーダーが来ていたのと変わらないと思うんですよ。例えば90年代だったら「みんながカラオケで歌いたくなる曲」がヒット曲だったけど、今はみんながTikTokで真似したくなる曲がヒット曲なんだと僕は解釈していて。いわゆるポップスのヒット曲を作る作曲家としては、やることは同じだと思うんです。ただ、昔より世間からの反応が早いし、バズる流れが全部可視化されてるので、そのあたりは昔と違いますね。あと、数字を意識しすぎないようにしないとめちゃくちゃ疲弊します。曲を作る側としてはそういう違いはありますね。

左から加茂啓太郎、ヤマモトショウ。

左から加茂啓太郎、ヤマモトショウ。 [高画質で見る]

加茂啓太郎(カモケイタロウ)

加茂啓太郎

加茂啓太郎 [高画質で見る]

音楽ディレクター&プロデューサー。東芝EMIの新人発掘育成組織「Great Hunting」のプロデューサーとして、ウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、NUMBER GIRL、氣志團、ART-SCHOOL、Base Ball Bear、フジファブリック、相対性理論、赤い公園、Mrs. GREEN APPLEなどを発掘した。近年はクリトリックリス、寺嶋由芙、フィロソフィーのダンス、CIRGO GRINCO、文坂なの、などをプロデュース。日本の音楽シーンにアンテナを張り続け、世に送り出すべき新たな才能を探している。

ヤマモトショウ

ヤマモトショウ

ヤマモトショウ [高画質で見る]

静岡県出身の作詞家、作曲家、編曲家。東京大学文学部(思想文化学科哲学専修課程)卒業。エレクトロポップユニット・ふぇのたす解散後は、アイドルグループなどへの楽曲提供を精力的に行い、2018年にはゲストボーカルを迎える自身のソロプロジェクト・SORORとしてアルバム「new life wave」をリリースした。2021年より地元・静岡県のご当地アイドル・fishbowlのプロデュースを担当。2022年にFRUITS ZIPPERに提供した「わたしの一番かわいいところ」が大ヒットした。

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読者の反応

柴 那典 @shiba710

加茂啓太郎さんとヤマモトショウさんの対談、司会構成担当しました。テーマは「アイドルとTikTokの10年」。でんぱ組.incからカワラボ、そしてショート動画時代の楽曲制作と新人開発論。アイドル論としてもメディア論としても相当刺激的な内容になったと思います。

https://t.co/uInLj9mVUJ

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