のっちはゲームがしたい! 第19回(後編) [バックナンバー]
「都市伝説解体センター」墓場文庫に直撃!少人数なゲーム開発のリアルに迫りました
決めポーズの元ネタはPerfume? 13言語対応で失踪寸前に……
2025年12月23日 12:30 42
ミステリーアドベンチャーゲーム「都市伝説解体センター」をテーマにした今回の「
取材
集英社ゲームズが目指すのは、ゲームから新しいクリエイターを育てること
のっち えっ、墓場文庫さんって、これで全員なんですか!?
ハフハフ・おでーん かなり小さいチームでやってます。
のっち (称えるように拍手をしながら)皆さんはそれぞれ、どういう仕事をされてるんですか?
MOCHIKIN プログラムをメインでやらせていただいてます。
おでーん グラフィックを担当しております。
きっきゃわー シナリオとかキャラクターデザインとか、諸々やらせてもらってます。
あだP BGMやSEを担当しております。
のっち よろしくお願いします! 確かに今の役職を聞いたら、この4人だけでひと通りゲームが作れそうですね。
林真理 インディーゲームの開発をしてるチームには普通サウンドプロデューサーはいないんですよ。サウンドは外に出すことが多いから、4人なのにサウンドもいるのはすごく珍しい。
のっち なるほど、そこが墓場文庫らしさなんですね。そして林さんが集英社ゲームズでプロデューサーをされていると……あの、恥ずかしながら集英社ゲームズさんがどんな会社なのかよく知らなかったんですけど、今日ここに来たら、めちゃくちゃしっかりしたゲーム会社が現れて驚きました(笑)。
林 もともと集英社ゲームズができる前に、集英社の新規事業部で、数人でゲームの仕事を始めたんですけど、それを本気でやりましょうってことでこの会社になったんです。今は60名近くいるので、その意味ではちゃんとしたパブリッシャーというか、ゲーム販売会社になってきた感じですね。
のっち ゲーム事業というのは、どういったことをされているのですか? 集英社ゲームズさんならではのことが、何かあるんですか?
林 僕らがやろうとしてるのは「ゲームから新しいクリエイターを育てる」ということで。マンガがヒットしてアニメ化やゲーム化する例はたくさんありますが、ゲームを起点にアニメやマンガ、小説が作られるようにしたいなと。そういうクリエイターの尖った才能を世界中のゲームファンにお届けするのが、集英社ゲームズの目指す未来なんです。
のっち まさに墓場文庫さんのことですね!
林 そうです。墓場文庫のタイトルをローカライズして海外に持って行って、彼らを世界に広めるというのを僕らはやらせてもらっています。なので集英社ゲームズには英語ネイティブはもちろん、中国語やフランス語を話せる人もいるし、たまに何を話しているのかわからない海外の言葉が聞こえてきます(笑)。
のっち 墓場文庫さんは「集英社ゲームズに所属」という扱いになるんですか?
おでーん 所属しているわけではないんです。墓場文庫はあくまで独立した個人のクリエイターが集まったチームで、会社ではないんですけど、集英社ゲームズさんにパブリッシャーとしてサポートしてもらっているんですよ。
のっち なるほど、1人ひとりはほかの仕事もしているけど、チームとして墓場文庫を組んでいるんですね。どういう経緯でチームになったんですか?
おでーん もともと「和階堂真の事件簿」というゲームを僕とMOCHIKINさんで作ってたんですけど、頓挫していたときにきっきゃわーさんとあだPさんが手伝いに来てくれて、発売後に墓場文庫というチームになったんです。それを「Google Play Indie Games Festival」というコンテストに応募したところ、集英社の賞を受賞して。
林 そのときはまだ集英社ゲームズもなかったので、墓場文庫とは「いつか何か一緒にできたらいいですね」と話していて。それが「都市伝説解体センター」が生まれたきっかけですね。
「都市伝説解体センター」と一緒に書かれた、2つのゲームの企画書
のっち 私、「都市伝説解体センター」をやってから、あの世界から抜け出せなくなって(笑)。「同じ開発チームが作ったらしい」ってことで「和階堂真の事件簿」もやったんですけど、どうしてこの硬派でハードボイルドな刑事モノが、あのテンションの高い「都市伝説解体センター」になるんだ?ってビックリしました。
おでーん そこは企画段階で林さんと「どういうところに注力するのがいいか」という話し合いをさせてもらったんですよ。
林 前の作品よりもステップアップしてほしかったので、キャラクターの魅力とかストーリーの深みにもっと力を入れましょうという話になって。その結果、僕もびっくりするような個性的なキャラクターがどんどん生まれ始めたんです(笑)。
おでーん 実は開発を始める前に、僕らで3案ぐらいゲームの企画書を作ってまして、そのうちの1つが「都市伝説解体センター」だったんです。ここにその企画書があるんですけど……。
のっち わっ、絵がかわいい! 「回想探偵と黒樫の森」と「ハッピーエンド分岐フラグ」? 気になる! というか、なんか「都市伝説解体センター」だけ絵のタッチが全然違いますね……。
おでーん どういうビジュアルの方向性がいいかを見てもらうために、林さんにこの3案を持っていって、「都市伝説解体センター」がいいんじゃないかってことになったんです。この時点で廻屋渉は、カラーリングがちょっと違うくらいでほぼほぼ今のビジュアルですね。
のっち このタイトルは誰が考えたんですか?
おでーん タイトルは僕なんですけど、ゲームのテーマとかコンセプト、廻屋渉のビジュアルはきっきゃわーさんです。
あだP ラフのときから「すごいね、これいいじゃん」みたいな話になったんだよね。
MOCHIKIN すでにこの時点で廻屋渉が電話をしてる絵なんですよ。
のっち ホントだ! そういう設定は最初からあったんですか?
おでーん 内容とかまだあんまり決まってなかったんですけどね。「電話で事件を解決する」みたいな。最初はコールセンターをイメージしてたから「解体センター」って名前にしたんだと思います。
きっきゃわー もともと、あざみちゃんじゃなくて廻屋くんが動き回って謎を解くゲームを想定してたし。
林 この時点で僕は「センターっていうくらいだから数十人が働いてるんだろうな」と思ってました(笑)。
のっち そうだったんですね!
MOCHIKIN でも、僕は絵よりも先にどんでん返しを考えるタイプなんですよ。そっちの企画書に書いてある「ハッピーエンド分岐フラグ」っていうゲームは僕が出した案で、ちゃんと辻褄が合う話も作って、一応どんでん返しも全部考えてたんです。なのに蹴られて「結局見た目かい」って思いました(笑)。
きっきゃわー 恨み節が強い(笑)。
おでーん 選ばれなかった2案は感動系の話だったんですけど、林さんが「『和階堂真の事件簿』を作ったチームだから、ケレン味のある怪しくてどろどろした話のほうが絶対いいよ」って言ってくれて、「都市伝説解体センター」に決まりました。
のっち 名プロデューサー……!
MOCHIKIN でも中身はなんも決まってなかったんですよね。「ハッピーエンド分岐フラグ」のほうはもういろいろ決まってたのに(笑)。
おでーん いやいや、まだ作れるから(笑)。
林 作っちゃダメとは言ってないから(笑)。
のっち 「ハッピーエンド分岐フラグ」って、タイトルからしてもう気になるし、やってみたいです!
13言語のローカライズが大変すぎて……
林 そして3つの中からどのゲームを作るのかが決まって、次の企画書にはもう「都市伝説解体センター」のロゴが載ってたんですよ。おでーんさんは企画書用の仮ロゴのつもりで作ったんだけど、それを僕がすごく気に入って。おでーんさんはずっと直したがってたのに、最後の最後まで僕が引かなかったのでそのロゴで販売されました(笑)。
のっち 大事なところでバンッて出てくる、あのロゴですよね?
おでーん そうなんです。「ちゃんとした人に頼みましょうよ」って言ったのに(笑)。キービジュアルも、仮で作ったものがそのまま採用されちゃって。
のっち キービジュアルもそうなんだ!
林 僕があのロゴを気に入りすぎて、中国語の簡体字と繁体字、英語、ハングルでも作ってもらいました。
英語・韓国語・中国語(簡体字・繁体字)のロゴデザイン
のっち 13言語に対応してるってことですけど、そもそも「都市伝説」っていう言葉がない国もあるんじゃないですか?
林 言葉自体はありますが、例えば「コトリバコ」は日本で生まれた都市伝説なので、それをどう翻訳するのか、何か近い言葉はないのか、そのまま「コトリバコ」でいくのか、とかそういうことは翻訳者に相談しましたね。
おでーん 翻訳はがんばってやったんですけど、一番割りを食ったのはプログラマーで。13言語の翻訳データを実装していく作業を、MOCHIKINさんが1人でやりました。
のっち ひゃー!
MOCHIKIN 13言語はすごかったね……。
林 それはプロデューサーの一番のミスでした(笑)。本当に後悔してるんですけど、「集英社ゲームズを世界に届けたい! できる限りローカライズしてたくさんの人に喜んでもらおう!」と意気込んでたら、それをできるプログラマーが1人しかいなかった。MOCHIKINさんの髪の毛がどんどんボサボサになっていって……(笑)。
おでーん キャラクターの名前も全部、その国の人の名前に変えましたしね。
林 あと、アラビア語は右から左に読むから、それも全部直さなきゃいけないんですよ。「あざみ」「ジャスミン」みたいな発言者の名前も、文章の頭にないとおかしいので、右側に移動しないといけない。
のっち その作業をお一人で……大変だ。でも確かに、遊びたいゲームが自分の言語で遊べる特別感ってすごくありますよね。
林 そうなんですよね。ただ、分業ができないので、最後にエンジニアさんに負担がかかるというのが、小規模開発の難しいところで……。
MOCHIKIN いや、できると思いますよ。誰も手伝ってくれなかったけど(笑)。
のっち なんでそこまでがんばれたんですか?
MOCHIKIN それは僕も思います(笑)。
おでーん 何回か「もうアカン」ってときがあったよね。
きっきゃわー 失踪の準備をしていたんですよね。
MOCHIKIN 「僕がいなくなったらどうなるんかな?」って軽く脅しながら(笑)。でも、それが小規模開発というものなのかもしれませんね……。
のっち そうなんだ。
きっきゃわー 変なまとめ方をしたら誤解を生むからやめて(笑)。
大きいゲームではできない、小規模なゲーム開発ならではの魅力
のっち ちなみに、センター長は最初の企画書から見た目がほとんど変わってませんけど、初期案からガラッと変わったキャラクターもいるんですか?
きっきゃわー (ラフスケッチを見せながら)記事に載せるとネタバレになっちゃうかもしれないけど、これが●●●の最初の案ですね。
のっち あー! カッコいい。今のデザインと全然違います。
きっきゃわー 最初はもうちょっとキレのある顔立ちだったし、洋服も変わりました。
おでーん このキャラは途中で設定が二転三転したんですよ。僕らは作りながらストーリーをガッツリ変えることも多いから、その都度デザインも変えていきました。
林 大きいゲームを作っていると、仕様変更するのがすごく大変なんですよ。1つ何かを変えようとしたら、数十人の作業が一旦ストップする。でもここは4人しかいないので、4人とも「いいよ」と言えば変更できるんです。
のっち そこが小規模なゲーム開発ならではの魅力なんですね。
林 ちなみに、ゲーム内に「トシカイくん」ってキャラクターが出てくるじゃないですか。あれってもともと、劇中で都市伝説解体センターのマスコットキャラクターとして出すつもりで作られたんですよ。
のっち そうだったんだ!
林 さっき話したように、最初はたくさんの人が働いている会社をイメージしてたので。けど小さい探偵事務所みたいな場所に設定が変わったから、彼は一度リストラされたんです。だからゲームには出てこないはずだったけど、あとから復活させたんですよ。そういうことも、話し合いながら変わっていきましたね。
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