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パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022 (前編) [バックナンバー]

“Watson系”の増加、夢を与えるAwich、レイヴカルチャーとの融合……2022年の日本語ラップシーンを振り返る

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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ふざけたことをストイックにラップするヤバさ

二木 「巻いてるcannabis」の話の流れで僕が選んだパンチラインを1つ挙げますと、JNKMN「一方通行(feat. SQUASH SQUAD)」の「悩んだらとりま韻を踏む / やっぱりweedを吸う / おまけにもう一本吸う / パクられたら刑執行中」ですね。最後を意外性のあるジョークで締めるのが素晴らしいですし、しかもリリック通り韻を踏んでいるし、切実さもある。

YYK JNKMNはずっとガンジャネタでラップしていて筋が通ってますよね。

二木 Watsonもそうですけど、JNKMNのちょっとふざけたりギャグや面白いことを言ったりするために本気を出してストイックにやっている感じが僕は好きなんですよね。

YYK  JNKMNは作品を定期的にしっかり出すから真面目だし、ちゃんとしてるんだなって思いますね。ちゃんとしてない人って出せないんですよ。イメージ的にはJNKMNはちゃんとしてないし、本人的にもちゃんとしてないって言いたいかもしれないですけど(笑)。

二木 たしかに本人はストイックとは言われたくないかも(笑)。リリース量が多いと言えば、MINORIさんが選んだCHOUJIも精力的ですよね。

YYK  CHOUJIもめちゃめちゃ作品を出してますし、熱いラッパーですよね。

渡辺 MILES WORDとのユニット・CMWとして出したアルバム「俺成」もよかった。

MINORI 自分を奮い立たせる感じのリリックがたまらないですよね。私がCHOUJI とOlive Oilのコラボ曲「kamasereba」から選んだ「好きなだけじゃ足りない / やる気だけじゃダメだ 条件は一つ / 勝負は自分 / 俺もそう君もそう仲間も / 要はかませれば」というヴァースは、ずっと続けているCHOUJIだからこそ説得力あるなって。

渡辺 エネルギーが尽きないのがすごいですよね。

MINORI この「kamasereba」という曲は「お気に入りのchampionのボクサーパンツ / 履いてボクは勝つ」とか、ほかにもパンチラインが多くて。

YYK  CHOUJIはメロディもカッコいいんですよね。

MINORI フックの「かませれば」で急に拳が入った歌い方をしていて上手ですね。

YYK 僕の中ではCHOUJIはインディペンデントの代表格みたいな存在で、自分で全部やっていくんだという意識を強く感じるんですよ。

渡辺 ずっと沖縄にいてね。

YYK そうそう。メジャーとか流行るとかをそんなに考えてなくて、かといってアンダーグラウンドな感じでもなくて。

MINORI ちゃんと全国でライブもしてますしね。

レイヴカルチャーと接近するゆるふわギャング

二木 定期的にリリースしているという点では、JNKMNとも親交の深いゆるふわギャングもそうですよね。

MINORI ゆるふわギャングもめっちゃストイックで、ちゃんとRecするし、完璧主義で突き詰めているんですよね。ゆるふわギャングが去年出したアルバム「GAMA」からは「MADRAS NIGHT PART 2 feat. 鎮座DOPENESS」の「手短にクリアするこの時代 / ここがクソパンデミックしょうもない」というNENEのラインを選びました。これは2021年10月にシングルリリースされた曲で、その頃のほうが今よりもコロナ禍が深刻視されていましたよね。その頃と今で状況自体は大きく変わってないのに、みんな慣れてきちゃって、ライブも前のやり方に戻ってきた中で「手短にクリアする」っていうNENEちゃんのスタンスが正解だったのかなって思えるんですよ。毎日同じニュースが流れて鬱憤が溜まっているときに「クソパンデミックしょうもない」って言い切ってくれるのがスッキリしたし。

YYK この曲はレゲトンみたいなリズムですよね。

MINORI ゆるふわギャングが山奥のキャンプ場で開催したレイヴの雰囲気は、 このMVの空気をバーっと浴びる感じでしたね(笑)。異世界に迷いこんじゃったみたいな。300枚限定のチケットは即完で、客層はゆるふわが好きな人と、レイヴそのものが好きな人が半々くらいな感じ。そこで普段からレイヴに行ってるという20歳の子と友達になって、レイヴが好きな人のコミュニティがあるという話を聞きました。私が知らないだけであるんだなって。

渡辺 やっぱりコロナ禍で都内のパーティがなくなってから、若い子も場所非公開のレイヴに行き始めたみたいな話を聞きますね。

二木 パンデミック以降に都会や都市部から離れる動きもあったのではないかと思います。

渡辺 密な空間から距離を置くみたいなね。

二木 自分は、20代前半の00年代初頭の頃、「レイヴ」は90年代に遊んでいた上の世代から継承されたカルチャーという認識でした。しかも、その頃すでに「レイヴ」という言葉を使うのを躊躇う年上の世代の人もいましたね。その後、野外パーティやフェスはたくさん開催されてきましたけど、少なくとも僕の個人的な観測範囲では「レイヴ」って言い方はほとんど聞かなくなっていったし、使われなくなっていました。それがここ数年で再び「レイヴ」が盛り上がっていると聞くようになって、実際ゆるふわギャングがレイヴを開催して、ヒップホップとレイヴカルチャーが混ざってきたのは面白い現象ですよね。

MINORI Tohjiとか松永拓馬とかも、レイヴのサウンドを取り入れて新しいものを作り出してますよね。

YYK ゆるふわギャングはNENEがこういうレイヴの方面に進んでいるんですかね?

MINORI ゆるふわが仲よくしているヘンタイカメラの影響が強いですよね。

渡辺 ちょうどコロナが来る直前に、ヘンタイカメラやYOU THE ROCK★と一緒にインドに行って、そこで目覚めた感じですよね。NENEに話を聞いてビックリしたんですけど、YOU THE ROCK★が何年も前からヘンタイカメラと一緒にインドで活躍しているらしくて。

MINORI NENEはSTUTSの「Expressions feat.Daichi Yamamoto, Campanella, ゆるふわギャング, 北里彰久, SANTAWORLDVIEW, 仙人掌, 鎮座DOPENESS」から「興味ない女子会 / 拒否パンケーキ」とかも選びたかったんですよね。でも、この曲はフィーチャリングゲストがみんな主役級にカッコよくて、その中でもSANTAWORLDVIEWのラップの勢いやワクワク感がとにかくよくて。「魂の話、電卓は無しで / 汗水垂らし稼ぐんだ脚で / 『ダメかももう』って落ち込むなよ / だってエヴァに乗れるか? / お前ならどう?」というラインを選びました。

渡辺 SANTAWORLDVIEWは毎回どんな比喩をぶち込んでくるんだろうとかどんなワードチョイスをしてくるんだろうって期待させるラッパーですよね。この曲だと「エヴァに乗れるか?」の部分。

MINORI  MVでは秋葉原で「新世紀エヴァンゲリオン」のTシャツを着てラップしてるんですよね。

YYK Leon Fanourakisとか横浜周辺のラッパーってだいたいハード系だけど、SANTAだけは最初から遊び心がありましたよね。

渡辺 個人的には「BOUNCE」のときのイメージが強いですね。

MINORI 「傘を持たない土砂降りの雨に / 意味を持たすが音楽さ正に」とかカッコいいことも言いつつ、ユーモアも織り交ぜて軽くやってのける感じが好きなんですよね。

新たな道を切り拓き、夢を与えるAwichの存在

二木 志保さんがAwichのラインを選んでいますけど、去年は彼女の年だったとも言えるんじゃないですか?

渡辺 「口に出して」は2021年8月に発表された曲ですけど、去年の年末に完成形をようやく観ることができたんですよ。1月に日本武道館で行われたワンマンライブをはじめとして、去年は基本的にお客さんが声出しできなくて、Awichは厳しくガイドラインを作っていたから、歌わせたいんだけど、アカペラでラップすることでパンチラインを際立たせていたんです。そんな中、12月に行われたバースデーライブでようやく声出しが許可された結果、お客さんの女の子たちが「腹ばっか立てずに立てろよChimpo」と叫んでいて。ああ、これが完成形かと(笑)。COMA-CHIやMARIAもこれに近い攻め攻めのラインはあったし、もちろん先輩たちが生み出してきたパンチラインの延長線上にあるんですけど、女の子が大合唱するようなことはこれまでなかったんですよね。

二木 そうですね。

渡辺 性的に過激なことって誰でも言おうと思えば言えると思うんですけど、ダブルミーニングとかウィットを込めてまとめられるのは彼女ならではだし、 Awichの年だったと言わせしめる魅力の1つだ感じました。カーディ・Bとか海外のラッパーのライブを観ているような感覚になりましたね。アメリカでは女性が自分の体を客体化せずにその魅力を伝えるムーブメントがありますけど、それを今の日本で先頭切ってやってるのはAwichだと思います。

YYK 去年の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」でも話しましたけど、ビデオに女の子しか出てないのも新鮮ですよね。

渡辺 本当にそうなんですよね。「どれにしようかな」もそうですし、そうしたムーヴはめちゃめちゃ健全だなって思います。今回私がAwichの曲から選んだのは去年出たアルバム「Queendom」の最後に入っている「44 Bars」の「マイク持てば不安消せた / 時間無いの分かる / 12月でもう35 / 怖い全て間に合わなくなってしまう事」というライン。この曲は「今日も遅くなるから / ドアのガードだけは開けてて / 食べ終わりの食器とかはせめて水を掛けてて」という娘さんに向けた言葉で始まるんですけど、あんなギラギラした衣装を着て歌っているAwichにもこういう面があって、一般的なワーキングマザーと同じなんだと思って。日本で女性は30歳を過ぎると賃金も上がらないし、結婚や出産を急かされるし、自分で年齢を言うことがはばかられるような空気があると思うんですよ。そんな中、彼女が「もう35で時間がない」とハッキリ言いつつ、それでも「マイク持てば不安消せた」と言えることが素晴らしいなと。Awichは去年の12月で36歳、私は今年39歳になるなんですけど「Awichも36だから大丈夫」って思える存在。

YYK Awichは遅咲きで、出てきたときにはもう30超えてるくらいでしたよね。Lunv Loyalも若くないということを言ってましたけど、男女問わず年齢ってみんなけっこう気にしてるんですね。

渡辺 ラッパーは若い子が多いし、20代後半くらいになるとみんな年齢を気にするんじゃないでしょうか。特に最近はシーンの新陳代謝も活発だし、2年くらいで人気のメンツもすぐ入れ替わっちゃう。

YYK 昔は35のラッパーとかいなかったですからね。夢を与える存在だと思います。

渡辺 Awichはシングルマザーでもありますし、自分の環境を理由にいろんなことを諦めてしまった女性はめっちゃ勇気もらえますよね。シングルマザーのラッパーだと、今はAwich以外にも、MaRIや麻凛亜女、Tokyo Gal、Charluらもいるし、COMA-CHIもそう。

YYK 30超えてからこんなにブレイクする人を見ていたら、年齢を理由に音楽やダンスを辞めた人でももう1回やってみようかってなると思いますね。

後編につづく

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渡辺志保( @shiho_wk )参加!“Watson系”の増加、夢を与えるAwich、レイヴカルチャーとの融合……2022年の日本語ラップシーンを振り返る | パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022 (前編) https://t.co/Ac4DDaRFz5

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