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パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022 (後編) [バックナンバー]

明確なメッセージが込められたOMSBのアルバム、Fuji Taitoの全年齢対象ヒット曲、独自の言語を作り出した志人

言葉という観点からシーンを振り返る日本語ラップ座談会

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「2022年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、二木信、渡辺志保、YYK、MINORIという4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う企画「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2022」。前編の記事ではWatson、JNKMN、Awichらのリリックについてそれぞれが意見を交わしたが、後編ではいよいよ2022年の一番のパンチラインが決定する。

取材・/ 三浦良純 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

新世代のフィメールラッパーたち

YYK Awichと近いところとして、挙げたいのがMaRIで、¥ellow Bucks「Shut Up feat. MaRI」から「中身のないDickはMacaroni」を選びました。

MINORI 今回は選ばなかったですけど、これ最高ですよね(笑)。

YYK このラインは説明の必要ないですよね(笑)。若い世代の間で「聴き心地」という言葉がめっちゃ流行ってて、YouTubeのコメント欄にめちゃくちゃ出てくるんですけど、MaRIのラップはまさに聴き心地がいいんですよね。MaRIのラップはかなり好きです。

二木信 僕も大好きですね。フィジカルの強さやしなやかさを感じるラップですよね。僕がMaRIで選んだのは、邦Kuni &ジェロニモR.Eっていう沖縄の2人組とMaRIが一緒にやっている「Shower」の「Recしながらもかかってくる 保育園からの電話」です。¥ellow Bucksとの曲「Shut Up」でも「シングルマザー / ビートの上に乗ってる」とラップしていますが、こちらの表現はより気が利いていますよね。MVでの「保育園からの電話」のジェスチャーもすごくよくて(笑)。

YYK MaRIのインスタライブって観てますか?

MINORI めっちゃ観てます(笑)。

YYK 面白いですよね(笑)。見た目やラップはバチバチですけど、インスタライブでは子供の体を拭いてあげたり、自転車に乗せて遊んでたり、本当に普通のお母さんの生活感を出していて。フィメールラッパーではMFSの「FRESH!!!」からHenny Kの「どんどん増えるお金 ボンボントイレ叩く ゴンゴン遊びに行く ロンドン」とかもキャラが出てて選びたかったんですよね。

二木 和歌山出身の7もカッコいいですね。彼女が去年出したEP「7-11」に収録されている「畜生」という曲から「今は可愛いよりも可哀想が流行ってる」というラインを選びました。

二木 あるインタビューで「『畜生』は私たちを理解してくれない大人に対する曲」と語っていますね。この曲には「そんなんでなれるのラッパー」とか「普通の女の子で無いと言われる」というリリックがあって、そういう流れで「オタクみたいに病んでる」の次に来るのがこのラインです。

MINORI でも実際、世間的にも「可哀想」って流行ってる気がしますね。

渡辺 地雷系みたいな。

YYK 「Sad Boy」「 Sad Girl」の流行は世界的にありますよね。この人の曲はプロデューサーのHomunculu$が作っているビートも今風だし、服装も普通のギャルとは違って、オルタナギャルみたいな感じで面白い。「ラップスタア誕生」にも出ていて話題ですよね。

二木 歌い方や発声も面白くて。「SEVEN ELEVEN(freestyle)」という曲では巻き舌でラップしていて。楽曲はホラーコアっぽさがあります。

YYK 病んでる感じも含めて、Jin Dogg系ですよね。あとは、ちょっとDJ BAKU「畜殺(The Slaughter)」(2006年発売のアルバム「SPINHEDDZ」収録曲)のRUMIも思い出しました。

二木 あー! 確かにあの頃のRUMIの情念を吐き出していくスタイルに近いかもしれないです。

Fuji Taitoの「Crayon」は全年齢が歌える「みんなのうた」

YYK  MaRIもそうですけど、日本のラップはブラジル系の人の存在感がめちゃくちゃ大きいなと思っていて。SATORUもそうだし。

渡辺 GREEN KIDSもそうですよね。

YYK その中の1人がFuji Taitoで、ヒット曲「Crayon」から「Money on, money on, money on me この上ないよ描いた未来図はずっと虹色の信号機」を選びました。

YYK 「Crayon」はSHAKKAZOMBIEの「虹」みたいに色についてラップした曲で、最後に虹色とまとめるのがいいなと。Fuji Taitoは去年これ以外の曲を1曲も出してないんですけど、YouTubeに上がってるオーディオは1900万回も再生されていて、Spotifyの月間リスナーのランキングとかだと、ずっとトップのところにいる。この曲の「POP YOURS」でのパフォーマンス映像もLEXとかの動画よりも再生されていて。

二木 人気の秘訣はなんだと思いますか?

YYK やっぱりキャッチーなんですよね。

渡辺 この曲、TikTokでは、人気ダンサーたちが作った振りが流行ったんですよね。びっくりしたんですけど、日曜の夕方くらいに電車に乗っていたら、隣にいた10歳くらいの女の子とお母さんが「Crayon」をスマホで聴いていたところに出くわしてたんです(笑)。親子で聴いてるんだ、って衝撃的でした。

YYK これって「NHKみんなのうた」みたいな曲なんですよ。リズムが童謡「クラリネットをこわしちゃった」の「オ パキャマラド パキャマラド」に近いし、リリックの内容もドギツイことは言ってなくて明るい。未来の明るさみたいなものを感じる曲なんですよ。ただ最後に「Bitch」って言ってるんですよね。マジでそれがなければよかったなって……そしたら全年齢が歌える曲なんです。

渡辺 「Crayon」のように一般的に流行っていたという見方だと、「ギャル 超かわいい」とかミームヒット的なパンチラインも入れようかなって悩んだんですよね。

渡辺 そういう観点で、DJ TATSUKI「TOKYO KIDS feat. IO & MonyHorse」の「遊んでるだけ昔から」を選んだんですけど、本当になんてことないリリックなのに、ちゃんとビートにハメて抑揚を付けてラップすることでキャッチーなラインになる。そういうラップのパワーを感じたパンチラインだったんですよね。

大河ドラマのようなHAIIRO DE ROSSIやOMSBのアルバム

渡辺 私が最近ラップを聴いていて考えるのは、そのラッパーが何を思っているか、何に対して喜んだり、怒ったりしているのかということなんです。HAIIRO DE ROSSIが去年発表したアルバム「Revelation」には彼の考えがしっかり現れていたので、アルバムの最初に収録されている曲「Revelation Intro.」から「元首相が凶弾に倒れた 後に問題は教団に問われた それはそれとして俺が言いたいのは ウィシュマさんや赤木さんの時喪に服したか」を選びました。

渡辺 日本に住んでいる人なら誰でも知っている時事問題のリリックですけど、アメリカでブラック・ライヴズ・マターの動きが起こったときに発表されたPublic Enemyの「Fight The Power: Remix 2020」を思い出したんですよね。「Fight The Power: Remix 2020」では、自宅に踏み込んできた警察官に誤って銃殺されたブリオナ・テイラーさんの名前がラップされていて。それと同じようにHAIIRO DE ROSSIがウィシュマさん(ウィシュマ・サンダマリ。名古屋出入国在留管理局に収容中に死亡したスリランカ国籍の女性)や赤木さん(赤木俊夫。森友学園に関する決裁文書の改ざんに関与させられたあと自殺した近畿財務局の職員)という、日本の権力の犠牲になった人の名前を力強くラップしているところに感銘を受けました。

二木 HAIIRO DE ROSSIは2011年にラッパーのTAKUMA THE GREATとともに「WE'RE THE SAME ASIAN」というアンチレイシズムの曲を発表しているんです。それから10年経っても、こういうメッセージをラップしているブレなさが信頼できますよね。

YYK 僕はこれまでHAIIRO DE ROSSIについて、そこまでポリティカルラップを代表するような人だと思っていなかったんですよ。こういう面はもっと知られたほうがいいなと思いました。

二木 今必要とされている、まっすぐなコンシャスラップ / ポリティカルラップですね。HAIIRO DE ROSSIは、過小評価されていると思いますね。もっと語られて評価されるべきラッパーではないかと。

渡辺 ラップする目的がしっかりしているのかな、と感じるんです。今の若い人のアルバムを1枚聴き終わっても、どういう人なのかつかめないということが少なくないんですけど、それと対極を成すのがHAIIRO DE ROSSIやOMSBのアルバムだったなって思います。アルバム1枚がドラマのようで。

二木 確かにOMSBのアルバムと一緒に聴かれて、語られて見えてくるものがある曲ですね。

渡辺 大人にも聴いてほしいですね。

MINORI  OMSBの「ALONE」は個人というものについて、とても考えさせられるアルバムでしたね。その中でも私は「大衆」の「誰にもなれないし 自分の普通をやる毎日 仲間はずれじゃなくて そこにいなかっただけ。だろ?」というヴァースに完全に食らってしまって。

MINORI 人と一緒にいても1人には変わりないし、誰かに憧れたり、こうなりたいって努力したところで結局自分は変えられない、死ぬまで自分と付き合っていかないといけないというOMSBのマインドに強く共感したんです。あくまでOMSBは黒人である自分のパーソナルな話をしてるんだけど、その言葉をみんな自分のこととして聴いていて。OMSBって、他人に気を遣いすぎちゃって疲れるみたいなことも言ってて、すごくわかるんですよね。

二木 昨年、このアルバムが出たタイミングでOMSBにインタビューしましたけど、この作品を完成させるまでに仕事や日常生活でいろんな苦労や葛藤があったことを語ってくれました。そういう経験が反映されていますよね。

渡辺 ホントですよね。「ALONE」はめちゃめちゃ生活がにじみ出ているアルバムだと思いましたね。パートナーや家族との描写とか。

二木 あと、「LASTBBOYOMSB」のようなヒップホップに対する情熱をストレートに表現した曲もいいですね。

MINORI 「LASTBBOYOMSB」は好きすぎて全ライン覚えてるくらいで、「俺の言葉は君には吐けない 今はHIPHOPの話がしたい」とか「音楽は楽しいほうが良い」もすごく好きで選ぼうか迷いました。

YYK OMSBはビートメイクもやってる人だし、こだわりがやっぱり違いますよね。

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2022年のパンチライン・オブ・ザ・イヤーが決定!

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