映像で音楽を奏でる人々 第22回 [バックナンバー]
「主役は絶対に音楽」仲原達彦がA&R視点で映し出す3分間のストーリー
イベンター、レコード会社勤務、映像作家……特殊な経歴を歩むからこそ見えるもの
2022年12月27日 17:30 9
A&Rだからこそ見えるもの
自分がA&RをやっているからこそクライアントのA&Rと、A&R目線でMVについて話せることもあって。自分としてはそれは強みなんじゃないかなと思っています。僕がA&Rとして映像作家さんにオファーするときは、なんとなくじゃ頼まないし、その人にやってもらいたい理由が明確にあるんです。だからそういうふうに僕を選んでもらえているとしたら、できるだけ希望に応えたい。そういう仕事は僕も楽しいし、MVだけじゃないほかのアイデアを提案したりもします。A&Rをしているからこそわかることもあるのかなと。あとは「相談しやすい」とか「納期が早い」と思ってもらえるようにして、進行の迷惑をかけないようには意識してます(笑)。
MVは音楽がメインなので、そのときに流行っているものを映像の中に入れすぎると、映像の印象で「あの時代の曲だよね」というふうになっちゃう。いい曲はいい曲として常にフレッシュに聴かれるべきだから、映像のせいで損しないように流行りの要素はなるべく入れないようにしてますね。A&Rをしている立場として「主役は絶対に音楽」というのが理解できるので、自分の主観を入れすぎないようにしていて。今話していて思ったんですけど、これは「ロープウェー」を勝手に作って怒られたときに学んだことかもしれないです(笑)。ミュージシャンやレーベルが納得してくれる作品が間違いないわけで、もちろん監督として譲れないカットとかもあるんですけど、ミュージシャンが違うと思ったら違うんですよね。なのでできるだけコミュニケーションを取って、納得できるものを一緒に作れたらと思っています。
A&Rという仕事は、ミュージシャンという主軸がいて、1つの作品を作るために必要な人たちを集めることだと思うんですよ。それはイベント制作も一緒だと思っていて、「このミュージシャンを呼んで、この場所でやって、こういうお客さんが来てくれたらいいな」と、自分が主役になるんじゃなくて主役をどう見せるかをイベントで学んだんだと思う。MVも「制作さんはこの人がいいな」と細かいことを決めていくから感覚があまり変わらないというか、自分の要素を出す割合いは大きくなっているけど、「好きなものを集めて好きな人をもっとよりよくする」みたいな部分は変わらない。だから僕の強みは「人の力を借りまくる」ってことなのかも(笑)。
今まで関わってきたミュージシャンと一緒にいつか映画を
仕事道具を紹介してほしいということだったので、今日は8mmと16mmのフィルムカメラを持って来ました。特徴を言うと、8mmはノイズが多くてザラザラしていてフィルム感が強いけど、ホームビデオのように気軽な感じもある。いわゆるフィルムのレトロな感じのイメージは、8mmの質感だと思います。16mmは今でも映画の撮影に使われているくらいキレイだけど、デジタルでは絶対に撮れないものがあるんですよ。細かく説明するとキリがないくらいいろんな魅力があります。撮ってる間はどんな映像になっているかわからないし、このカメラだと撮影中は僕しか見れてないのもよくて、自分にしか見えていない世界を楽しんでいるところもあります(笑)。あとフィルムで撮影する場合、自分が撮ったものを一度現像所に預ける必要がある。そこの職人さんがさまざまな技術を使って映像にして返してくれるという作業があるわけで、映像になって僕の手元に返ってくるまでにたくさんの人ががんばってくれているんですよね。フィルムのよさって映像の質感という部分もあるけど、他者が介在して完成するというのもその1つだと思います。
でも自然環境のことを考えるとフィルムってよくないとも思うんですよ。僕がいつか映画を撮るとしたらきちんと社会問題にも向きあった作品にしたいと思っていて、そういうときにフィルムで撮るという行為自体の矛盾にぶつかっちゃうんですよね。そう考えると自分がやっていることはすべて環境に悪い。フェスとかも正直、自然のままが一番美しいわけじゃないですか。自然の中にステージを組んで大きい音を出したら気持ちいいんだけど、それは自然にとってはどうなの?っていう。エンタテインメントと社会問題を両立できない気持ち悪さに常に悩んでいるところはあります。だから今日持って来るのがフィルムカメラでいいのか?と考えたんですけど、いろんな人が介在しているからこそ、技術をつないでいくことで、地球に負担がかからない現像方法が開発できるかもしれない。それを目指すなら「まだまだフィルムカメラを使ったほうがいいのかな?」と思ったりして、まあ無理やり自分を納得させているだけなのかもしれないけど(笑)。
さっきも話しましたけど、いつかは映画を撮ってみたいです。MVは音楽のための映像だけど、映画の音楽の場合は“映画のための音楽”になれると思っていて。例えばあるシーンでその曲が流れることで映画のよさが際立ったりしますよね。ベストなバランスが取れるとばんばん曲が流れていても嫌な映画にはならない。そういう意味で僕が今まで関わってきたミュージシャンと一緒に音楽ありきの映画を撮ってみたいですね。音楽に助けられることがたくさんあったけど、自分では音楽を作ることができないから、僕が作った映画の中で音楽が流れることで、観た人に「この曲いいな」と思ってもらえたらいいなと想像しています。
仲原達彦が影響を受けた映像作品
ジム・ジャームッシュ「パターソン」
僕が高校生くらいの頃はミニシアターブームの名残みたいなものがあって、ジャームッシュなどの作品に触れて大衆モノではない映画の魅力を知ったんです。そういう人たちの作品はNetflixとかでは配信されていないのも多いから、ミニシアターのあの空気感みたいなものが失われつつある気がするし、若いディレクターに聞いてもみんな知らなかったりするんですよね。「
girl in red「October Passed Me By (Short Film)」
このショートフィルムだけじゃなく、彼女の作品には「これはLGBTQを取り扱った映像なんだよ」という主張はなくて、当たり前に存在する恋愛として描いているのが美しいなと思う。言い方が難しいんだけど「特別なものじゃない」と感じさせてくれる、それがすごいなと思います。
※高城晶平の「高」ははしご高が正式表記。
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