アイドルのセカンドキャリアを考える 第3回 [バックナンバー]
よきゅーんは愛を持って所属タレントと向き合う(聞き手:レナ)
「ガラスの靴は自分で作ろう」えなこ、伊織もえら擁するPPエンタープライズの快進撃から学ぶこと
2022年7月1日 18:00 40
元バニラビーンズのレナをナビゲーターに迎え、引退後に異なる仕事に就いて新たな人生を送る “元アイドル”たちに、セカンドキャリアをどう形成したのか話を聞く本連載。第3回は “アイドル戦国時代”が本格化する少し前の2006年に、中野腐女子シスターズ(※2011年に「中野風女シスターズ」に改名。現在は活動休止中)の一員としてデビューした“よきゅーん”こと乾曜子をゲストに迎えてインタビューを実施した。
よきゅーんはアイドルになる以前から、コスプレイヤー /タレントとして活躍。中野腐女子シスターズとその男装グループ・
取材
アイドルになるとは思ってなかった
レナ よきゅーんさんは中野腐女シスターズの一員として2006年にデビューしましたけど、それ以前からタレント業も行われていたんですよね?
よきゅーん そうですね。中野腐女シスターズは個別でタレント業をしている子たちが集まったグループだったので。
レナ グループを結成するにあたってオーディションがあったんですか?
よきゅーん いえ、オーディションとかはなくて。オタクを集めた番組をGYAO!でやって、その初回放送がお蔵入りになったんですよ。番組MCのはなわさんとプロデューサーの間で「このオタクの人たち面白いから、ちゃんと番組にしたほうがよくない?」という話になったらしく、グループとして「はなわレコード“中野腐女子シスターズ”」という番組をやることになったんです。
レナ いい意味でのお蔵入りだったんですね。
よきゅーん 当時は「収録時間めちゃくちゃ長かったのに!」と思ってましたけどね(笑)。
レナ (笑)。番組発のグループだったんですね。
よきゅーん そう。それにもともと音楽をやるつもりもなかったんですよ。
レナ え、アイドルグループを組みたい、みたいな気持ちもなかったんですか?
よきゅーん うん。全然考えてなかったし、そこで男装をやるとも思ってなかったです。遊びでやっていたらデビューが決まったという感じで(笑)。
レナ 歌を歌いたいという願望があったわけでもないんですね。
よきゅーん 全然全然、歌と踊りが苦手な子とかもいたし(笑)。
レナ あの頃はアイドルシーンが無法地帯だったというか、ちゃんとした王道のアイドルとしてモーニング娘。や養成所上がりのグループもいましたけど、同時に私たちみたいに道で拾われた感じの人たちもいて。
よきゅーん インディーズとメジャーが同居した感じでしたよね。PASSPO☆さんとかはメジャーな感じがしてた(笑)。
レナ わかります(笑)。そのあたりから大人たちが考えるグループ先行のアイドルが増えていった感じはしますよね。
よきゅーん 今ほどグループの数も多くなかったから、合同のライブにももクロちゃん(ももいろクローバーZ)もいたりして。
レナ カオスな時代でしたよね。
グループ卒業で学んだこと
レナ よきゅーんさんは中野腐女シスターズと腐男塾のリーダーを務めて2011年にグループを卒業しますけど、何かきっかけがあったんですか?(参照:腐男塾・部長&中野腐女シスターズ・リーダーが卒業発表)
よきゅーん 単純にメンバーの入れ替わりですね。
レナ それはご自身で選択されたことだったんですか?
よきゅーん いえ、上から言われました。30歳になったから卒業みたいな。
レナ えー! そう言い渡されたときはどう思いました?
よきゅーん うーん……その経験が今にも続く教訓になっていて、「どれだけがんばっても認めてもらえないんだな」とは思いました。世間というかビジネスってそういうものなんだなという、それはすごく感じました。
レナ 私もビジネスだからしょうがないと理解していますけど、バニラビーンズも半年前に解散を言い渡されたんです(参照: バニラビーンズ ラストインタビュー|兄貴分・掟ポルシェが聞く解散の真相)。だから言い方が悪いかもしれないけど当時は駒にされたという思いもあって。
よきゅーん 本当にそうだよね! 全世界のアイドルに声を大にして言いたい。「マジで必要以上に運営にへこへこする必要ないよ」って(笑)。そういった経験を通して感じたのは、会議室で会議してるだけの人たちに現場のことはわからないということ。だから今は自分の感覚だけを絶対的に優先しています。結局お金を出している人に決定権があるから、PPエンタープライズにはいらない大人は絶対に入れないし、株主も私以外いないんです。
レナ じゃあ、今もスタッフはよきゅーんさんお一人なんですか?
よきゅーん そう。だからマネージャーも私しかいないです。社員を入れたいくらい忙しいんですけど、私はできない人間にお金を払いたくない(笑)。
レナ おお! でも、これだけ多忙だとガソリン切れみたいになることはないですか?
よきゅーん それがまったくない(笑)。風邪も引かないし、すごく元気なんです。
レナ 所属タレントの現場にも立ち会うんですか?
よきゅーん 基本的にはそうですね。ただ、最近はコロナ禍も明けてきてタレントの現場が被ることも多くなっていて。そういうときは私がメイド喫茶を運営していた頃に働いてくれていた子にアルバイトとして現場に行ってもらっています。
愛を持ってタレントと接する
レナ 話を戻すと、よきゅーんさんはあまり納得していない状態でグループを卒業されたわけじゃないですか。当時はどんな心境だったんですか?
よきゅーん どっちにしても将来的には起業したいと考えていたし、当時はグループの辞めどきってわからなかったから、今思えばちょうどよかったのかなと思います。アイドル時代って井の中の蛙というか、周りが見えなくなかった?
レナ はい。まったく同じです(笑)。
よきゅーん だよね。それを今の若い人たちに教えたい。
レナ 正直、ぬるま湯だったというか。
よきゅーん 私たちは当時「オリコン10位に入ったら世界が変わる」と言われていたけど、いざ実現しても何かが変わることなんてなかったし、音楽業界自体が厳しい時期に突入したのもあるだろうけど、結果的にみんなが想像していた未来ではなかった。それは自分たちの実力不足もあるだろうし、扱う側の……こんなこと言ったら怒られるだろうな(笑)。
レナ いやいや。
よきゅーん グループで売れていったももクロちゃんはやっぱりすごいと思うんです。川上(アキラ)さんのプロデュース力なのか、楽曲選び1つ取ってもすごいんですよね。今、自分でタレントを抱えてみて思うのは、心から愛していないとタレントは扱えないということ。そうじゃないとその子のセールスポイントや「ここが絶対的にファンにウケる」みたいなことはわからないと思うんです。だからこそPPエンタープライズでは私がそのタレントの特性を見て、「絶対これがいい」と思ったことをやるみたいな方針があって。
レナ それは大事ですよね。やっぱり運営に愛されてないとタレント本人も自信を持てないと思いますし。
よきゅーん 机上の空論って言うんですかね。さっきも言いましたけど、会議室で話しているだけの人に現場のことはわからない。だからももクロちゃんと川上さんが二人三脚でやっていたのを見ると、「あそこまで愛情をかけていらっしゃったから、売れるのは必然」と思ってしまう。例えば私の場合は所属タレントに関心があるから「この子はここが絶対にかわいい」と思って売り出しポイントを決めるんです。
レナ マネージャーさんも「この子たちを売ろう!」と言うより、会社の上司に言われてアイドル担当になることが多いですもんね。
よきゅーん そう。それが歩合制とかなら向き合い方も違うと思うけど、給料制だとあまり変わらないですからね。だから私は小さい事務所でも二人三脚でがんばるほうが正直売れると思う。今の時代、デビューするのは容易いけどグループとして売れるかどうかの差は、ファンと同じ熱量でタレントを見れるかどうかだと思うんです。もちろんファンと同じ熱量だけではダメで、広い目線を持って井の中の蛙にならないことが大事なのかなって。あと私は大きな後ろ盾がない中でも、うちの子たちを売れるようにしてあげたい。「うちなんてただのオタクの集まりで、握手会もなくて、この人は億稼いでますよ」みたいな。それをPPエンタープライズが証明したいんです。
尽きることはないやる気
レナ そもそも、えなこさんとはどうやって出会ったんですか?
よきゅーん 私が面倒を見ていた人が「この子と契約する」と言ってえなこを連れてきたんです。その人がマネジメントする予定だったんだけど、結局その話は立ち消えになって、あれよあれよという間に私と契約することになって。
レナ えなこさんと契約するにあたって会社を立ち上げたんですか?
よきゅーん いえ、もともとはメイド喫茶を始めるために立ち上げた会社で、それとは別でアイドル事業をやりましょうという流れですね。コスプレイヤーを使った仕事が流行り出した頃で、私はゲーム会社さんからキャスティングをよく頼まれていたんですよ。コスプレイヤーって素人だから「今日はめんどくさい」とか「昨日飲みすぎたから行かない」みたいな理由で約束の日に現場に来なかったりするんです(笑)。だからゲーム会社の方から「仕事をしたことのある信頼できる人にキャスティングを頼みたい」と言われることも多くて、ちょうどそのときにえなこと契約してトントン拍子でコスプレ仕事をいただくようになった。今思えばタイミング的にラッキーだったのかもしれないです。
レナ なるほど。よきゅーんさんがすごいのは二足の草鞋というか、社長としてプロデュース業をこなしつつ出役もしていて。
よきゅーん 最初の頃はコスプレイヤーとして一緒にメディアに出てました(笑)。本当に忙しい時期は雑誌の撮影中にイヤフォンを付けながらリモートで会議に参加したこともあって。ポーズをキメながら弁護士と話し合いをしてるみたいな(笑)。
レナ どこにそんなパワーが……。
よきゅーん 結局、私は好きなことしかしてないんですよ。もちろん仕事ではあるけど、趣味の延長線上にあるのが今の活動というか。それに所属タレントが活躍すればするほど、自分が描いたロードマップにフラグが立っていく感じがして楽しいんです。一緒に仕事をしている人たちから「大きな仕事をやり遂げると燃え尽き症候群になっちゃう」みたいな話を聞くけど、私の場合はその大きな仕事が終わる前に次にやりたいを考えてる。だから本当にやる気の塊で燃え尽きることがないんです(笑)。
レナ すごい(笑)。そのやる気はご自身の中から自然と湧いてくるものなんですか?
よきゅーん えなこと去年うちに入ってくれた伊織もえが、今の日本のコスプレ界の2トップみたいな感じなんですね。で、雑誌の年間表紙冊数もその2人が1位と2位になって、うちの篠崎こころが3位だったんですよ。それとか超楽しい。「やってやったぜ!」みたいな(笑)。だから私は「アイドルマスター(アイドルマスター ミリオンライブ!)」をプレイしている感覚なんです(笑)。
レナ それだけの売れっ子たちを1人で担当するのは大変じゃないですか?
よきゅーん いえいえ、楽しいし誰にも渡したくない! 「俺が一番うまく育てられるんだ!」と思っているので(笑)。
仕事とプライベート、どちらも幸せになってほしい
レナ(多摩川のおんな) @VB_Rena
よきゅーんさんの言葉の重みを感じたインタビューでした!
是非読んでいただけたら嬉しいです☺️ https://t.co/JSybw7xKLS