一番大事なのは体。自分を犠牲にしてまでがんばらなくていい
生理中、周囲の人に体の不調を伝えられないまま、無理して学校に行ったり働いたり。読者の中にも「生理なんか」と過ごしているうちに、ますます体調が悪化してしまった経験を持つ人はいないだろうか。その「生理なんか」は間違いで、症状によっては病気に認定されるほど重い場合もあるし、我慢し続けていると病気につながることもある。ひたむきで我慢強く真面目な人ほど、「がんばって耐えなきゃ」という意識が働いてしまうかもしれないし、「アイドルシーンには根性論的な側面があるから、そんなふうに悩んでいる子たちも多いのでは」とでか美は言う。
「『もう無理しなくていいから寝なよ』と強く言わないと横にもなれない、という子はけっこういます。『つらいことを我慢してでもがんばらないと」という気持ちが強いし、アイドルって、そういう性格の子が多いんでしょうね。もちろん根性論が必要な場面もあります。周りの人が常に気を配ってくれていて、何かあったらすぐにひと声かけてくれる環境ならいいけれど、アイドルの人数が増えれば増えるほど大人の目が届かなくなるだろうし、自分から意志を伝えないと、相手に思いを汲み取ってもらうことは難しい。お互い気持ちよく仕事をするためにも、もっとはっきり、自分の思いを伝えていいんじゃないかなと思います。
コロナ禍に入ってよかったことの1つに、ちょっとした体調不良でも『休みましょう』と言えるようになったことがあると思うんですよね。前ならなかなか休みたいと言い出せなかったけれど、今ならつらいとき、しんどいときは、自分も不安だし、周りにも迷惑かける可能性があるから、『休みたい』と言いやすくなりました。あと、コロナ禍以降は自分の体調を細かく報告するのも日常化してきて。世の中には女性だけじゃなくて、男性の中にも体がつらいのに無理して働いている人もいると思うし、もう全員がこのくらいのペースで仕事を続けていけたらいいんじゃないかと。働きすぎの日本人に、ブレーキがようやくかかったというか(笑)。正直、芸能の世界だと根性論が当たり前みたいなところもあるから、がんばろうとする人もいるだろうし、人ががんばっている姿は本当に素敵だけど、必要以上に苦しむことはないと思います」(でか美)
もしかしたら、アイドル界随一の“根性論グループ”かもしれない、
「今日、撮影の合間に(鈴木)芽生菜が突然、『アイドルってがんばったらがんばった分だけ認めてもらえる世界ですよね』って言ったんですよ。芽生菜はアプガに加入してまだ1年経っていないのに、そんな言葉が出てくるなんてびっくりしちゃって(笑)。実際、アプガは今までも根性論でやってきたグループだし、それがアプガのよさだけど、一番大事なのは自分の体。これまでにメンバーが無理してがんばって、自分をコントロールしきれず体調を崩してしまう様子も見てきました。心や体がボロボロになってしまうのはよくないと思うし、みんなで活動を続けていきたいから、そうなる前に『少しの体調不良でも頼むから休んでほしい』とメンバーには伝えています。確かにほかのメンバーが活動している中で自分だけ休むというのは勇気がいることだけど、未来を見据えたら、ここで休むべきだとわかるはず。私自身、リハーサルやトレーニングの合間にも、休む機会を積極的にとっていきたいです」(関根)
最近は、体調不良を理由に長期間活動を休止するアイドルも増えているが、休むこと自体は大事件ではない。活動休止を大袈裟に捉えず、そうすることが自然だったり、必要なことなんだと、事務所やファンの目線が変わっていくことを願う。「ステージ上で体調が悪そうな姿を見るとハラハラしますよね」とでか美も、いちアイドルファンとして発言する。
「私もアプガさんが好きだから、富士山の頂上ライブとかにも感動しましたし(参照:アプガ、富士山を制覇!山頂で全力ライブ)、アイドルが努力して武道館みたいな大きなステージに立っている姿に涙するんですけど、自分の体はないがしろにしてほしくない。ファンとしてはいつかまた元気に戻ってきてくれさえすればいいから、とにかく心身を壊す前に休んでほしいし、そのほうがファンもアイドルも幸せなのかなと思います。
大人になってからは、労働環境が悪い企業の商品は買いたくないとか思うようになって。それと同じで、たとえ友達の作品だとしても、その子が体調を崩して無理しないと作れないものは買いたくないなと。身を粉にして働いても、売れたりファンが増えたりするとは限らない。根性論は持っていてもいいけど、『自分の体を犠牲にしてでも』という考えはなくしていきたいですね」(でか美)
生理のことは、男女が生きやすくなる道の途中に必要な話題だと思う
“休む”という選択は、想像以上に勇気が要ることだと、和田は話す。特にグループで活動をしていると、自分が休むことで仕事に穴が空き、その分ほかのメンバーに迷惑をかけてしまう。違う視点から見れば、空いた穴をほかのメンバーがフォローできるという体制のようにも思えるが、実際に活動していると広い視野を持って活動することはなかなか難しいという。だが、そんなときに頼りになるのが、周囲の人間からの声かけだと本音をこぼす。
「私も多少体調が悪くても無理してがんばってしまうタイプだったので、自分から休むという選択を取ることは難しかったです。だけど、周りから声をかけてもらうことで、後押ししてもらったり、自分を客観視したりして、休みを決断できたことがありました。自分から『休みます』と声を上げたり、そう選択ができない人は、いい意味で自分の判断を他人に委ねることも、ときには必要だと思います。メンバーが多いからこそ、協力して休む体制を作っていける。自分1人ではうまく回らなくても、みんなの力を借りて、ほかのメンバーのことも気にかけて、お互いに休みやすい環境を作れたら一番いいですよね。
山田さんは全然休まない人なんですけど(笑)、それはもう、そういう性格の人なんだと長年の付き合いでわかったし、私と山田さんは違う人間なんだとわかっているので。『山田さんが休まず働いているから自分も……』という考えはやめて、勝手に休むようにしたら、すごく楽チンになりました(笑)」(和田)
アイドルたちと生理や体のことを学び、言葉を交わす中で、「新しい答えを出したいと思うようになった」と山田は話す。
「僕は、ひたすら根性論のもと仕事に打ち込むタイプだったので、自分が担当していたアイドルたちにも、同じ精神で接してきた部分もあります。だから、正直付き合いの長い和田や関根には、昔のことで『ごめんなさい』と言いたいことや、後悔もあるんですけど、やっぱり過去は変えられないから、これからを変えていきたい。どうやって今後アイドルたちをマネジメントしていくのがベストなのかはまだ模索中だし、必ずしも全員にとっての正解を出せるとも限らない。だけど、自分が思ったことを正直に話してもらえたら、そうやって言葉を交わす中で、双方にとってベストな答えが見つかる可能性がある。アイドル本人たちには、思ったことをなるべく正直に言ってもらいたいですし、そうできる環境を作っていきたい。僕もみんなに学ばせてもらって今があるので、やっぱりお互い話したり学んだりしながら、空気よくやっていくことが大事ですよね」(山田)
「山田さんが根性論を掲げてくれていたほうが、私たちは迷いなく先へと突き進めるかも(笑)。明確な目標やがんばりどころがわかりやすいと思うし、山田さんはそのままでいいですよ」という和田の言葉に、山田はこう答える。
「だけど、現代型の根性論というものもあるはずだよね。人にはがんばらなくちゃいけないタイミングがあるから、もちろん根性論が必要なときもあるけれど、ずっと120%の力でがんばり続けなくてもいい。メンバーと相対する中で、コロナ禍という社会的転換もそうですけど、自分たちの事務所も変わらなきゃいけないなと強く思いました。現代型の根性論のもとやっていく事務所になりたいです。うさぎ跳びとか、重いタイヤを引っ張るとか、ひたすら走り続けるのとかはやめよう、みたいな。もっと本人たちの心身や年齢に合った科学的なトレーニングを実践して、適度に休憩と水分補給をしながら、一緒にレベルアップしていきたいです」(山田)
生理という話題1つが、心の健康や活動方針、アイドルの未来へとつながっていく。座談会に参加して自身が感じたことを、彼女たちは明るい表情で話してくれた。
「今日思ったのは、生理の話題がいろんなところにつながっていって、最後には自分の生き方や働き方だったりを考えるような、そういう話し合いのきっかけになるんだと驚きました。それなら、私は今日お話ししたこのメンバー以外にも、いろんな人の意見を聞いてみたいし、世界がすごくいい方向に変わっていく気がして、とても前向きな気持ちになれました」(鈴木)
「生理のことだけじゃなくて、自分たちの体についていろんな人と話せたら、もっとお互いの心が通うようになるんじゃないかなと思いました。生理のことは、みんながそう思えるきっかけになればいいなって」(らく)
「私もホントにそう思います。生理の話って、『女性を労ってください』という話ではなくて、男女が生きやすくなるヒントになる話題だと思うんです。生理のことを正しく知っている人が増えたら、身近な人の不調を感じたときにフォローしやすくなるし、自分もフォローしてもらいやすくなるかもしれない。生理をきっかけに、男女関係なく、みんなが自分の体調に目を向けられるようになるかもしれない。逆に、私は男性が感じている心身のしんどさをわかっていない部分も多いから、今後は男性側の声も聞いていきたいです。生理のことを話すのはみんなで生きやすくなるための道の途中なんだと思って、一緒に歩み寄りましょうという気持ちでいます」(でか美)
自分の体のことなのに、自分が理解できていないことはないか。楽しく生活し続けていくために「自分の体に素直に向き合って」、自身にそう問いかけることも、ときには必要だ。つらいときはしっかり休んで、周りの人たちとともに働きやすい環境を作っていく。これまで口を開きにくかった話題も、近くにいる人から一緒に話してみれば、意外な発見や変化があるかもしれない。生理の悩みに対して、そうすることでいつでも正しい答えが出るとは限らないし、必ずしもオープンに話し合えばいいというわけではない。ただ、性別に関係なく学び、個々人の価値観の中でそれぞれの心と体に向き合うことで、互いに歩み寄れるようになる。それはきっと、アイドル、スタッフ、ファンが、ともに健やかに気持ちよく生きていける社会への第一歩になるはずだ。
山田昌治
株式会社アップフロントグループでモーニング娘。、後藤真希、スマイレージらのマネージャーを担当後、2016年にYU-Mエンターテインメント株式会社を設立。現在アップアップガールズ、吉川友、辻希美、
和田彩花
1994年生まれ、群馬県出身のアイドル。2009年にスマイレージ(現アンジュルム)の初代メンバーに選出されリーダーを務める。2010年に1stシングル「夢見る 15歳」でメジャーデビュー。2019年にアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業し、以降は音楽活動の傍らトークイベントや執筆活動などを行う。趣味は美術に触れること。特に好きな画家はエドゥアール・マネで、好きな作品は「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」。2021年11月23日に初のソロアルバム「私的礼讃」を配信リリースした。
ぱいぱいでか美
1991年生まれ、三重県出身のタレント / 歌手。ソロ楽曲の作詞作曲やライブ活動、他アーティストへの楽曲提供、DJ、コラム執筆などの傍ら、2014年8月から2021年9月まで日本テレビ系「有吉反省会」にレギュラー出演していた。また自身が中心となるバンド・ぱいぱいでか美withメガエレファンツ、アイドルユニット・APOKALIPPPSのメンバーとしても活動中。2021年3月に新曲「イェーーーーーーーー!!!!!!!!」を配信リリースし、同年4月よりYU-Mエンターテインメントに所属している。
アップアップガールズ(仮)
ハロー!プロジェクトのハロプロエッグ(現ハロプロ研修生)の研修課程を修了した7人によって2011年に結成されたアイドルグループ。結成当初は「アップフロントガールズ(仮)」として活動し、同年7月に「アップアップガールズ(仮)」に改名した。以降楽曲をリリースしながら精力的にライブ活動を行い、2014年8月には富士山山頂でのライブに挑戦。2015年5月にはハワイ・ホノルルで開催された「ホノルル駅伝」に参加しメンバー全員が完走した。2017年9月と2020年12月のタイミングで関根梓以外のオリジナルメンバーが卒業。同時に新メンバーが加入し、現在は関根、古谷柚里花、鈴木芽生菜、工藤菫、鈴木あゆ、小山星流、青柳佑芽、住田悠華の8人で活動中。
アップアップガールズ(2)
アップアップガールズ(仮)の妹分として結成されたアイドルグループ。2016年に行われたアップアップガールズ(仮)の東京・日本武道館公演にてメンバーオーディションの開催が発表され、翌2017年に活動がスタートした。初期メンバーの吉川茉優、鍛治島彩、高萩千夏の3人に加え、2018年4月に中川千尋と佐々木ほのか、2019年3月に島崎友莉亜、新倉愛海、森永新菜が新メンバーとして加入。現在は8人体制で活動している。最新作は2021年11月17日発表の音源集「にきちゃんわんだーおんぱれーど」。
※高萩千夏の「高」ははしご高が正式表記。
アップアップガールズ(プロレス)
2017年にアップアップガールズとプロレス団体「DDTプロレスリング」による新プロジェクトとして結成されたアイドルグループ。2017年にライブイベント「@JAM EXPO」でアイドルデビュー、2018年に「東京女子プロレス」後楽園ホール大会にてプロレスラーデビューを果たし、同年乃蒼ヒカリ、渡辺未詩、らくの3人体制での活動をスタートさせた。アイドルとして単独日本武道館公演、プロレスラーとして日本武道館メインイベント出場を目指し、日々アイドル活動とプロレスの稽古に励んでいる。現在東京女子プロレスの興行にレギュラー参戦中。
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山田社長(ヤムエンターテインメント) @YUMYamada
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