左から松島功、宮本浩志。

令和のアーティストとSNS 第1回 [バックナンバー]

松島功&宮本浩志が教える、デジタルプロモーションで押さえておくべきポイント

その投稿にストーリーはあるか

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“告知”ではなく“メッセージ”を

──デジタルプロモーションにおいて、Twitterではどんな点に気をつけるべきでしょうか?

松島 上手にできている人とできていない人の一番大きな差は、そのアーティストの方がどこに向かっているのかがファンに伝わっているかどうかです。コロナ禍になる前、ライブが当たり前のようにできていたときはよかったんですよ。SNSであまりつぶやかない寡黙な人でも、ライブのMCで熱く語ったりすると、物販が売れたんです。熱い思いを聞いて、その夢を叶えるために私は応援しよう、人によってはファンクラブに入ろうとなっていたけど、今はそれができない。SNSか生配信で本人の声をファンに届けるしかない。そうするとアーティストがどうなりたいのか、ファンの人が応援することによってそのストーリーにどう参加できるのかがちゃんと伝わることがめちゃくちゃ大事なんです。それができているアーティストは、ファンもそのストーリーに参加したいからもっと曲を聴くし、広めるし、何か自発的に行動を起こすので、どんどんスケールが大きくなっていきます。アーティストが普段の生活のことを話す、曲が出たタイミングで「よかったら聴いてね」と言う。聴くほうは自分が楽しいから聴く。もちろん何も間違ってないんですけど、ストーリーを描けている側のファンの人たちは聴くことで自分が応援しているアーティストもよくなる、夢を叶えるお手伝いができていると実感できるんですよね。

──例えば、YOASOBIが「関ジャム 完全燃SHOW」出演後に「関ジャニ∞さんとぜひ紅白でお会いしたい」とつぶやいていて、それに対してファンが「今以上に応援します!」って返信をしていたことがありましたが、そういうことでしょうか?

松島 素晴らしいですね。大事だと思います。

宮本 僕は“告知”と“メッセージ”の違いだと思うんですよね。アーティストはファンを仲間にしていかなきゃいけなくて。仲間に対して告知しないじゃないですか。僕もDJしていたのでわかるんですけど、いくら告知してもどんどん友達が来てくれなくなるんですよ(笑)。僕の先輩のDJを見ていて上手だなと思ったのは、「俺たち学生だけど大阪のクラブシーンで土曜日の天下取りたいから」みたいなことを言っていろんな人を巻き込んでいくんですよね。そういうイベントだと、参加した人たちは「このイベントの成功に自分も関わった」って充足度も感じるし。

──意識が主体的になりますね。

宮本 そうなんです。全体をデザインしたうえで、どうコミュニケーションするかが大切だと思いますね。佐藤健さんのLINE公式アカウントが話題になったのご存知ですか? 普通、公式アカウントって告知がメインだと思うんですけど、佐藤健さんのアカウントはまるでご本人から届くように、「なにしとる こちらドライブ ノブ」というコメントと共に千鳥のノブさんが車を運転している写真が送られてくるんですよ。それはまさにコミュニケーションで、Twitterもそういうコミュニケーションであるべきだと思いますね。その結果エンゲージメントが高くなって、フォロワーのタイムラインに表示もされやすくなるので。

松島 アルゴリズムはちゃんと把握しておいたほうがいいですよね。

左から松島功、宮本浩志。

左から松島功、宮本浩志。

Instagram、TikTokと音楽の関係

──お二人は、Instagramの特徴はどんなところにあると思いますか?

宮本 今はやっぱりストーリーズだと思います。ストーリーズの特徴は“日常の切り取り”ですよね。今何をしているのかがわかって、24時間経ったら消える。あれは親近感の形成にすごくいいと思いますね。タイムラインに関しては“作る場”なのでデザイン性の高いことをやらなきゃいけない。

松島 音楽系だとApple、Spotify、LINE MUSICなど主要の配信サービスは端末からストーリーズにシェアできるんですね。あとはミュージックスタンプ機能があるので、日常の切り取り──例えばアーティストが犬と散歩している動画を撮って、その動画に自分の曲をBGMとして設定して投稿できる。音楽を付けて投稿するだけで、見ているファンは曲が聴けるし、それが入り口となってほかの曲を聴きに来てくれるかもしれない。自分たちの曲に導くことができるのでそういう意味ではすごくいいと思いますね。

宮本 「こういうシーンで聴いてほしい」って提示しやすいですよね。海辺を散歩しているときにサーフロック系の曲を付けたりとか。TikTokもそうですけどモーメントの獲得ってすごく大事だと思っていて、歌詞とのリンクも含めて「こういうシーンでこの曲を聴くんだよ」って提示することで広がりやすくなると思いますね。

──Rin音さんの「snow jam」など、TikTok発で話題になる曲が増えてますよね。

宮本 あの曲はカップルで動画を上げている人がたくさんいますけど、カップルの日常が「Loadingで進まない毎日 / 上品が似合わないmy lady」という歌詞とリンクしているんです。りりあ。さんの「浮気されたけどまだ好きって曲。」とかもそうですけど、「この歌詞だとこういう映像」というように、そのシーンを彩る主題歌として機能していて。ああいうUGC(※User Generated Content。一般ユーザーによって作られたコンテンツ)は自然発生なのでなかなか仕掛けるのは難しいですけど、それをきっちり見つけることは大事で。うまいなと思ったのは、神はサイコロを振らないの「夜永唄」が話題になったときに、本人が「歌ってみた」で降臨したんですね。そこからまたバーンと盛り上がっていて。

松島 気付ける状況にしておくのは重要ですよね。自分たちのコンテンツがどこでどうなっているのか把握してる人って意外と少ないですからね。早めに気付けたら積極的にアクションを起こすこともできるだろうし。

宮本 あと、TikTokのヒットにおいて、LINE MUSICの存在が実はすごく大きくて。両方とも若年層に強いので、TikTokから初めに遷移する先がLINE MUSICなんですよ。LINE MUSICには独自フリーミアムがあって、無料ユーザーでも月に1回全楽曲をフル再生できるサービスがあります。ほかのストリーミングだと無料ユーザーはシャッフル再生になるんですけど、LINE MUSICだとアルバムを頭から聴けるので、「プロモーションとして無料でいいので一度聴いてみてください。好きになったらよかったらフォローしてください」という施策が打てるんです。そこから継続的なエンゲージメントを取っていけばいいので。そういう意味でTikTok×LINE MUSIC、若年層におけるLINE MUSICというのをアーティストの方にはもっともっとうまく活用してもらえるとうれしいです。

宮本浩志

宮本浩志

SNSを使って知名度を上げるには

──SNSマーケティングではペルソナの設定が基本戦略として語られていますが、アーティストのSNSでもファンの想定は必要だと思いますか?

宮本 僕は広告代理店で働いていたときに飲料ブランドやお菓子ブランドのコミュニケーションデザインもやっていたんですけど、ブランドは人格がないのでペルソナを設定する必要があります。でもアーティストはそもそも人格がすごくはっきりしているので、音楽マーケに関してはいらないと思います。自分たちのコンセプトにリーチしてくれそうな人たちっていうのはなんとなくわかると思うので、そういう人たちがTwitterで何をつぶやいているのか、それこそほかにどんな人をフォローしているのかまで調べて(笑)、仮説を立てて実証していくのがいいんじゃないでしょうか。LINEリサーチという、若年層に強い調査サービスがあるので、場合によってはそういうものも使いながら。調査すればまた確度が高くなるので。

松島 僕もペルソナはなくていいと思いますね。YouTubeであればYouTube Studioを見ればわかるし、AppleはApple Music for Artists、SpotifyはSpotify for Artistsを見ればどういう人たちが自分たちの音楽を聴いているのかがわかるので。音楽はそこが圧倒的に得ですよね。

──では、まだ知名度が低いアーティストがSNSを使って自分たちを広めるためには何が必要だと思いますか?

松島 YOASOBIとかそうだと思うんですけど、UGCが強いですよね。アーティストのことを知らない人に知ってもらうには、間接的に紹介してくれる仲間を増やすのが最善策だと思います。自分たちの作品そのものなのか、自分たちの曲のカバーなのか、2次創作なのか、なんでもいいと思うんですけどしっかり広げてもらって、なおかつそれを自分たちも見てるということをちゃんと伝えるのが大切です。

──アーティスト自身がリアクションを返していくということですね。ずっと真夜中でいいのに。のACAねさんも、ファンのコメントにこまめに返信している印象があります。

松島 素晴らしいですね。すごく重要だと思います。TikTokもそうですよね。アーティストが「自分たちの曲を使ってね」って言うことってあまり意味がないんですよ。それよりも「使ってくれたら僕たちも見るからね」と言うほうが格段に強い。後者だとみんなやるんですよ。それって昔から変わらなくて、好きな人が出ているラジオにリクエストを送るのと同じなので。

宮本 そういうのが生まれやすい状況を作っておくことが非常に重要だと思いますね。最初に「愛される仕組みを作ってファンを増やす」と言いましたけど、音楽におけるSNSの活用法ってまさにそういうことで。あと僕は、自分たちのことを知ってもらうにはSNSハック(※SNSのアルゴリズムを理解して、情報が届きやすいようにすること)も大事だと思います。YouTubeのTHE FIRST TAKEが話題ですけど、あのタイトルって、例えばLiSAさんで言うと「THE FIRST TAKE / LiSA - 紅蓮華」じゃなくて、「LiSA - 紅蓮華 / THE FIRST TAKE」なんですよ。アーティスト名が先に来る。YouTubeって頭の文字の検索を大事にするので。

松島 そうそう、この曲、YouTubeで「紅蓮華」「LiSA 紅蓮華」って検索するとご本人のいわゆるミュージックビデオよりTHE FIRST TAKEのほうが上に表示されるんですよ。フル尺のMVはシングルの初回限定盤DVDの特典になっていて、YouTubeにはショートバージョンしか上がっていないので、おそらくYouTubeが長いコンテンツのほうを正しいコンテンツだと認識するんでしょうね。YouTubeのアルゴリズムは明確ではないのであくまで予想ですが。結果的にTHE FIRST TAKEの「紅蓮華」ほうが検索上位に表示され、再生回数が上がることに影響しているんだと思います。もちろんフル尺のMVをDVD特典にするというのはLiSAさんサイドの戦略だと思うので、あくまでYouTubeでの再生回数での話ですけどね。

宮本 チョコレートプラネットさんがカバーした瑛人さんの「香水」も、タイトルを見たらわかるんですけど頭が同じなんです。「香水/瑛人」で始まって、そのあとに「MV再現 (covered by 瑛肩)」って続くんですけど、そういうふうにちゃんとハックしていくことが大事だと思います。

──検索したときに並んで表示されるわけですね。

宮本 あとはサジェストとか関連動画ですよね。次の動画で出てきやすいように。

松島 知らない人に知ってもらう方法ってまだまだあって、例えばYouTubeでゲーム実況をやっている人の最後に流れる音楽をとあるアーティストが提供したら、自分の動画の再生回数も伸びたという話もありますし。ほかにも、YouTubeのフィットネス動画で洋楽を使ってもらうっていうのをワーナーミュージックがやってるんですよ。そうするとフィットネスの3分間の動画の間ずっと曲が流れるので。

──すごくいい宣伝になりますね。

松島 もともとよく観られるコンテンツに対して自分たちの曲を付けるやり方も知名度を上げるにはいい方法だと思います。

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その海外志向、本当に必要ですか?

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