その海外志向、本当に必要ですか?
──最近、インタビューで「海外で活躍したい」と話すアーティストが増えているように感じます。YouTubeやSpotifyで気軽に海外に音楽を届けられる状況も要因だと思いますが、海外で活躍するためにSNSでできることはどんなことがあると思いますか?
松島 僕の本音としては絶対に海外でも活動したほうがいいと思うんですけど、本当に海外進出すべきかは見極めが重要で。僕がSpotifyにいたときにシンガポールのチームともよく話したんですけど、シンガポールはもともと人口が少なくて、何年経っても人口が変わらないって全員わかってるんですよ。自国内だと音楽マーケットのパイが伸びないとわかっているから、最初から海外とか周辺の国に受けるような曲を書くし、歌詞も英語だし、ディストリビューションも海外に強いところを使っているんです。それは戦略が伴っているから正しいですよね。日本でも何年後かにはストリーミングのユーザーがこれくらいで、自分たちの再生回数がこれくらいになってるってある程度予測できるはずなので、それでも本当に海外でやったほうがいいのかを考えるべきだと思います。
──なるほど。
松島 日本のアーティストは「世界でがんばりたい」って言うんですけど、海外では誰も「世界でがんばりたい」とは言わないんですよ。イギリスのアーティストに「次にどうしたいの?」って聞くと「フランスでの再生回数を上げたい」とか、「ドイツでもっと聴かれるようになりたい」と、具体的な国名が出てきます。日本人は「世界で世界で」って言うんですけど「どこ?」みたいな。
宮本 確かに! 僕もキングレコードにいたときそうだったので、すごくよくわかりますね。なんとなく「世界を目指します」みたいな。
松島 それでもやるのであれば、まずはターゲットの国を決める。今のコロナみたいな状況でなければ「今年は2カ月に1回台湾でライブします」とか。そのうえでプランニングとしてSNSが必要で、発信する際に英語とかその国の言語で投稿してみるとか、そういうことだと思います。星野源さんのYouTubeを見てもらえればわかりますけど、英語はもちろん、韓国語、中国語、スペイン語などマルチランゲージ化されていて全部字幕が見られるようになっています。YOASOBIやずっと真夜中でいいのに。も翻訳が付いてますね。
宮本 現実的に考えるなら日本のカルチャーをすでに取り入れている国からやるべきだし、そうなると中国、韓国、タイ、シンガポールとか、経済成長がすごいインドネシアとか。どうしても欧米に意識が行きがちな我々ですけど、Spotify for ArtistsやYouTube Studioを見てちゃんとファンがいる国を調べて。ただでさえ忙しいのに、海外までとなると大変ですから。
──その分労力を割かれるわけですもんね。
宮本 音楽業界はわりと自分の労力をカウントせずに気持ちで動くので、自分もついついがんばっちゃいますけど(笑)、結局有限じゃないですか。人数が多いわけでもないし、選択と集中をしていかないといけないですね。
無理なく楽しくやることが大事
──改めて、アーティストがSNSを使ってファンとコミュニケーションを図るために必要なことはなんだと思いますか?
松島 すでにファンになってくれている人、これからファンになりそうな人が何に時間を使っているのかを知ることが重要だと思います。自分たちのターゲットがどのSNSに一番時間を割いているかを調べて、そこでコミュニケーションをしたほうが効率的ですよね。もしそれがYouTubeなのだとしたら、YouTubeを一番しっかりやらないとダメだし。YouTubeってコンテンツの量と、コンテンツにタッチした人がそのチャンネルにどれだけ滞在したかがすごく大事なんです。自分たちの楽曲をたくさん公開するのは難しいかもしれませんが、コミュニティ投稿でもストーリー投稿でも、方法はなんでもよくて。さらに付け加えると、それが楽しくできたらいいですよね。
宮本 それ本当に大事ですよね。人間って感じ取るんですよね、無理やりやらされていたら。
松島 例えば
宮本 大事ですよね。僕は、SNSの最終的な目的地はファンクラブの会員、つまり仲間をどれだけ作れるかだと思っていて。こちらの図を見てほしいんですけど、ピラミッド型で考えたときに、一番下にいるのがストリーミングやYouTubeで聴いているリスナー、そこから好きになってTwitterやInstagramをフォローする層になり、さらに好きな人がダイレクトコミュニケーションできるLINEに入って、最終的にファンクラブに入る。LINEはファンクラブに一番近い存在なので、目的のためにうまく取り入れてもらって、DPCA(Do、Plan、Check、Action)のサイクルを回していってほしいですね。
松島功
Spotify退職後、音楽専業のデータ分析・デジタルプロモーション・マーケティング会社arneを設立。インディペンデントのアーティストサービス、レコード会社のデジタル事業サポートを務める。
宮本浩志
キングレコード内のレーベルEVIL LINE RECORDSにて多くのアーティスト、作品の宣伝を担当後、広告代理店でのコミュニケーションデザイナーを経て、現在はLINE株式会社のエンターテイメントカンパニーに所属。サウナ好き。
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