小柳ゆきのデビュー25周年を記念したセルフカバーアルバム「Orchestra」がリリースされた。
「Orchestra」には「愛情」や「be alive」「あなたのキスを数えましょう~You were mine~」など小柳のキャリアを彩ってきた楽曲をオーケストラバージョンで収録。兼松衆、秋田茉梨絵、島健、Tak Miyazawa、森いづみ、藤澤慶昌という6人の編曲家が、小柳の楽曲に新たな彩りを与えている。
自身の歌唱だけでなく楽器のレコーディングにも立ち会い、その上質なアレンジに何度も胸打たれ涙を流したという小柳。彼女の強い思い入れが感じられる「Orchestra」について、本人にじっくり話を聞いた。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 星野耕作
人前であんなに泣いたことはない
──3月にリリースされた配信シングル「薄氷ノ花」に続くセルフカバーアルバム「Orchestra」は、小柳さんの名曲の数々を6名の編曲家が再構築してオーケストラとともに作り上げた1枚です。デビュー25周年記念作品ということで、スタッフの皆さんとはどんなお話を重ねたんでしょうか。
実はこれまでの楽曲をオーケストラで再現するアルバムという構想は5年くらい前からありまして。やっと実現できたので、ひと安心しているところなんです。制作のきっかけは「25周年ということで足跡をしっかり残したい」「長年ライブを重ねて、お客さんや会場の空間によってさらに彩りが加わった楽曲をきちんと形にしたい」という思いからです。ありがたいことにこれまでオーケストラとご一緒して歌唱する機会が何度もありまして。それがとても心地よく、歌手名利に尽きるなと実感しながら歌わせていただいてたので、やっと形にできたという思いです。
小柳ゆき「Orchestra」収録曲
- 愛情[作詞:小柳ゆき、樋口侑 / 作曲:原一博 / 編曲:兼松衆]
- DEEP DEEP[作詞:小柳ゆき / 作曲:NS2 / 編曲:秋田茉梨絵]
- be alive[作詞:小柳ゆき、樋口侑 / 作曲:原一博 / 編曲:島健]
- remain~心の鍵[作詞:小柳ゆき、Lightcha / 作曲:清水泰明 / 編曲:兼松衆]
- サイドウェイ-並行世界-[作詞:小柳ゆき / 作曲:HIROMI / 編曲:Tak Miyazawa]
- One in a million[作詞:藤林聖子 / 作曲:山路敦 / 編曲:Tak Miyazawa]
- 天球儀[作詞:小柳ゆき、池田綾子 / 作曲:池田綾子、TATOO / 編曲:森いづみ]
- あなたのキスを数えましょう~You were mine~[作詞:高柳恋 / 作曲:中崎英也 / 編曲:藤澤慶昌]
──オーケストラアレンジと聞くと身構えてしまいがちですが、このアルバムは聴いていてとてもワクワクしますね。まるでディズニーランドで1日楽しく遊んだ気分のような。
あ! それすごくうれしい感想です(笑)。
──「DEEP DEEP」なんて失恋の歌なのに最後は明るく希望を感じさせて終わる。アレンジもいろいろ話し合われながら作っていったのかなと、興味津々で聴かせていただきました。
楽曲ごとにオーダーの仕方はいろいろあったんですけれども、参加していただいた作家の皆さんがとても個性的な方たちなので、「自由にお願いします!」と伝えてアレンジしてもらったんです。
──編曲で楽曲自体のイメージがこんなに変わるんだ、という面白さも堪能できました。とにかく小柳さんの歌とのせめぎ合いが素晴らしいです!
作家の皆さんの表現とぶつかり合って。素晴らしい現場に居合わさせていただいたなという実感がありますね。
──小柳さんは歌入れ以外のレコーディング時もスタジオにずっと一緒にいらっしゃったそうですね。今回編曲で参加された兼松衆さんも「こんなにずっとレコーディング現場にいらっしゃる方は珍しいかもしれない。それだけ思い入れが今回の企画におありなんだろう」とコメントされていました。
できる限りいさせていただきました。レコーディングのときは大興奮で何度もボロ泣きしてしまって。ありがたいなという思いが込み上げてきたんです。長年付き合ってきた楽曲が、たくさんのプロの方たちの手で短い時間の中、あれよあれよという間に、ものすごいことになっていくわけです。今まで寄り添ってきた曲が、いろんな人の気持ちや感性を重ねていくとこんなふうになるんだって。それが感慨深くて最高でしたね。
世界が滅びてよみがえる
──アルバムに収録された8曲はいずれも小柳さんの25年の歩みを象徴する曲ばかりですので、担当された編曲家の方のコメントを交えながら1曲ずつ感想をうかがわせてください。「愛情」を編曲された兼松さんは、小柳さんの「すごいです! 1回世界滅びてます」という感想がとても印象深かったとおっしゃっています。
まず、デモをいただいた段階で「ああ、1回滅びたな」と感じたんです。滅びたうえで、一筋の光によってよみがえる……みたいな壮大なストーリーが浮かびました。「愛情」は「聞いて聞いて。私、これだけ好きなの!」という本当にまっすぐな気持ちを相手に向ける楽曲だったのが、兼松さんのアレンジによってもっと大いなる愛に変化した感覚を受けて。それでストリングスを録ったときに「うわ、これすごい。何か起きて、滅びて、よみがえったね」とお伝えしたら「はあ……」みたいな反応で、ご本人はピンときてなかったようです(笑)。
──今回の「愛情」は全人類に降り注ぐ愛情のように感じられました。1回滅びて再生したというのは、まさにそういう感覚なのかなと。
そういう絵がすごく見えますよね。これはこの兼松さんがアレンジした「愛情」だけでなく、アルバム全編を通して思うことですが、新たな映像とストーリーがうわっと飛び込んでくるような感覚を覚えました。
──基本的にシンフォニーで歌うときはドラムやベースといったリズムを取りやすい楽器がない分、ボーカリストにとって難しいものですが、この曲の難度の高さはまた別次元ですね。
どこでリズムを取ろうか?と思いました。正直、兼松さんから最初にいただいた「愛情」のデモはアバンギャルドが炸裂しておりまして。声の存在感をどれだけ前に出せばいいんだろうとかなり迷った楽曲ですね。あとは強弱のダイナミクスがすごいじゃないですか? それに負けないように声の圧を出していかないと、とは思いつつ、ライブで出すような圧のままでは別ものになってしまうので、その加減についてもちょっと悩みましたね。
──「愛情」はライブで盛り上がる楽曲ですし、歌い方に悩まれることってあまりなかったんじゃないでしょうか。
ノリでいけるというか(笑)。すごくパワフルでありながらも、美しい世界観を壊さないようにしたいなと心がけて歌わせていただきました。
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