DJ、選曲家としても活躍するライターの青野賢一が毎回1つの映画をセレクトし、映画音楽の観点から作品の魅力を紹介するこの連載。今回は日本で2017年に公開された作品「
文
「一緒に行く パンクへ」
2012年にニューヨークで設立された独立系の映画制作・配給スタジオA24。「
舞台は1977年のイギリス・ロンドン南部にある街クロイドン。作中の言葉を借りれば「保守的な郊外の街」であるクロイドンでパンクに傾倒し、ファンジン作りに熱意を燃やすエン(
ライブが終わって、打ち上げ会場にもぐり込もうとするエンたちだったが、迷ってしまい途方に暮れていると、どこからともなく音楽が聞こえてくる。「きれいな音楽だな」と音の出どころと思しき屋敷のほうへ向かう3人は、そこが打ち上げ会場に違いないと思っているわけだがさにあらず。中に入ると、遠い惑星から来た異星人たちがコスチュームで色分けされたコロニーごとに踊ったり話し合ったりしているのだった。エンはここで異星人──エンたちはアメリカ人のカルト集団だと思い込んでいる──の1人、ザン(
エル・ファニングの腹の底からのシャウト
ザンとエンの恋物語の結末は、ぜひ映画をご覧いただけたらと思うが、本作の見どころの1つはなんといってもザンがアメリカの伝説のカルトバンド“茶色の星”のボーカル、ザンドラとしてThe Dyschordsのゲストシンガーに仕立て上げられ、ステージに上がるシーンだろう。当然だが勝手がわからず戸惑うも、エンに「気持ちを歌に」と言われ、ザンは「これは私たちの歴史の歌」と述べてアカペラで歌い始める。「6は天体の数なのよ」と。素の声でつぶやくように歌うザンに、エンは「シャウトして」とアドバイス。それでも歌い方は変わらず、フロアからヤジが飛ぶ。それでスイッチが入ったのか、ザンは腹の底から絞り出すようにシャウトした。「私は旅行者じゃない!」いつの間にかエンもマイクを握って歌っている。曲の途中からミュージックビデオのような展開もあって印象に残る場面だ。
1977年が舞台ということでパンクが前面に出てはいるものの、いわゆる往年の名曲頼りではない。また、Matmosがミニマルかつスペイシー、それでいてダビーな曲を提供していたりと、パンク以外の音楽のクオリティも実に高いのがうれしい。そういえば、ザンを演じたエル・ファニングも出演している、
「パーティで女の子に話しかけるには」
日本公開:2017年12月1日
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:エル・ファニング / アレックス・シャープ /
音楽:ジェイミー・スチュワート
衣装デザイン:サンディ・パウエル
配給・発売元:ギャガ
- 青野賢一
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東京都出身、1968年生まれのライター。1987年よりDJ、選曲家としても活動している。1991年に株式会社ビームスに入社。「ディレクターズルームのクリエイティブディレクター兼<BEAMS RECORDS>ディレクターを務めている。現在雑誌「ミセス」「CREA」などでコラムやエッセイを執筆している。
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