「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

青野賢一のシネマミュージックガイド Vol.8 [バックナンバー]

パーティで女の子に話しかけるには

2人の心に共鳴するパンクロック

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DJ、選曲家としても活躍するライターの青野賢一が毎回1つの映画をセレクトし、映画音楽の観点から作品の魅力を紹介するこの連載。今回は日本で2017年に公開された作品「パーティで女の子に話しかけるには」を取り上げる。1977年のイギリス・ロンドン郊外を舞台に、パンクに傾倒する少年エンと異星人の女性ザンの恋が描かれるこの作品の音楽的な魅力とは。

/ 青野賢一

「一緒に行く パンクへ」

2012年にニューヨークで設立された独立系の映画制作・配給スタジオA24。「ムーンライト」(2016年)や「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」(2017年)、「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018年)などを手がけ、最近では「ミッドサマー」のヒットも記憶に新しいところではないだろうか。今回取り上げる「パーティで女の子に話しかけるには」(2017年)も、A24制作の作品である。

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

舞台は1977年のイギリス・ロンドン南部にある街クロイドン。作中の言葉を借りれば「保守的な郊外の街」であるクロイドンでパンクに傾倒し、ファンジン作りに熱意を燃やすエン(アレックス・シャープ)が自室のベッドで目を覚ます。着替えてレコードをかけるエン。部屋の壁には、Sex Pistols、The Damned、The SlitsといったUKパンクを代表するバンドのレコードジャケットやポスターが無造作に飾られている。このタイトルバックの映像に添えられるのは、The Damned「New Rose」だ。部屋でコツコツ作ったファンジンと、自身が生み出したオリジナルキャラクター“ウイルス・ボーイ”のステッカーを携え、エンは自転車に乗って仲間2人を迎えにいく。暗くなってからパンククラブへ繰り出す3人。クラブではレゲエが流れていて、当時のパンクとレゲエの親和性を窺わせるシーンだ。ほどなくしてクラブでは、売り出し中のパンクバンドThe Dyschordsのライブが行われる。このThe Dyschords、映画のために作られたバンドなのだが、実際の70年代後半当時の曲と並べても遜色のないストレートなパンクロックを披露している。

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

ライブが終わって、打ち上げ会場にもぐり込もうとするエンたちだったが、迷ってしまい途方に暮れていると、どこからともなく音楽が聞こえてくる。「きれいな音楽だな」と音の出どころと思しき屋敷のほうへ向かう3人は、そこが打ち上げ会場に違いないと思っているわけだがさにあらず。中に入ると、遠い惑星から来た異星人たちがコスチュームで色分けされたコロニーごとに踊ったり話し合ったりしているのだった。エンはここで異星人──エンたちはアメリカ人のカルト集団だと思い込んでいる──の1人、ザン(エル・ファニング)と出会った。伝統的な慣習に則った異星人のやり方に不満を持つザンは、エンのパンク精神と共鳴し、特例を宣言して48時間以内に戻ってくることを条件に外出許可を得た。「一緒に行く パンクへ」。こうしてエンはひとまずザンを家(エンは母と2人暮らしだ)に連れて帰ることになるのだが、この場面では、The Velvet Undergroundの「I Found A Reason」が2人を優しく包むのであった。

エル・ファニングの腹の底からのシャウト

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

ザンとエンの恋物語の結末は、ぜひ映画をご覧いただけたらと思うが、本作の見どころの1つはなんといってもザンがアメリカの伝説のカルトバンド“茶色の星”のボーカル、ザンドラとしてThe Dyschordsのゲストシンガーに仕立て上げられ、ステージに上がるシーンだろう。当然だが勝手がわからず戸惑うも、エンに「気持ちを歌に」と言われ、ザンは「これは私たちの歴史の歌」と述べてアカペラで歌い始める。「6は天体の数なのよ」と。素の声でつぶやくように歌うザンに、エンは「シャウトして」とアドバイス。それでも歌い方は変わらず、フロアからヤジが飛ぶ。それでスイッチが入ったのか、ザンは腹の底から絞り出すようにシャウトした。「私は旅行者じゃない!」いつの間にかエンもマイクを握って歌っている。曲の途中からミュージックビデオのような展開もあって印象に残る場面だ。

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

「パーティで女の子に話しかけるには」場面写真(c)COLONY FILMS LIMITED 2016

1977年が舞台ということでパンクが前面に出てはいるものの、いわゆる往年の名曲頼りではない。また、Matmosがミニマルかつスペイシー、それでいてダビーな曲を提供していたりと、パンク以外の音楽のクオリティも実に高いのがうれしい。そういえば、ザンを演じたエル・ファニングも出演している、マイク・ミルズが監督を務めた「20センチュリー・ウーマン」(2016年)は、1979年のアメリカ・カリフォルニア州サンタバーバラでの話で、本作と同様に当時の音楽が散りばめられている。2年の差、そしてイギリスとアメリカという地理的な違いが音楽とどう関係していたか、両作を通じてうかがい知ることができるのではないだろうか。ちなみに「20センチュリー・ウーマン」もA24制作。音楽のいい作品がとても多いのだ。

「パーティで女の子に話しかけるには」

「パーティで女の子に話しかけるには」DVDジャケット (c)COLONY FILMS LIMITED 2016

「パーティで女の子に話しかけるには」DVDジャケット (c)COLONY FILMS LIMITED 2016

日本公開:2017年12月1日
監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
出演:エル・ファニング / アレックス・シャープ / ニコール・キッドマン / ルース・ウィルソン / マット・ルーカス ほか
音楽:ジェイミー・スチュワート
衣装デザイン:サンディ・パウエル
配給・発売元:ギャガ

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青野賢一

東京都出身、1968年生まれのライター。1987年よりDJ、選曲家としても活動している。1991年に株式会社ビームスに入社。「ディレクターズルームのクリエイティブディレクター兼<BEAMS RECORDS>ディレクターを務めている。現在雑誌「ミセス」「CREA」などでコラムやエッセイを執筆している。

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ねりたん @nellytang

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