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錦見映理子

私と音楽 第14回 バックナンバー

錦見映理子が語る欅坂46

まったく新しい女性像を見せてくれそう……そう思うだけでドキドキする

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各界の著名人に“愛してやまないアーティスト”について話を聞くこの連載。14回目は小説家で歌人の錦見映理子が人生で初めてハマったアイドルだという欅坂46について語ってくれた。

取材・文 / 高橋裕美 撮影 / 阪本勇

かわいく見えなくていい

初めて欅坂46を意識したのは、2017年の年末です。当時は欅坂46という名前すら知りませんでした。乃木坂46のメンバーは何人か知っていたり、坂道シリーズの存在はうっすら知ってたんですが。というのも、乃木坂46が生まれたSME乃木坂ビルがあるところにはもともとアパートが建っていて、私はそこで11歳から6年間暮らしていたんです。その頃のことを書いたのが「リトルガールズ」という小説なんですが、それを2017年の年末に書き終えて、12月30日には大掃除をして疲れ切ってボーッと「第59回輝く!日本レコード大賞」を観ていたら欅が出てきて。普段はアイドルを見ることなんかないのに、番組をたまたま観ていたんです。「風に吹かれても」のパフォーマンスで衣装が全員黒いスーツだったんですが、平手友梨奈さんが映ったときに「男の子が混じってる!」と思ってしまって。ほかの子は髪が長かったりニコニコしてたり女の子に見えたんですが、平手さんは眼鏡をかけて髪も短くて、その髪も目にかかっていて顔がよく見えなくて。まったく笑わないし、「なんなのこの子!?」ってすごく気になって。そのとき私には平手さんが1人で“別に私はかわいく見えなくても構わない”というメッセージを発信しているように見えたんです。女性アイドルというのは“かわいい私”をアピールするものだと思っていたので、ものすごく強烈な印象でした。

次の日の「NHK紅白歌合戦」も観たんですが、そこで見せた「不協和音」のパフォーマンスは平手さんをはじめメンバーが倒れてしまうくらい激しいもので、すごい迫力だったんです。そのあと「CDTV」の年越しライブでまた「風に吹かれても」を観て……年末に3回連続で欅を観たことですっかりやられて。次の日にすぐにファンクラブに入って、全部の動画を観てメンバーの名前とあだ名を全員分一生懸命覚えて……平手さんが化粧品のCMに出たらその化粧品を買ったり、パンフレットをもらってきて友達に配ったりということを始めるんです(笑)。

1つでも多く、少しでも早く観たいという気持ちがあったんですが、しばらく平手さんがケガや映画の撮影でライブに出られなかったので、生で観るまではかなり長かったです。初めてライブを観覧したのは2018年7月の「欅共和国2018」。欅坂46は、とにかくパフォーマンスがカッコいいですよね。メンバーが楽曲を伝えようとする熱意やサービス精神がもうすごくて。それを一緒に盛り上げようとするファンの気持ちにも感動して、「来てよかったな、これからもライブに行こう」と決めました。そのあと「夏の全国アリーナツアー2018」の幕張メッセ公演に行ったんですが、それが平手さんがステージから落ちた日だったんです。落下する直前の平手さんのパフォーマンスがとにかく素晴らしくて。踊りながら前にずんずん迫ってくるような欅のパフォーマンスが私はすごく好きなんですけど、「ガラスを割れ!」で平手さんが花道を進んできて、もう踊りが激しすぎてヘッドセットが全部落ちちゃって、ラインでぶら下がったままの状態で。それが体にバシバシ当たりながらも踊っていて「すごい!」と思っていた瞬間にいなくなっちゃった。そのあともずっと平手さんは出てこなかったんですけど、ほかのメンバーは何事もないようにすごく自然だったんです。ものすごいアクシデントだった思うんですけどメンバーに動揺はなく、いなくなった穴も自然に埋めて。落ちたということはそのとき観客に知らされてなかったということもあり「平手さんが消えたのは演出なのかな?」って思うくらい滞りなく進行していました。

途中で落ちたとわかって不安になりましたが、最後には平手さんが戻ってきて、それがものすごくドラマチックで感動的で。落ちたというのはもちろん大変なことですし、アーティストとしてハプニングはいいことではないのかもしれないですけど、でもやっぱり生きてるっていうことは、いろんなことが起きるということでもあるわけで、それを生々しく見せられているという感じ。アイドルとして、1つのグループとして、素晴らしくいいなと。いつ何が起きるかわからないので常に立ち会いたいと思って、そこからは全国すべての公演に申し込んでいます。欅って、強いメッセージを生身を晒して全身で表現して、全員が1曲ずつ意思を持って伝えようとしているグループじゃないですか。私はそれができないから文字だけで一生懸命やろうとしてますが、そんな難しいことに立ち向かっている彼女たちをすごく尊敬しています。

衝撃的なパフォーマンス

楽曲でいうと、やはり最初にハマッた「不協和音」がパフォーマンスを含めてすごく好きです。あと「エキセントリック」は“変わり者でいい”っていう曲で、最初に聴いたときは泣きそうになりましたね。

もし自分が思春期だったら、これを心の支えに生きているんじゃないかなと。あと「避雷針」もカッコいいです。WOWOWで「COUNTDOWN JAPAN 17/18」を放送するというので欅を観るために急いで入ったんですが(笑)、そのパフォーマンスが好きすぎて今でもその録画をしょっちゅう観ています。平手さんがセンターなのに、なぜか後ろのほうをウロウロしてるんですよ。心を閉ざす“君”の孤独を表現しているのかなと思うんですが、あの変わった振付は衝撃的でした。あとメンバーがフォーメーションで花道を作ってその間を平手さんが走って、志田愛佳さんに飛びついてお姫様抱っこしてもらうシーンがあって。それにものすごく感情を揺さぶられましたね。

最新の「黒い羊」もメンバー同士が抱き合ったり突き放したりする振付があって、エモーショナルです。私が欅にハマって騒いでいるから、いろんな友達が「黒い羊」を聴いてくれて、すっごくいい曲だってみんな言ってくれて。歌人で友人の岸野亜紗子さんが「こういう曲をみんなが理解したら、少しは生きやすい世の中になる」って言ってくれて、みんなに伝わる楽曲なんだなと思いましたね。すごく複雑な楽曲で……周りのみんなに合わせられない厄介者が主人公なんですが、実際にいろんな場所でそう生きるしかない人のハードさが、MVやパフォーマンスから伝わってきます。しかも、自分が黒なのか白なのかって、揺らぎやすくて微妙じゃないですか。自分は外れ者の黒い羊だと思っていても、別の場所では白い羊になって他者を排除する可能性もある。そういう人間の弱さや複雑な部分も表現している曲ですし、いろんな年齢のいろんな立場の人に聴いて、彼女たちのパフォーマンスを見てもらいたいと思います。

この曲は、自分の創作にも直接影響を与えている気がします。私が最近書いた短歌で、15首の最初の音を並べると「ひらてゆりなくろいひつじけやき」になる連作があるんですが、それは「黒い羊」のMVが解禁になった日に、それを観て感じた気持ちのまま作りました。この折句を作るのが楽しくてハマッてしまって、最近も「ひらてゆりなけやきざか46」になるように作ったものもあります(笑)。「リトルガールズ」は欅を好きになる前に書いたので影響はされていないんですが、今後書く小説には意識せずとも何らかの形で反映はされるんじゃないかなと思います。太宰治賞を受賞したあとに少し直しを入れ単行本として出したんですけど、そのときに登場人物の名前を欅メンバーの名前に変えたところがあります。会話の中にさらっと入れただけのちょっとした名前だから、読んでもなかなか見付けられないと思いますけど(笑)。

平手さんが笑っているとホッとする

アイドルを好きになったのは生まれて初めてだったので、なんでこんなに欅坂46にハマッたのか、しばらく自分でもよくわからなかったです。自分では、当時書いていた小説「リトルガールズ」が学校を舞台に14歳の女の子と55歳の女性教師をWセンターにした群像劇だったこともあって集団の女性たちに惹かれたのかなという分析をしていました。この小説は学校で悪目立ちしないように毎日黒い服を着ていた先生がある日、大好きなピンクの服を人前で着てドン引きされる話なんですが、今考えるとそれって「サイレントマジョリティー」っぽいんですよ。この曲は毎日同じ服を着てルールに縛られる大人に若い子たちが「No」と言う歌なんですけど、「リトルガールズ」は子供だけじゃなくて大人も縛られてきた価値観に「No」を言っていいんだという話なんです。「サイレントマジョリティー」の「君は君らしく生きて行く自由があるんだ」という歌詞のそのままの世界観をたまたま自分は小説で書いてたんだな、というのがだんだんわかってきて。ひたすら舞い上がっていたんですけど、それがわかってからは、ファンになったのは必然なんだと思えるようになりました。「あ、この恋は覚めないんだな」と、欅が好きだということを自分で信じられるようになりましたね。

欅での平手さんは背負うものが大きすぎるという声もあって、私もそれはすごくわかるんですよ。平手さんの表情は初期と今とではあまりにも印象が違うので、心配になることもあります。いったい何が起きてこうなったのかを知りたくてありとあらゆるものを観ましたが、いちファンにはもちろん本当のことはわからないし、想像するしかない。だから答えって出ないんですよね。大変かどうかは、彼女にしかわからないじゃないですか。欅の曲には「僕は嫌だ」っていうセリフがあったりして、それが本人の心の叫びみたいに表現されていたりと、平手さんに当て書きされているというふうにも見えるんですけど、一方で欅メンバー全員でそれを成立させているとも感じます。

“主人公・平手友梨奈”みたいな世界観ですけど、でもメンバー全員が主人公というか。みんなで三角形の陣形を作って前に迫ってくる、その頂点に平手さんがいるというあの形が大事なんだと思うんです。もちろん平手さん1人にのしかかる重圧はあるのかもしれないけど、それもきっとメンバーと共有してやってきたんだと思う……というか、そう想像するしかないのかなと。やっぱり平手さんが笑ったりするのを見るとホッとするし、ものすごくうれしくなったりはします。だけど四六時中笑っているところを見たいわけでもないですし、今の平手さんが表現するものを追いかけたい。この先卒業して欅じゃなくなってもそれでも好きなのか、平手さんがいなくなった欅も好きなのか、まったくわからないですけど、今はとにかくいろんな表情を見せてもらえるということがうれしいし、私は応援して行くだけかなと思っています。

勇気をくれる存在

女性ってアイドルじゃなくても客体化されて“消費される”ということから逃れられないじゃないですか。私もこんなおばちゃんなのに、賞を取ってメディアに写真が出たら風貌についてなんやかんやネットに書かれましたし。私はもうなんとも思わないですけど、今の若い子はSNSで多くの目に晒される環境にいるから、ものすごく傷を負うこともあると思う。ましてやアイドルグループならそんなつらさがいっぱいあると思います。でもそのつらさによってダメージを受けても、自分の信じたことは曲げられないっていう気持ちは誰にでもあると思うし、欅はそういうメッセージを届けようとするグループだと感じるんです。私は欅だけでなく、そうやってがんばっているどのグループの、どの女の子も応援したい。平手さんに自分のつらさを重ねて勇気を得ている人もたくさんいると思いますし、私自身もそんな平手さんに惹かれてしまった。

誰もが“誰にも生きられない自分”を生きることしかできなくて、それが幸せなのか大変なのか、誰にも測ることはできない。いろんな人生があっていいのに、芸能人の方、特に女性は誰と恋愛してダメになって次は誰……とか面白おかしく切り取られて勝手に人生のアップダウンを測られて。そういう面にばかり注目されがちじゃないですか。でも女性の人生における新しい価値観があっていいと思うんです。恋愛や結婚や出産のような、女性の人生のイベントと思われているものばかりに捕らわれない、まったく違う新しくて見たこともないような女性像を平手さんは見せてくれているような気がするんです。これは本当に勝手に私が思っていることで、実際に本人がどんな考え方でどんな人生を歩むのかはわかりませんが、ただそういう予感がするだけでも見ていてすごくドキドキするし、カッコいいし、自分の夢みたいなものを見せてもらえているような気がするんです。

平手さんだけじゃなく、欅の全員にそれぞれの生き方があって、選択肢がある。これからどういう道を選んで、どういう人になっていくのかまだまったく見えないところがすごくいいなと思います。無限大と言いますか。アイドルグループって一見不自由そうではあるんですけど、自分次第で自由を獲得できる若さと可能性が凝縮されてもいる。彼女たちがやりたいことができるように、応援していきたい。勇気を持って進む姿を、できる限りずっと見ていきたいなと思っています。

錦見映理子(ニシキミエリコ)

1968年生まれ。東京都出身の作家、歌人。未来短歌会に所属する歌人でありながら2018年には小説「リトルガールズ」で第34回太宰治賞を受賞した。著作はほかに歌集「ガーデニア・ガーデン」、エッセイ「めくるめく短歌たち」がある。8月26、27日に京都・Bonjour! 現代文明、9月7日に福岡・本のあるところ ajiroにて、トークイベント「めくるめく短歌と私」+第11回ajiro歌会を実施する。

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