音楽ナタリー - 最新音楽ニュース

坂口孝則

私と音楽 第12回 バックナンバー

坂口孝則が語るスピッツ

敗北、挫折から抜け出せない…それを描く感性がすごい

675

各界の著名人に“愛してやまないアーティスト”について話を聞くこの連載。12回目はメタル好きとしても知られるサプライチェーンコンサルタントの坂口孝則が、愛するスピッツの魅力を語ってくれた。そして今回は坂口がスピッツ愛をつづった手記を「坂口孝則が語るスピッツ 番外編」として2ページに掲載している。

取材・文 / 高橋裕美 撮影 / 阪本勇

大人になったオタク男子の世界観に共感

初めてスピッツに心をつかまれたのは1997年。大阪大学に入ったばかりの頃で、当時の彼女がアルバム「ハチミツ」を家に持って来てくれたのがきっかけでした。僕は比較的暗い音楽が好きで、メタルでも、ブリティッシュヘヴィメタル的な音楽よりは、どちらかというと北欧とかアメリカのスラッシュメタルが好き。教室の片隅でオタク友達と固まってるタイプの人間なんです。

大学には、京大や東大を諦めた、ある種の挫折感を持っている人がたくさんいました。合コンに行っても「京大はやっぱりモテるよな」みたいな話をしていて(笑)。僕はそれに輪をかけてメタルをずっと聴いてきたような男だから、余計にそういう卑屈さを抱えていたと思います。このアルバムはその頃の感傷的な気持ちとすごくマッチしたんです。特に「Y」という曲が好きになって、それをきっかけに現在までずっとスピッツを聴き続けています。

僕は小学生の頃から雑誌「WHAT’S IN?」を愛読していて、週に1枚アルバムをレンタルしてました。どんだけ友達がいなかったのかという感じですけどね(笑)。確か、当時観ていた「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系列)で忌野清志郎さんが演出家さんの家をブルドーザーで潰していて、よくわからないけど「清志郎さんすげえ」と思ったのがきっかけだったと思います。とりあえずCD屋さんに行ってTHE TIMERSの棚を漁っていたらお店の人が声をかけてくれて、薦めてくれるままにいろいろなCDを聴くようになったんです。中高時代はナゴムレコードのアーティスト、OUTOとかヌンチャク、BOREDOMSも好きでしたね。

そうやっていろんな音楽を聴いていたんですが、スピッツを初めて聴いたときは、“暗めで岩波文庫を読んでいそうな人”がやっている音楽だと感じて、そういうところに惹かれたんだと思います。学生時代は声のでかいリーダー的な人気者にみんな付いて行ったけど、そうじゃなかったオタク男子が大人になって逆襲してる……みたいな。そう感じて勝手に共感したんです。

なり得ない者への憧れと嫉妬

これは歌詞を深追いして僕が勝手に思っていることなんですけど、スピッツの歌う“君”は実際に存在する女性ではなくて、THE BLUE HEARTS的なものを象徴しているんじゃないかなと。憧れて、でも自分はなれなくて、なれる見込みもない。ニーチェ的に言うと、ルサンチマンを持たざるを得ない対象、絶対に自分がなれない相手というのが“君”=THE BLUE HEARTSだと思うんです。僕は草野さんのインタビューはファンクラブ会報1号も含めてほぼすべて読んでいますが、そこで感じるのは、真島昌利さん的なものに憧れていらっしゃったんだろうなということ。

草野さんが22歳の頃に発売された真島さんのソロアルバム「夏のぬけがら」(1989年11月発売)について、草野さんは雑誌のインタビューで「どのアルバムよりも好きです」と話をしていて、それにも関わらずこの作品について「かなり寒いですよねえ、うん」とも言っているんです。これを踏まえてスピッツの楽曲を見ると、歌詞の微妙なニュアンスなどから、草野さんは僕らから見ると才能の塊にも関わらず、今でも完全に価値の転換ができきれず、なり得ないものへの憧れや嫉妬を抱き続けているんだろうなと思えるんです。

インディーズの頃は、“草野さんの声を生かしきれていない感”が楽曲から感じられて、それが楽曲の中で描かれている“敗北感”にもつながって、それこそ最初に挙げた「Y」は、ビートパンクをやってきた自分との決別のような曲だと感じています。「やがて君は鳥になる ボロボロの約束 胸に抱いて」って……すごい感性ですよね。「君が思い出になる前に」もそうですけど、なくなることが確定している中で進む楽曲が多いじゃないですか。スピッツの楽曲って、そういう“君”に勝ち得なかった者が作る屈折した音楽なんですよ。しかも、恋したものにはなれないけど、違う才能があるから素晴らしい曲ができちゃっている、という二重の苦しみみたいなところもあって。そこにまた、僕はねじれた魅力を感じています。

でも、詞と曲のどちらにより草野さんの才能を感じるかと問われれば、曲だと思っています。インタビューでスピッツに関わっている人たちが、「草野さんの歌詞はすごすぎて修正依頼を出せない」と言っているのを見ましたが、僕はあのメロディで歌われているから止めようがないというか、やっぱり曲の素晴らしさが先にあるような気がするんです。「春の歌」だと、D→E→F#mというサビのコード進行は同じなのに途中からメロディが変わるなど、そういうところに驚きを感じますね。

あと、アルバム1曲目のセンスがすごい。「えっ、これを1曲目に持ってくる?」みたいなことも多くて。「フェイクファー」の1曲目「エトランゼ」とかもびっくりしたし、「インディゴ地平線」の「花泥棒」も「最初にこのハネたのを持ってくるか!」と驚かされましたね。

ねじれながらも真面目に続けている

スピッツのライブはこれまでに2回観たことがあります。職業柄よく分析をしてしまう僕ですが、ライブは特に複雑な見方はしていなくて、純粋に「ドラム、うめえ!」とか思いました(笑)。草野さんのMCって、三輪テツヤさん(G)と2人で掛け合いみたいなものをするんですけど、端々から照れてるんだなというのが伝わってきて、そういうところも好きです。僕も「イエーイ!」って言ったりノリながら口ずさんだり恥ずかしくてできないタイプなので、草野さんの「てめえらー!」とか言えない感じにも、わかるなあ、と勝手に共感して安心しています(笑)。

スピッツはメディアでの露出もそんなに多いほうじゃなく、それにはステージ以外ではあまり目立ちたくないみたいな草野さんのもともとの性格もあるんだと思うんです。でも別の角度から見るとすごい戦略的。最近アーティストでも芸人さんでも、人気が出始めてから持ち上げられるのはすごく早いけど、消費されるのもどんどん早くなっているじゃないですか。そういう面ではあまり出すぎないという選択は、結果的に総面積が大きくなるというふうに僕は思います。出版業界でも、テレビに出ている人のほうが本が売れないという話はよく聞きますし。草野さんがそれを狙っていらっしゃるかはわからないですが。

もう1つ尊敬できる点は、草野さんが比較的いつも真面目な表情でいることです。その表情は、僕がたくさん企業の方と会ってきた経験から見て、本当に信頼できる方なんだろうなと感じるんです。何かを真剣に考えて、向き合っているとしか思えない。露出をセーブして、いい意味で無表情に良質なものを届けることだけに力を注いでいるからこそ、最新アルバム「醒めない」が「第58回レコード大賞」で優秀アルバム賞を取れたりするんじゃないかな。そういう着実さ、真面目さもいい。そういうスピッツの姿勢に、僕はすごく影響を受けています。

以前、音楽プロデューサーの佐久間正英さんが「結局、真面目なアーティストしか残らない」という話をされていたことがあって。その真面目というのは1つに音楽を聴き続けること、もう1つは練習し続けること。この2つを続けることだとおっしゃってました。スピッツにもそれと同じ真面目さを感じるんです。僕、専門書を月に20、30万円くらい買って1日2冊ずつ読んでいるんですが、それも地道に続けることにしか答えはないし、そこからしか始まらないということを信じているからなんですよ。草野さんはねじれながらも、真面目にやり続けている。本当は自分が好きな音楽は別にあるのかもしれないけど、ファンが求める音楽と自分がやりたい音楽の狭間を模索し続けているんだと思います。その音楽への愛の深さはまさに職人だと思うんです。そしてその態度こそが、職業人として見習うべき姿だと思っています。

次のページ »
「坂口孝則が語るスピッツ 番外編」

音楽ナタリーをフォロー