第60回紀伊國屋演劇賞の贈呈式、日色ともゑ「10年くらいがんばっちゃおうかな」と気持ち新たに

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第60回紀伊國屋演劇賞の贈呈式が、昨日1月23日に東京都内で行われた。

第60回紀伊國屋演劇賞受賞者。左から井上麻矢、安井順平、杉山至、片桐はいり、竹中直人、日色ともゑ、横内謙介。

第60回紀伊國屋演劇賞受賞者。左から井上麻矢、安井順平、杉山至、片桐はいり、竹中直人、日色ともゑ、横内謙介。

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紀伊國屋演劇賞は、紀伊國屋書店が主催する賞。第60回紀伊國屋演劇賞では、劇団扉座に団体賞、日色ともゑ竹中直人片桐はいり杉山至安井順平に個人賞が贈られた。また、このたび紀伊國屋演劇賞が創設60年の節目を迎えることから、特別賞が設けられ、美輪明宏こまつ座の井上麻矢が受賞した。「第60回紀伊國屋演劇賞の会」と題された贈呈式には受賞者が登壇。なお、美輪は欠席し、代理人が出席した。

初めに紀伊國屋書店の高井昌史代表取締役会長が祝辞を述べ、審査委員を務めた小田島恒志、大笹吉雄が審査経過を説明した。また、野田秀樹が登壇し、祝辞を述べた。野田は、「紀伊國屋演劇賞と聞いたときに、真っ先に紀伊国屋書店の建物の姿が思い浮かぶ。紀伊國屋ホールは、文学が礎になっている演劇のシンボルなんだと感じます」と言い、岸田國士戯曲賞の選考委員を始めた頃、同じく選考委員を務めていた井上ひさしと戯曲が持つ“文学性”について意見を違えたことを明かした。「年を重ねて、井上さんがおっしゃっていたことがわかりました。演劇(戯曲)は本来、文学性で闘うもの。文学は言葉ですから、言葉を心に持ち、大事にしている人に与えられる賞として、伊國屋演劇賞には末長く続いていただきたい」と語った。

横内謙介

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団体賞を獲得した劇団扉座主宰の横内謙介は、「劇団創立45年、良くぞここまできたなと感慨深い気持ちです」と話し、「劇団は公演を打たなければ楽だし、持続可能」だとして会場の笑いを誘う。横内は、近年は解散も視野に入れて話し合ってきたと補足しつつ、「いざ劇団を仕舞うかどうかを考えたときに、腹の底から悔しさや憤りが込み上げてきた。そこで最後の1回、劇団扉座の巻き返しを図ってみよう!と皆で決めたタイミングで、このような賞をいただき、これほど力強い励ましはありません。賞の名に恥じぬようしっかりと活動して、扉座の逆襲を成し遂げたいと、決意を新たにしております」と力強く語った。

日色ともゑ

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横内のあとには、個人賞に輝いた面々の挨拶が続いた。劇団民藝の日色は、「1961年に劇団民藝の俳優教室に入っておりましたので、この賞よりはちょっと年上でございます。賞の設立を新聞で読んだときに、若い人たちのために作られたたものだと書かれていたことを覚えています。私は若い時期も過ぎ、おばあさんの役ばかりになりました。私はただ芝居が好きで、辛抱して、辞めなかっただけ。新劇の俳優として、あとどれくらいできますかしら? 10年くらいはがんばっちゃおうかな」とちゃめっ気たっぷりに微笑む。さらに、いい芝居を作るには稽古場が楽しくなければならないこと、劇団は家族のようなものだから“ややこしさ”もあることなどを説明したうえで、「実は今、圧迫骨折を2カ所やっていて。でも、舞台に立つと飛び跳ねちゃう。今日は劇団中でこの賞を喜びたいと思います」と話した。

竹中直人

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受賞の報を受け、「『なぜ私が?』と真っ先に思った」と言うのは竹中。「子供の頃から自分に自信が持てず、自分じゃない人間になりたいと思って生きてきました。何かのキャラクターを借りていれば話せるのですが」と、瞬時に声色を変えてスピーチを続ける。さらに、受賞のきっかけとなった竹生企画「マイクロバスと安定」の作・演出家である倉持裕の脚本に対する信頼を語り、「私は、倉持さんが書く言葉が本当に大好きで。時々、誰に向かって芝居をしているんだろう?と思うことがありますが、私は作品を書いた作家に向かって芝居をしたい。その気持ちは変わりません。こんな賞をいただけて『倉持さん、やったね』という気持ちで、これからもがんばります」とコメントしたあと、即座に腰の曲がった老人に扮し、「私はまだまだ生きますよ、紀伊國屋演劇賞万歳!」と言いながら、拍手を背に退場した。

片桐はいり

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続く片桐は、竹中の様子に「やりにくいよ」とこぼしながら登壇。小田島が語った審査経過で片桐が「誠實浴池 せいじつよくじょう」「彼方の島たちの話」で演じた役の“不気味さ”が触れられたことから、「今日は受賞の理由を知りたくて来たのですが、“不気味”な賞だったことがわかって安心しました」と胸をなで下ろす。「18歳でザ・スズナリに立ってから45年。演劇にどういう賞があるのかも実はあまりわかっていません。褒められもしないのに45年もやったなと、褒められなかった日々に愛しさを感じてしまいました」と率直に話す。また、特に「彼方の島たちの話」での作品作りを通して若い世代に感銘を受けたとし、「私みたいに“古い電子レンジ”のような俳優を面白がってくれる人が増えたらいいなと、この賞をいただいて初めて思いました。まだまだ面白いこともできる気がするので、ポンコツもよろしくお願いします」と結んだ。

杉山至

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舞台美術家の杉山は、「裏方の人間がこのような賞をいただけるのかとうれしく思っております」と言いながら受賞者の顔ぶれを見渡し、「還暦ですが、まだまだ若輩であることを身をもって知らされました」と語る。また、チェコの舞台美術家で、舞台美術は観客や俳優が存在し、“事象”があるときに出現するものだと説いたジョセフ・スボボダの言葉を借りながら、「舞台美術家は1人では何もできません。私の美術は俳優に負荷を与えるものが多いですが、素晴らしい演出家、俳優、スタッフに出会える喜びは何事にも変え難い。その感謝を伝えたいと思います」と述べた。また、自身が兵庫県豊岡市の芸術文化観光専門職大学で准教授を務めており、東京を離れたことで見えてきた日本の問題や、全国から豊岡に集まる学生たちの熱意を目の当たりにしたことを説明。「60年後も日本の演劇界が輝いているように、この演劇賞が続いていってほしいという願いを込めて、受賞の言葉とさせていただきます」と締めくくった。

安井順平

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安井は、「歴史ある賞をいただき大変光栄です。そんなおめでたい日に悪夢で目が覚めました。僕は自分にあまり自信がなく、自己肯定感が低いタイプ。コンビニで水を買い、『このままでよろしいですか?』と聞いてくれた店員さんの言葉が、『お前の人生はこのままでいいのか?』と聞こえちゃうくらいネガティブ思考です。でも、受賞をしたことは事実なので、自信が持てるようにがんばりたい」と話して会場の笑いを誘った。また、所属するイキウメの節目となる作品で受賞できたことや、「ビジネスはへた」だが「作品を真ん中に置いてきちんと芝居を作る」というシンプルだが難しいことを長年、真摯にやってきた劇団に感謝の意を表す。「最後のドン・キホーテ」では作・演出を手がけたケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)に対し、「演劇に愛を持って、我々のような小童にも平等に接してくれる方。出自の異なる俳優たちが劇団のようなまとまりを見せて、すごい作品ができたと思いました。僕はアンサンブルとして出演したまでですが、結果としてKERAさんに素敵な役を書いてもらったと、感謝しています」と振り返った。

特別賞を受賞した美輪はコメントを寄せた。「90歳になるこの年まで、ずっと表現者でいられたのは奇跡のようなものです。さまざまな出会いも奇跡のようでした」「振り返れば、なんと浮き沈みの激しい人生だったことか。そんな私が今幸せを感じられるのは、幼少期から親しんできた音楽や絵画などの芸術や、本物の人たちとの出会い、そして愛と平和があるおかげだとしみじみ感じる今日この頃です。本日は私のようなものに由緒ある賞をいただき、大変感激しております。誠にありがとうございました」というメッセージが代読された。

井上麻矢

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最後に井上麻矢が登壇。こまつ座の経営を担って以降、「あっという間の18年だったなと思いました。紀伊國屋ホールは、私の成長と共にあった劇場でもあります」と述べる。さらに病床の井上ひさしと毎晩電話で話したエピソードを語り、「父は電話で、演劇とはどう素晴らしいものかを、あの手この手で伝えてくれていました。また同時に、どれだけの闇と希望を私に投げてくれていたのかと、懐かしい気持ちにもなります。父から劇団訓は授かりましたが、父はいろいろなところで詰めが甘く、大変な思いをすることもありました。でも、“芝居を作る”という誰よりも大事な仕事があるじゃないかという周囲の言葉に励まされて、ここまでやってこられました。『得意な時ほど淡々と、泰然と、1つの仕事をしっかりやっていきなさい』という父の言葉を胸に、前を見て進んでいきたいと思います」と決意を語った。

団体賞の劇団扉座には賞状と賞金200万円、個人賞および特別賞の受賞者には賞状と賞金50万円が贈られた。

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第60回紀伊國屋演劇賞 結果

団体賞

  • 劇団扉座(「北斎ばあさん-珍道中・神奈川沖浪裏-」「つか版・忠臣蔵2025」の優れた舞台成果に対して)

個人賞

特別賞

  • 美輪明宏(「演劇実験室◎天井棧敷」旗揚公演から「毛皮のマリー」「双頭の鷲」「黒蜥蜴」の主演など、長年にわたる舞台芸術への功績に対して)
  • 井上麻矢(井上ひさしの優れた戯曲を継承し、長年にわたって公演しつづける功績に対して)

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