第68回岸田國士戯曲賞の授賞式が、昨日5月7日に東京・学士会館で開催され、受賞者であるゆうめいの
岸田國士戯曲賞は白水社が主催し、一ツ橋綜合財団が後援する戯曲賞。最終候補作品には、池田の「ハートランド」のほか、安藤奎「地上の骨」、金子鈴幸「愛について語るときは静かにしてくれ」、菅原直樹「レクリエーション葬」、蓮見翔「また点滅に戻るだけ」、升味加耀「くらいところからくるばけものはあかるくてみえない」、メグ忍者「ニッポン・イデオロギー」、山田佳奈「剥愛」の計8作品が選出されており、
式ではまず池田に、賞状、正賞の時計、副賞の60万円が贈られた。続けて選考委員を代表し、上田があいさつ。京都在住の上田は、3月に東京都内で行われた選考会が長時間にわたったため、終電を逃したという裏話を笑いを交えて披露。今回初めて選考委員を務めた上田は「すべての作品について丁寧に議論し、結局は最初に一番点数を集めた『ハートランド』が受賞した」と選考経緯を語る。池田の「ハートランド」について上田は「終盤、トンネルをくぐって海が見える丘にたどり着くと、仮想空間と重なってメッセージが広がっている。これは“新しき演劇的絶景”です。テクノロジーが演劇的景色を更新していると感じましたし、今しか観られない新しい景色にたどり着けたなと思いました」と称賛した。
続けて池田があいさつ。池田は自分のこれまでの創作を振り返り、自身が18歳のときにインターネットの匿名掲示板に投稿した小説「耳かきドライバー」を紹介する。自身の体験をもとにした同作は、クラスメイトにからかわれている中学生を描いた物語。主人公はプラスドライバーをクラスメイトの耳に突き立てて復讐しようと考えたものの、練習のために自分の耳にドライバーを入れたところ耳かき中毒になり、中耳炎が悪化してもマイナスドライバーや六角レンチを耳に入れることをやめられず、最後は息絶えるというストーリーだったという。
池田は約10万字で「耳かきドライバー」を書いたが、唯一の感想が掲示板の“名無しさん”からの「長い」の一言だったことに触れ、「『長い』以外の感想を引き出したい」と考えて投稿を続けたと話す。池田は「僕にとって演劇を作ることは『耳かきドライバー』に似ている。僕もマイナスドライバーを耳に入れて中耳炎になった経験があるし、どんな作品も出発点に“痛み”がある。ただ『耳かきドライバー』のようにやり続けると、六角レンチがだめならチェーンソー、さらにはトンネルを掘る機械で……と、先が見えない痛みのループに入ってしまう。だから創作の発端は痛みでも、そこから飛躍した作品を作りたいなと考え、実体験をもとに創作するのではなく、フィクションの世界に飛び込もうと『ハートランド』を書きました」と語る。
「ハートランド」上演時、観客の反応は賛否に割れ、「長い」という感想も多かったという。池田は「ある種『何か取り戻したな』と思い、心が燃えました」と笑いつつ、「やはり以前のスタイルが良いという意見もありましたが、(今回の受賞により)自分はどんどん次に進んでいいんだなとも思った。今後も新しい表現を探り、いろいろな作品を作れる作家になりたいと思っています」と言葉に力を込めた。
乾杯の前には、選考委員の野田、岡田、タニノも祝福の言葉を述べた。「ハートランド」を観劇したという野田は、5月4日に唐十郎が死去したことに触れて「『ハートランド』で感じたのは『“アンダーグラウンド”がまだいる』ということ。ぜひその系譜を引き継いでほしい」と言い、「『こんな賞なんて大したことない』って考えているかもしれないけど(笑)、その気持ちのままどんどん大きくなってください」と池田にエールを送る。
岡田は選考で「ハートランド」を推していなかったと明かしつつ「僕は今回オンラインで選考会に参加しましたが、選考の議論がとても良かったので寂しくなかった。ここまで議論を尽くせると、自分がどの作品を推しているかを超えて、心から受賞を祝福する気持ちになれます。心からおめでとうございます!」と池田に笑顔を向ける。
タニノは「『良い作品を書く人と、その作品を観る人が増えればそれで良いな』と思って選考に臨んだ結果、しゃべりすぎ、上田さんに終電を逃させてしまった」と苦笑い。また「ハートランド」についてタニノは「すごく好き。創作にはたくさんの困難があったと思うが、それが脚本にも表れていた。お若いのに哀愁漂う言葉に感動しました」と称賛した。
また乾杯の発声を務めた市原は「賞を取ると今後の活動について多くの人から期待してもらえると思いますが、それは作家にとってつらいことでもあります。支えてくれる人がたくさんいても、書くときは孤独です。だから今日は池田さんをねぎらい、祝って、楽しく飲めたらと思います。おめでとうございます、乾杯!」とグラスを掲げた。
後半では三重県文化会館の松浦茂之副館長兼事業課長、昨年の「ハートランド」で舞台美術・衣裳を手がけた山本貴愛、そして演劇ジャーナリストの徳永京子が祝辞を述べる場面も。さらに終盤には池田らにより、岸田國士戯曲賞をテーマとしたコミカルな短編劇も余興として上演され、会場を沸かせた。
第68回岸田國士戯曲賞最終候補作品
- 安藤奎「地上の骨」
池田亮「ハートランド」 - 金子鈴幸「愛について語るときは静かにしてくれ」
- 菅原直樹「レクリエーション葬」
- 蓮見翔「また点滅に戻るだけ」
- 升味加耀「くらいところからくるばけものはあかるくてみえない」
- メグ忍者「ニッポン・イデオロギー」
- 山田佳奈「剥愛」
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三重県文化会館(in三重県総合文化センター) @miekenbun
ミエ・ユース演劇ラボ2015がきっかけで劇団ゆうめいを立ち上げ、2022年に三重凱旋公演を果たした池田亮さん。
この度は岸田國士戯曲賞受賞、本当におめでとうございます!今後のご活躍を応援しています! https://t.co/hGXCTCmB0k