本作は、「ハートランド」で第68回岸田國士戯曲賞を受賞した池田が、受賞後初めて脚本・演出を手がける作品。カプセルトイ(ガチャガチャ)に着想を得た本作では、“親ガチャ・子ガチャ”の要素を取り入れた寓話が描かれる。現代アーティストの本島幸司(新原)は、2024年に遺伝と自然淘汰をコンセプトとしたアート作品「Sphere of Sphere」を創作した。その作品が話題となり、独裁国家・央楼(おうろう)に招待されたことで、本島は思わぬ人生の転機を迎えた。そして35年の時を経た2059年、本島の告白から物語が始まり……。
劇場に入ると、ステージ中央の穴から天井に向かってそびえ立つ、カプセルトイマシンからなる真っ赤なタワー「Sphere of Sphere」がまず目に飛び込んできた。場内に足を踏み入れた観客は、舞台上を通るよう係員に誘導される。観客は、美術館のような赤いベルト付きのガイドポールに導かれ、タワーを見上げながら客席に向かった。開演すると舞台には新原演じる本島が登場し、「Sphere of Sphere」のカプセルトイマシンを回す。やがて音楽が流れ始めると新原が伸びやかなダンスを披露し、観客を一気に物語の世界へといざなった。
本作では央楼の美術館を舞台に、央楼の大統領となった本島(相島)が、自身の大統領就任の経緯を再現したホログラムパフォーマンスという設定で物語が展開。劇中では、本島、本島を招待した央楼の大統領・日野グレイニ(小栗)、キュレーターの岡上(前原)が軽快なやり取りを繰り広げた。しかしストーリーが進むにつれ、登場人物たちはそれぞれに“自分の遺伝子を残したい”あるいは“残したくない”という事情を語り始める。本島が自身のアート作品にどのような思いを込めたのか、劇場で確かめよう。
若き日の本島を演じる新原は、高い運動能力を生かしたダンスで観客を魅了。本島が生い立ちを明かす場面では、新原は淡々とした口調で波乱に満ちた本島の半生を話し、彼の悲哀を浮かび上がらせた。日野の小栗は、張り付いたような笑顔で冷徹な権力者らしく振る舞う。しかし日野が本島たちにある告白をしてからは、小栗は打って変わって弱気な表情とコミカルな振る舞いを見せた。
岡上は、睡眠不足のためか突拍子もない行動で場をかき回す人物。岡上役の前原は舞台に倒れ込んだり、突然バスケットボールのステップをしたりと、身体を張った演技で観客の笑いを誘った。さらに相島は、食パンの袋の留め具であるバッククロージャーを耳に着け、35年後の本島として静かに若き本島たちを見守る。「Sphere of Sphere」についての思いを明かすシーンでは、相島は静かだが力強い語り口で観客を惹き付けた。
ゲネプロ前に行われた取材には新原、小栗、前原、相島、池田が登壇した。彫刻制作の経験を持つ池田は今回、脚本・演出・美術を兼任。池田は「いろいろな人が加わることで変容する美術、舞台を作りたいと思った」と話し、「彫刻をやっていると、石だと思ったら実は石ではないという素材に出会い衝撃を受けることがある。演劇でもしばしば、鉄に見えたものが実は紙だったというように、ものが“演技”しています。そういった経験を原点に『こういう人だと思ったら実は違った』という、人間のさまざまな面が見られる作品を目指しました」と述べ、「カプセルを開けてみないと中身がわからないガチャガチャのように、お客様が何か持ち帰れる舞台になっていたら良いなと思います」と思いを口にした。
池田の印象を訪ねられた新原は「池田さんは想像の100倍の早さでアイデアを出してくる。一度段取りを決めても、10分休憩を挟むとまったく新しいプランを提案してくださるくらいのスピード感」と稽古を振り返った。また新原は「本島幸司が言うセリフは池田さんが普段しているお話と似ていて、本島は池田さんご自身じゃないかと思う。本島も池田さんも天才アーティストだと思いますし、その人物像に少しでも近付けるように演じたい」と、池田に視線を送る。新原は「本島と2人で歩いているような気持ちで稽古してきました。本島を通じて、お客様に“僕のようで僕ではない”存在を見てほしい」と言葉に力を込めた。
小栗は自身が演じる日野について「予測がつかない人物。池田さんの演出でさらに訳がわからない人になった」と笑いつつ、「僕自身、自分のことをわかっているようでわかっていないのかもと稽古で感じた。“わからない”ことを楽しみながら演じたい」と意気込みを述べる。前原は「僕が演じる岡上もハチャメチャな行動をする人物。頭を抱え、池田さんの演出に応えようとがんばりました。でも理解しかけた瞬間、また新しい演出が付き……今は変化を楽しんでいます」と笑顔を浮かべた。
池田の「ハートランド」にも出演した相島は、池田の「彫刻を作るように演劇を作りたい」という発言を紹介し、「約40年俳優をしてきましたが、そんなことを言う演出家は初めてでした(笑)。でもこのメンバーで『球体の球体』に取り組んでいたら、確かに彫刻を作るかのように舞台を作り上げている気持ちになった。見たことがない舞台になっていると思うので、お客様の感想が楽しみ」と期待をのぞかせた。
最後に新原が「この作品は現実離れしているようだけど、あとからジワリと現実とのつながりを感じられる、まさに“寓話”。ガチャガチャをのように、お客様にこの作品を観て生まれた気持ちを持ち帰ってほしい」と観客にメッセージを送り、取材は終了した。
上演時間は約1時間40分。公演は本日9月14日から29日まで行われる。
球体の球体
2024年9月14日(土)~2024年9月29日(日) ※公演終了
東京都 シアタートラム
スタッフ
脚本・演出・美術:
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