「ムーンライト」は、ベートーベンの「月光」に惹かれピアノを始めた盲目の男性・中島昭夫を主人公にした村川拓也の作品。劇中では、中島氏の記憶を彩る楽曲が、多様な世代のピアノ奏者たちによって演奏される。2018年の初演以来、たびたび上演を重ねていたが、昨年11月に中島が亡くなったことを受け、今回は“主役不在、挑戦の舞台”として、新たな演出で立ち上げられる。
上演に向けて村川は「舞台作品は一回性の芸術だと言われますが、この作品のことを考えるとき、ひとつの作品が経験する長い時間の経過を強く感じることがあります。本番はそのつど一回きりだけど、その裏側にはとてもいろんなことがあって、関わる人々も同じように長い時間を過ごしています。もしこの作品を何度か観ていただいている観客の方がいらっしゃるとすれば、その方にも、この作品が経験した時間の経過について、気づいてもらえるかもしれません」とコメントした。上演時間は約1時間20分。
村川拓也コメント
「ムーンライト」という作品は、はじめに2018年に京都でつくって上演し、2020年には東京で上演しました。2022年5月に札幌での公演が決まったのですが、その公演の準備をしていた2021年11月に主人公の中島昭夫さんが亡くなってしまいました。77歳でした。中島さんが亡くなってしまったので、札幌公演は中止にするべきかなと思いました。でも、中島さんがまだどこかにいるような気がしてならなかったので、彼はいないけど上演することに決めました。そうして出来上がったのが、札幌公演での新しい「ムーンライト」でした。今回、この新しい作品を再び京都で上演することになりました。4年を経て、再び京都に帰ってくるような気持ちです。舞台作品は一回性の芸術だと言われますが、この作品のことを考えるとき、ひとつの作品が経験する長い時間の経過を強く感じることがあります。本番はそのつど一回きりだけど、その裏側にはとてもいろんなことがあって、関わる人々も同じように長い時間を過ごしています。もしこの作品を何度か観ていただいている観客の方がいらっしゃるとすれば、その方にも、この作品が経験した時間の経過について、気づいてもらえるかもしれません。
先ほど、新しい「ムーンライト」、と書きましたが、「新しい」ということについて考えてしまいます。「新しい」とはどういうことなのでしょうか。ここで言っている「新しい」は、誰も気づかなかったフレッシュな真新しさのことではないような感じがします。この作品は、常に流れていく時間の経過があって、そして今、目の前にこういう瞬間がありますよ、ということをいつも教えてくれるような気がします。それのことを私は、「新しい」と言っているのだと思います。
村川拓也「ムーンライト」
2023年1月12日(木)
京都府 ロームシアター京都 サウスホール
構成・演出:
ドラマトゥルク:林立騎
声の出演:中島昭夫
出演:荒俣麗菜、伊東沙希子、梶原香織、杉田彩智乃
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2018年京都初演、20年東京、22年5月札幌と再演を重ねてきた、村川拓也『ムーンライト』。主人公の中島さんが2021年に逝去され、主役「不在」で京都に帰ります。1月12日(木)19時開演、1ステージだけの特別な機会、ぜひお見逃しなく。 https://t.co/w40hYFdPO4