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セリフで掘る「歳月」、空間で練る「動員挿話」岸田戯曲に挑む稽古に潜入

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「歳月」稽古の様子より、左から前東美菜子、越塚学、中村彰男、神野崇。

「歳月」稽古の様子より、左から前東美菜子、越塚学、中村彰男、神野崇。

昨日2月25日、東京・文学座アトリエで実施された「歳月 / 動員挿話」の公開稽古に潜入した。

文学座アトリエの会は3月に、2020年に創立70周年を迎える文学座アトリエの記念公演のオープニングとして、岸田國士の戯曲「歳月」と「動員挿話」を2本立て上演する。本公演は鵜山仁が監修を務める「岸田國士フェスティバル」の第1弾ともなる。

「歳月」は、信じる男の子供を身ごもるも、結婚を拒まれ自殺を図った八洲子と、彼女のことが厳格な父親の耳に入らないよう画策する兄弟・友人らの姿を描く物語。演出を手がけるのは西本由香だ。一方の「動員挿話」は、陸軍少佐・宇治からの戦地行きの誘いを、妻・数代の拒否によって断った馬丁・友吉の夫婦を軸にした物語。演出を所奏が担う。いずれも立ち稽古開始から約2週間が経とうとしているところだった。

当日はまず「動員挿話」の、どうしても夫を戦地にやりたくない数代が宇治夫人・鈴子に説得されるシーンから稽古が始まった。演出の所は丁寧に時間をかけ、出演者と共にセリフの読解に挑む。中でも数代が「さうおつしやつて頂くと、却つて辛う御座います」と言う場面では、数代役の伊藤安那がセリフ回しに苦戦。何かにすがるようにつぶやいたり、開き直って感情をあらわにしてみたり、さまざまな演じ方を試し、着地点を探す。また、そんな数代と対峙する鈴子役の鈴木亜希子は、「相談に乗っているのに、(数代がこれでは)疲弊する(笑)。こういう女性よくいるもん」と鈴子に同情し、場を和ませた。また、出番待ちのキャストから「今のは責めているように聞こえた」「手の施しようがない感じを出してはどうか」などの意見が出され、活発な議論のもと、稽古が進められた。数代が「あんまりだ」と泣き出すシーンで所は「“訴えているけど伝わらない様子”が見えるといい。語調が乱れたり、唐突に泣き出したりしてもよいのでは?」とアドバイス。すると伊藤は「なるほど」と言わんばかりにうなずき、試行錯誤を繰り返した。さまざまなアイデアを出し合いながら、セリフを軸に緻密に戯曲の構造を掘り進めていく、老舗劇団・文学座の力の源を見るような稽古風景だった。

45分程度の休憩ののち「歳月」の稽古が始まった。結婚を拒む男の子供を身ごもった八洲子役の前東美菜子が、悲痛な面持ちで舞台となる応接間の中心に座っている。彼女を心配する兄・計一役の神野崇、弟・紳二役の越塚学が、八洲子の力になってやりたい気持ちと具体的な行動が結びつかない男たちの慌てようを熱演する。そこへ友人・礼子が登場。礼子役の吉野実紗は彼らとは対照的に凛とした存在感を放つ。八洲子を中心に、登場人物の思いが交錯する空間で、西本は「聞こえよがしにセリフを言ってみて」と演出を付けたり、兄弟に「2人で目線を合わせてから、八洲子をチラリと見やってみて」と注文。すると、周囲が八洲子に抱く“やっかいさ”が、ぐっと大きくなった。そんな中、中村彰男扮する父・計蔵が登場すると、場の空気がガラリと変わった。中村は、名刀を手にした酔っ払いをひょうひょうとした演技で危険度高く演じ、さらに混乱する家族の不安を助長させる。八洲子役の前東が、じっとその場を離れず表情だけでそれらに呼応する姿がまた、滑稽で切なく面白い。西本の演出は人や視線をスムーズに動かし、空間に交錯する登場人物の思惑を可視化していた。

「歳月 / 動員挿話」は、3月17日から29日まで文学座アトリエにて上演される。

※初出時、人名表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

文学座3月 アトリエの会「歳月 / 動員挿話」

2020年3月17日(火)~29日(日)
東京都 文学座アトリエ

作:岸田國士

「歳月」

演出:西本由香
出演:中村彰男、神野崇、越塚学、名越志保、吉野実紗、前東美菜子、音道あいり、磯田美絵

「動員挿話」

演出:所奏
出演:斉藤祐一、西岡野人、西村知泰、鈴木亜希子、伊藤安那、松本祐華

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