白石加代子が男たち狂わせる妖艶な“おばば”演じる、長塚圭史演出「常陸坊海尊」開幕

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」のプレビュー公演が、本日12月7日に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 ホールで開幕。これに先駆け、昨日12月6日にゲネプロが行われた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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本公演は、劇作家・秋元松代が1964年に発表した戯曲「常陸坊海尊」を、長塚圭史が演出するもの。物語は、主君・源義経を裏切ったことへの懺悔から、義経の武勇伝を不老不死の琵琶法師として語って回ったと伝えられている常陸坊海尊の伝説を背景に展開する。

舞台は、1944年の東北。東京から疎開して来た小学5年生の啓太と豊は、疎開先から脱走し迷い込んだ山奥で、美しい少女・雪乃(中村ゆり)に出会う。雪乃は、“常陸坊海尊の妻”と自称するイタコのおばば(白石加代子)と貧しいあばら家に暮らしており、啓太と豊は雪乃に会うため、この家に遊びに行くようになる。戦況の悪化につれて、東京は空襲により焼け落ち、啓太と豊は家族を亡くしてしまう。啓太は、母恋しさから、次第におばばに依存していき……。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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舞台上には場面が変わるごとにシンプルな舞台セットが立ち上がり、あえて残された“空白“が観客の想像力を掻き立てる。劇中では、戦時中の子どもたちの様子や、おばばと雪乃の奇妙な生活が、あくまで彼らの日常として、淡々と紡がれる。白石は、老婆でありながら男を狂わせる魅力を持ったかおばばを、怪しい妖艶さを湛えながら表現。啓太に母親代わりの愛情を与えることで、自分の意のままにしようとするシーンでは、白石は狂気を孕んだまなざしで「あんたの頼みならなんでも叶えてやる」と啓太に甘く囁きかけ、おばばの異常性を際立てた。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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中村は美少女と謳われる雪乃の少女時代から、“魔性の女”へと変貌した16年後の姿までを演じ上げる。少女時代のシーンでは、中村は啓太と豊を小馬鹿にした態度や、つんとすました表情など、幼さを残した演技で客席を和ませる。しかし大人になったシーンでは、それまでの子供らしさとは一変し、成熟した大人の女として、おばばにどこか似た怪しげな色香で啓太と豊を翻弄した。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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啓太役と豊役の少年時代は子役が、大人になった2人が再会する場面では、啓太役を平埜生成、豊役を尾上寛之が演じる。平埜は、雪乃の言いなりとなった現状に絶望する啓太を、生気の抜けた虚ろな表情と悲哀に満ちた佇まいで表現し、尾上は雪乃に近付いてはいけないと啓太に説得されるも、雪乃に惹かれる気持ちを抑えることのできない豊の感情を、切々とした語り口で表した。

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」より。

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また、長谷川朝晴演じる東京から来た小学校の先生と、高木稟演じる疎開先の旅館の主人・寿屋のやりとりにも注目したい。長谷川は、土地に伝わる民間伝承をまったく信じない先生の都会人らしさを、快活な標準語で強調。対する高木は、自身の立場に苦しむ先生を温かみのある津軽弁で慰めつつ、先生を土地の風習に巻き込んでいく寿屋を、薄気味悪さを滲ませた芝居で立ち上げた。

上演時間は、途中休憩を含む約3時間10分。公演は12月22日まで行われたあと、本作は1月11・12日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、16日に岩手・岩手県民会館 大ホール、25日に新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場で上演される。

なおスピンオフ企画として、本公演のムーブメントを担当し、“第2の海尊”役として出演する平原慎太郎率いるダンスカンパニーOrganWorksが、戯曲「常陸坊海尊」を題材にしたパフォーマンス「湿りいる / She may be still ill」を、12月14・15日、20日、22日のそれぞれ14:00回終演後に、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 1階 アトリウムで実施する。本パフォーマンスは事前申し込み不要となっており、入場は無料だ。

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KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「常陸坊海尊」

2019年12月7日(土)~22日(日)※12月7・8日はプレビュー公演。
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール

2020年1月11日(土)・12日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール

2020年1月16日(木)
岩手県 岩手県民会館 大ホール

2020年1月25日(土)
新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場

作:秋元松代
演出:長塚圭史
音楽:田中知之(FPM
出演:白石加代子中村ゆり平埜生成尾上寛之 / 長谷川朝晴高木稟大石継太 / 明星真由美弘中麻紀藤田秀世、金井良信、佐藤真弓、佐藤誠、柴一平、浜田純平、深澤嵐 / 大森博史平原慎太郎真那胡敬二 / 山崎雄大、白石昂太郎、室町匠利、木村海翔、藤戸野絵

OrganWorksパフォーマンス「湿りいる / She may be still ill」

2019年12月14日(土)・15日(日)、20日(金)、22日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 1階 アトリウム

監修:長塚圭史
演出・振付:平原慎太郎
出演:平原慎太郎、柴一平、浜田純平、池上たっくん、薬師寺綾、小松睦、渡辺はるか、大西彩瑛

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みやこわすれ @kenzakikuniko

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