「ふじのくに→せかい演劇祭2017」(→は相互矢印が正式表記)のプレス発表会が、昨日3月28日に東京のアンスティチュ・フランセ東京(旧・東京日仏学院)にて行われた。
今年の「ふじのくに→せかい演劇祭」は、4月28日から5月7日まで静岡・静岡芸術劇場ほかにて開催。
発表会には宮城、タニノ、関連企画「ストレンジシード」プログラムディレクターの
まず宮城は、今年のコピー「ギリギリ人、襲来!」について解説。昨今の世界情勢について触れ、「多くの人たちが熱狂を楽しんでいる。歴史の教訓ですが、そんなときには国が危険な方向へ進む。この現象が世界中でシンクロして起きているんじゃないでしょうか」と語り、そんなときこそ演劇と演劇祭の意義が増すと話す。「優れた演劇人の作品には、必ず熱狂に対する冷めた目がある。言い換えると自分が“ギリギリ”であることを笑ってしまう視点。これによって作品が普遍性を持つ。この『俺何やってるんだろう。ギリギリじゃん今』と笑う感覚を持ち込み冷静になることで、熱狂が行き着く先のカタストロフを避けられるのでは……。なんていうことを期待しながら、“ギリギリ”な人ばかりを集めたプログラムを組んでみました」と説明した。
続いてラインナップ作品が1つずつ紹介される。「MOON」を野外上演するタニノは「新作なんで、今、ギリギリの状態なんですよ(笑)」と笑いながら作品の構想を説明。「観客の皆さんにはフルフェイスのヘルメットを被ってもらいます。今ヘルメットが、SPACに300個あるんですよ(笑)。被ったらもう誰が誰だかわからない。耳も聞こえない。男か女か、知り合いかそうでないか、宮城さんかどうかもわからない状況で、我々はつながり合えるんだろうか。かなり無理な状況で観客同士が協力し合う壮大な参加型のインスタレーションを、広大な自然の中で作る予定です」と話し終えると、「僕がそのような状況を用意したんですけど、実際にどうなるかはよくわからない。本を書いて演出をやっているというよりは、困難な状況で奇跡的な幸福感とか達成感が生まれる作品に『なればいいな』と夢見てる状態ですね」と頭を掻き、登壇者たちの笑いを誘った。
4月28日から30日まで上演される「ウェルテル!」は、小説「若きウェルテルの悩み」の友人にあてた書簡を、自撮りのビデオメッセージに置き換えた、音楽や映像による“ロックショー”。宮城は「(キャストの)フィリップ(・ホフマイヤー)も相当“ギリギリ”な人です。2014年に『ファウスト 第一部』をSPACで上演したときは、本番の午後3時に到着して、いきなり3時間半の芝居やりました。ギリギリすぎてブルース・リーみたいな感じ(笑)。こういう人を観るのも、“ギリギリ”を相対するのにとても役立つと思います」と紹介する。
5月3・4日に上演される「ダマスカス While I Was Waiting」は、民主化運動に身を投じるも何者かに襲撃され意識不明になった青年を軸に、シリア・ダマスカスに生きる人々の姿を描いた作品。実際の出来事より着想された。宮城は「膨大な情報の中で、いかに僕らが身体感覚に関するセンスを奪われているかを、衝撃とともに突きつけられた作品」とコメントした。
「腹話術師たち、口角泡を飛ばす」は5月6・7日に上演。ジゼル・ヴィエンヌとデニス・クーパーがドイツの人形劇団パペットシアター・ハレとタッグを組む。実在する腹話術師の国際会議をモデルに、9人の腹話術師たちは軽妙なトークを繰り広げるが、次第に彼らが抱える孤独が露わになっていき……。宮城からは「ジゼルさんは学級委員タイプって言ったらいいのかな。質問に対してこれ以上はない回答をする優等生なのに、作る作品の危なさは尋常じゃない(笑)。ぜひ楽しみにしてください」と賛辞を寄せた。
5月1日に日本初演される「六月物語」はピッポ・デルボーノによる一人芝居。HIVポジティブのピッポが、もともと劇団の休演日にも作品を上演したいと生み出した自伝的作品であることを宮城が説明した。4月29日に上演される静岡音楽館AOIとSPACの共同事業「1940―リヒャルト・シュトラウスの家―」については、大岡から「皇紀2600年祝賀行事にを軸にした作曲家リヒャルト・シュトラウスの歴史劇」と構想が語られた。
最後に、本会見でタイムテーブルが発表された、ストリートシアターフェス「ストレンジシード」についてウォーリーが解説。出演団体の選出基準について「ポップであること」を挙げ、「町の中で何かやるのは暴力的になりがち。通行人の方にもすんなり受け入れてもらえるような作品を作る人たち、そしてサイトスペシフィックを意識して新しいものを生み出していくことに期待できる人たちを全国から選びました」と解説。さらに若手の出演者に向け、「外で上演することで、自分たちの作品がどれだけの強度を持っているか。喧騒や強風の中どう作品を作品たらしめるか。お客さんを巻き込みながら自分たちの根っこの部分を見つめる機会になれば」とメッセージを送った。
ここで第1部が終了し、第2部はフランス・アビニョン演劇祭での上演が決まった、SPAC「アンティゴネ」についての時間に。構成・演出の宮城と、空間構成を担当する木津潤平、同作に出演する美加理が登壇し、トークを繰り広げる。木津は模型を用い、水を張った舞台美術と、アビニョン法王庁中庭の壁面を利用した影を生かす構想を語った。
宮城は2014年にアビニョン演劇祭メイン会場のひとつであるブルボン石切場で「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」を上演した際に、目標だったアビニョン演劇祭への参加が叶い、気持ちとしては一区切りついていたことを明かす。その上で今回のメイン会場での上演を「気が重くもあるのですが(笑)」と語るも、「現地に行ってその空間に立ってみたら、掻き立てられるものがあった」と意欲を見せる。美加理は「この作品は最後は壮大な盆踊りになります。駿府公演を観に来てくださったお客様や、そのご先祖、この世におられない大切な方など、居合わせた魂や自然のエネルギーを携えて、アビニョンに持っていけたら」と意気込みを語った。
「ふじのくに→せかい演劇祭2017」は4月28日から5月7日まで静岡・静岡芸術劇場ほかにて開催。会期中はこのほか、宮城とマンガ家の
「ふじのくに→せかい演劇祭2017」
2017年4月28日(金)~5月7日(日)
静岡県 静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園 ほか
「アンティゴネ~時を超える送り火~」
2017年5月4日(木・祝)・5日(金・祝)・6日(土)・7日(日)
静岡県 駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
作:ソポクレス
構成・演出:
出演:
「MOON」
2017年4月29日(土・祝)・30日(日)・5月3日(水・祝)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
作・演出:
プロダクションデザイン:カスパー・ピヒナー
「ウェルテル!」
2017年4月28日(金)・29日(土)・30日(日)
静岡県 静岡芸術劇場
演出:ニコラス・シュテーマン
原作:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
出演:フィリップ・ホフマイヤー
「ダマスカス While I Was Waiting」
2017年5月3日(水・祝)・4日(木・祝)
静岡県 静岡芸術劇場
作:ムハンマド・アル=アッタール
演出:オマル・アブーサアダ
「腹話術師たち、口角泡を飛ばす」
2017年5月6日(土)・7日(日)
静岡県 静岡芸術劇場
作:デニス・クーパー(俳優との共作)
演出:ジゼル・ヴィエンヌ
「六月物語」
2017年5月1日(月)
静岡県 舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」
構成・演出・出演:
「1940―リヒャルト・シュトラウスの家―」
2017年4月29日(土・祝)
静岡県 静岡音楽館 AOI・ホール
脚本:大岡淳
演出:宮城聰
お茶摘み体験をしよう!in舞台芸術公園
2017年4月30日(日)9:30~12:00頃
静岡県 舞台芸術公園
ふじのくに野外芸術フェスタ2017「まちは劇場」プロジェクト「ストレンジシード」
2017年5月5日(金・祝)・6日(土)・7日(日)
静岡県 駿府城公園、静岡市街地
出演:
広場トーク
2017年5月4日(木・祝)16:00~17:30
静岡県 フェスティバルgarden(駿府城公園 東御門前広場)※予約不要、無料
パネリスト:
司会:中井美穂
みんなのnedocoプロジェクト
フェスティバル bar / フェスティバル garden
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