2013年1月に1stフルアルバム「再生の風景」を発表したthe cabsは、そのあと間もなく同年2月に解散しているため、ライブを行うのは約12年ぶり。それから現在までの間に、日本のバンドシーンにおいて伝説的な存在として語られるようになった。そんな彼らが再びステージに立つとあって、全国9会場を回る今回のツアーは、ファイナルとなる11月5日の東京・豊洲PIT公演を含め、すべてのチケットが即完となった。
「the cabsというバンドです」
開演前、フロアは満員のオーディエンスで埋め尽くされていたが、誰もが静かにステージを見つめていた。the cabsの活動をリアルタイムで体験できなかった、後追いの世代のファンも多かったはずだろう。じっとメンバーの登場を待つ観客の姿から、会場全体に緊張感が漂っているのがわかる。これから始まるステージが、どれだけ貴重な瞬間になるかを誰もが理解していた。
やがてステージに現れたメンバーは、下手から中村一太(Dr)、首藤義勝(Vo, B)、高橋國光(G, Vo)の順に横並びのポジションに着く。高橋は早口でつぶやくように「the cabsというバンドです。よろしくお願いします」とひと言。その瞬間、爆音とともにライブがスタートした。
爆撃のような激しさと正確さを併せ持つドラム、心臓を震えさせるような音圧でうねるベース、空気を切り裂くように鋭く鳴り響くギター。3人の演奏はそれぞれが緻密に絡み合い、混沌としながら同時に高い調和も生み出していた。そしてその複雑で手数の多いアンサンブルの上を、首藤の柔らかく透き通った無垢な歌声と、それとは対照的な高橋の緊迫したエモーショナルなシャウトが交差。3人それぞれがこの12年の間に別々の道を歩んできたにもかかわらず、バンドとしての一体感にはまったくブランクを感じさせない。目の前で繰り広げられるその光景に、観客からは「これがthe cabsか」という感嘆がにじみ出ていた。
「結局こういうバンドだよね」
ライブ終盤、高橋はMCで、ひさびさにthe cabsとして披露したここまでの演奏について「実感がないというか、当時どういうふうにライブをやっていたのかもあんまり覚えてなくて。直前まで全然どうなるかわかんなくて『なんとかなるかな?』ぐらいの気持ちでいたんすけど、やってみると『こんな感じだったな』っていうのを思いだします」と回想。さらに、the cabsというバンドへの自身の思いを率直に口にする。
「僕はthe cabsというバンドはすごく過大評価を受けてるなって、やっていたときの実感と、やめてから周りから聞こえてくる声のバランスが全然合わないなってずっと思ってたんです。正直、それを今日も埋められていませんでした。もう一度やるということは、過大評価されているそのままを見せることでしかない。でも今このステージに立ってライブをやって、『結局こういうバンドだよね』って開き直れたというか。あるがままでしか、これからもやっていけないと思うし、これからのthe cabsの活動は『思ったよりすげえ』って思わせるためにやっていくべきなのかな、と僕個人としては思っています」
そしてその言葉に続けて、高橋が「まあ、首藤さんがどう言うかはわかんないですけど」と付け加えると、首藤は少しはにかみながらマイクを通さずにひと言「その通りだと思います」と同意。その和やかなやり取りにフロアから笑いが起こった。
最後の曲が終わると、会場は3人を称える大きな拍手と歓声で包まれた。メンバーは客席に向けて頭を下げると、ゆっくりとステージをあとに。バンドの“再生の風景”を見せつけたライブは、アンコールなしで約1時間20分。短い時間とは思えないほど濃密で充実したステージで、来場者たちに強烈な余韻を残した。
いではる @ysk213hrn
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