今から20年前に斎藤宏介(Vo, G)、田淵智也(B)、鈴木貴雄(Dr)により結成されたUNISON SQUARE GARDEN。万感の思いを込めて彼らが開催したアニバーサリーライブには全国から1万2500人のファンが集結し、生配信も合わせて記念すべき日を盛大に祝福した。
1万2500人の祝福の声が鳴り止まない
武道館のアリーナにはLEDスクリーンやセットもなく、3人の演奏を支えるシンプルなステージと照明のみが設置されている。そのステージを見守るのは、アリーナ席とステージを取り囲む360°のスタンド席に座った観客たち。1万2500人が固唾をのむ中で開演時刻を迎え、場内の照明が落ちると地鳴りのような歓声と拍手が響き渡る。青く染められた舞台に鈴木、田淵、斎藤が順番に姿を現すとその音はさらに大きくなった。
斎藤がギターを柔らかく奏で、田淵と鈴木が音を重ねて始まった1曲目は「Catch up, latency」。伸びやかなハーモニーに引き込まれるように、オーディエンスは一斉に腕を上げる。「UNISON SQUARE GARDENです。ようこそ!」という斎藤の挨拶に続いては、鈴木のダイナミックなドラミングから「サンポサキマイライフ」へ突入し、武道館の熱気はさらに高まる。「Dizzy Trickster」で斎藤が、観客の思いを代弁するように「この高揚感は誰にも奪えない!」と歌い上げると、それに応えて客席からも大歓声が沸き起こった。
近年のユニゾンのライブでは客席が静かに曲間を待つことが多いが、この日ばかりは「20周年おめでとう!」という祝福の声と拍手が鳴り止まない。早くも興奮状態のオーディエンスに向け、斎藤は「本日2024年7月24日、UNISON SQUARE GARDENの20周年の記念日です。今日は長いよ!」と宣言して期待を高める。ここでドロップされたのは、20周年の祝福ムードを加速させる華やかなナンバー「恋する惑星」。弾むようなリズムに乗せて田淵はステージ後方に設置された花道をぐるりと駆け回り、360°のオーディエンスとのコミュニケーションを楽しんだ。その田淵が鳴らす歪んだベースから「Hatch I need」が始まり、斎藤は挑みかかるように切れ味鋭いボーカルを聴かせる。イントロで歓喜の声が起こったのは「マーメイドスキャンダラス」。鈴木はすさまじい手数のドラムで楽曲の疾走感を際立たせた。
“いつかの少年”たちが育て上げた20年後の姿
ステージ上のミラーボールが武道館の天井を夜空のように輝かせた「オリオンをなぞる」で田淵が天を指さしたあと、小休止を経て届けられた曲は「もう君に会えない」。シンプルな逆光に照らされて、20年間のさまざまな思いを込めるように真摯な演奏を繰り広げる3人を、オーディエンスはじっと見つめていた。「スカースデイル」の涼やかなアンサンブルを届けたあとは、ユニゾンらしい遊び心をスキルフルな演奏に乗せて楽しませる「オトノバ中間試験」「世界はファンシー」をドロップ。鈴木のドラムイントロで場内が沸き返った「フルカラープログラム」では、ステージ上方に虹色の照明がきらめいた。
明るくなった場内から浴びせられる拍手に3人がしばし身を委ねたあと、斎藤は「我ながら思うんですけど、こんなにもバラバラで、結成した瞬間から音楽性と人間性の違いを抱えていた3人が20周年を迎えるとは思ってなかったです」とこれまでの道のりを振り返る。そして「いつかの鈴木少年は黒夢を崇拝し、触る者みな傷付け、自らも傷つけるような少年でしたが、今はこんなにたくさんの人を笑顔にする中年になりました」「いつかの田淵少年は友達が家に来ているにも関わらずTHE BLUE HEARTSを大音量でかけてピョンピョン飛び跳ねて、家に来ていた斎藤少年をドン引きさせていましたが、今は自分だけではなくこんなにたくさんの人の体も心も踊らせる中年になりました」「いつかの斎藤少年はパチンコとパチスロに通い詰め、大学の単位を落とし、彼女にもボロ雑巾のように捨てられ、心を入れ替えてパチンコとスロットの二刀流からギターとボーカルの二刀流になり、日本を代表するギタボ中年になりました」とユーモラスな言い回しで回顧し観客を爆笑させた。
斎藤が「いつかの少年たちが大事に育ててくれたおかげです」とかつての自分たちに感謝を述べてから披露したのはレアな初期曲「いつかの少年」。ノスタルジックなサウンドで観客を魅了したあとは、今から4年前の2020年にリリースされたアルバム「Patrick Vegee」の最後を飾ったナンバー「101回目のプロローグ」が始まった。「本当の気持ちを話すのは 4年ぐらいは後にするよ」という落ちサビの歌詞を、斎藤は「本当の気持ちを話すのは 今日ぐらいしかありえないだろう」と変えて歌う。3人の思いの詰まったパフォーマンスに、武道館には感動的な空気が満ちあふれた。
鈴木貴雄と田淵智也がMCで覗かせた自信
節目のライブということもあり、この日は普段はMCをしない鈴木と田淵もマイクに向かう。鈴木は「休憩しましょう、俺も疲れたんで(笑)」とオーディエンスに着席を促し「熱と循環の話をさせてください」と語り始めた。「スタジオで何日もドラムを叩いていると『なんのためにやってるんだろう』と迷うこともある」と話した鈴木は「それでも熱を持ってやってると皆さんが喜んでくれて、謎の行動にも意味が出て生きる意味になって。熱を燃やしてくべた焚き火が皆さんを温めて火を付けて、その皆さんがまた焚き火に入ってくれる。その循環が自分がここにいる意味です」とファンの存在意義を熱く語った。そして「5年前(2019年に行われた結成15周年ライブ)では『ドラムは器でしかない』とネガティブに聞こえるかもしれないことを言っちゃったけど、5年経ち成長しまして。このバンドがカッコいいのは俺のおかげだ!と、そう自然と本気で思えるようになりました。それぞれの小さな炎に生かされて、超優秀な焚き火として燃え続けることを約束します」と力強く宣言し、観客の熱い拍手を浴びた。
田淵は「20年間やりました。奇跡みたいなもんだったし、3人でやれたことに意義があります」と3人で駆け抜けた20年に思いを馳せ、斎藤を「天性の声帯に甘んじず努力を重ね、誰にも歌えない歌を歌う」、鈴木を「常に限界に挑戦して突破する」と評したあと「ほか約1名(笑)」と照れ隠しのように付け加えた。「これじゃなきゃできなかったロックバンド、つまり俺たちは才能があったということですね。今日は大いに祝ってください」という自信に満ちた言葉、オーディエンスの力強い祝福の声に続いて披露された曲は、21年目の快進撃の幕開けを告げるような「kaleido proud fiesta」。ここからライブは再び加速していく。続く「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」のラストを斎藤が「ジョークってことにしときます」と変えて歌ったあとは「Phantom Joke」へつなげ、客席を大いに沸かせた。
「ロックバンドをあきらめなくてよかった」
「天国と地獄」の前には鈴木がドラムソロで圧巻のスキルを披露。ときに繊細に、ときにパワフルに鳴らされる音色に翻弄され、武道館にはすさまじい歓声が響いた。「君の瞳に恋してない」では、スタンド席にも設置されたミラーボールが観客の笑顔をキラキラと照らす。さらにバンドを代表する楽曲「シュガーソングとビターステップ」も披露され、会場は心地よい一体感に包まれた。曲が終わると田淵はマイクに向かい「今ので終わりでーす。やったぞ有名な曲!(笑)」と笑顔で言い放つ。しかし表情を改めると「今日はよく来た、遠くから観てるやつもよく来てくれた」と会場で、生配信で20周年を見届けたファンにメッセージを送った。
そして語られたのは田淵からの真摯な思いだ。「僕たちには才能があった。けど才能で、信念で、渾身の1曲で、世界は別に変わらなかった。20年間、信じる音楽をやり続けられたのは才能があったからだけど、それでもやっぱり世界が変わらなかったのはつまらなかった。楽しいことばっかじゃないからさ。ロックバンド続けるのってやっぱり大変なのよ。だからときにそれはロックバンドをあきらめてもいい理由になった。ときには前を向けなくて、誰にも気づかれないように後ろを向いた」これまでになく赤裸々な田淵の言葉に、観客は黙ったまま聴き入るが「そうしたら君がいた」と続けられると一斉に大きく息を飲み込んだ。「『ついて来てくれ』とは思ってなかったけど、ずっと見ていてくれることがこんなにうれしいことだと思っていなかった。君が好きなロックバンドは君がずっと好きでいてくれたからここまで来れた。ロックバンドをあきらめなくてよかった、ありがとう」目を潤ませながら語った田淵の思いに、オーディエンスも涙を流しながら熱い拍手で応えた。
ここで3人が披露したのは、バンドが“渾身の1曲”としてリリースした2019年のシングル「春が来てぼくら」。世界全体は変えられなくとも、3人によって確実にそれぞれの世界を変えられた1万2500人のオーディエンスは、高らかに鳴らされるアンサンブルに耳を澄ませながら腕を上げる。演奏を終えた3人がゆっくりと場内を見渡すと、観客からの感謝と感動の拍手が長く長く鳴り響いた。
斎藤宏介が最後にどうしても伝えたかった言葉
斎藤がステージ後方の花道へ飛び出した「シャンデリア・ワルツ」ではオーディエンスが笑顔でジャンプを繰り返し、武道館が大きく揺れる。20周年ライブのラストナンバーはユニゾンのメジャーデビューシングル「センチメンタルピリオド」。演奏が始まると同時に場内の照明が一斉に点灯し、メンバーと観客の姿を鮮やかに照らし出した。エンディングではベースをステージに置いた田淵が華麗な前転跳びを披露し、武道館中をどよめかせた。
田淵と鈴木がステージを去ったのち、1人残った斎藤はバンドを代表して改めて思いを伝えた。「3人だけではここまで続けられませんでした。次のライブやCDを楽しみに待ってくれてるやつがいるから、解散したら悲しむやつがいるから、その繰り返しで続いてきたUNISON SQUARE GARDENが、今これだけ愛されるロックバンドになってます。ありがとうございます。こう見えてめちゃくちゃ励まされながら支えられてきた、進んできたバンドなので、3人の記念日だけどUNISON SQUARE GARDENが好きでたまらないやつにも今日を喜んでほしいです」と呼びかけた斎藤は「最後にどうしても皆さんに伝えたい言葉を言わせてください。本日はUNISON SQUARE GARDEN20周年記念日、おめでとうございます! 楽しかったです」と、自らと田淵、鈴木、そして1人ひとりのファンに向けて叫び、オーディエンスの熱い拍手と感謝の声を背にステージを降りていった。
ユニゾンは9月よりオールタイムベストツアー「20th BEST MACHINE」を開催し、その最中の10月2日にニューシングル「傍若のカリスマ」をリリース。12月25日には大阪で20周年のフィナーレを飾るライブ「fun time tribute」を開催する。また今回行われた日本武道館ライブのうち、7月24日と25日の模様がライブ映像作品としてリリースされることも決定。詳細は後日発表される。
セットリスト
「UNISON SQUARE GARDEN 20th Anniversary LIVE "ROCK BAND is fun"」2024年7月24日 日本武道館
01. Catch up, latency
02. サンポサキマイライフ
03. Dizzy Trickster
04. fake town baby
05. 恋する惑星
06. Hatch I need
07. マーメイドスキャンダラス
08. Invisible Sensation
09. オリオンをなぞる
10. もう君に会えない
11. スカースデイル
12. オトノバ中間試験
13. 世界はファンシー
14. フルカラープログラム
15. いつかの少年
16. 101回目のプロローグ
17. kaleido proud fiesta
18. スロウカーヴは打てない(that made me crazy)
19. Phantom Joke
20. 天国と地獄
21. 君の瞳に恋してない
22. カオスが極まる
23. シュガーソングとビターステップ
24. 春が来てぼくら
25. シャンデリア・ワルツ
26. センチメンタルピリオド
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📸<春が来てぼくら>前の田淵さんのMCを聴いて、涙流しながら撮ってましたわ。ちゃんと撮りましたので、ご安心ください笑。ぜひ写真と共にレポをご覧ください〜! https://t.co/ZlrzgAsN3f