MUCCが夢烏たちと“新世界”を構築したニューアルバム完全再現ライブ

MUCCが“MUCCの日”にあたる6月9日に、同日リリースのニューアルバム「新世界」の再現ライブを神奈川・CLUB CITTA'で行った。

現在の体制になってから初めてのフルアルバムとなる「新世界」には全14曲が収録されており、楽曲のジャンルは多種多様。MUCCの得意技であるラウドロックはもちろん、郷愁を感じさせるミドルチューン、複雑な展開を聴かせる実験的なナンバーなど、そのタイトルさながらにバンドが踏み込んだ“新たな世界”を感じさせる1作に仕上がっている。そんな新作の再現ライブは、ファンクラブ会員であるコアな夢烏（MUCCファンの呼称）を対象に開催された。

ゆっくりと客電が落ち、ステージを覆っていた幕が開くと同時にスピーカーからサイケデリックなインストゥルメンタル「新世界」が流れ出す。夢烏が固唾を飲んで見守る中、メンバーとサポートの吉田トオル（Key）、アレン（Dr）が順番にスタンバイしていく。そしてミヤ（G）が爪弾くオリエンタルな旋律を機に、ライブは「星に願いを」で幕を開けた。この曲ではステージの壁にはレーザー光線で歌詞が映し出され、楽曲に込められたメッセージが視覚的にも伝えられていく。その後、MUCCは攻撃性をあらわにした「懺把乱」や「GONER」、YUKKE（B）のベースが肝となるダブのアプローチを取り入れた「パーフェクトサークル」と、ダークな世界を描き出すナンバーを畳みかけ目の前の観客を圧倒していく。その間もメンバーの背には球体や幾何学模様、タイポグラフィなどさまざまな造形が映し出され「新世界」の楽曲が映像とともに表現された。

「『新世界』へよこそ。これからこの『新世界』を連れてツアーに出るわけですが、リハを何回やるよりも、ライブを1本やるほうが曲を急成長させることができると思います」と語った逹瑯（Vo）。さらに初めてライブで披露する楽曲も多いことから緊張感があることを明かしつつ、「そんなところも含めて楽しんで行ってください」と再現ライブの醍醐味についてアピールした。

続くブロックの口火を切ったのは、削ぎ落とされたアンサンブルと逹瑯の歌唱力が存分に発揮されたアダルトな雰囲気が漂う「HACK」。逹瑯は楽器隊の紡ぐグルーヴに身を委ねるように、ステップを踏みながらその艶やかな歌声をフロア中に浸透させた。ここまではMUCCのダークサイドを打ち出す楽曲が続いていたが、ノイジーなギターリフが冴える軽快な「NEED」で会場の空気は一変する。しかし、その陽気なムードは続くバラード「未来」で急転直下。かと思えば、チャーミングな一面を見せる、前向きなメッセージを込めた「R&R Darling」が投下され、まさにジェットコースターのような振り幅のある流れで3人は結成25周年を迎えたバンドとしての矜持を見せつけた。

YUKKEがアップライトベースを弾き、逹瑯がポエトリーリーディングをするジャジーな「COLOR」を経て、ライブは佳境へと突入。ステージ上のメンバーはギアを一段階上げるように、ハードな「Paralysis」をすさまじい熱量でパフォーマンスする。なお、後半戦の中で演出が出色だったのは、現代社会への痛烈かつシリアスなメッセージが込められた「いきとし」。赤いレーザー光線がステージに戦車、銃を持った兵士、シャボン玉を吹く子供、ミサイルといったものを描く中でメンバーはMUCC流の反戦歌を真摯に届けた。本編のラストナンバーとして披露されたのは「WORLD」。夜明けを想起させる青白い照明を浴びながら、ステージ上の5人は希望をつづった1曲を力強くプレイした。アンコールで2曲をサプライズで披露したあと、MUCCの3人は充実した表情で退場する。すると夢烏はこの日一番の拍手で、これからツアーに乗り出すバンドを見送った。