KIRINJIと猫のコマさん。

猫と音楽家の二重唱 第2回 [バックナンバー]

KIRINJI堀込高樹の創作意欲を刺激する、絶妙な関係のコマさん

「わかりそうで、わからない。モチーフとしてはそれがいい」

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僕の日常には常に猫がいる。だけど……

猫に限らず、堀込さんは普段の暮らしから曲作りのヒントやアイデアを得ている。ただし、日常の風景や出来事をそのまま描写するのではなく、彼独自の視点を通じ、その風景に新たなイメージを重ね合わせている。そこにソングライターとしての堀込さんの作家性があるのだ。「ネンネコ」と「気化猫」はそんな作家性を象徴する楽曲とも言えるだろう。

「日常からヒントを得ているのは間違いないけど、僕の場合、(イマジネーションの)飛躍がないと書けないんですよね。『猫はかわいい』だけだと書き切れない。僕自身、そんなに『猫大好き!』って感じじゃないし、本当に猫を愛している方だと『気化猫』のような猫がいなくなる歌はつらくて書けないと思うんです。『ネンネコ』みたいに『猫が涙を舐めてくれたけど、それは慰めてくれてるんじゃないよ、誤解だよ』なんて歌わないんじゃないかな(笑)。僕の日常には常に猫がいるんだけど、“猫かわいがり”していない。だからこういう曲ができあがるんだと思います」

コマさんのチャームポイントは鼻の頭のゴマ模様。

コマさんのチャームポイントは鼻の頭のゴマ模様。

KIRINJIのデビュー前、堀込さんが作詞を手がけた幻の猫ソングがある。それが小島麻由美さんの「猫轢いちゃった」。作られた当時は未発表に終わり、のちに小島さんのボックスセット「セシルの季節 La saison de Cécile 1995-1999」に収録されることでようやく日の目を見た曲だ。この曲では若かりし頃の堀込さんならではのイマジネーションの飛躍が見て取れる。

「そんな曲、よく知ってますね(笑)。デビュー前、歌詞が書けないと小島さんから相談されたんです。『猫踏んじゃった』ってすごい歌だなと思って、それをモチーフにして書きました。とあるカップルが家で仲よくピアノを弾いていたんだけど、猫がそのピアノの下敷きになって死んでしまい、その結果カップルの関係性が破綻するという歌。今だったら絶対あんな曲を書かないけど(笑)」

「猫」というワードが出てくる堀込さんの楽曲はまだまだある。

「『いつも可愛い』(2012年)は恋人同士のベッドルームの歌なんですけど、ライトを消すと女の人の眼が猫のように光るというシーンがありますね。あと、『柳のように揺れるネクタイの』(2006年)という曲は会社員が主人公で、『1人で静かなところに行きたい』という気持ちの表現として『座る猫の静けさが今は恋しい』というフレーズが出てきます」

キリンジ「いつも可愛い」

キリンジ「柳のように揺れるネクタイの」

実は堀込さんの猫ソングはもう1曲増えつつあるのだという。ラジオ番組の企画を元にした「猫の声」という曲だ。

「『Xの投稿をモチーフにして曲を作ろう』というラジオ番組の企画があって、それで『猫の声』という曲を作ったんです。どこからか猫の声がするので自分も猫の声真似をしながら近付いていったら、そこには猫を探して鳴き声を真似ているおじさんがいたという投稿で(笑)。これは面白いと歌にしました。番組の企画で作ったのでそれで終わるかと思っていたら、意外と気に入ってしまって。ライブでもやりましたし、いずれ作品化したいと思っています」

猫のわからなさがいい

どこかつかみどころがなく、謎めいたところがある猫は、古くからさまざまなイメージの源泉となってきた。日本では化け猫や猫又のように妖怪の一種として語られてきたし、遊郭の遊女のイメージと結び付けられ、江戸時代の黄表紙や洒落本で描かれることもあった(三味線に猫の皮が使われてきたことも関係しているのだろう)。堀込さんもまた「化け猫みたいに猫が人になる話ってありますけど、確かに人間みたいだなと感じることがある」のだという。

階段から何かを見つめるコマさん。

階段から何かを見つめるコマさん。

中学生の息子さんを見上げるコマさん。

中学生の息子さんを見上げるコマさん。

「猫が階段を降りる音が人の足音みたいに聞こえることがあるんです。1人で家にいるとき、妻が帰ってきたと思って話しかけたことがあって。でも、返事が返ってこない。あれ?と思って階段を覗き込んでみたら、猫しかいない。そういうふうに人みたいな気配を発する瞬間があるんです。しかも自分が一番懐いている存在である妻の気配を発する。そこが面白い。猫がしゃべった!っていう話もよく聞きますよね。うちの猫も『ごはんくれ』と完全に言ってることがあるんですよ。『ごはん?』って聞いたら『ミャハ~ン』と返されたことがあります(笑)」

曲作りのモチーフとしての猫の面白さはどのようなところにあるのだろうか? 最後にそんな質問を投げかけると、堀込さんはしばらく考えてから、こう答えてくれた。

「懐いているけど、本当に懐いているのか怪しいところじゃないですかね。距離感が近いと思っている猫から拒否されることもあるし、その読めなさが面白い。わかりそうで、わからない。曲作りのモチーフとしてはそのわからなさがいいんです。もちろん、造形的にかわいいということはありますけどね」

今にも「ミャハ~ン」と鳴き出しそうなコマさん。

今にも「ミャハ~ン」と鳴き出しそうなコマさん。

ちなみに、冒頭の2ショット写真は普段コマちゃんを抱っこすることのない堀込さんが数日間にわたって距離を縮めた結果、ようやく撮影することができたという奇跡の1枚である。「わかりそうで、わからない」というのはお互い様な気もするけれど、両者の微妙な距離感を念頭に置いて見てみると、なかなか味わい深い1枚にも思える。今後も堀込さんとコマちゃんのコンビが生み出す新たな猫ソングを心待ちにしたいところだ。

KIRNJIが猫と一緒に聴きたい9曲

KIRINJI 猫コラムプレイリスト

選曲コメント

家でリラックスしているときに聴く曲を選びました。うちの猫は音圧の高いものを嫌がるので、そういう曲は省きました。あと、イメージとしては猫が遊んでる光景に合うような曲を選んでみました。ムーンドッグとかね。dogですが。ポール・マッカートニーの「Ram」もなぜか猫感を感じるんですよ。Ram(羊)なのに(笑)。

プロフィール

KIRINJI

1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で「キリンジ」として結成される。1997年のインディーズデビューを経て、1998年にメジャーデビューを果たす。2013年に堀込泰行が脱退し、同年に新メンバー5人を迎えバンド編成の「KIRINJI」として再始動。2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト・KIRINJIとして活動している。2023年9月には自主レーベル・syncokinからアルバム「Steppin' Out」を、2025年1月にはLIVE Blu-ray「KIRINJI 25th ANNIVERSARY LIVE」をリリース。α-STATION「NEW MUSIC, NEW LIFE」でレギュラーDJを担当中。

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大石始

地域と風土と音楽をテーマとする文筆家。主な著書・編著書に「異界にふれる」「南洋のソングライン」「盆踊りの戦後史」「奥東京人に会いに行く」「ニッポンのマツリズム」「大韓ロック探訪記」「GLOCAL BEATS」など。NHK-FM「エイジアン・ミュージック・ニュー・ヴァイブズ」出演中。2匹の保護猫と東京都下で生活中。

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