“青春”を象徴するという楽曲たち
本公演は、豊崎が2018年11月にカバーアルバム「AT living」を携えて行った「LAWSON presents 豊崎愛生 コンサート2018『AT living』」の続編に相当するもの。前回と同じくライブ前半をカバー曲パート、後半をオリジナル曲パートに分ける2部構成で、アットホームな雰囲気の朗らかなショーが繰り広げられた。同日に行われた昼夜2公演のうち、この記事では夜公演の模様をお伝えする。
開演時刻を間近に控えた客席にどこからともなくヒグラシのセンチメンタルな鳴き声が響き渡り、ホール内は夕景を思わせる淡いオレンジ色の照明で薄暗く染め上げられた。かすかに小川のせせらぎも聞こえてくる。この日の東京地方が最高気温30度を超える快晴となったことも手伝って、みるみるうちに夏休みの気だるくも穏やかな夕方のひと時を再現したかのようなノスタルジー空間がヒューリックホール内に形成された。グリーンに輝くペンライトを携えた聴衆らがうっとりした表情で開演を待ちわびる中、ほぼ定刻と同時にまずバンドメンバーがステージ上に姿を現し、さざなみのような拍手が環境音SEと混ざり合う。やや間を置いて、いくつもの付箋が貼りついた緑色のモッズコートを羽織った豊崎が舞台下手から歩み出てくると、さらに大きな拍手が彼女を迎え入れた。
すると柔らかく歪んだエレキギターのアルペジオがおもむろに奏でられ、それに合わせて豊崎が「鉄塔のガイコツ ネオンのゼリー 眠れぬ夜を旅する声」と鈴音のようなクリアボイスを響かせ始める。オーディエンスたちはバンドの生み出すグルーヴに合わせて控えめにペンライトを振りながら、GOING UNDER GROUND「トワイライト」のカバーで幕を開けた温かなライブ空間に溶け込んでいった。舞台上にはクラシカルなデザインの街灯とベンチが設置されており、ベンチには豊崎がデザインを手がけたマスコットキャラクター・よだれむしが大量に積み重なっている。ステージ背面は一面の大スクリーンで覆われ、楽曲に合わせた映像が随時映し出された。
そしてthe pillows「Funny Bunny」、フジファブリック「若者のすべて」、GOING STEADY「銀河鉄道の夜」、スピッツ「スパイダー」と、豊崎の“青春”を象徴するという楽曲群が次々に披露されていく。彼女は満面に笑みを浮かべながら、時には軽やかにステップを踏み、時には切実に言葉を紡ぎ、時には客席に手を振り、エバーグリーンな輝きを備えるジャパニーズロッククラシックスを歌い継ぐ喜びを丁寧に歌声に込め続けた。
アコースティックギターの伴奏のみで届けられたサニーデイ・サービス「コーヒーと恋愛」をベンチに腰かけるリラックススタイルで歌い、間奏でカズーの演奏も披露した豊崎。岡村靖幸「カルアミルク」では彼女の歌表現としては比較的珍しいファンキーな節回しのフェイクで聴衆を魅了し、声優としての本領を発揮する“語り“パートが含まれる小沢健二「愛し愛されて生きるのさ」で前半パートをフィニッシュした。名曲しか出てこない反則級のセットリストと軽妙なトークで客席をもれなく笑顔にした彼女は、「のちほどー!」と告げてそそくさとステージをあとにした。
“大きな別れ”を経て残った、温かな気持ち
10分間の休憩を挟み、雨音のSEとブルーの照明に導かれて再び幕を開けたステージには、グッズTシャツをコラージュアートのようにリメイクしたワンピース姿に装いを改めた豊崎が再登場。そしてリズミカルなミディアムチューン「CHEEKY」を皮切りに、オルタナティブフォーク風味の「タワーライト」、プログレッシブなポップチューン「フリップ フロップ」と、比較的レアな選曲も交えながら有楽町の夜を彩っていく。ステージに鎮座していたベンチと街灯はいつの間にか姿を消しており、白いドレープ幕に取って代わっている。これにさまざまな色合いの照明を当てることで、ある時はポップに、ある時はラグジュアリーに、またある時は幻想的に舞台が飾りたてられた。
ライブが終盤に差しかかると、ふと改まった様子でこの春に訪れたという“大きな別れ”について語り出した豊崎。「15年間やっていた『豊崎愛生のおかえりらじお』というラジオ番組がありまして。それが、文化放送さんのインターネットラジオサービス(超!A&G+)が終了するのに伴って、一緒に番組を終わることになってですね……番組が終わってしまったこと自体はすごく寂しいことではあったんですけど、ずっと温かい気持ちが残っていて。それはみんなで積み重ねてきた15年の言葉とか思いとかもらったものが消えないからだな、というふうに思っております。番組を聴いてくれていた方、1回でも聴いたことあるよという方、本当にありがとうございました!」と晴れやかな表情で頭を下げた。
そんな「おからじ」への15年分の思いをたっぷり詰め込んで歌われた番組エンディングテーマ「ただいま、おかえり」で盛大なシンガロングを巻き起こしたのち、豊崎がラストナンバーに選んだのは「love your life」。なんでもない穏やかな日常の小さな幸せを軽快なシャッフルビートに乗せて朗らかに歌うハートウォーミングな1曲で、豊崎はこの日のステージを和やかに、そして華やかに締めくくった。
なお本公演のセットリストの中からセレクトされた楽曲が、CDとしてリリースされる予定。発売日など詳細は追ってアナウンスされる。
セットリスト
豊崎愛生「LAWSON presents 豊崎愛生 カバーコンサート2025 AT living II ~sing of youth~」6月29日 ヒューリックホール東京
01. トワイライト(GOING UNDER GROUND)
02. Funny Bunny(the pillows)
03. 若者のすべて(フジファブリック)
04. 銀河鉄道の夜(GOING STEADY)
05. スパイダー(スピッツ)
06. コーヒーと恋愛(サニーデイ・サービス)
07. カルアミルク(岡村靖幸)
08. 愛し愛されて生きるのさ(小沢健二)
09. CHEEKY
10. タワーライト
11. フリップ フロップ
12. ただいま、おかえり
13. love your life
裏本田・柴志朗(鈴木達也) @ssurahonda
「ずっと温かい気持ちが残っていて。それはみんなで積み重ねてきた15年の言葉とか思いとかもらったものが消えないからだな、というふうに思っております。」
豊崎愛生がthe pillows、フジファブリック、スピッツらの名曲届けた7年ぶりの「AT living」
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