でんぱ組.incエンディング完全収録Blu-rayリリース、担当A&Rが振り返る幕張2DAYSの裏側

でんぱ組.incのライブBlu-ray「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」がリリースされた。

この映像作品は、今年1月4、5日に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールで行われたエンディング公演の模様をBlu-ray2枚組仕様で収めたもの。2日間にわたるライブ全曲の映像に加え、舞台裏を撮影したドキュメンタリー映像やライブCDなどもパッケージした完全生産限定盤となる。

この作品のリリースに合わせ、音楽ナタリーは所属レコード会社トイズファクトリーの担当A&Rとしてデビューからエンディングまでを見届けた水野孝昭氏にインタビュー。スタッフ視点のコメントを通し、でんぱ組.incの魅力を紐解いていく。

取材・文 / 大山卓也

最上もが卒業式の舞台裏

幕張メッセで2日間にわたって繰り広げられたでんぱ組.incのエンディング公演。あの日のことを思い出すと今でも胸が熱くなるというファンは少なくないだろう。2日間のステージで歌われた楽曲はメドレー曲も含めるとなんと全66曲もの大ボリューム! ラストライブでありながら感傷的なMCは最小限にとどめ、ひたすら楽曲を披露するという構成は実にでんぱ組.incらしいものだった。そんなライブのコンセプトについて担当A&Rの水野氏はこう語る。

水野孝昭氏のプロフィール画像。

水野孝昭氏のプロフィール画像。

「あの2日間に関して言うと、もちろんメンバーの意見もありつつですけど、プロデューサーのもふくちゃんの集大成というか、オープニング映像の宇宙船からエンディングの長いスタッフロールまで、もふくちゃんのやりたいことを詰め込んだライブだったと思います。でんぱ組.incを作った人が最後にちゃんとケリを付けた感じですよね。メンバーのMCが少なかったのも、過去のあれこれを振り返るより最後は楽しく明るく終わりたいというイメージで、とにかく曲をいっぱいやる方針はけっこう初期から固まってました」

もふくちゃん

もふくちゃん

初日公演のアンコールでは元メンバーの最上もがが登場するというサプライズもあった。名曲「ORANGE RIUM」の歌唱とともにステージ上で行われたのは、心身の不調で志半ばにしてグループを去った彼女の8年越しの“卒業式”。その感動的な場面は今回のライブ映像にもしっかりと収められている。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月4日公演より最上もが“卒業式”の様子。(撮影:チェリーマン)

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月4日公演より最上もが“卒業式”の様子。(撮影:チェリーマン)

「もふくちゃんともがちゃんが連絡を取り合っていて、『もがちゃんの卒業式的なことをやりたい』という話は出ていたんです。でもどういう形でやればいいかはなかなか見えてこなかった。結局年末のゲネプロも現メンバーだけでやって、もがちゃんに入ってもらったのは当日のリハのとき。もふくちゃんと舞台監督の清水(正道)さんが『もがちゃんが客席に登場したらそのあとステージまで行けるかな?』みたいな相談をして『行けそうです!』って決まったのは本当に直前でした。実際に会場での距離感とか見え方を確かめたうえでこれがベストだってことになったんですけど、もがちゃんにしてみれば事前にもうちょっと決めといてくれよって話ですよね(笑)。当然いろんな思いがあっただろうし、メンバーもすごく緊張してたはずだけど、その場で対応してくれて、結果的にすごくいい形になってよかったです」

清水正道監督

清水正道監督

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演の開演直前に円陣を組むでんぱ組.incスタッフ。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演の開演直前に円陣を組むでんぱ組.incスタッフ。

そして2日目公演のラストシーンは「サクラあっぱれーしょん」のアウトロが延々流れる中でメンバー7人がトロッコに乗ったまま退場していくという粋な演出。大量の紙吹雪が舞い散る中、楽しげに歌い踊るメンバーの姿は永遠に続く走馬灯のようだった。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演よりトロッコに乗るでんぱ組.inc。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演よりトロッコに乗るでんぱ組.inc。

「ちょっと寂しいけど明るい感じで去っていく。あの終わり方はすごくでんぱ組.incらしいですよね。『サクラあっぱれーしょん』はでんぱ組.incを象徴する楽曲だし、2日間のライブを締めくくる美しい大団円になったと思います。初日はOGのみんなも登場して同窓会みたいな雰囲気もありましたけど、最終日は現体制のメンバーだけでやりきって、でんぱ組.incというものをちゃんと終わらせてくれた。7人は本当によくやってくれたなという気持ちです」

圧巻ステージセットの意図

このライブでは圧巻のステージセットも話題を呼んだ。巨大なサイリウム15本(歴代メンバーの数と同じ)がステージに突き刺さるように並び、背景にはこれまでの衣装およそ400着がずらりと飾られる。さらに秋葉原ディアステージの店舗から持ってきた(!)シャッターも設置され、広いステージ上にはグループが築いてきた歴史が所狭しと詰め込まれていた。これほどまでにエモーショナルで、意味と文脈を持ったステージセットには通常なかなかお目にかかれない。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」オープニングより。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」オープニングより。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」のステージに設置された秋葉原ディアステージのシャッター。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」のステージに設置された秋葉原ディアステージのシャッター。

「事務所にある衣装をすべて持ち込んで、もふくちゃんが当日朝の4時頃からかな? 現場でヘルメット被って衣装を並べる順番から見え方まで全部指示してました。『水野さんも手が空いてるなら衣装持ってきて!』みたいな(笑)。あとシャッターはもふくちゃんの瞬発力ですよね。『ディアステの象徴だから絶対持っていく』『ステージに置いたらカッコいい』とか言って年末に店から外して持ってきた。でも実際運ぶと想像以上にデカくて重くて(笑)。どこに飾るのかも最後まで決まらなくて、あそこに置こうって決まったのはほぼ当日だったんじゃないかな。外したはいいけどそこまで深く考えてなかった。ライブ終わっても結局もう元には戻せないし、ホントに行き当たりばったりでしたよね(笑)」

こうしたステージコンセプトはもふくちゃんと舞台監督の清水正道氏を中心に作られていったとのこと。清水氏は初期の6人時代からでんぱ組.incのライブを支えてきたキーパーソン。現在は舞台監督・演出としてYOASOBIのステージも手がけている。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演の様子。

「でんぱ組.inc THE ENDING『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」1月5日公演の様子。

でんぱ組.incとの出会いが人生を変えた

A&Rとして普段は裏方に徹している水野氏だが、彼がでんぱ組.incの歴史における類稀な功労者であることに疑いはない。2011年にディアステージを訪れた水野氏がでんぱ組.incを“見つけた”ところから今につながる彼女たちの大躍進が始まったのだから。

「でもそれはたまたまですよね。こういうのってタイミングなので。ただ自分の音楽人生を振り返ると、でんぱ組.incとの出会いは大きかったです。もともとレコード屋で働いていたからまあまあ音楽を聴いてきたつもりだったのに、秋葉原に行ってみたら全然知らない世界がそこにあった。ものすごい衝撃を受けて、すぐにうちの社長に伝えてトイズでやらせてもらうことになったんです。僕自身そこから人生はめちゃくちゃ変わりました。今はディアステージもちゃんとした会社になって優秀なマネージャーもいますけど、僕が関わり始めた最初の頃はもふくちゃんが衣装の入ったスーツケースを運んでたくらいの規模だったんで、地方でも海外でもついて行って手伝わざるを得ない(笑)。毎日のように一緒に行動してましたね」

活動初期からエンディングまで10数年にわたってでんぱ組.incとともに走り続けてきた水野氏。彼にとってでんぱ組.incとはどのような存在なのだろうか。そんな率直な質問を最後にぶつけてみた。

「でんぱ組.incは僕の音楽人生で一番幸せな仕事ができたアーティストですね。いろんな人にすごく愛してもらえたグループで、それこそナタリーさんもそうですけど、仕事で関わった人たちも仕事を飛び越えて愛情を注いでくれる。もちろんファンの皆さんにもたくさんの愛をもらいましたし、これだけ長くやってると顔を覚えてるファンの人もけっこういるんで、幕張で皆さんの顔を見ることができたのもいい思い出です。僕自身、正直終わりを考えずにやってたので、今回のライブ映像を観てると『もうでんぱ組.incのライブはないんだよな』って、やっぱり寂しい気持ちにはなります。でもこうやって1つの終わりを決めて、ちゃんとその日を迎えることができたのはよかったなって思うんですよね」

プロフィール

でんぱ組.inc(デンパグミインク)

古川未鈴、相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛、天沢璃人、小鳩りあ、高咲陽菜からなる女性アイドルユニット。萌えキュンソング”と呼ばれるアッパーな楽曲と情感豊かなライブパフォーマンスで国内のみならず海外からも話題を集める。2011年にシングル「Future Diver」をリリース。2014年5月に初の東京・日本武道館公演を行い、2016年12月にはベストアルバム「WWDBEST ~電波良好!~」を発売した。その後もコンスタントに作品を発表し、2025年1月の千葉・幕張メッセ 幕張イベントホール公演「でんぱ組.inc THE ENDING 『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」をもってエンディングを迎えた。6月にはこの幕張メッセ公演の模様を収めたライブ映像作品がリリースされた。