レーベルの仕事としてMVがとにかく大事
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よく「メジャーになって変わっちゃったな」ってことあるじゃない? 僕は誰よりもマカロニえんぴつのファンだという自負があって、だからこそ変わったと思われるのが嫌だったんだ。曲作りに関して彼らには作りたいものが明確にあるから、外から口を挟むのではなく作りたいものをしっかり作ってもらう。彼らの活動は何ひとつ変わらないんだけど、その変わらない活動を僕がしっかり届けていくことに注力してるよ。
──活動を届けていくというのは例えば?
マカロニえんぴつのメジャーデビュータイミングではメディア戦略をしっかり練って、オーソドックスなプロモーションをレーベル、マネジメントのみんなで120%でやり切ったんだ。例えばデビュー時はコロナ禍で、ロックバンドはあまりテレビに出ていなかったんだけど、片っ端から出られるだけ出ようと決めて。
──確かに当時はSNSで話題になったソロアーティストがテレビによく出ていた気がします。マカロニえんぴつは“全年齢対象ポップスロックバンド”を謳ってるから、テレビとの相性もよさそうですね!
こんなにカッコいいことをやっているバンドがいることを少しでも多くの人に知ってもらいたくて。たまにメンバーとも思い出すんだけど、「あのときうちら異常に働いていたよね」みたいな(笑)。テレビにも出るし、取材もできるだけ受けていたから。でもアーティストもマネジメントもメディアに出るために最大限調整をしてくれたし、僕らも必死で出演枠を取りにいったし、全員が同じ分だけ汗をかいたからそういう思いがお客さんに伝播して、結果として大きく飛躍できたんだと思う。僕が何かをしたというより、バンドがもともと持っていた才能をみんなに気付いてもらえたっていう感覚に近いかも。
──なるほど! マカロニえんぴつはドラマや映画などの主題歌をたくさん手がけていて、そこを入口にファンになった人も多そうですよね。
うん、ありがたいことにタイアップのお話をいただくことも多くて。タイアップは作品ありきなので、彼らも自分たちでは作るきっかけがなかった曲に取り組むことができる。そうやってお題を提供すること、新しい何かとの接点を作ることも制作担当としてはすごく重要な仕事だと思っているよ。
──それだけ深く関わっていると、マネジメントとはどう業務をすみ分けているんですか?
マカロニえんぴつはShibuya eggmanのレーベル・TALTOがマネジメントチームとしてあって、トイズファクトリーはあくまでもレーベルとしての関わりなので、原盤制作だったりジャケットやミュージックビデオの制作だったりを担当しているよ。僕はTALTOの江森(弘和)さんの感性に全幅の信頼を置いているので、それこそライブ制作は江森さんに遺憾なく才能を発揮していただいていて、僕はタイアップとかプロモーション、あとはアートワークやMVの部分。餅は餅屋じゃないけど、分業制でやっているよ。
──マカロニえんぴつのMV、毎回ショートムービーみたいに凝ってるなと思ってました! スタッフクレジットもエンドロールや概要欄に必ず載せてあって、スタッフに対するリスペクトもめちゃめちゃ感じます!
うれしいなあ。僕はレーベルスタッフがやることとしてMVに大きな比重を置いて取り組んでいるんだ。それはなんでかと言うと、アーティストが生み出した曲を1人でも多くの人に届けるのが僕らの仕事って最初に言ったけど、僕はそれが一番できるのはMVじゃないかと思っていて。例えばどこの国かわからない海外の曲が街で流れていても耳をそばだてることは少ないと思う。だけど大型ビジョンに目を引く映像が流れれば、つい立ち止まって観ちゃうと思うんだよね。もちろん聴覚を刺激できるのが一番いいけど、まずは視覚から入るほうが曲の入口としては広いと思っていて。
──その映像がアニメーションだったら、より国籍関係なく引っかかりそうですね。
まさにそれを教えてくれていたのが
作品を作るのはあくまでアーティスト
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りりあ。はレーベル業務とマネジメント業務の両方をやってるんだ。基本的にA&Rもマネージャーも僕がやっていて、彼女が音楽活動するうえでの相棒という感じかな。二人三脚でやっているので僕としてもやりがいがあるよ。
──じゃあ、りりあ。さんの曲作りにもけっこう踏み込んでやりとりしているんですか?
そうだね。「このデモの感じだったらこういうアレンジが合うんじゃないかな」って提案したり、歌詞のアドバイスをしたりするよ。そういうことを全部自分で考えたいアーティストもいれば、いろんな意見を取り入れてやりたいアーティストもいるんだ。だから重要なのは、自分本位にならずに、作品を作るのはあくまでアーティストだとしっかり認識すること。僕らはアーティストが求めているものを察して何ができるかを考えてそれを埋めていく。そこはA&Rとしてかなり意識してるかな。
──なんか、マンガ家と編集者の関係に似ているのかも……?
うん、前に林士平さん(※集英社「少年ジャンプ+」の編集者。「SPY×FAMILY」「チェンソーマン」などを担当)のインタビューを読んだときに、すごく似ていると思った。あくまで裏方なので自分本位にならず、マンガ家の先生──僕らでいうとアーティストがやりやすい環境作りをするっていうのかな。やっぱり締切を催促してばかりいると空気悪くなるじゃない? 明るい雰囲気ってすごく重要で、アーティストが気持ちよく活動できるよう心がけているよ。
──昔のイメージかもですけど、新人のマンガ家にスパルタな編集者もいた気がしていて、同じようにアーティストとバチバチやり合うA&Rもいるんですか?
そういう人も中にはいると思う。特に昔はレーベルがアーティストを選ぶ時代だったからね。「こういうアーティストを売り出したい」とか「うちのレーベルカラーに合いそうだからこのバンドに声をかけよう」みたいな。でも今は逆で、レーベルが選ばれる時代。僕はアーティストが自由に選んだらいいと思う。バチバチな環境を求めているアーティストは意見が強そうな人とパートナーになればいいし、自由にやらせてくれるところがいいアーティストはトイズファクトリーに来たらいいし。アーティストは自分が最強になれるためのチームを組むイメージでレーベルやマネジメントを選べばいいんじゃないかな。
──とはいえ松崎さんが今担当しているアーティストは自分から声をかけたんですよね? 松崎さんがA&Rとして契約したいと思うアーティストってどんな人ですか? 僕もA&Rの人から声をかけられたいなあ……なんて。
今も言った通り基本的にはレーベルは選ばれる側だと僕は思っているので、「アーティストを選ぶ」という考え方はおこがましいというのが大前提としてあるんだけど、今担当させてもらっているアーティストと契約したいと思った理由は、“声”と“雰囲気顔”かな。まず曲を聴いたときに“誰にも似てない声”を持っているか。次に“雰囲気顔”というのは、カッコいいとかかわいいとかではなくて、唯一無二の声とその人やバンドのキャラクターが合っていて、世の中のアイコンになりそうな佇まい、オーラを持っているか。そういう意味での“雰囲気顔”が重要だと思っているので、その2つがバチっとハマったら僕はすごくテンションが上がるんだよね。
──確かに松崎さんが担当しているアーティストの皆さん、声もいいし、顔出ししてなくても独特のオーラがありますね!
そういうアーティストに出会ったとき僕はうっとおしいくらい熱量を込めてアプローチするよ(笑)。契約させてもらったときはもちろんめちゃくちゃうれしいし、ダメだったときはすごく悲しい。
──他社と争奪戦になることもあると思うんですけど、契約を勝ち取る秘訣ってあるんですか?
たくさんのレーベルがあって、それぞれのレーベルに武器があるよね。でもトイズファクトリーにしかできないこともあるし、僕にしかできないことも絶対あるから、最高だと思ったアーティストに自分の武器を全力でプレゼンさせてもらう。これに尽きるかな。A&Rって契約がすごく大事な仕事なので、そこにこぎつけられるかどうかはめちゃくちゃ重要なスキルなんだ。
「なんとなく売れてる」は仕事じゃない
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松崎崇(@__electrock__)のインタビューが
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