U-zhaanが食べて聞く「カレーと音楽」 第3回 [バックナンバー]
Dos Monos・TaiTanが唱えるカレーとヒップホップのフォーマット性の類似
アレンジを加えてもびくともしない強さ、敷居は低く加点幅は無限
2024年3月22日 12:00 8
インドの打楽器タブラの奏者であり、本場のカレーに精通した
「TOKIO CURRY CLUB」にゲスト出演した際、TaiTanから「カレー好きのミュージシャンが多いのはなぜなのか」という質問を投げかけられていたU-zhaan。今度はホストとなってこの質問をTaiTanに問い返し、彼の考察を深掘りしていく。
取材
カレーとヒップホップ、フォーマットとしての類似点
U-zhaan おひさしぶりです。TaiTanさんがナビゲーターを務めていた、ひたすらカレーの話をするポッドキャスト「TOKIO CURRY CLUB」にゲストで呼んでもらって以来ですけど、あの番組はもう終わっちゃったんですか?
TaiTan そうなんですよ。回を追うごとにスタッフから提案される企画がどんどん高度になっていって。「今度は西インドカレーだけで1時間やりましょう!」とか言われるようになってきたとき、さすがに僕がついていけなくなって終了しました。
U-zhaan 南や北ならまだしも、西インドカレーの話だけで1時間はきついですよね。
TaiTan 力尽きましたね。でも、番組が終わったことで逆に今はのびのびとカレーを楽しめてます。
U-zhaan それは何よりです。えーと、この連載は「カレー好きのミュージシャンが多いのはなぜなのか」「音楽とカレーにはどんな関係があるのか」を探ってくれと言われて始まったんですが、そういえばポッドキャストのときTaiTanさんから同じような質問をされたなと思って。
TaiTan しましたね。ユザーンさんからは「音楽とカレーに関係性なんてありますかね?」みたいなアンサーをいただいた記憶があるんですけど。
U-zhaan そう、アンサーというかクエスチョンかな。カレーと音楽に共通点や相似点を見出したことが僕にはなかったから、どう答えたらいいか今ひとつわからなかったんです。なので今回、改めてTaiTanさんからそれらについて聞いてみたくて。
TaiTan いや、あのときユザーンさんから「そんなことある?」って聞かれたことで、僕も半信半疑になってきたんです。「ミュージシャンにはラーメンが好きな人だっていっぱいいるのに、なぜカレーだけにこだわるのだろうか」とか、「なぜ俺たちは、カレーと音楽の相性がいいとしたいのだろうか」みたいな、そっちの宗派に今は属してます。
U-zhaan 宗派って(笑)。
TaiTan ユザーンさんの影響で改宗しました。
U-zhaan じゃあ、ポッドキャストをやっていたころはどんな宗派だったんですか?
TaiTan 当時の僕は、宇多丸さんの論に強く共感していて。カレーの構成要素を音域に例えて考えることにより、音楽、そしてヒップホップとの共通項が見えてくるっていう。
U-zhaan あの理論はすごいですよね! この連載の初回に宇多丸さんから聞いて、僕もかなり衝撃を受けましたよ(参照:「カレーと音楽」 第1回 カレーエリートの宇多丸が説く「音楽とカレーは似ている」)。
TaiTan あとは、1つの皿にいろんなものが少しずつ乗ってるカレーですね。ああいうのもヒップホップっぽいなと思ってました。
U-zhaan いわゆるスパイスカレー的な、ワンプレートに盛り付けられたタイプのやつですよね? どこにヒップホップ感があるんだろう。
TaiTan そのプレートの中だけでも、カレーや付け合わせをどう組み合わせるかでいくらでも味が変わっていく感じというか。ヒップホップも素材の組み合わせ方次第ってところがあるので。
U-zhaan なるほど。でも、例えばそれがカレーではなく絵画だとしても同じように音楽と対比できそうな気もしませんか? プレートを、パレットに置き換えたりしたら。
TaiTan 確かに。カレーにも当てはまるっていうくらいの要素でしかないのかも。
U-zhaan だけどTaiTanさんや宇多丸さんだけじゃなく、さまざまな人が音楽とカレーの関係について論じている。それはなぜなんだろうか、と思って。
TaiTan ヒップホップに限って言うなら、フォーマットの強度が関係してるんじゃないですかね。僕は大学4年の頃、なんの知識もないままラップを始めたんですけど、それでもビートに乗せればそれなりに聴けたんですよ。リズミカルに言葉を連ねていくだけでも、フォーマットの強さによってすべて回収されるという特徴がラップミュージックにはあると思ってます。で、カレーもそうなんじゃないかなと。
U-zhaan カレーにおいてのフォーマットとは、何を指すんでしょうか。
TaiTan それはもう、スパイスです。僕がよく作るのはキーマカレーなんですが、適切なスパイスさえあれば、あとは玉ねぎ、トマト、ひき肉を順に投げ込むだけで絶対に完成する。そのうえで椎茸を入れてみたりとか、キクラゲを加えてみたりとか、そういうアレンジを加えてもびくともしないのはフォーマットが強いからだと思う。
U-zhaan あー。
TaiTan で、そういう強度のフォーマットを持っていると入口の敷居が低くなる。敷居は低いのにも関わらず、そこから先の加点幅みたいなものは無限にあるっていうのがカレーとヒップホップ両方に共通するポイントですね。
給食のカレーが嫌い
U-zhaan 子供の頃からカレーは好きでしたか?
TaiTan 給食のカレーは苦手でした。でも、家で食べるカレーは大好きでしたね。僕の母親が作るのはシーフードカレーとかキーマカレーとか、家庭にしてはオルタナっぽいカレーだったんですよ。だから一般的なニンジン、じゃがいも、玉ねぎが入った、いわゆる“ジャパニーズカレーライス”みたいなのに馴染みがなくて。
U-zhaan ジャパニーズカレーライスの、どのへんが嫌だったんでしょう。甘さ?
TaiTan 普通に野菜が嫌いでした。
U-zhaan それ、カレーじゃなくて野菜が嫌なだけじゃないですか。
TaiTan クリームシチューもカレーと同じように野菜がゴロゴロ入ってるけど、シチューだと全然食べない野菜嫌いな子たちもカレーになるとおかわりするんですよ。なぜなんだとずっと思ってました。僕にとっては、野菜が入ってる時点でカレーもクリームシチューも同じような存在だったんで。
U-zhaan 野菜全般が苦手?
TaiTan ニンジンがとにかくダメでした。なんかプラスチックを食べてるみたいな気持ちになって。
U-zhaan 今でも嫌いなんですか?
TaiTan いや、それがですね。クリスマスって、みんなはチキンとか七面鳥とか焼いて食べるじゃないですか。今や僕はクリスマスにチキンじゃなくてニンジンのステーキを自分で焼いて食べてます(笑)。
U-zhaan いいですね! 時を経て、大のニンジン好きに。
TaiTan そうなんです。調理方法にもよりますが。
U-zhaan 給食みたいな、ニンジンがゴロゴロ入ってるようなカレーはどうですか?
TaiTan それはまだ苦手です。先日、とある蕎麦屋さんで試しにカレーライスを食べてみたんですけど、やっぱりニンジンは要らないなっていう感覚になりました。
U-zhaan ニンジンステーキとは何が違うんですか?
TaiTan 僕が焼くニンジンステーキは自家製のガーリックオイルを使ってるんですけど、どっちかというとニンジンの味よりもニンニクの風味のほうを楽しむぐらいのジャンクな調理なんですよね。昔から素朴な味付けがあんまり好きじゃなくて。肉じゃがとか料亭の冷たい小鉢とかも好きになれない。今の僕の夢は、おいしい肉じゃがに巡り合うことなんです。
U-zhaan それ、すごく難しいですよね。だって、TaiTanさんが好きじゃないって言ってる肉じゃがを僕らは普通においしいと思って食べてるんだから。
TaiTan いやいや、誰もそんなこと思ってないですよ! あれは家庭料理の定番とされちゃってるからみんな仕方なく食べてるだけで、決しておいしくはない。
U-zhaan そうかなあ。
TaiTan だからこそ僕は、ちょっといい和食屋に行くと必ず肉じゃがを頼むんです。僕の肉じゃが観をこの店で変えてほしい、という期待を込めて。この間も恵比寿のすごく高い日本料理店のメニューに「和牛の肉じゃが」っていうのがあったんで頼んでみたら、それは確かにうまかった。でも、よく考えたら普通の肉じゃがに和牛のすき焼きがのっかってるだけなんですよ。和牛がうまいのであって、肉じゃががうまいというわけではない。だから、その店での僕と肉じゃがの対決はドロー。
U-zhaan 勝ち負けがあるんだ(笑)。
手食嫌いポッドキャスト誕生?
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U-zhaan(ユザーン) @u_zhaan
音楽ナタリーで連載中の「カレーと音楽」、第3回が公開されました。ゲストはDos MonosのTaiTanさんです! https://t.co/YBdtEUWud5