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アイドルのセカンドキャリアを考える 最終回 [バックナンバー]

犬山紙子&劔樹人がファン目線で考える“アイドルのセカンドキャリア”(聞き手:レナ)

まず変わるべきはファンのほう? アイドルに休みと学びの時間を

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バニラビーンズのレナをナビゲーターに迎え、引退後に異なる仕事に就いて新たな人生を送る“元アイドル”たちに、その後のセカンドキャリアについて話を聞く連載「アイドルのセカンドキャリアを考える」。これまで元SKE48の柴田阿弥、元アイドルカレッジ / MELiSSAの佐藤春奈、元風男塾(腐男塾)の“よきゅーん”こと乾曜子、元アイドリング!!!の遠藤舞、元フィロソフィーのダンスの十束おとはに登場してもらい、それぞれの立場から現役時代の葛藤やセカンドキャリアの歩み方、現在の仕事のやりがいを聞いてきた。

最終回となる今回は、これまでとは角度を変えてファンの立場から“アイドルのセカンドキャリア”について考える。ゲストはハロー!プロジェクトの大ファンとしても知られており女性の生き方についてのコラムも執筆する犬山紙子と、犬山のパートナーであり、同じくハロー!プロジェクト好きでその推し活の日々を描いたコミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」が映画化された劔樹人。ファンの立場だからこそ見える、アイドルを取り巻く環境と課題について3人に語ってもらった。

取材 / レナ / 下原研二 撮影 / 小財美香子

アイドルを持続可能なものに

レナ 私はバニラビーンズとして11年間活動していたんですけど、解散が決まってからセカンドキャリアにすごく悩んだタイプで。自分の人生なので今は開き直ってますけど、周りにはまだ現役で「そろそろ卒業が見えてきてどうしよう?」と悩んでいる子もいるんですね。私はアイドルは推してくれるファンの方がいるからこそ活動ができると思っていて、今回はお二人にファンの視点から「アイドルが1人の女性として将来をどう見据えればいいか」をお伺いできればと思っています。

劔樹人 僕が今一番のポイントだと思っているのが「セカンドキャリアという感覚をどうなくしていくか」ということなんです。社会に流れる「アイドルは若い時代にしかできない」という空気が一番の問題だと思うんですよ。その風潮は女性アイドルだと特に強いから、アイドル自体をどう持続可能なものにしていくかが課題だと感じています。

犬山紙子 確かに男性アイドルの場合、40代、50代と年齢を重ねても現役で活躍されている方も多いもんね。柏木由紀さんが32歳でAKB48を卒業することが話題になっていましたけど、32歳ってまだまだギャルで成長過程。年齢を重ねるよさは、当たり前だけど女性にもあるわけで、女性もいくつになってもアイドル活動はできるはずなんです。ファンには「若い子じゃなきゃダメ」という人もいるかもしれないけれど、「推しを同じグループでずっと見ていたい」という人もいるはず。多様な在り方があるとよいですよね。つるちゃん(劔樹人の愛称)の言う通り、まずは持続可能な形をどう作っていくかが大事だと思いますね。

左から犬山紙子、劔樹人。

左から犬山紙子、劔樹人。

レナ 私はアイドル時代、将来の人生プランを考えることはファンへの裏切りなんじゃないか?と思っていたんです。ファンの方と同じ夢を見ている、というのがアイドルとしての正しい活動フォーマットだと信じていて……。だから11年間の活動を振り返ると「アイドルを辞めたら何をしよう?」と想像したことがなくて、「一生このグループで活動しよう」と考えていました。その結果、解散が決まってから悩むことになったんですけど。ファンの立場からすると、アイドルが卒業後の人生を考えるのって裏切られた気持ちになるものですか?

 昔、久住小春さんがモーニング娘。を足がかりに次のステップに進みたいという主旨の発言をしてファンの反感を買ったことがありましたよね。当時は僕もモヤモヤしたけど、時間が経つと考え方も変わってきて、今は「しょうがないよな」と思うんです。ファンに伝わる形で発言したのはよくなかったかもしれないけど、実際今のアイドルを取り巻く状況を考えると、将来を意識ながら活動しないといけないわけで。

犬山 私はアイドルが好きで応援していますけど、同時にいち女性としても見ているんですね。私は転職の経験があるし、違う仕事をしてみたくなることもある。当然、その自由性はアイドルにも担保されるべきものだと思うんです。今、「ファンを裏切ってないか?」と思うレナさんの真面目な気持ちを受け取って感動していて……。そこまでファンのことを思って活動している子たちがいるんだから、変わるべきはファンや社会のほうですよ。アイドルを続けたい子は続けられて、ほかの仕事に興味があればチャレンジできるような環境が必要だと思います。

 うんうん。それで考えるとNegiccoのファンからの受け入れられ方はすごいですよね。メンバーが歳を重ねて結婚や出産をすることを、ファンが受け入れているから持続可能性がある。

犬山 私もNegiccoさんのことを思い出してた。本当にいい活動の仕方をしているよね。アイドルは歌や踊りのスキルを磨くことも大切だけど、人間は生きていたら成長してできることも増えていく。トーク力があったり、特定のジャンルに詳しかったりする子は、そういった別軸の活動を並行してもいいと思うんです。日本だと女性が成長すること、年齢を重ねることがすごくネガティブに捉えられてる気がしていて。アイドルの子たちも自分が20歳で周りが10代なら「私はおばさんだから」と先回りして自虐しなきゃいけない間違った空気がありますよね。もちろん、ファンがアイドルに疑似恋愛することをなくすべきだとは思わないけど、それだけの存在として消費してしまうと、女の子は若い頃にしかアイドルをできないことになってしまう。若さや恋愛ではない魅力の部分を、きちんとマネタイズできる方法を模索したいです。

相談できる存在の重要性

レナ 2010年代のアイドルシーンを振り返ると、テレビになかなか出られないけど、アイドルには簡単になれるという時代だったと思うんです。ライブの本数は多いからアイドルファンの方にはそこそこ認知されて、「オリコン◯位に入りました」という肩書きだけが残ったグループの女の子たちがたくさんいるんですよ。でも、さっきも話したようにアイドル以外の選択肢を考えるのは裏切りのような気がして、今セカンドキャリアで悩んでいるという。

犬山 アイドルのセカンドキャリアについて考えたときに、アイドル活動と学業の両立の難しさがあると思うんです。若い頃から仕事をすることで、高校や大学を卒業して就職活動をするといういわゆる“一般のルート”から外れた道を歩まされる可能性が高くなるわけですから。そうなったときに事務所でも、そのほかでもセカンドキャリアを一緒に考えてくれる、相談できるような相手は必要だと思います。

 今はそういったサポートをしている事務所もあると思うけど、まだまだ数は少なそうだよね。

レナ 私は誰にも相談できなかったタイプなんですけど、大学生や社会人にはそういった窓口はあるんですか?

犬山紙子

犬山紙子

犬山 もちろん大学でも相談できるし、社会人には転職エージェントがありますからね。だからこそアイドルにもそういった窓口は必要。相談することで「ファンを裏切る行為かもしれない」と感じるかもしれないけど、その子の人生がかかっているわけですから。相談することで、ファンにどう寄り添った発信ができるかだったり、両立の可能性もないかだったりも考えられますし。

 そこはファンがある程度寛容になっていかなきゃダメですよね。

犬山 うん。その子の将来にまで口を出していいのは一生推したファンだけだと思う。

レナ ちなみに理想のセカンドキャリアを送っているなと思うアイドルはいますか?

犬山 あやちょ(和田彩花)のセカンドキャリアの歩み方がすごくいいなと思います。彼女は「学びたい」と思って学び、そしてフランスに留学しましたよね。やりたいことにすごく素直に向き合っているし、あそこまで自分の思想を語れるのもすごい。今の彼女からは「売れているほうがいい」という世間一般の感覚からとてもいい距離を取れているように見えます。その生き方にものすごく憧れますね。

 僕はあやちょと音楽をやってますけど、彼女はハロプロ時代には詞を書いてなかったんですよ。それでもずっと自分の中で積もり続けていたものがあって、「詞を書いてみたら」と伝えたらあふれるように言葉が出てきて15曲くらいあっという間にできちゃった。だから興味があることには1回挑戦してみるのも大事かなと思います。

レナはどうやってセカンドキャリアを歩み始めた?

レナ 私の世代のアイドルは自分も含め、ちょっと歌える、ちょっと踊れる、ちょっとしゃべれる、という器用貧乏なタイプが多かったと思うんです。もちろん芸能界の第一線で活躍している人もいますけど、それは本当にひと握りなわけで。

犬山 でも、それってすごいことですよ。全然貧乏じゃない器用だと思います。芸能界ってバランス型の人が売れていると思うんです。もちろん突出したタレント性を持っている方が最前線に立っているかもしれないけど、いろんな場面で重宝されるのはバランス型のタイプだと思う。

ナタリースタッフ それで言うとレナさんもボートレース多摩川のMCとして日々お忙しくされていて、しっかりとセカンドキャリアを歩まれているように感じます。将来について悩んでいたレナさんがボートレースのお仕事に出会った経緯はなんだったんですか?

レナ もともとバニラビーンズとして、ボートレース多摩川さんが2011年にスタートさせたアイドルフェスのナビゲーターを担当していたんです。解散を発表したタイミングでボートレース多摩川さんから「MCをやってみませんか?」と声をかけていただいて。そのアイドルフェスにはいろんなグループが出演していたから「どうして私なんだろう?」という思いもありました。でも、私はショッピングモールであるとか自分たちのことを初めて観る人たちの前でライブをするのが好きだったんですよ。ボートレース場も遊びに来ているお客さんが得体の知らないアイドルのライブを観るみたいな状況になっていて(笑)。きっとその当時のがんばっていた姿を見てオファーしてくださったと思うので、引き受けることにしました。

レナ

レナ

 そうやってMCのお話がくるってことはトーク力があるということだし、T-Palette Records(※2011年に設立されたタワーレコードのアイドル専門レーベル)時代から踏んできた場数が今のお仕事に生きているということですよね。

レナ 10代の子と仕事をしていると、20代前半でも現場によっては自分たちが最年長ということもあって。いつの間にか「バニビ姉さん」と言われる場面が増えてきたんです。違和感はありつつも、その状況を受け入れないといけないタイミングがデビューして1、2年で来ちゃったんですよね。そうやって現場ごとに空気を読んで、瞬時に立ち位置を変えてやっていくうちにトーク力が身に付いたのかもしれませんね。

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Negiccoに見る、愛され続けるアイドル像

読者の反応

Megu@Negicco @Megu_Negicco

インタビュー読んでいたら、Negiccoの事も話してくださっている😭✨ありがとうございます🙇‍♀️✨ https://t.co/ZVPLmXfrsz

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