細野ゼミ 補講3コマ目 [バックナンバー]
「細野さんと一緒に聴こう話そう」ハマ・オカモト編
ブルーノ・メジャーからフランク・ザッパまで ハマ・オカモト解説とともに古今東西の名曲を味わう
2023年11月24日 20:00 28
ハマ・オカモトびっくりの初体験
ハマ 続いては、The Millenniumの首謀者であるカート・ベッチャーの「That's the Way It's Gonna Be」です。
安部 あー、ミレニウム。
ハマ こういう昔の曲を、現代にアナログ7inchで出す変わったレーベルがあって……とはいえリイシューでもなく、当時もリリースされてない作品も出しているんだけど、そのレーベルから出たレコードで。
安部 “再発”でもないんだ(笑)。
──調べたところ、この曲はもともとカートがプロデュースしたリー・マロリーのシングル曲で、今回の音源はカートが歌唱した未発表のトラックとのことです。リー・マロリーはミレニウムにも参加しています。
ハマ ミレニウムは好きだったものの、カートのことはあまり知らずにこのレコードを買ったんです。この曲を聴いて、初めて“曲を知らずに買ったレコードでびっくりする”っていう経験をしました。あとにも先にもそんな経験はなくて。正座して4回くらい繰り返し聴きました。うるさめの曲で、ミレニウム感はないんですけど。
カート・ベッチャー「That's the Way It's Gonna Be」
安部 ミレニウムに比べるとパワフルだね。でも何? 今の終わり方。「飽きたの?」みたいな。
ハマ 細野さんはミレニウムやカート・ベッチャーをリアルタイムで聴くことができた世代だと思いますが、当時はどんな印象でしたか?
細野 僕がカートを知ったのは、The Associationのプロデューサーとしてだったな。ほら、僕はプロデューサークレジットを見るのが癖だからさ(笑)。ただミレニウムとなると、ちゃんと聴いたのは20年前くらい前のことなんだよ。「Begin」が発表された当時はすごく“奥のほう”にいたバンドだったからね。
安部 手前にThe BeatlesとかThe Beach Boysとかがいたわけですからね。知りようがないというか。
細野 そうそう、当時はチャートにいないと。だからカートは不遇の天才だよね。さっき言ったThe Associationのプロデュースが唯一の成功だったかもしれない。ただ僕の世代にはカートを深堀りしている連中がいっぱいいた。パイド・パイパー・ハウスの長門(芳郎)くんとか、山下達郎もきっと好きだったろうね(※「Begin」の日本盤レコードは1981年にCBSソニーの企画で長門氏が手がけている。その後1990年に初CD化)。
ハマ ある説によると、「Begin」って最初期の16トラックレコーディングを行ったレコードらしいの。その意味ではThe BeatlesやThe Beach Boysよりも早くて。だけどあまりにポップネスがなく、当時のコロムビアレコードの人に「どうやって売っていいかわからないからプロモーションしない」って言われたみたい。それで全然売れなくて。だから細野さんが不遇だっておっしゃるのも、ホントにそうだなと。
安部 当時あまり評価されなかったのには、そういう理由があったんだね。チームにハマらなかった。
ハマ 余談ですけど、去年、ミレニウムのジョーイ・ステックと会ったんです。奥さんが日本の方ということもあって、僕が「Begin」のジャケのTシャツを着ている写真を本人が見てメッセージをくれたんです。「会おう」となったんですけど、コロナ禍だし高齢だから日本に呼ぶのも難しいなって。そのあと僕らがアメリカでライブをやること決まってアナウンスを出したら、会場に来てくれました。話していたら、「ダンエレクトロを最初に弾いたのは俺なんだよ、モニターで弾いたんだよ!」だって(笑)。
細野 それはすごい。カート・ベッチャー関連の人と会ったっていう話、日本では聞いたことがないな。
安部 うん。それに、うれしいよね。昔からの思い入れもあるわけだし。
ハマ ここではみんな驚いてくれるからうれしいです。フェスのフードコートでミュージシャンに自慢しても「誰?」ってなるから(笑)。
“ジェマーソン印”の演奏
ハマ この機会に、細野さんとベーシスト目線でモータウンを聴きたくて。紹介するのも野暮なくらいのベーシスト、ジェームス・ジェマーソンなんですけど。マーヴィン・ゲイの「What's Going on」でも弾いていて、そのベースラインは“世界で最も美しいベースライン”って言われてるんですよ。
細野 そうなんだ(笑)。
ハマ 「誰が言ったか」って感じではありますけどね(笑)。ただ個人的にはJackson 5の「Darling Dear」のジェマーソンのベースが一番だと思っていて、それを聴きたいなと。「What's Going on」は緩急があるというか隙間があるプレイで、それはそれで美しいんですけど、ひたすら“ジェマーソン印”な演奏をやっているのはこの曲かなと。
Jackson 5「Darling Dear」
細野 ベース、動き回ってるね。今改めて聴いて、自分はすごく影響されてるんだなって思ったよ。同じようなフレーズをいっぱい弾いてる。いつの間にか影響されたんだろうな。
ハマ “タータッタタータタータ~↓”って最後に音階が落ちる感じ、細野さんのファンからすればつながる感じがします。
細野 そうだね、まったく。やったことあるよ(笑)。
安部 こういうベースの動き方、この人がやり始めたの?
ハマ この手のプレイスタイルを代表する人ではあるよ。みんなこの人の影響下……なんならチャック・レイニーとかもこの文脈にいるから。モータウンが始まる前まではみんなジャズミュージシャンで、アコースティックの楽器を弾いていた人たちだったと考えると、下手したらエレキベースのスタイルを生み出した最初の人の1人とも言えるかも。でもマイケル、イライラしなかったのかな。“マイケルとベース”って感じのバランスで。
細野 ミックスバランス的にも、ベースの音がデカいね。
安部 ホント、どういう感覚なんだろう。でも結局歌えるし、違和感なく聴けちゃう。素敵なんだよね。なんでちゃんと気持ちいいんだろうな。技術とかフィーリングなのかな。
ハマ そうなんだよ。16分音符に淀みがない。すごくハッキリ弾くじゃないですか。それでいて演奏に説得力があるんだよね。それは細野さんにも言えることだけど。
細野 僕はこんなハッキリは弾かないけど(笑)。いやあ、でも自分にとっては原点回帰の気分だよ。「もう1回勉強します」っていう。
──こんなにベースを弾き倒している曲、最近の曲でもあまりないですよね。
ハマ ないですし、なんとなくやっちゃいけない……ってわけではないけど、“引き算の美学”もあるので。これをホントにカッコいいと思うかはどういうものを聴いてきたかにもよるから、「弾きすぎじゃん」って言われたらおしまいなんですけど。
いつか3人でセッションを
ハマ 本家モータウンのあとは、Mamas Gunが2020年に出したシングル曲「This Is The Day」です。というのも彼らはソウル系のバンドで、「モータウンサウンドをやろう」と思って作った曲なんですよ。僕は現代でソウルをやる人の曲も聴くんですけど、「これならオリジナルを聴けばいいじゃん」って気持ちになることも多いんです。でもこのバンドはすごくいい。
Mamas Gun「This Is The Day」
安部 音がいいね。今の音っぽい。
ハマ ソングライティングも素晴らしいし。ママズは今年の「GREENROOM FESTIVAL」で来日したんですよ。そのときにラジオで対談したんですけど、ベースを弾いているキャメロン・ドーソンが僕と同い年だと知ってひっくり返りました。ほかのメンバー、みんな40代なのに。バンドとしては、俺と勇磨が下北で会った2010年頃には、すでにデビューしてるんだよね。で、こういう音楽性になったのは2017年くらいから。
細野 その前は?
ハマ ミクスチャーというか、今より少しやかましい感じでした。「Golden Days」ってアルバムが超名作なんですけど、そのあたりから「人気を狙うよりも、ルーツや好きなことをやろう」って振り切ったらしくて。
細野 今はそういう時代になったんだなあ。
──あっという間でしたが、そろそろお時間ということで。今回も幅広い選曲になりましたね。
ハマ この企画、楽しいね。2人に好きな曲聴いてもらうってぜいたくだな。ベースの話もできたし。
細野 よかったね。話しやすかったし、楽しかった。
安部 ハマくんの選曲、全部面白くて悔しい。しかもハマくんの解説とかもありがたいし。
ハマ 「ありがたい」だって(笑)。勇磨の選曲も面白かったじゃん。そして今回も、みんなセッションはできると思う(※前回、安部はセッションへの苦手意識を2人に相談している)。
安部 あれ以降、僕はバンドメンバーがセッションすると止めているんだよ(笑)。
細野 でも、3人でセッションやりたいね。ベースが2人いるけど(笑)。
安部 えー……だって絶対僕のこと嫌いになる。「おーい安部ちゃん、何もできないじゃん!」「わかってないから外そうぜ」って軽蔑し始めるから。僕はペンタトニックスケール(※5音で構成された音階のこと)しか弾けないから。
細野 そんなことにはならないよ(笑)。
ハマ そんなの9割が妄想だよ。それにペンタトニックでカッコよくできるのが一番カッコいいんだよ。
安部 でも、ジェームス・ジェマーソンみたいにベースを動かせるのっていいなって思った。細野さんのベースを聴いてもそう思うんだけど、歌を邪魔しないし、気持ちがいい。
ハマ ね。細野さんのベースからもモータウンの文脈を感じるし、俺が細野さんの音楽を好きになったのも必然だったんだなって思う。
細野 なるほど。僕は今は頼まれたときくらいしかベースは弾いていないし、ソロでもあまりベースはフィーチャーしていないから、新鮮だった。こういうのを聴くとまた弾きたくなるね。
ハマ 実は細野さんの曲も聴こうかなと思ったんですけど、ご本人の前でそれをやっちゃうと……。
細野 勘弁して(笑)。
安部 それに質問しても、「何を考えていたのか覚えてない」ってなるかも(笑)。
ハマ でも、好きな曲が山のようにあるからさ。なんなら僕、細野さんの曲だけでリスト作れますもん。「細野さんの曲のここが好き ~ベース編~」。
安部 僕も作りたい! 2人で提出しようか。細野さんの曲のリスト。僕はベースとは別の視点で。
細野 ぜひちょうだいよ。もう“振り返って、まとめて”っていう歳になってきたからね。でも自分じゃなかなかやらないし。
安部 でも、「好き」って言いすぎると嫌がられるかな……。
ハマ 塩梅はあるよね(笑)。細野さんって「HOSONO HOUSE」が今年で50周年を迎えましたが、それ以降に手がけたものも、スタジオワークス含めてまたどんどん周年が訪れるわけで。その振り返り作業を「細野ゼミ」も手伝います。細野さんがせっかくいいって言ってくれるなら、ぜひとも。
安部 やりましょう!
──ゼミ生が教授のまとめ物を手伝うって、ゼミっぽくていいですね。
ハマ ゼミによくある画ですよね(笑)。
プロフィール
細野晴臣
1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2021年7月に、高橋幸宏とのエレクトロニカユニット・SKETCH SHOWのアルバム「audio sponge」「tronika」「LOOPHOLE」の12inchアナログをリリース。2023年5月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」が発売50周年を迎え、アナログ盤が再発された。
安部勇磨
1990年東京生まれ。2014年に結成された
ハマ・オカモト
1991年東京生まれ。ロックバンド
バックナンバー
細野晴臣 Haruomi Hosono _information @hosonoharuomi_
【連載】「#細野ゼミ」補講開講中🖋
テーマは「ゼミ生が細野晴臣と一緒に聴きたい&話したい曲」
ブルーノ・メジャーからフランク・ザッパまで
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