色とりどりのグミとのっちさん。

のっちはゲームがしたい! 第11回 [バックナンバー]

「テイルズ オブ アライズ」はプレイヤーに寄り添ってる?富澤Pにゲーム設計の理念を教えてもらいました

シリーズ恒例の“固有ジャンル名”やキャッチコピーを決める会議の裏側も公開

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「アライズ」の開発のために作られた「アトモスシェーダー」って?

のっち 私が「アライズ」をやり始めたのは去年なんですけど、そこからPerfumeのライブとかが立て続けにあったので、つい最近やっとプレイし終えました。

富澤 ありがとうございます。時間のかかるタイトルなので(笑)。

のっち けっこう時間がかかったから、今日までに間に合うかなって焦りつつ(※取材は2022年3月に実施)。ただそのおかげで、今めちゃくちゃホットな状態です(笑)。一番ズルいなって思ったのが主人公2人のバランス。「そんなん好きやろ!」っていう。

富澤 アルフェンとシオンですね。

左からアルフェン、シオン。

左からアルフェン、シオン。

のっち はい。「触ったものを全部傷つけちゃうヒロイン」と「痛みを感じないヒーロー」……そんな2人の並びは最高ですよ。私のメモに「そんなん好きやろ」って書いてあります(笑)。

富澤 そう言っていただけるようなキャラクター造形を目指したので、うれしいですね。

のっち キャラクターの実在感がすごく強いですよね。人間らしい生々しさというより、アニメ調のイラストなのに、しゃべると本当に生きてるみたいな感覚になるんです。あんなに膨大な台本があるのに、なんで目や口の動きが全部合ってるんだろうって。口がパクパクするだけじゃない、リアルな表情の作り方がすごいなと思いました。

富澤 実在感とおっしゃっていただきましたが、このゲームで目指したのはまさにそれなんです。アニメチックなキャラクター性と、本物のようなリアリティを併せ持つグラフィック作りを目標にして。背景の世界も絵画っぽく描いているんですが、印象派のように光を色として描きすぎると、精細さが失われて実在感からは離れてしまう。そのあたりのバランスを取るために、遠景から近景になるにつれて何段階かでディテールが細かくなる表現にたどり着いたんです。シェーダー(3DCGの陰影処理を行うプログラム)を5年かけてチューニングし続けたスタッフの努力の結晶です。

絵画のようなタッチの「テイルズ オブ アライズ」フィールド画面。

絵画のようなタッチの「テイルズ オブ アライズ」フィールド画面。

のっち それって「アトモスシェーダー」っていうやつですよね? 「アライズ」の話題で何回か目にしたんですけど、それは元からあった技術じゃなくて、今回「アライズ」の開発のために作ったものだったんですか?

富澤 そうですね。「Unreal Engine 4」(ゲームを作るためのゲームエンジン)をベースにしています。2016年から昨年の発売直前までずっといじり続けてるんですけど、これからも次回作に向けてチューニングを続けると思います。

のっち うわあー! ちなみにもしかして、途中で入るスキットは3Dだったりしますか?

「テイルズ オブ アライズ」のスキット画面。

「テイルズ オブ アライズ」のスキット画面。

富澤 あれも3Dで描きました。

のっち そうなんだ! 3DCGだとは思ってなかったです。

富澤 そこも狙いの1つで。過去のシリーズを遊んでいただいていたのっちさんはご存知の通り、スキットは今まで、紙芝居のようなウインドウチャットだったり、ずっと2Dイラストで作ってたんです。でも没入感を阻害しないように全体のトーンを統一させるため、今回は初めて3Dで作ろうということになりまして。キャラがぬるぬる動いちゃうと逆によさが削がれるので、マンガのコマみたいなレイアウトを作って、あえて2Dイラストっぽく見せてます。

のっち あー、だからほかのゲームではあんまり見かけないような雰囲気だったんですね。

ある種の伝統も、見直しながらの企画作業

のっち 戦闘システムについても、いろいろこだわりがありそうですね。

富澤 コマンド式のRPGがほとんどだった25年前から、「テイルズ オブ」シリーズはアクション性のあるバトルを特徴としてきたんですが、「アライズ」ではそれを継承しつつリセットしたかったんです。だから一度アクションゲームとしてゼロから作ってみて、そこに「テイルズ」らしい味付けやテンポ感を足していくという。

のっち あっ、そっち側から考えていったんですね!

富澤 はい。なので、重要視したのは「ボタンを押してから何フレームで動くかというレスポンス性」だったんです。ターン性のRPGだと「この攻撃は確定で受けざるを得ない」というのがある程度ありますけど、それって理不尽だなと思うところもあって。アクションゲームをする感覚を目指すなら、「敵の反応を見てしっかり動ければ攻撃はかわせる」のほうがいいんですよね。

のっち そっか、「アライズ」では「敵が攻撃を仕掛けるモーションを見たら避ける」ってのを自然とやってたけど、今までの「テイルズ」だとなかったかもしれない。

富澤 あとは6人のキャラクターの連携です。1人で黙々と戦うのは「テイルズ」らしくないんですよね。ワチャワチャとにぎやかに、でも何をやっているかちゃんとわかるようなバランスになるよう調整しました。

のっち もうまんまと思惑通りでした(笑)。みんなと戦ってる!って感覚。そして「アライズ」の戦闘は、操作が簡単なのにいっぱいボタン使うのも楽しいんですよね。たくさん技を入れられるし、それが決まると気持ちいい。

富澤 多彩な技を使いこなすには、今までは「方向キー+ボタン」のコマンドを設定することが多くて、それは格闘ゲームみたいな面白さはあるけど、慣れてない人にはちょっと敷居が高くなるんですよ。だから今回は直感的に操作がわかるように、ほぼ1つのボタンで1個のアクションが起きるようにしています。やることはシンプルでも、起きることは多彩だから、「この状況に対して自分がこうすることを選んだから勝ったんだ」という実感はしっかり持てるんですよ。

のっち 確かに! ほかにも気持ちよくゲームできるようにやった工夫はありますか?

富澤 バトル後に会話が入るゲームって多いですよね。

のっち ありますね。「テイルズ」でもリザルト画面でキャラクターがしゃべるの。

富澤 戦いに勝って見得を切るのは、ある種の伝統のようなものなんですけど、今回はあえて削りました。あれによってキャラクターを身近に感じることができるんですけど、「このセリフ、前も聞いたな」って思った時点で、それはあまり楽しい時間ではなくなってしまうんです。それに、今回はハイテンポなアクションを繰り返し楽しんでもらうために、会話をはさんでリズムを途切れさせたくなかった、という設計思想があります。

のっち うわ、そういえば……戦闘後のセリフがないの、今言われて気付きました。

富澤 それでキャラクターの人間味が感じられなくなったら元も子もないので、代わりにフィールド上のボイスはものすごく増やしてます。

キャッチコピーを考えるために、そんな大会議が行われていたとは

のっち 「テイルズ オブ」シリーズはいつも「なんとかのRPG」ってジャンル名が付いてますよね。「アライズ」なら「心の黎明を告げるRPG」とか。それが何になるのか毎回楽しみにしてます(笑)。

富澤 ジャンル名やキャッチコピーを考えるために、毎回みんなで案を考えて付箋に書いていくんです。同時にポスターのデザイン案も考えて、そこにこうやって付箋を貼っていく。このホワイトボードに貼ってあるのはごく一部なんですが。

付箋が貼られたホワイトボードを見つめるのっちさん(右)。

付箋が貼られたホワイトボードを見つめるのっちさん(右)。

たくさんのキャッチコピー案が書き込まれた付箋。

たくさんのキャッチコピー案が書き込まれた付箋。

のっち Perfumeがライブのセットリストを決めるときも同じようなことをしてます(笑)。曲名を書いた紙をテープで貼って、話し合いながら組み替えていって。

富澤 これはほぼ最終案に近い状態なんですけど、最初に「何を目指して開発したのか」「売りになりそうなのは何か」をヒアリングするんです。そして、開発チームやアートディレクターだけでなく、客観的な目線にするため関係ない部署の人にも来てもらって、6人1組の2チームくらいでコンペをするんです。「まずは5・7・5で考えてみてください」って。

のっち 一度5・7・5にするターンがあるんですね。

富澤 そうすることで、狙いが凝縮された短いワードが出てくるので。ここに貼ってある「お互いの 心の壁を 打ち砕け」「誰にでも 共感できる 物語」みたいな感じですね。そのあとでこれらを自由に分解して組み合わせて、語感のよさなども含めさらに練り上げたうえで、第三者の意見を聞きながら絞りこんでいきます。キャッチフレーズを書いた紙を配って、設問ごとに「〇」「×」「△」を記入してもらって。

キャッチフレーズ会議で使われた付箋。右上の白い紙に「○」や「△」などの評価が書き込まれてある。

キャッチフレーズ会議で使われた付箋。右上の白い紙に「○」や「△」などの評価が書き込まれてある。

のっち この案、全部「×」で感想「よくわからない」って書かれてますね。厳しい……(笑)。

富澤 そうやって最終的に1案に決めて、それに沿ったキービジュアルを作るんですけど、絵と合わせてみて伝わり方が変わることもあるので、そこからさらにイメージ案を用意して、上司も含めてさらに議論し、最終的に「この痛みは、君の心に触れたから。」に決めました。

のっち そんな大会議が行われていたとは……。このキャッチフレーズ、ゲームの序盤と終盤で解釈の仕方が全然変わってくるのですごくいいなと思いました。

富澤 プレイする前に「面白そう」と思ってもらうだけじゃなくて、プレイしたあとに改めて噛み締めてもらえるキャッチフレーズっていいですよね。

ポスタービジュアルを考えるための付箋。

ポスタービジュアルを考えるための付箋。

たくさんのキャッチコピー案が書き込まれた付箋。

たくさんのキャッチコピー案が書き込まれた付箋。

のっち ポスターデザインの案を見ると、アルフェン1人だけのものが多かったんですね。

富澤 当初はそうでした。でもこの作品はヒロインのシオンとの関係性を重視しているし、このキャッチフレーズなら2人のほうがいいなと。これまでの「テイルズ オブ」シリーズだと、主要キャラが6人くらいずらっと並ぶか、あるいは主人公がドーンと1人で描かれてるかだったんですけど、今回描きたかったのは2人の特別な関係性だったので。

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Perfume_Staff @Perfume_Staff

「のっちはゲームがしたい!」連載第11回が公開✨
今回はバンダイナムコエンターテインメントを訪問。「テイルズオブ」シリーズIP総合プロデューサーの富澤祐介さんにお会いしてきました。のっちがRPGにハマったきっかけになった「テイルズ オブ ジ アビス」の話も!
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