色とりどりのグミとのっちさん。

のっちはゲームがしたい! 第11回 [バックナンバー]

「テイルズ オブ アライズ」はプレイヤーに寄り添ってる?富澤Pにゲーム設計の理念を教えてもらいました

シリーズ恒例の“固有ジャンル名”やキャッチコピーを決める会議の裏側も公開

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「アビス」の次にほかのゲームをやったら戸惑ったんです

のっち 今日はよろしくお願いします! いきなりですけど、富澤さんの肩書にある「IP」ってなんですか?

富澤祐介 ただでさえ「ゲームプロデューサーってどういう仕事なのかわかりにくい」と言われがちなのに、確かに「IPプロデューサー」を名乗ってる人はあんまりいないですもんね。

のっち 調べてはみたんですけどあんまりわからなくて、これはご本人に聞いたほうが早いなって(笑)。

富澤 Intellectual Property(知的財産)の略で、有形の財産とは違う、例えばコンテンツの世界観のような、形にはならないけれどもお客様の心の中にある価値をそう呼んでるんです。お客様に長くシリーズを楽しんでいただくために、個々のタイトルだけでなくシリーズになったときに生まれる価値を考えて、長期的な製品戦略を考えるのが仕事ですね。

のっち いわゆるゲームプロデューサーよりも「ブランドイメージを守る」みたいなことに力を入れてるんですかね。

富澤 おっしゃる通りです。例えば、SNSの運用だったりも含めて1個1個のサービスがすべて直接的なビジネスになるかというとそういうわけじゃないんですが、ブランド全体を考えたときに、お客様の心の中で「テイルズ オブ」シリーズがホットであり続けるためには、そうした取り組みも大事なんです。そういうビジネスにとどまらない活動をするうえで、会社としても1本の軸になる人が必要だよねということで、そのあたりを担当させてもらっています。

のっち なるほど! めちゃくちゃお堅い言葉なのかと思ったら、すごく温かい肩書なんですね(笑)。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

富澤 のっちさんは「テイルズ オブ ジ アビス」(2005年発売のPlayStation 2用ソフト)が好きだと聞きました。

のっち 私は基本的にRPGが大好きなんですけど、きっかけは「アビス」だったんです。それまでもゲーム好きではあったものの、やっていたのはパズルゲームとかミニゲーム集とかばかりで。確かゲーム好きの友達に「アビス」を教えてもらってやってみたんですが、映画やドラマを観ているのとは違う、自分の手を動かして物語を進めていく体験に感動したんです。

富澤 ありがとうございます。「テイルズ オブ」は1995年に始まった歴史のあるシリーズなんですが、特に「アビス」はキャラクターの持つ感情がビビッドに表現されたストーリーに人気があって、ここから「テイルズ オブ」シリーズに入りましたという人は多いんですよね。うちのスタッフも「『アビス』は8周しました。そこから全作品やって、好きすぎてチームに志願しました」と言ってました。

のっち うわっ、すごい! 一番欲しい人材ですね(笑)。

富澤 そういう子にはめちゃくちゃ任せられます(笑)。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

のっち RPGって「なんでかわからないけど悪いとされている敵がいて、その敵を倒すためにレベルを上げて強くなる」というものが多いじゃないですか。それが王道だとしたら、「アビス」はきっと王道じゃないですよね。スキット(キャラクター同士が会話をする「テイルズ オブ」シリーズのシステム)がめちゃくちゃあるから、本当にアニメを観るような感覚で主人公と周りのキャラクターの関係性を見れるし。だから「アビス」の次にほかのゲームをやったら、主人公がしゃべらなくてびっくりしたんですよ。

富澤 ああ、なるほど。主人公にペラペラしゃべらせないゲームはたくさんありますよね。

のっち しゃべらないほうが没入感を高めることもあるし、どちらがいい悪いでなく楽しみ方の違いだと思うんですけど、最初は戸惑ったんです。「周りの人たちは精神的に成長していくのに、主人公が何を考えてるのかわからない!」って(笑)。

富澤 確かにRPGの主人公は明確な意思がわからないものが多いので、その意味では「テイルズ」は少し違った作品なのかもしれませんね。仲間との絆の中で自分らしさを語っていくというのは、ほかの作品ではあまり味わえない醍醐味ですし。

「ゲームで遊んでいただくこと」はサービスですから

のっち 「テイルズ オブ アライズ」で遊んでてすごく感じたのが、マップの歩きやすさ! 散歩しやすいし、「せっかく奥まで行ったのに何もない」みたいなことがないから、優しいなって思いました。

富澤 ダンジョンの設計もそうですね。プレイヤーは自分が選択したことに対して何か結果が欲しいものなんです。だから進める道が2つあるとして、間違った道を選んだとしても、ただ何もない行き止まりにするんじゃなくて「間違ってたけど、この道を選んでくれてありがとう」という何かがあるだけで違うんです。

のっち あー、なるほど。

富澤 例えば、4つある道のうち正解は1つだけで、選んだ道を50mくらい歩かされて何もなかったら、ちょっと「コノヤロー」って気持ちになるじゃないですか(笑)。だから「選択肢は2つにしたほうがいいな」とか「5mも歩けば間違ってるってわかったほうがいいな」みたいなことを考えていくんです。「ゲームで遊んでいただくこと」はサービスですからね。そういった設計にはセンスと経験が凝縮されてるので、面白いゲームはそういう部分も楽しいんです。

のっち そうなんですよね。「ボスがちゃんと強くてレベル上げしなきゃ倒せないけど、通常の戦闘も楽しいし歩いているだけで楽しいから、結局レベル上げがそんなに苦じゃない」とか、「強い敵が増えてきたなと思ったら、お金もけっこうもらえるようになる」みたいなこともその設計ですよね。

のっちさん

のっちさん

富澤 敵を10体も倒して10ガルドしか手に入らなかったら「俺の期待を返せ」ってなっちゃう(笑)。今はほかにいくらでも楽しいことがあるので、不親切だと投げられちゃうんです。

のっち あと、同じ道をずっと歩いてるなと思ったら「この道はいつまで続くんだ?」って言ったり、すっごい高いところから落ちたときにハシゴで登って上に戻ろうとしたら「このハシゴは終わりがあるのか?」って言ったり、プレイヤーが考えてそうなことをセリフにしてくれるのがすごいですよね。めちゃくちゃ寄り添ってくれてる。

富澤 高いところから落ちるって、滝壺のシーンですかね? あのシーンは崖から足を踏み外して滝壺に落ちるときも、そこから上に登るときも、キャラクターの会話が重要だと思っていて。ゲーム内でただただ長いハシゴを登らされたら普通プレイヤーはイライラすると思うんですけど(笑)、「こんな長いハシゴ、現実にあるわけないじゃん」というリアリティラインに対して、キャラクターがツッコミを入れることでそれが笑いに転じるんですよ。

のっち そういうイベントってどうやって考えていくんですか?

富澤 フィールド上でのテストプレイを進めながら、「このへんで遊びが欲しいな」というポイントを設計していきます。A地点からB地点に行くときに、何もない一本道で会話もなく、ただ敵がいるだけだと面白く感じないから、ちょっと寄り道したくなるモニュメントとかランドマークを置いていって、目線を誘導しながら脇道の存在を知らせるんですよ。何もなければみんな正面しか見ないから、「そこに何かがありそう」というのを見せる工夫を丁寧にやらないと、せっかくいろいろ仕掛けを作っても大半をスルーされちゃうので。

のっち 確かに、めちゃめちゃ寄り道しました!

富澤 フィールドのマップをどう面白くするか考えるのはやりがいのある作業だと思います。「アライズ」では先ほど話した滝壺のように、高低差を生かした立体的なフィールドにチャレンジしたので、いつも以上に工夫のしがいのある作品になりました。

「次世代のタイトルを作ろう」とか言っていたら、もっと次世代のハードが出ちゃった

のっち 富澤さんは「テイルズ オブ」シリーズの制作には途中から加わられたんですよね。

富澤 そうなんです。シリーズに関わってから今は6年目で、自分で担当するオリジナル作品としては「アライズ」が1作目です。それまでは「ゴッドイーター」というシリーズを担当したり、アクション寄りのゲームのプロデュースを中心にやっていました。

のっち 「テイルズ」はその前からプレイされてたんですか?

富澤 していました。けど、初めてプレイしたのはこの仕事を始めてからなんです。2008年に発売された「テイルズ オブ ヴェスペリア」が自分が触れた初めてのタイトルだったんですが、そのときに非常に衝撃を受けたんですよ。アニメチックなキャラクター表現のクオリティが当時としては非常に高かったのと、劇場用アニメを同時に制作するマルチメディア展開で多角的にキャラクターの姿を伝えたりもしていて、「ゲームでキャラクターの魅力をここまで突き詰めていけるものなのか」と思いました。だから自分がシリーズに関わることになって、「これだけのキャラクターたちを自分にも生み出せるのか?」というプレッシャーはありましたね。

富澤祐介さん

富澤祐介さん

のっち 「アライズ」は据え置き機のゲームとしてはひさしぶりのタイトルですよね。

富澤 「テイルズ オブ ベルセリア」が2016年発売だから、5年もお待たせしてしまいました。それまでは、外伝的なタイトルも含めると1年に1本以上出ている時期もあったんですが、この規模のRPGを世界中の皆さんにお届けするとなると非常に時間がかかるんです。海外向けにローカライズするために世界中のいろいろな言語に直したり、PS4、PS5、Xbox One、Xbox Series X|S、Steamとさまざまなハードに対応させたりもするので。移植とローカライズって、通常は1年くらいかけてやることなんです。昔だったら1つのハードで出してから、あとで移植していくことが多かったんですが。

のっち それって、同時にやっちゃったほうが楽ってことですか?

富澤 それもあります。時間が経ってから移植するとチームをもう1回組まなきゃいけないですし。それ以上に、できれば各ハードを同時に出したいと思ってたんですよ。世界中どの国も発売日が同じなら、海外の方も含めてみんながネタバレなく一緒に楽しめますし。だから、世界中に高いクオリティで新作を届けるために、今回はあえて長めにお時間をいただいた感じです。

のっち 実際そのおかげで、発売されたときはめちゃくちゃ盛り上がりましたよね。

富澤 「このシリーズは『シンフォニア』以来18年ぶりにプレイしました」とか「最初の『ファンタジア』以来です」とか、「今は35歳ですが『アライズ』を知って、中学生の頃に大好きだったJRPGをひさびさにやってみたい気持ちになりました」みたいな反応が多くて、それがとてもうれしかったです。キャラクターデザイナーをバンダイナムコスタジオの岩本稔さんに一本化し、さまざまな挑戦を社内チームで突き詰めようとしたタイトルだったので、既存のファンの方にはどう受け止められるか不安もあったんですが、昔からプレイしていただいた方々にも思った以上に好評だったようで。

のっち ゲームを作っている途中で現実の世界がガラッと変わってしまいましたが、それによって企画が変更になったとか、何か影響があったりしたんですか?

富澤 コロナ禍の影響で内容が変わったというのはないんですけど、発売日が1年後ろに倒れたんです。もともと2020年発売予定だったけど、開発終盤でチームが完全リモートワークになってしまって、「最後にクオリティをもう少し上げたい」と思ってたのにその時間がなくなってしまって。ただそのおかげで、PS5などの次世代ハードに対応させる時間もできました。

のっち そっか、延期してる間にPS5が出ちゃったんですね(笑)。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

左からのっちさん、富澤祐介さん。

富澤 企画がスタートした2016年なんて、まだPS5は影も形もないですからね。前作の「ベルセリア」が発売されたのが、ちょうど皆さんがPS3からPS4に買い替えたくらいのタイミングだったので、「今度はPS4で遊ぶのを前提にした次世代のタイトルを作ろう」とか言っていたら、もっと次世代のハードが出ちゃったという(笑)。ゲーム開発に何年もかけるとこうなるんですよ。

のっち ははは。PS4からPS5に変われば、できることも増えますし大変ですよね(笑)。

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キャッチコピーを考えるために、そんな大会議が行われていたとは

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Perfume_Staff @Perfume_Staff

「のっちはゲームがしたい!」連載第11回が公開✨
今回はバンダイナムコエンターテインメントを訪問。「テイルズオブ」シリーズIP総合プロデューサーの富澤祐介さんにお会いしてきました。のっちがRPGにハマったきっかけになった「テイルズ オブ ジ アビス」の話も!
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