土岐麻子によるイラスト。キャラクターたちが手にしているのは、MONSTA Xのペンライトだ。

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.7 [バックナンバー]

MONSTA Xを推し尽くすために、もっと知りたい!

「いかに日本語の響きの主張をなくすか」こだわり抜かれた日本盤アルバムができるまで

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MONBEBEをドキッとさせたい

MONSTA X「Flavors of love」初回限定盤ジャケット

MONSTA X「Flavors of love」初回限定盤ジャケット

──先日、日本3rdアルバム「Flavors of love」がリリースされましたが、オリジナル楽曲の場合、歌割りはどのように決めているのですか? 全員スルーで録ってあとからいいところを選ぶ方式ですか? それとも、あらかじめ歌割りを決めておく?

後者ですね。さっき主役を据えるとお話したことにも通ずるのですが、「この曲はこの人が主役だからここを歌わせよう」とか、「ショヌはこんなこと言わなさそうだからここ歌わせよう」とか(笑)。いかにMONBEBE(MONSTA Xファンの呼称)をドキッとさせるかを考えながら歌割りを考えてます。

ショヌ

ショヌ

──意外性のあるパートをお願いしているということですか?

はい。「『お前』ってショヌ言わなさそうだな」とかは大事にしていますね(笑)。

──言わなさそう!!(笑) 曲自体はどのようなフローで作っているのですか?

まずは1曲を決めるのに、500曲ぐらいデモを聴きます。

──500……! 選曲の分母として、かなり膨大ですが……。

あまり感情を入れて聴くと、「MONSTA X」というイメージに縛られて選んじゃいそうな気がするので、単純にいい曲かどうかという基準で選ぶようにしています。作家さんは海外の方にお願いしています。ジャンルによっては作家さんを指名して楽曲を書いてもらったりもします。

──今回のアルバムはどちらの作家さんが多いんでしょうか?

今回はヨーロッパとアメリカの方が多いです。アメリカの方はわかりやすく音楽の旬を反映してくれます。

──どういうつながりで人選をされているのですか?

興味がある楽曲の作家さんを調べて、作家さん個人のInstagramを覗きに行きますね。どんな曲を作っているのかがリアルタイムでわかるのですごく参考になります。ダンスミュージックが上手かどうかはすごく気にしています。K-POPは「目で見る音楽」だと思うので、映像に落とし込んだ時にダンス映えする曲が得意かどうかは大切にしていますね。

──書き下ろしというよりはストックからのセレクトですか? あとはコライトとか?

どちらもあります。コライトの楽曲が多いですね。毎回楽曲のテーマを決めてから作家さんに発注をします。2週間程度で500曲くらいのデモが集まるので全曲試聴して。しっくりくるものがなかったら、その中でイメージに近い方に「あと数曲書いてほしい」って相談したりもしますね。

──おおー。時間をかけてらっしゃいますね。曲を決めてからはスピーディーに?

スピーディーですね。今回は残念ながらコロナの影響で進行が延びたりしましたが、楽曲や歌詞の季節感をすごく大事にして作っているところもあって、基本的には予定しているリリース時期からあまりズレることなく進むプロジェクトだと思います。

──曲と歌詞ができてからは、このご時世ですと、データをメンバーに送ってやりとりするという形でしょうか。韓国の現場にも日本語詞をディレクションするような方はいらっしゃるんですか?

はい、今はZoomでのレコーディングが中心なので、日本語ディレクションができる方に立ち会ってもらって作業しています。

──間に人が増えると、日本語のアクセント、発音のディレクションはさらに難易度が高くなりそうですね。

メンバーがちゃんと覚えてくるので、そんなに手こずることもないですよ。「さっき始めたばかりなのにな」ってくらいパパッと録り終わることもあります。ジュホンは特に速い! どんなに難しいラップでも一瞬です。

ジュホン

ジュホン

──さすが! 今回の1曲目「WANTED」のラップの部分なんて、日本人のラッパーにしか聞こえなくて。こっちの耳ががんばらなくても、日本語がばっちり聞こえてきます。

私でもこんなにきれいな発音で歌えないなって思うくらいです(笑)。

──ラップがうまいのはもちろんだけど、ちゃんと日本語に聞こえるっていうのがすごいことだなと。韓国語って、日本語よりも子音が短いというか……その短い子音を日本語にすると、言葉がシュッと空中に漂う感じがして。それが魅力的に感じられることもあれば、曲によってはリズムがピタッとハマらない感じになったり、違う言葉に聞こえすぎたりということがあると思います。でも「WANTED」はそういったことがなく、日本語の気持ちいい響きが聴けますね。レコーディングの前に、仮歌も用意するのでしょうか?

はい、用意します。メンバーには「目で覚えないで、耳で覚えて」って伝えているんです。たぶん私たち日本人も普段、文字通りに発音していないときがありますよね。なので音で覚えてもらわないと不自然になってしまう。

──なるほど、そうですよね。パートごとにメンバーが歌う場所が決まってるわけですが、仮歌の方に、そのメンバーに雰囲気を寄せて歌ってもらったりとかはありますか?

ないですね。完成するとメンバーらしさが必然と出てきます。

──じゃあ、メンバーは仮歌を聴いたあとで、自分のニュアンスを入れていく、みたいな感じなんですね。

はい。メンバーが歌うとめちゃくちゃよくなるんです。よく、仮歌マジックってあるじゃないですか。仮歌がよすぎて本録音がそれを超えられない魔法というか呪いというか。それがMONSTA Xはまったくないんですよね。本当に彼らの個性がちゃんと出る。

──いいですね……そのあたりのお話、もっとください!(笑)

いや、ホントすごいと思います。キヒョンに関しては、私たちの想像をはるかに超えていくんですよ。「RE:VERSEDAY」のサビは仮歌さんにファルセットで歌ってもらったんですけど、キヒョンがいざ歌ったら、地声で出るっていう(笑)。「こんなキー出ないはずなんだけどな」ってところも地声で歌えちゃって。あっけにとられるみたいなことはありますね。あと、ジュホンとI.Mはすごくアイデアマンなんですよ。レコーディング中に「ここでこういうコーラス入れたらよくないですか?」「ここでこの煽り入れたらカッコよくないですか?」って提案をたくさんしてくれます。そういうアイデアも全部録って作品に生かすので、仮歌にはない完成度になっていくんだと思います。作品に対しての「前のめり感」っていうのは、一緒に作業していてすごく面白いなって思います。

フラットで優しいメンバーたち

──自分たちが主体的に曲作りに関わっていることが、作品やパフォーマンスの強さにつながっているんでしょうね。亀田さんからの視点でアルバムの聴きどころを、1曲ずつ教えてもらえたりしますか?

はい! ではまず1曲目の「WANTED」から。ショヌが歌う「世界へ」「未来へ」というファルセットの高音部分が、とても色っぽく仕上がっています。「Follow -Japanese ver.-」はI.Mのラップパフォーマンスの個性が際立っていますし、「FANTASIA -Japanese ver.-」では、キヒョンのどんどん駆け上がっていく高音メロが聴きどころです。「RE:VERSEDAY」は……先ほどお話したエピソードの曲ですね。キヒョンのサビ頭の「今すべてを0に戻して」の部分は、当初ファルセットを使ってもらう予定だったのですが、音源では地声で歌っていて、圧巻です。

キヒョン

キヒョン

──かなり高いのにこれで地声なんて。本当にきれいですよね。

そうなんです。5曲目「Diamond heart」は、ジュホンとI.Mのラップワークが主役の曲ですね。続く「Secret」は、ショヌが「Secret」のあとに「シーッ」と言っているのが隠し味。7曲目の「Love Killa -Japanese ver.-」は韓国語オリジナルでもですが、ジュホンの「Love Killa」になりきっている表現力が素晴らしいんです。そして「Detox」は、ミニョクの「La la la la la la 」のイントロの部分に注目ですね。異世界に連れ出してくれそうな表現で歌ってもらいました。「Wish on the same sky」では、キヒョンとショヌのサビの追っかけがバラードらしい壮大さを演出してくれるのですが、ヒョンウォンの「抱きしめてる」の表現力も最高です。10曲目「NEO UNIVERSE」の「“いつか”の約束をしよう 指折り数えて」というところは、ヒョンウォンにMONBEBEと指切りするイメージで歌ってもらっています。そして最後の「Flavors of love」は、ミニョクがいろいろな甘いものをMONBEBEとの関係に例えて歌っているところが胸キュンポイントです!

ヒョンウォン

ヒョンウォン

──ありがとうございます! これからアルバムを聴く人は、ぜひガイドにしてほしい……! ところで、メンバーとほかの音楽の話をすることはありますか?

はい、会ったときには「最近僕は日本のこの曲が好きです」と教えてくれます。

──そうなんだ!

曲の好みも六者六様です。休憩中や待機時間も「最近日本でどんな曲が流行ってるのか教えてほしいです!」と聞いてくるんですよ。メンバーはずっといろいろな音楽を聴いてる感じがありますね。

──日本の音楽シーンを意識して、向き合っているんですね。だからこその日本語歌唱のクオリティの高さなのかな。あと、メンバーはストイックなイメージがありますが、実際現場での姿はどうですか? 先日I.M氏にラジオでインタビューした際(今年2月、土岐のラジオ番組「TOKI CHIC RADIO」にI.Mがゲスト出演した)にも、日本語の「つ」などの難しい発音はものすごく練習して録音に臨んでいる、とおっしゃっていて。

I.M

I.M

そうですね、発音はできるまでやります。全員、自分が納得するまで何度もやり直してくれますね。あとは、すごく優しいです。スタッフにご飯食べたかを毎回確認したりとか、ジュースを買ってきてくれたり。スタッフへの気遣いがあります。初めてメンバーと接したスタッフはみんな、「なんていい人たちなんだろう」って言いますね(笑)。

──優しい! オープンマインド!

私は韓国語が話せないので、メンバーは日本語で話そうとしてくれます。レコーディングのときはオンラインの画面から「元気ですか?」「最近どんなアニメが流行っていますか?」と聞いてきたり(笑)。日本のファンのこともすごく気にしていて、「日本に行きたいです。まだ行けないですか?」ってよく言っていますよ。

──うれしい! モネクが日本で愛されている要因は、そういうところもあるんでしょうね。ファンと相思相愛のような。公の場でも、日本語を積極的にしゃべってくれる印象があります。楽屋でメンバー同士で教え合っていたりとか。

ミニョク

ミニョク

特にミニョクは日本語が上手で、「日本語全部しゃべれるんじゃないかな?」って錯覚することがあります(笑)。

──確かにミニョクさんの日本語力はすごいですね。私の経験上、レコーディングスタジオでは本当にそこにいる皆のテンションが一致しないといいものを作るのは難しいと思っていて。言葉が通じないにしても、心をお互いに開き合っていないと、作品をいい方向に持っていきづらいと思うんです。モネクはいい現場作りがされているんですねえ。

はい。例えばリリースする曲1つとっても、メンバー全員の希望通りになっているかというと、そうではないと思います。でも毎回リリースするタイミングで、彼らの今の日本での立ち位置や世の中の状況を踏まえて楽曲を決めていて、「私が言う事が正しいわけじゃないけど、今この曲をリリースすることがベストだと思う」とちゃんと伝えるようにしています。できるだけチームとして良いものができるように、温度差が出ないように一緒にやっていけるといいなと思い、5年が経ちました。

──モネクの音楽はまず、メンバーそれぞれの声と歌唱力が武器だと思っていましたが、お話を聞いていて、それを生み出す環境の力が大きいんだなと感じました。そして、スタッフの皆さんも含めてのMONSTA Xなんだっていう。そういう現場作りっていうのは本当に大事なことでありつつ、双方にとって簡単なことではないと私は思います。

うれしいです。私たちスタッフはチーム内でめちゃくちゃ話すんですよ。クリエイティブやプロモーションなど、いろんなことを。私1人で決めている感じがあまりしません。否定も含めて意見を言ってくれるので、とても作品作りの参考になります。チームとして同じ目線で作品を作れている感じがありますね。

願わくば40代、50代になってもずっと

MONSTA XのCDに囲まれる土岐麻子。

MONSTA XのCDに囲まれる土岐麻子。

素晴らしい。モネクチーム丸ごと、推していきたい。

兵役や、日本とは違った契約文化がある国のアイドルを応援していくことは身も心も忙しいし、とくにコロナ禍においては、ともすれば遠くに感じてしまいそうになることもあるが、亀田さんを含めたチームの皆さんのモネクへの愛は頼もしかった。

今回のインタビューを踏まえつつ彼らの日本アルバムを繰り返し聴くたび、メンバーの日本活動への覚悟と、日本MONBEBEへの愛を感じる。

アイドルとともに歳を重ね、そのときそのときのパフォーマンスを愛するという応援の歴史を持つ日本で育った、私たち。最近は韓国でも長く活動するグループが増えているが、亀田さんたちのような頼もしいチームと日本のファンがいれば、メンバーの舞台を守り続けるビジョンが強く描けるのではないか……なんて思ったりした。

いつか「推せるときに推せ」が杞憂だったねと笑えるくらい長く、できれば40代、50代になってもずっと、老舗のグループとして唯一無二のパフォーマンスを見せ続けてほしい。
そして、そのクオリティを支える彼らの心と体の健康を、心から願っている。

土岐麻子

土岐麻子

土岐麻子

1976年東京都生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2021年2月17日にカバーアルバム「HOME TOWN ~Cover Songs~」を発売し、今夏には全国6都市にて1年半ぶりのライブツアー「TOKI ASAKO LIVE 2021 Summer "MY HOME TOWN in your home town"」を12公演開催する。

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