土岐麻子によるイラスト。キャラクターたちが手にしているのは、MONSTA Xのペンライトだ。

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.7 [バックナンバー]

MONSTA Xを推し尽くすために、もっと知りたい!

「いかに日本語の響きの主張をなくすか」こだわり抜かれた日本盤アルバムができるまで

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シンガーの土岐麻子が中心となり、さまざまな角度からK-POPの魅力を掘り下げていくこの連載。7回目では土岐が愛してやまない推しグループ・MONSTA Xを題材として取り上げる。5月に日本3rdアルバム「Flavors of love」をリリースし、6月1日には韓国でミニアルバム「One Of A Kind」の発売も控えている6人組ボーイズグループMONSTA X。今回は土岐が自らの言葉でグループの魅力を書き記し、さらにはユニバーサルミュージックの制作ディレクターへのインタビューも実施した。日本で発売される音源はどのようなチームで制作しているのか、コロナ禍の中で「Flavors of love」がどのように作られたかなどの秘話をじっくりと堪能してほしい。

取材・文・イラスト / 土岐麻子

※イラストは2019年から2020年にかけて開催された「TOKI ASAKO LIVE 2019-2020 “PASSION BLUE ~冷静寄りの情熱ツアー”」のツアーパンフレットに、「まちがいさがし」として掲載されたもの。

推せるときに推し尽くすために、もっと知りたい!

K-POPスターを推す人の日々は忙しい。
リリースや番組出演といった膨大な情報量による時間的、物理的な忙しさもさることながら、心のなかも年中無休でせわしないものだ。
脱退、休業、怪我、デマ、事務所とのトラブル、炎上、兵役、ディスパッチ砲(韓国のメディアDispatchによる熱愛スクープ)、解散……。
次から次へと推しへ降りかかる火の粉に、ファンも苦悩が尽きない。

私もこれまで、推しグループにまつわる大きな問題や実にささやかなデマを目にするたび、じんわりとした不安を感じたりしてきた。

……私はただ、彼らの完璧なパフォーマンスをずっと観ていたいだけなのに!!
空に向かって叫んでももう這い上がることができない沼。
K-POPヲタ道とは、どの道も茨の道なのかもしれない。

火の粉に見舞われても常に素晴らしい活動で回答をくれる彼らを見るたびに、そこから垣間見える真摯な姿や生き様にさらに心惹かれていったのも事実。
ある姿にはリスペクト、ある姿には共感、ある姿にはヒーリングを。そうしてダンスや歌とともに、人物像も含めて、そのすべてが私のエネルギー源の1つとなった。

詠み人知らずな有名なヲタ文言「推しは推せるときに推せ」には、時が経つほどに深みを感じる次第だ。ほんと、全員そろって活動できるって奇跡のように美しい刹那なのかもしれないねえ……と。

私の推しグルの名は、MONSTA X(以下、モネクと略します)。
そんなモネクが先日5月5日、3枚目の日本アルバム「Flavors of love」をリリースした。
韓国のアイドルは本国でのリリース以外にもアメリカ盤や日本盤など、他国の言語でアルバムを出すことが多いのだが、既発曲の訳詞バージョンを収録することもあれば、その国のために用意したまったくの新曲のこともある。
その国によって制作陣が変わり、作風も大きく異なることがあり、面白い。
モネクはこれまで、韓国、アメリカ、日本でそれぞれに違った音楽性の作品をリリースしてきた。

MONSTA X

MONSTA X


今回のアルバム「Flavors of love」では、これまで以上の「日本語ポップス」としての完成度の高さに驚いた。
驚きついでに「推せるときに推し尽くすために、もっと知りたい!」と勢いづき、ユニバーサルミュージックを訪ね、日本の制作チームへインタビューをしてきた。
モネクの魅力はもちろん、日本盤ならではの方針だったり、このコロナ禍でいったいどんなふうに録音がなされたのかなど、たくさんお話を聞けたのでぜひ読んでいただきたい。

と、その前に……モネクを知らない方に、駆け足ではあるが私から紹介させてほしい。

まずは、こちらの映像を。
彼らのデビュー年、2015年のミュージックビデオ。
彼らのよさは、なんといってもそれぞれの違う強みがある個性のマッチング。
ここでは腹筋を見せるようなダンスも印象的。

この曲のダンスのフォーメーションの最高さは、プラクティス(練習)動画でさらによくわかる。引きの定点で撮影しているのに、この迫力。個人個人の見せ場もありつつ、ユニゾンではまるでコピペのようにそろっているのだ。

歌のよさをもう少し拡大して観てみよう。ブルーノ・マーズのカバー。私の推し、ジュホンはラッパーでありながらボーカリストとしてもとても強い(向かって左端の、白いショートジャケットのメンバー)。

ジュホン、I.Mというラッパー2人によるHIP HOPセンスと、やや低めのウィスパーボイスのヒョンウォン、ハスキーボイスのウォノ、フェミニンで可憐なボーカリゼーションのミニョク。そしてリードボーカルのショヌにはR&Bテイストが、メインボーカルのキヒョンの歌声にはロック的な魅力がある。
ちなみに、キヒョンの強みが爆発しているカバー曲はこちら。

一転、アメリカでのリリース曲は、彼らのポップサイドであると言えよう。

この曲の制作にはリーダーのショヌが携わっている。

モネクはメンバーのうちの何人かが作業スタジオや制作パートナーを持っているようで、韓国盤では多くの楽曲を自分たちで作っているところも魅力の1つだ。
これはメンバー同士でパートチェンジに挑戦して録音をしている映像だが、自然な作業風景を見ると、普段から自分たちでオペレートして録音していることがわかる。

そして、ステージパフォーマンスを2つ。舞台でももちろん、それぞれの個性を楽しめるのだ。

ということで、本当にほんの一部だったが、モネクの魅力をピックアップしてきた。知らない方にとって、興味を持つきっかけとなれば幸いである。

さて、ここからはいよいよ今回の日本アルバム「Flavors of love」の制作ディレクター、亀田裕子さんへのインタビューをお届けする。ヲタ心を落ち着かせ、冷静沈着に臨んだ(つもり)。

亀田さんが彼らの担当になったのは、2017年。日本デビューの準備期間も含めると、モネクとは約5年の付き合いとのこと。

全員にスポットライトが当たる曲作り

左から土岐麻子、亀田裕子ディレクター。

左から土岐麻子、亀田裕子ディレクター。

──今は韓国へ行き来できないと思いますが、普段はどのぐらいの頻度であちらに行くものですか?

週1で行っていました。打ち合わせか撮影かレコーディングかをひたすらやって、忙しいときは日帰りで……っていう生活をずっと送っていましたね。

──時間的には、北海道に行くくらいの感覚で行けますからね。

そうですね。朝イチで行って最終便で帰ってくれば全然行けちゃいます。土岐さんは韓国へはよく行かれていたんですか?

──いや、そんなにです。15年くらい前に仕事で何度か行ったことがあるのですが、個人的な旅行は一度だけ。

K-POPを好きになってからですか?

──はい。2019年の秋に。MONSTA Xが日本デビューしたのは2017年ですよね。

そうですね。MONSTA Xの日本チームは、スタートからスタッフの布陣がまったく変わっていなくて。デビュー期から今まで変わることなく、全員の記憶が共通、という状態でやれているんです。

──すごい!

なかなかないことですよね。クリエイティブチーム、レコーディングチームも、5年間同じです。アーティストの個性を深く理解して作ったほうがいい作品ができると思っているので、クリエイティブスタッフを変えずに来ました。

MONSTA Xが日本でリリースしてきたCDの数々。

MONSTA Xが日本でリリースしてきたCDの数々。

──最初に亀田さんがMONSTA Xを担当することになったとき、日本での展開においてはどのようなビジョンがありましたか?

当時韓国での最新曲は「Fighter」だったのですが、それ以前にリリースされた「HERO」のミュージックビデオがYouTubeですごく回ってて。「HERO」はMVがカッコよかったんですよ。曲のコンセプト自体もめちゃくちゃ面白かったですし。最初にゲームっぽい音が入ってるんですけど、ああいうセンスもカッコいいなと思って。「最新曲じゃないけどこの曲で行こう!」ということで、「HERO」で日本デビューすることにしました。

──なるほど、私も最初に射抜かれたMVは「HERO」でしたよ。

ずっと屋上で撮っているだけなんですけどね。それでもあれだけ勢いがあったのは、彼らの個性、曲の個性の両方が強かったんだと思います。賭けではありましたが、それがオリコンで2位を獲り、いいスタートダッシュを切ることができました。

──英断! MVの再生回数は、まさに彼らのパフォーマンスの魅力が牽引した結果なんでしょうね。

デビューのときから、韓国のクリエイティブと日本のクリエイティブは分けて考え、日本スタイルにカスタマイズしたものにしようと。メンバーそれぞれの個性の出し方を曲によって変えることが大事だろうなと思っていました。私の中では曲によって毎回主人公を変えているんですよ。「この曲はヒョンウォン」「この曲はミニョク」「この曲はジュホン」という形で、全員にスポットライトが当たるような曲作りを意識しています。

日本語の響きの主張をなくす

──ところで、日本語バージョンの作詞に関して、こだわっていらっしゃるポイントってありますか?

私は韓国語オリジナル楽曲の日本語バージョンをリリースすることは、本当はリスクが高いと思っているんです。ネットがない時代ならファンの皆さんも日本語バージョンを待っていてくれるかもしれないですけど、いつでも自由に聞ける曲の言語を変えて出す必要があるのか、と。ファンの皆さんのほうがよっぽど韓国語をわかっているし、日本語バージョンがリリースされる頃には、すでにオリジナル曲が耳に馴染んだ状態だと思うんです。せっかくリリースするからには、日本語ならではの世界観も見せたいし、その中でオリジナルが好きな人たちにも好きになってほしい。なので、日本語バージョンにするときはオリジナルの詞の世界観を壊さずに「いかに耳なじみのいい日本語を使うか」ということに気を付けています。日本語の響きの主張をなくす。耳で聴いた韓国語の響きをそのまま日本語に変換してストーリーを展開していくイメージです。

──確かにモネクの日本語バージョンは無理がなく、すっと耳に入ってくる感じがあります。

K-POPってやっぱり、日本語バージョンに対する抵抗を持つ人もいると思うんですよ。オリジナルの世界観を壊してしまったら「わざわざ何してくれんねん!」って感じる方もいらっしゃるかもしれない。だからそこは細心の注意を払って言葉選びをしています。

──作詞家の方は大変ですね。

大変だと思います。条件を満たす限られた日本語しか使えないですから……。

──でも大枠での歌詞の世界は符合していなきゃいけない……相当な努力をお察しします。

オリジナルをリスペクトしながら日本語バージョンをどう成立させるかという部分は、デビュー作からこだわってやっているところだと思います。

──やっぱりファンだったら、韓国語オリジナルを聴くときに「ヒョンウォンのあのフレーズが聴きたい」とか「キヒョンのあのロングトーンが気持ちいいんだよ」とか、好きなポイントがやってくるのを待ちながら再生することが多いと思いますが、モネクは確かにそのあたりが日本語バージョンでも違和感なく入って来る感じがします。本人たちも歌いやすいのでは。

日本語はアクセントが強いので、曲に落とし込んだときに、音より言葉に耳が引っ張られちゃうんですね。なので言葉に違和感が出ないようにすごく気をつけていますね。

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