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細野ゼミ 2コマ目 後編 [バックナンバー]

細野晴臣とエキゾチックサウンド(後編)

エキゾチカとはいったい何か? 安部勇磨(never young beach)&ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)とその定義を考える

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活動50周年を経た今なお、日本のみならず海外でも熱烈な支持を集め、改めてその音楽が注目されている細野晴臣。音楽ナタリーでは、彼が生み出してきた作品やリスナー遍歴を通じてそのキャリアを改めて掘り下げるべく、さまざまなジャンルについて探求する連載企画「細野ゼミ」を展開中だ。

ゼミ生として参加しているのは、氏を敬愛してやまない安部勇磨(never young beach)とハマ・オカモト(OKAMOTO'S)という同世代アーティスト2人。第2回では細野が1970年代後半に発表した“トロピカル3部作”に多大な影響を与えたエキゾチックサウンドを題材に語り合ってもらった。前編ではエキゾチックミュージックの始まりと“トロピカル3部作”について掘り下げたが、後編では細野、安部、ハマの3人にエキゾの定義を考えてもらった。

取材 / 加藤一陽 / 望月哲 題字 / 細野晴臣 イラスト / 死後くん

歌い手によってサウンドは変わる

ハマ・オカモト 当時は鈴木茂さんや林立夫さんとか「泰安洋行」に参加してるミュージシャンの皆さんも、細野さんと一緒にエキゾな音楽を一緒に聴いたりしてたんですか?

細野晴臣 いや、そんなことはない。僕はみんなから変な人扱いされてたから(笑)。

安部勇磨 「いや細野さん、これは……」みたいな感じだったんですか?

細野 当時はクラウンレコードというレコード会社に所属してたんだけど、スタジオにへんてこりんな中華風のレコードとかがいっぱいあったんだ。香港だか、どこだかの歌謡曲みたいなやつが。そういうのを1人で聴いてたわけ。そうしたらみんなが遠くにから僕を見て、ひそひそなんか言ってるんだよ(笑)。

ハマ安部 あははは(笑)。

細野 それ以来ラジカセから音を出さないでヘッドフォンで聴くようになった。

ハマ じゃあみんなで面白がっていたというよりも、細野さんがある程度イニシアチブを取りながらレコーディングを進めていったわけですね。

細野 そうだね。だって、みんなを説得するような強い音楽でもないし。

安部 じゃあフレーズとか、わりと皆さんに任せてたんですか?

細野 そうそう。セッションしながら。

安部 へえ! それでああなるんだ。

ハマ 制作過程は実にロックバンド然としてるんですね。

細野 そうなんだよ。だって、つい2、3年前まで「HOSONO HOUSE」みたいなことをやってたわけだから。

ハマ そうですよね。

安部 でも皆さん20代前半で、あれができちゃうっていうのはすごい。やっぱり感覚の鋭さや音楽知識の豊富さゆえなんでしょうね。

細野 当時みんなが聴いていたのはThe BandやLittle Feat、あとはSly & The Family Stoneやビリー・プレストンといったブラックミュージック。そこから得た知識や感覚で僕の音楽に臨んでくれたんだと思う。彼らは特にエキゾチックサウンドを目指していたわけではないし、僕のほうも「こうじゃなければいけない」みたいなこだわりがなかった。そもそも曲がへんてこりんだったし、曲自体が持つエキゾチック性みたいなものがあったから、演奏がロックでも大丈夫だったんじゃないかな。

ハマ 「泰安洋行」はリズムがすごく立ってますもんね。

細野 うん、そう。

ハマ エキゾチックサウンドと言われるインストゥルメンタルと比べると絶対的にリズムが強い。

細野 やっぱり70年代にできた音楽なんだなあって思うよ。今聴くとね。

ハマ ロックやソウルにハマっていた皆さんのフィーリングがマッチして、ああいう独特なサウンドが生まれてきたわけですね。だから僕らが想像していた以上に、バンドとして1枚のアルバムを作るというニュアンスが強かったんでしょうね。

細野 強かったね、確かに。だから歌い手によってサウンドって変わるんだよ。要するに「泰安洋行」は僕のソロアルバムで自分が歌わないといけないからああなっちゃった。で、小坂忠が歌ったら「ほうろう」(1975年発表)みたいなアルバムができるしね。歌う人によって演奏のノリを変えざるを得ないから。

ハマ そうか。細野さんが歌っているというのもかなり重要ですよね。

細野 まあ仕方なく歌ってた感じですけど(笑)。

ハマ 確かに「泰安洋行」と小坂忠さんの「ほうろう」って、どちらもベーシックな演奏はティン・パン・アレーだもんね。

細野 そうなんだよ。

ハマ やっぱりバンドですよ、安部さん。

安部 ね。今のお話を聞いてバンドの可能性を改めて感じさせていただきました。

「HOSONO HOUSE」が好きな人たちはどっか行っちゃった

──ちなみにトロピカル3部作に対するリスナーの反応はどうだったんですか?

安部 確かに気になる。

細野 誰も聴いてなかったんじゃないかな(笑)。

ハマ安部 あははは(笑)。

安部 まあでも、「HOSONO HOUSE」のあとにああいうサウンドが来ると、さすがにみんなびっくりしたでしょうね。

細野 スタッフがどう思ってたのかも僕は知らないんだよね。

安部 そういうのって当時気になったりしたんですか? 周りがどう思ってるとか。

細野 何も気にしなかった(笑)。

安部 え!

ハマ 「できたな。よし」って感じで?

細野 そう。でも「HOSONO HOUSE」が好きな人たちがどっか行っちゃったなって感触はあったね。みんな逃げちゃったんだろうなと。

ハマ そもそも「HOSONO HOUSE」以降って、ソロのライブはあまり頻繁にやってらっしゃらなかったんですか?

細野 そうだね。それほど多くはやってないと思う。

ハマ それこそ僕なんかは、前編でも話題に上がった中華街ライブの映像(2007年に発表された細野のボックスセット「Harry Hosono / Crown Years 1974-1977」付属のDVDに収録)の印象が強いんですけど。

安部 あの映像、何回観てもカッコいいよね。

ハマ でも確かに言われてみれば、はっぴいえんど解散(1972年)の翌年に「HOSONO HOUSE」がリリースされて、次の年にはもう「トロピカル・ダンディー」が出てるわけですから、トロピカル3部作にバンドっぽいフィーリングがあるのは、すごく腑に落ちるところで。

細野 だって当時はベースを抱えるとファンクばっかり弾いてたから。

安部 奇跡の3部作ですね。その過程を知れただけでも今日は大満足です(笑)。

ハマ エキゾ自体に定義がないっていうのも面白かったよね。僕らがなんとなく感じていた“なんちゃって感”が、あながち間違いじゃなかったっていうのもうれしかった。

安部 アンビエントのときもそうだったけど、エキゾも最初の何小節かで「あっ、この感じ」って伝わってくるものなのかもしれないね。

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