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細野ゼミ 2コマ目 後編 [バックナンバー]

細野晴臣とエキゾチックサウンド(後編)

エキゾチカとはいったい何か? 安部勇磨(never young beach)&ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)とその定義を考える

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「SUKIYAKI」はエキゾチック

ハマ ちなみにYMOでマーティン・デニーの「Fire Cracker」をカバーしたのは、「電子音楽でエキゾを表現してみたら面白いんじゃないか?」っていう発想だったんですか?

細野 まあそうだね。単純にそうかも。あと、当時はアーケードゲームが流行り始めていて、そこから得たインスピレーションも少なからず影響してる。

ハマ そうだったんですね! ゲームミュージックからの影響が。

細野 そのあたりのいきさつは話すと長くなるんで、おいおいこの連載で話してもいいかもしれない。

ハマ安部 楽しみです!

細野 で、話を戻すと「Fire Cracker」はYMOで最初に試した曲だったんだけど、生でやったら全然面白くなかったんだよ。

ハマ そうだったんですね。

細野 それで全面的にコンピューターでやってみたわけ。そこで手応えを感じてYMOは一気にコンピューターミュージックになっていったんだよ。

ハマ このままやってみようと。

細野 そう。それがなぜか知らないけどアメリカのR&Bチャートに入って。

──当時YMOがR&Bとして扱われていたというのも面白いですよね。

ハマ 確かに。ダンスミュージック的な要素があったからなんですかね?

細野 まったくわからない(笑)。そういえば最近、マライア・キャリーから許諾申請をもらったよ。楽曲の中でYMOの「Fire Cracker」をサンプリングしてるみたいで(2001年発表の「Loverboy (Firecracker Original Version)」)。ニューヨークにある教授(坂本龍一)の事務所にマライア・キャリーのオフィスから、「皆さんによろしくお伝えください」ということで。

ハマ なんと律儀な(笑)。マライアの株が上がりますね。

安部 筋通しますみたいな(笑)。

ハマ でもYMOが海外で評価されたことは、細野さんにとっても、すごくうれしかったんじゃないですか?

細野 うれしかったね。

ハマ 「海を越える」という言葉の意味が今とは比べ物にならないくらい重かっただろうし。

安部 変な話、今は海外の人とも簡単につながれちゃうからね。

細野 そうだね。距離があったね、当時は。

安部 距離が近付いたのは、いいことか悪いことかわかんないですけど。

細野 僕らの前には坂本九さんの「上を向いて歩こう」が全米で大ヒットしたけど、あの曲も洋楽の王道をいく名曲だよね。

ハマ そうですね。

細野 でもタイトルは「SUKIYAKI」なんだよ。

ハマ 日本っぽいタイトルを付けられちゃって(笑)。

細野 今思えばそのタイトル自体、すごくエキゾチックなんだよ。

安部 確かに!

ハマ めちゃくちゃエキゾチックですね、 「SUKIYAKI」は(笑)。

──ある意味、その雑さもエキゾチックというか。

ハマ 勝手ですもんね、ニュアンスの捉え方が(笑)。いまだに「天ぷら」「忍者」「侍」っていう日本に対するイメージは変わってないですし(笑)。「ブレードランナー」に登場する日本の近未来的なイメージとか。「アベンジャーズ」とかもそうですけど、これだけグローバル化してるのに、いまだに日本は雨が降ってて電光掲示板がビカビカ光ってるようなイメージで。

安部 あ、そうだったね!(笑)

ハマ あれも、ある種のエキゾ感というか。“なんちゃって日本”みたいなイメージかもしれないですね。

──日本と上海がごっちゃになってるような。 

ハマ アジアのイメージがごっちゃになってる。ただ、そこをリアルにやってくれとも思わないというか。完璧な渋谷とか描かれてもワクワクしないし。その胡散臭さが、やっぱりいいなと思うんですよ。

細野 確かに。僕のエキゾ現体験は、小学生のときに観た「八十日間世界一周」(日本では1957年に公開)という映画だったかもしれない。確か横浜が出てくるんだけど、ものすごくワクワクするような景色。港町で電信柱がたくさん立ってて、きれいな女性が着物着て歩いてるっていうね。それが目に焼き付いちゃって。あの光景が僕にとってエキゾチックの原点だったのかもしれない。

──もしかしたら、このお話がエキゾの本質かもしれないですね。

ハマ 「やっぱりこの感じなんだ」って気持ちになりますね。細野さんとお話していると。

──そして、ハマさんが言うように「ブレードランナー」で描かれている日本も、たぶん同じくエキゾなんでしょうね。

ハマ すごくエキゾだなと思います。そういう意味では。

細野 SFなんかそういう要素あるね。すごくエキゾチックだと思う。

エキゾとは「遠くにあるものを近くに持ってきて眺めること」

──でも、そういうSF的な世界観をトロピカル3部作を通じて表現していた当時の細野さんの頭の中はいったいどうなっていたんだろうっていう素朴な疑問も僕らの中にはあって。

ハマ そうですね。

細野 半ば無意識的に作ったものだからね。そういえば「はらいそ」を作ったあと、イラストレーターの横尾忠則さんに誘われて僕はインドに行ったんだけど、実は最初すごく嫌だったんだよ(笑)。エキゾチックじゃない本物の塊と直面せざるを得ないわけだから。そういうものに触れたら自分が壊れちゃうと思って。

ハマ ああ、なるほど。

細野 それで抵抗したまま行ったんだけど、なんて言ったらいいんだろう、インドの人たちは日本をエキゾチックだと思ってるの。彼らにとって自分たちより東の人たちはみんなエキゾチックなんだ(笑)。

ハマ 国によって違うってことですよね。「うちがエキゾの本場だ!」と思ってる国は1つもないっていう。

細野 そのときになんとなくわかったことがあって。エキゾチックて「遠くにあるものを近くに持ってきて眺める」ことだという定義があるんだ。

安部 すごーい!!

ハマ 声、デカ(笑)。

安部 ごめん(笑)。ハマくんと細野さんの話を聞いてるだけでめちゃくちゃワクワクしちゃう。なるほど、そういう距離感だ。

細野 エキゾチックって、日本語で言うと “異国趣味”と訳されることが多いけどね。いろんな解釈があって難しいんだよ、エキゾって。

──言わば、あるようでないような風景を作り出すというのは、作り手としてはどういうモチベーションなんでしょうか?

細野 そもそも人間って、そういう世界観に憧れるんだろうね。手が届かない遠くの世界に憧れたり。月や火星に行こうとするのも、そういうことなんだろうし。あと最近は日本の若者も日本人離れしてるでしょ? ラップしたりね。そのまんまにしておくと地味な日本の少年たちが、黒人に憧れてラップしてる。あれも自分じゃない誰かになりたいっていう願望の現れなんだと思う。要するに広義の意味でのエキゾチシズムというかね。素の自分に戻っちゃうとつまんなくなっちゃうんだろうなって思う、世の中は。

ハマ 特にここ数年は、いち個人であることの意志とか意味みたいなものを感じづらくなってるように思いますね。だからみんな、誰かに自分自身を投影したり、ここではないどこかに思いを馳せたりするようになってるんじゃないかって。

細野 そうそう。まさに、そういう感じだな。そもそも音楽って本来そういう役割を担ってたりするわけだよね。ここではないどこかに聴き手を連れて行ってくれるものだから。

ハマ いやー、今すごく興味深い話を聞いてますね。

安部 「遠くにあるものを近くに持ってきて眺める」。エキゾって、まさにこの言葉に尽きますよね。今まで言葉にできなかった感覚が言語化されて僕は今めちゃめちゃグッと来てます(笑)。

細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざまなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とYellow Magic Orchestra(YMO)を結成した一方、松田聖子、山下久美子らへの楽曲提供も数多く、プロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO“散開”後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2018年には是枝裕和監督の映画「万引き家族」の劇伴を手がけ、同作で「第42回日本アカデミー賞」最優秀音楽賞を受賞した。2019年3月に1stソロアルバム「HOSONO HOUSE」を自ら再構築したアルバム「HOCHONO HOUSE」を発表。この年、音楽活動50周年を迎えた。2020年11月3日の「レコードの日」には過去6タイトルのアナログ盤がリリースされた。

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安部勇磨

1990年生まれ、東京都出身。2014年に結成されたnever young beachのボーカリスト。2015年5月に1stアルバム「YASHINOKI HOUSE」を発表し、7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '15」に初出演を果たす。2016年に2ndアルバム「fam fam」をリリースし、各地のフェスやライブイベントに参加。2017年にSPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューアルバム「A GOOD TIME」を発表した。2019年に4thアルバム「STORY」を発表し、初のホールツアーを開催。近年は中国、台湾、韓国、タイでもライブを行うなど海外でも活躍している。

never young beach オフィシャルサイト
never young beach (@neveryoungbeach)|Twitter

ハマ・オカモト

1991年東京生まれ。ロックバンドOKAMOTO'Sのベーシスト。中学生の頃にバンド活動を開始し、同級生と共にOKAMOTO’Sを結成。2010年5月に1stアルバム「10'S」を発表する。デビュー当時より国内外で精力的にライブ活動を展開しており、最新作は2020年8月にリリースされたテレビアニメ「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」のエンディングテーマ「Welcome My Friend」を収録したCD「Welcome My Friend」。またベーシストとしてさまざまなミュージシャンのサポートをすることも多く、2020年5月にはムック本「BASS MAGAZINE SPECIAL FEATURE SERIES『2009-2019“ハマ・オカモト”とはなんだったのか?』」を発売した。

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