左からオカモトレイジ、土岐麻子。

土岐麻子の「大人の沼」 ~私たちがハマるK-POP~ Vol.4 後編 [バックナンバー]

アイドルからヒップホップまで、オカモトレイジが選んだ10曲(後編)

すべてがつながっている、フレンドリーな韓国の音楽文化

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100点の演奏を再現し続けるバンド

土岐 次のSe So Neonもレイジくんのお友達なのかな?

レイジ 俺は全然交流がなくて、ヨギー(Yogee New Waves)がよくツーマンやってますね。すっごいうまくてカッコいいんですけど、1個だけ気になっちゃう点があって。彼らはライブで絶対にクリックを聴いて演奏するし、毎回同じフィルを入れたりするから、そこがちょっと物足りないんですよ。「今日めっちゃ走ってる」「もたってる」とか、そういうのを感じるのがバンドのライブ特有の面白さだと思うんですけど。それがない。HYUKOHもそうなんですけど。

土岐 うますぎるってこと?

レイジ それもあるし、限界を超えようとしないっていうのかな。「今日このバンド、なんかテンションヤバかったね」みたいなのがないんです。

土岐 なんでクリックを聴いて演奏するんだろう? 同期してるのかな?

レイジ それもあるだろうけど、エンタテインメントの基準になっているところが日本とは違うんでしょうね。“ゆらぎ”の部分の面白さが、おそらく韓国にはないんですよ。

土岐 それはなんだかわかるかも。私も15年くらい前に韓国の音楽番組でジャズを歌ったときに、あちらのテレビ局が用意してくれたジャズミュージシャンのプレイが、揺れがなくてかっちりしてて。歌いやすいっちゃ歌いやすいんだけど、なんだかよくできたカラオケみたいだったんだよね。そういう文化があるのかなあ。

レイジ 100点の演奏を再現し続けるっていう。そこがなんというか、韓国でロックバンドが突出してこない要因なのかなと。オ・ヒョクに「日本はロックバンドが活躍するシーンがあってうらやましい。韓国はアイドルとヒップホップしかないから」って言われたこともあります。

土岐麻子

土岐麻子

韓国でレジェンドになっていたOKAMOTO'S

土岐 ついに最後の曲になりました。キム・アイルの「Somethin' New」。

レイジ キムは、彼が作る音楽が好きでインスタをフォローしたら「なんで君みたいな有名アーティストが僕のことをフォローしてくれたんだ?」ってDMをくれて、「ええ?」と(笑)。

土岐 OKAMOTO'Sのファンだったってこと?

レイジ 話を聞くと、Jazzy Ivyっていう韓国のレジェンドDJが10年くらい前に世界中を旅して各地で大量にCDを買って帰った中に、OKAMOTO'Sがたまたまチョイスされていて、それがThe Cohort所属のCoke Jazzやキム・アイルの手に渡り、一時期めっちゃ聴いてたらしいんですよ。それでキムから「OKAMOTO'Sは韓国の俺ら世代ではちょっとしたレジェンドだよ。ここ最近のバンドに欠けているピュアなフロウがある」って言われました。さっきの韓国のバンドシーンに通ずる話かもしれないですね。俺たちが17歳の時に出したインディーズ盤が韓国で聴かれてるなんて本当にびっくりです。ちなみにそのとき日本のCDでほかにチョイスされてたのはOOIOOだったみたいです(笑)。

土岐 そうなんだ。キムの声って、韓国人にしてはちょっと珍しい感じだね。日本だといそうな気もするけど、韓国語でこの雰囲気は珍しい。

レイジ そうなんですよ。声が独特でいいんですよね。

オカモトレイジ

オカモトレイジ

「嘘みたいだけどリアル」な距離感がいい

土岐 これで完走しました。レイジくんが、選びきれない中から10曲にとりあえず絞ってきてくれた、ということはとてもよく伝わりました(笑)。

レイジ うん、オススメの曲なんていくらでもあるけどどうしようかな、と思いながら、なんとか選んできました(笑)。土岐さん、何か発見はありましたか?

土岐 ものすごくあった! EVERGLOWとfromis_9を知って、もっとガールズグループも深く聴いてみようと思ったし、今一番知りたかったヒップホップのシーンについても、マップを示してもらった感じ。私の場合は、たぶん韓国に生まれてあちらに住んでたら、そのあたりに興味を持たなかったと思うんですよ。一番自分から遠い感じがある世界だから。日本にいて、絶妙な距離があるから興味を持った。だからこそときめきがあるのかもしれない。

レイジ 隣の国で、人々の外見もほぼ一緒なんだけど、使っている音が全然違う。嘘みたいだけどリアル、っていう距離感がすごくいいんですよね。惹き付けられるものがある。

左からオカモトレイジ、土岐麻子。

左からオカモトレイジ、土岐麻子。

土岐 あと、韓国語は言語的に、ラップがめちゃくちゃ映えるでしょ。音の抑揚とか弾ける感じが、英語とも日本語とも違って独特で、それがラップになったときにひたすら気持ちいい。逆に、日本語のラップを外国の人が聴いたらどう思うんだろう?とも思うけど。

レイジ でも韓国のアーティストからも、「日本のこのアーティストと一緒にやりたいから連絡先を教えてくれ」ってちょいちょい連絡が来るんですよ。向こうも向こうで日本のシーンが気になってるんじゃないですかね。ナタリーでもこの間、渋谷系が韓国のシーンに与えた影響について書いたコラムがありましたよね。あれ、面白かったっす(参照:渋谷系を掘り下げる Vol.11 韓国のポップミュージックへの影響)。

土岐 私も読んでみよう。レイジくんは、DJじゃなくバンドとして韓国でライブをやったことはあるの?

レイジ  1回だけあるけど、そのときはサマソニの流れでアーティストが来るフェスだったから、あんまりコミットできなかったですね。遊びに行ったクラブでは、盛り上がり方がすごいなと思いましたけど。街中で流れるBGMの音量もすごいデカいし(笑)。

土岐 国民性が出てる(笑)。聞いた話だと、韓国はタクシー代が安いから、夜中のクラブ文化が盛り上がってるって。飲食店も夜中までやってるから、夜中まで遊べる土壌があるんだよね。

レイジ これは音楽とは関係ないんですけど、釜山のBALANSAっていうブランドの服を韓国で買ってきてインスタで紹介したら、「ありがとう! いろいろ送るから住所教えて!」って連絡をくれたんですね。で、Tシャツとかをクソ大量に送ってくれて。俺からも自分たちのレコードとかグッズとかを送って、関係を築いてきたんです。そしたらある日突然、俺の名前が入ったオリジナルのAirPodsケースとかTシャツとかを、50枚くらい作って送ってきてくれたんですよ。営利目的じゃなくて、「レイジは兄弟だから」って。

BALANSAがオカモトレイジのために作成したオリジナルTシャツ。

BALANSAがオカモトレイジのために作成したオリジナルTシャツ。

BALANSAからプレゼントされたグッズや友人が作成したスローガンなど、オカモトレイジのコレクション。

BALANSAからプレゼントされたグッズや友人が作成したスローガンなど、オカモトレイジのコレクション。

土岐 (実物を見て)かわいい! レイジってハングルで書いてあるんだ。これはすごくうれしいね。

レイジ 日本でもこのブランドが最近流行ってきて、「レイジのおかげだから、いつもサポートありがとう」って言ってくれて。決して俺のおかげとかではないんですけど。事務所とちゃんと相談して、オフィシャルコラボとして一緒にグッズを作ったりもしました。韓国は、そういう兄弟意識みたいなのがすごいなってあらゆるところで感じますね。

土岐 いろいろお話して、韓国にすぐにでも飛んで行きたくなっちゃいました(笑)。今日は本当にありがとう!

左からオカモトレイジ、土岐麻子。

左からオカモトレイジ、土岐麻子。

新沼のコーナー

こんにちは、土岐麻子です。

前回から新沼のメールフォームを設置したところ実にたくさんの沼呼び込みが届きまして、感動しているところです。ありがとうございます。

すべて目を通していて、すべてを紹介したいと思いながらも、まず今回はうさこさんからのStray Kidsを。

結論から言うと、こちらのMVを最初に観て、数十秒でいきなり沼に頭から突き落とされました。(日本語字幕をONにして観てください)

冒頭数カットの静止画で「あれ? コレまだ広告か?」となった直後に音がブレイクして「はいお客様~」からの厨房ラップ、そしてカラスがバササ……え、アイドルのMVにカラス!? 歌詞にもカラスって出てきたぞ……。

そのあとも登場するのはコック帽だったり防護服だったり、カーレースの整備をするのは女学生だったり、とにかく変。最高に変で最高。

シュールな世界観は脱力的な表現と相性よかったりしますが、この方たちはシュールさの中で全力に爆発してて、気づいたら私は爆笑をしていました。この爆笑はモネクとの出会い(「Shoot Out」のリレーダンス)のときにも飛び出しましたが、どうやら素敵なものに出会うと出るようです(モネクにはそのあと深い沼に沈みました)。

カメラワークのめくるめく感じも世界を作っていますね。私はビョークの初期の映像集が大好きなんですが、「Bachelorette」(ミシェル・ゴンドリー監督)や「It's Oh So Quiet」(スパイク・ジョーンズ監督)の中毒性に通じる魅力があると感じたりも。

うさこさんいわく「楽曲やダンスがすごくユニークで個性的なグループです。振り付けも面白くてみていて本当に飽きません。数多くいるK-POPグループの中でもなかなか異彩を放っているグループだな~と思います」とのことですが、本当にそうですね。仕上がり方が異彩過ぎますね。

そうこうしてるうちに「俺は五つ星、ミシュラン」と低音ラップする人の声に「めちゃいい声」とハッとなりましたところ、うさこさんのメールに「特に飛び道具的なフィリックスの歌声! 最初に聞いた時は本当にびっくりしました。彼がいるのといないのとではだいぶん印象が違うのではないかと思います」との記述があることを思い出し、調べてみるとまさに彼でした。

先の曲の世界があまりに好きになったのでもうひとつ観てみました。

この映像の始まり方ったら!

まるで殺戮旅行劇のフラグだよ!

美しい男の子たちのさわやかな映像の使い方が最高ですし、そのコントラストをつくるメンバーの皆さんの表現力も素晴らしいですね。

ダンスの振り付けのセンスも創作的で冴えててかっこいい。

うさこさんはもうひとつ、Red Velvetの「Psycho」のカバー映像も送ってくれたのですが、そちらは色っぽい表現力が素敵でした。大好きな曲なのですが、そもそもの選曲センスにもグッときたりして。

曲、歌詞、ダンス、映像。それらがひとつとしてブレなく仕上げられて作り出すコンセプト、そしていろんな顔を持っていそうなメンバーの魅力。

無事、新沼にハマりました。ありがとう、うさこさん。

このコーナーでは、私をこれから新しいK-POP沼にハマらせてくれる情報を引き続き募集します。こちらのフォームから、ぜひあなたの沼を熱くプレゼンしてください。

土岐麻子

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2007年11月にアルバム「TALKIN'」でメジャーデビュー。ユニクロのCMソング「How Beautiful」や資生堂「エリクシール シュペリエル」CMソング「Gift ~あなたはマドンナ~」などで注目を集め、さまざまなアーティストとのコラボレーションでも評価を集めている。2019年10月にソロ通算10作目となるオリジナルフルアルバム「PASSION BLUE」を発表。2020年7月にテレビアニメ「『フルーツバスケット』2nd season」第2クールのオープニングテーマ「HOME」を配信リリースした。

TOKI ASAKO OFFICIAL WEBSITE
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オカモトレイジ(OKAMOTO'S)

1991年東京生まれ。中学校からの同級生4人で結成されたロックバンド・OKAMOTO'Sのドラマー。DJとしても活動するほか、「YAGI EXHIBITION」を主宰しエキシビションのキュレーションも行うなど、幅広い活躍を見せている。OKAMOTO'Sは2019年6月に東京・日本武道館にてワンマンライブ「OKAMOTO'S 10th ANNIVERSARY LIVE "LAST BOY"」を開催。2020年は4月に初のベストアルバム「10'S BEST」、8月に6曲入りの音源「Welcome My Friend」をリリースしている。

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