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徳島・club GRINDHOUSE

店長たちに聞くライブハウスの魅力 第18回 バックナンバー

徳島・club GRINDHOUSE

徳島で個性派アーティストが生まれる理由

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全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特徴やライブハウスへ行くことの魅力を伝えるこの連載。今回は徳島・club GRINDHOUSEの現店長の長谷川洋星氏が、徳島出身のアーティストや店に出演している学生バンドへの思いなどを語ってくれた。

取材・文 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 南部聡一

店名はタランティーノから

この店は1987年から営業しているのですが、オープン時はJITTERBUGという名前という名前でした。当時の店長が今のオーナーで、彼が親会社からライブハウスの経営権を譲り受けて、2010年にclub GRINDHOUSEに改名しました。現オーナーから聞いた店名の由来は、クエンティン・タランティーノ監督の映画「グラインドハウス」からです。アメリカではB級映画を何作品か上映する映画館のことをグラインドハウスと呼んでいるらしくて、ライブハウスと通ずるところがあるんじゃないかと思ったみたいで。有名なアーティストだけではなくて、地方のアーティストもいっぱい出演して、街の人が遊びに来るような場所になってほしいという思いを込めたそうです。

僕は12年くらい前に働き始めたのですが、もともとはライブハウスで働く気はなかったんです。高専を卒業して普通に就職したんですけど、21歳のときに勤めていた会社が倒産してしまって。再就職を急ぐような歳でもなかったし、失業保険をもらって21歳では考えられないほど貯金もあったので、フリーターになりました。そんなとき、当時店のバーカウンターで働いていた女性スタッフから、「就職するから辞めたいんだけど、代わりがおらんと辞めれん」と相談をされて。「じゃあ代わりに僕が働きましょうか」と軽く提案したら、その子が店長に「長谷川くん、すごい働きたいって言うてるんで雇ってあげてください」と伝えたらしくて。

それからバーカウンターのスタッフとして働き始めたのですが……次の日には照明の仕事もしていました。経営の都合などの影響で、もともといた音響や照明のスタッフがどんどん辞めてしまったんです。だから僕が働き始めたときにはみんな外注のスタッフ。そんなところに “めっちゃやる気のあるヤツ”として入ってしまったからか、なぜか僕が照明をすることになりました。現オーナーが長らく無料フェスを主催していて、僕はそのフェスにボランティアスタッフとして参加したことがあって、「裏方の仕事もわかるやろ」と思われてたんだと思います。初めて照明スタッフとして入ったのは確かPOLYSICSのライブです。教えてくれる人もいなくて、乗り込みの照明さんに「なんで君、ここの照明担当なのにわからないの?」と怒られました。そうやって怒られながら、少しずつオペレーションを覚えていきました。

ライブハウスでライブをやること

ライブハウスを運営していると、やはりブッキングの難しさは常に感じます。「こういうイベントにしたいからこのアーティストに出てほしい」と思っても、必ずしもスケジュールが合うわけじゃないし。そして、誰かが出演できなかった場合、どう軌道修正するのかがまた難しい。最初のこだわりを貫くか否か。ぶっちゃけた話になりますが、売り上げのためにノルマ要員を確保するかどうかとか、最初の頃はいろいろ悩みました。でもやっぱり、ブッカーが妥協したかどうかは、ライブを観たらわかる人にはわかると思うし、今はそう思われるようなブッキングはしたくないと思ってます。観に来た人がちゃんと楽しめるラインナップにしたい。だから、どんな人に向けたイベントなのかというところはきちんと考えますね。ただそうすると、売り上げが追いつかないことも多いです(笑)。

ちなみにJITTERBUG時代には、徳島出身のチャットモンチー四星球に出演してもらっていたこともあって、GRINDHOUSEの3日間のオープニングイベントはこの2組がワンマンをやったりしていました。その頃のチャットモンチーはもう大スターで、一方の四星球はパフォーマンスがマニアックで、全国的に見たら今ほどの盛り上がりではなかったかもしれません。今はだいぶポップになった印象ですね。彼らは大学生の頃からJITTERBUGでの自主企画イベントのチケットが売り切れるほどの人気はありました。当時は年間150本くらいライブをしていて、僕はGRINDHOUSEで働いていない日はスタッフとして彼らに付いて、ローディーの勉強させてもらうこともありました。自分もバンドをやっていたんですけど、そのときから憧れていましたし、いい経験でしたね。

この店には学生バンドが多く出演する時期もあります。大学生バンドが多いので、4年周期でガラッと雰囲気が変わりますね。僕、学生バンドに対していろいろと思うところがあるんです。時代のせいもあるのかもしれないですけど、僕らがバンドをやっていたとき、ライブハウスでライブをやることはバンドにとってのスタートラインだったんです。でも今の子たちにとっては、そこがゴールになってる。徳島にはハコ自体が少ないので、有名なアーティストもうちでライブすることが多い。だから地元バンドには、オープニングアクトなどで人気アーティストと共演する機会が巡ってくることもある。そのせいもあってか、今の子たちは「憧れのハコに立ててよかったです」という感じで終わっちゃう。そこがもったいないですね。ここからが面白いのに……ということを別媒体のインタビューでも話したことがあるんですけど、「僕らは僕らで楽しんでるのに、そんなん言われたらGRINDHOUSEに遊びに行けへん」とかSNSに書かれてしまって。でもホントによくないと思うんですよね。

自分たちのスタイルを貫く四星球

2017年に四星球がうちでBRAHMANと「四星球方向性会議」というツーマンライブをしたことがあって(参照:四星球、15周年ツアーでブラフ&サンボと競演)。高校生のときの僕からしたらBRAHMANは神様みたいな存在。神様が四星球とツーマンをするというだけでも感慨深いんですけど、BRAHMANがめちゃくちゃカッコよくて、グッときました。MCを挟まずに20曲くらいバーッと演奏してから、TOSHI-LOW(Vo)さんが四星球への思いを語っていて。最後に「『方向性会議』1回目、このまま突き進んでいけ!」と叫んで1曲やって終わったんですよ。痺れました。そしてそのあとに四星球が神輿に担がれながら札束ばらまいて、全身タイツで出てきた光景を見たら……「あんなライブのあとでも、この人たちはまったく自分のスタイルを変えんのやな」と感じて、めちゃくちゃカッコよく見えました。お客さんはどうしていいかわからんかったと思いますけど(笑)。これができるのが四星球やし、GRINDHOUSEやからこその感動があったと思います。

あと今は活動していないのですが、血眼というガールズバンドのライブも印象に残っています。スプートニクラボから「whiteout」(2015年4月リリースの1stミニアルバム)を出したときに(参照:徳島発女性3人バンド・血眼、初の全国流通盤)、yonigeやナードマグネットを呼んで、うちでツアーファイナルをやったんです。出会った頃は2人しかお客さん呼べんかったのに、スプートニクラボから声がかかってツアー回って、各地でセンスある仲間を呼んで演奏して、ツアーファイナルでは人がパンパンやった。感動しましたね。

注目の才能

もう上京しましたが、システム、オール、グリーンというアーティストにはがんばってほしい。ミドリ(Vo)くんが作った音楽を聴いたらわかるんですけど、彼はあまり恵まれた幼少期を過ごしてなくて、高校に行けてないんですよ。音楽に救われたから音楽を始めた子で、「自分と同じような境遇の子のために自分の歌を届けたい。だから売れたい」という目的がはっきりしてるんです。

あとは今高校3年生のみいともきくんという子にも注目してます。初めて出会ったときは中学3年生で、「自分でDTMで曲作ってて、これが10枚目のアルバムです。ライブはやったことないです」といきなりメールを送ってきて。「中学生でそんなに曲作ってんの!?」と驚いたのと同時に、曲のクオリティにも衝撃を受けました。洋楽に詳しいし、邦楽は小沢健二やフリッパーズ・ギター、星野源が好きな子で。いろんな音楽を自分の中で消化しつつ、自分の色を出した曲を作ってるのがすごい。まだ演奏は拙いですけど、今後が楽しみですね。米津玄師みたいになってもおかしくないんじゃないかな。

late rabbit eddaの米津くん

徳島のアーティストとしては、もう10年以上前に米津くんがlate rabbit eddaというアーティスト名で、JITTERBUGにバンド編成で出演してくれていました。曲は全部米津くんが作っていて、ほとんどソロに近い感じでした。性格的にはおとなしい感じの子だったという印象です。当時はニコニコ動画に投稿するということが一般的じゃなくて、周りから浮いてたんじゃないかな? 曲は抜群によかったですけどね。僕は彼がハチという名義で有名になったのも、その後米津玄師名義でメジャーデビューしたのも知らなくて。でも曲を聴いたときに「あれ? これlate rabbit eddaの米津くんと声がまったく一緒や。曲も似てるぞ?」と気付くくらいには印象に残る子でした。

あとはKing Gnuの勢喜遊(Dr, Sampler)くんも徳島出身で、彼も昔からよく知ってます。あとはシアターブルックの佐藤タイジ(Vo, G)さん。変な人が多いというか(笑)、個性派ばかりな気がしますよね。阿波踊りがあるからかな(笑)。まあ真面目な話、田舎だから情報が入ってこないことも大きいかもしれません。流行りがわからないから自分で掘っていくしかないんですよね。自分で掘りながら、友人間の流行りや、ライブハウスのカッコいい先輩とかの真似をして、なんか変な感じになっちゃう。同じ四国で言うと香川の高松あたりには、「売れてるバンドのコピーやん」みたいなバンドがめちゃくちゃいるんですけど、徳島にはほとんどいない。四国は4県まったく雰囲気が違うんです。真ん中に山があって、隣の県に行くのも苦労するので。でも個性が出るのはいいことだと思っています。米津くんがもし大阪にいたら、よくも悪くも同じような人間同士のコミュニティができてたと思うんですよ。でも徳島だからちょっと周りに疎まれてて、だからこそああいう感じの子になったのかなって。

スパイスから作ったカレーをDJイベントで

僕、よくフードを作ってるんですよ。徳島には「マチ★アソビ」というイベントがあるんですけど、それによってアニメ文化が徳島に根付き、うちでは月に一度、アニメの曲だけ流すDJイベントをやってるんです。そのときに「飯でも食えるようにしたらお客さんが来てくれるかも」 と思ってフードを作り始めて、6年ほど続いてます。僕はもともと料理をする人間ではなかったんですけど、これがきっかけで好きになりました。ローストビーフとか豪華なものも作れば、栗ご飯とけんちん汁なども作ります。カレーはスパイスから作るようになりました。FOOL THE PUBLICや血眼とか、地元でがんばってるバンドのツアーファイナルのときには、僕のカレーを出すっていうのが定番化してます(笑)。ただライブハウスの中には作れる設備がなくて、いつも家で作って持ち込んでいるんです。ライブハウス内にキッチンがあれば、サービスの1つにしたいですね。

ライブハウスにはドラマがある

甲子園とかもそうですけど、結果だけはネットで見れると思うんです。だけどみんなわざわざ実際に試合を観に行きたがる。みんなが見たいのは、結果にたどり着くまでのドラマやと思うんですよね。ライブハウスも似たようなものだと思うんです。例えばSiMが初めてうちに出たときは、お客さんは5人ぐらいだったんですよ。彼らがステージに出てきた瞬間、お客さんは「何これ、無理無理」みたいな感じだったのが、最後の曲ではみんなスカダンスしてて。そういうドラマがあるから楽しいですよね。そんなに興味がなかったジャンルのアーティストが対バンに出てて、観たら魅力がわかったり、学校で一緒のクラスやったら仲良くならんかったタイプでも、ライブハウスで知り合ったから仲良くなれたり。そういうよさもあると思います。あとうちは天井が低いから、いるだけで汗だくになるんです。昔はお客さんに「熱いし嫌じゃ」と言われることもありましたが、今は売りの1つですね。熱気さえも楽しんでほしい。

店舗情報

住所:〒770-0934 徳島県徳島市秋田町2-23 ジョイフルビル
アクセス:JR阿波富田駅から徒歩10分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:あり(公演によりクロークあり)
駐車場:なし
再入場:公演により異なる
キャパシティ:250人
ドリンク代:500円
フリーWi-Fi:なし
貸切:あり

店長たちに聞くライブハウスの魅力

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