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SUGIZO

私が嫉妬したアーティスト Vol. 1

SUGIZO

あらゆる音楽に精通する3人の天才

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第一線で活躍するアーティストに、思わず嫉妬するほど衝撃を受けた人物やバンドについて話を聞く新連載をスタート。第1回にはLUNA SEAX JAPANのギタリスト、バイオリニストとして活動する傍ら、テクノ、トランス、サイケ、ソウル、ジャズなど多彩なバックグラウンドを感じさせるソロワークを発表しているSUGIZOに登場してもらった。

取材・文 / 丸澤嘉明

音楽界のチャップリン

僕が一番嫉妬するアーティストは間違いなくプリンスですね。中学3年のときに「Purple Rain」(1984年発売)でめちゃくちゃにノックアウトされました。そのあと高校生のときに「Around the World in a Day」(1985年発売)や「Parade」(1986年発売)が発表されて。特にPrince and The Revolutionの時期にものすごい影響を受けました。まあすごいメンバーでしたよね。ウェンディ・メルヴォワン(G)やリサ・コールマン(Key)がいて、シーラ・E(Dr)が一緒にツアーを回ることもあったし。プリンスがすごいのは、音楽家としてのスキルが全方位で天才的なところですね。ブラックミュージックのグルーヴを持ちながらヘヴィメタルのようなギターの速弾きもできて、感情を爆発させるような歌が最高にうまくて、ベースもドラムもうまくて、何より作曲が素晴らしい。歌詞は変態的で、自分でエンジニアリングもできる。後にも先にもあんな人はいないと思います。僕自身も作曲家としていろいろな楽器を使いますけど、プリンスのように鍵盤を弾けないし、歌えないし、ブラックのグルーヴをDNAレベルで持ってない。僕はプリンスのようになりたかったです。なれるわけないんですけど。

1980年代、MTV全盛期におけるマイケル(・ジャクソン)とプリンスの存在の大きさは突出しています。マイケルとプリンスが音楽とダンスを融合させて見せるという行為をPVで始めて、そのちょっとあとにマドンナが出てきて。その3者が80年代の象徴だと思いますけど、僕が思うにマイケルとマドンナはあくまでエンタテイナーなんです。確かに歌とダンスは本当に素晴らしい。けれど、プリンスのように作編曲や演奏まで群を抜いていたわけではない。そこが決定的に違いますよね。ダンスや映像など視覚効果における才能と音楽的才能の両方を圧倒的に持ち合わせていた人はおそらくプリンスしかいないんじゃないかな。ある意味(チャールズ・)チャップリンに近いかもしれません。チャップリンも映画の世界で、主演はもちろん、監督、脚本、音楽、演奏、そして興行までやる人だった。プリンスは音楽界のチャップリンなんだと思いますね。

特に好きなプリンスのアルバムは「Parade」です。プリンスの多様性、ブラックミュージックとロックとジャズ、さらにサントラ的要素など、あらゆる音楽の最高のフュージョンがこの作品だと思います。曲単体で言うと、やっぱりベタだけど「Purple Rain」かな。歌、ギター、作編曲すべてがプリンスの集大成で、とにかく歌とギターがすごいです。僕のギターワークはプリンスに一番影響を受けていると言っても過言ではありません。

天才と奇才が融合したアーティスト

2人目はフランク・ザッパですね。高校3年のときに「Tinseltown Rebellion」(1981年発売)を買って聴いたのが最初です。ザッパは天才と奇才が融合したアーティストだと思います。52歳で亡くなるまでに60枚以上アルバムを残していて、どの作品も異常にレベルが高い。僕としてはザッパもプリンスに非常に近い感覚。むしろプリンスが万能なザッパに近付きたいと思っていたのかもしれない。最高のギターを弾けて最高の曲が書けて、オーケストラ曲も書けて自分で指揮もできて、クラシック、ロック、ジャズ、R&B、現代音楽など、あらゆる音楽の第一人者と言っていいレベル。オーケストラや現代音楽に特化したザッパのアルバムがあるんですけど、エドガー・ヴァレーズや(イーゴリ・)ストラヴィンスキーの影響があって、どれも素晴らしいです。ただプリンスのように超絶な歌は歌えなかったし、ダンスはできなかった。視覚的な影響力はあまりなかった人ではあります。

僕がザッパから強く影響を受けたのは、ベタですけど“音楽には垣根がない”ということですね。コマーシャリズム……つまり他人の評価というものを意識せず、自分の表現をただ追い求めなさいということをザッパから教わった気がします。と同時に、音楽ビジネスの儚さ、辛辣さも教わりました。ザッパは生涯を通じてどこかしらのメジャーレーベルと戦っていたんですよね。自分の意としてないものを発表しようとするメジャーレーベルを蹴って、自身が立ち上げたインディーズレーベルからレコードを出し始めたり、自分の表現を妥協せずにアウトプットする状況を常に追い求めていた。だからザッパからしたら、こうやって自由に作品が出せる今の世の中はうらやましくて仕方ないでしょうね。そしてあの唯一無二のギターワーク。生命力にあふれ、まさに生き物がうごめいているような、小節や拍子を超越して楽曲の中で圧倒的な力を誇るあのギターからとてつもない影響を受けたと自覚しています。

ザッパの入門編としてオススメの作品は「Sheik Yerbouti」(1979年発売)ですね。ザッパのポップさと変態さ、演奏のすごさがごった煮になっていて、でも重すぎず聴きやすい。エイドリアン・ブリュー(G)、テリー・ボジオ(Dr)という超絶な参加ミュージシャンたちの演奏の上で、ザッパの歌とギターが暴れまくっています。歴史的名盤です。逆にコアな作品で、僕がもっとも好きなのは「Shut Up 'n Play Yer Guitar」(1981年発売)というライブアルバム。ザッパのギターソロだけを編集した3枚組のアルバムで、僕は18、19歳の頃にハマったんですけど、いまだにフェイバリットです。ただ一般的には最後まで聴くのはものすごくハードだと思います。僕みたいなザッパのギターフェチで彼の音楽の中毒者にとっては至福の作品なんですけど、ザッパを聴いたことがない人にとってはたぶん拷問にしかならないんじゃないかな(笑)。

賞を総なめにする大巨匠

日本人で嫉妬するのは坂本龍一さんです。僕がもっとも影響を受けた人ですね。もともとスネークマンショー目当てで聴いていて、小学5年の頃に「シチズンズ・オブ・サイエンス」(1980年発売のYELLOW MAGIC ORCHESTRAとスネークマンショーがコラボしたアルバム「増殖」の収録曲)にものすごい衝撃を受けたんです。当時シンセサイザーもボコーダーも知らなかったので、宇宙人の音楽を聴いている気分でした。中学に入ってYMOをちゃんと認識し、ロックが好きになってから買った初めてのアルバムが「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」(1979年発売)です。それ以前にも「機動戦士ガンダム」や「あしたのジョー」のサントラなどを親に買ってもらったりしていましたが、ロックを意識して自分でレコード屋に行って初めて買ったのがこの作品でした。その後、坂本さんのソロ作で最初に聴いたのがもちろん「千のナイフ」(1978年発売)で、YMOが散開したあとリリースされた「音楽図鑑」(1984年発売)は本当に聴き込んで、CDを3、4回買い直しています。ちなみに「音楽図鑑」が僕が初めて買ったCDです。

坂本さんはポピュラーミュージックの大巨匠ですけど、もともとはクラシックの人です。徹底的にクラシックの作曲を学び、芸大に入ってから現代音楽を、そして電子音楽を学んでいる。おおよそ僕が学びたい音楽の素養をすべて圧倒的レベルで持っている人です。ポップスは素晴らしく、かと思えば現代音楽の分野でも世界屈指ですし、ボサノバの世界にも精通していて、ブラジルのトップミュージシャンとコラボもしている。しかも映画音楽を手がけるようになってすぐに「ラストエンペラー」でアカデミー賞作曲賞を取っている。そう、坂本さんに嫉妬するのはね、あの人たくさん賞をもらうんですよ(笑)。「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」で日本レコード大賞の優秀アルバム賞を取ってるし、レコード大賞の編曲賞も「アメリカン・フィーリング」で取っていますし。本当にさまざまな賞を取る。確かブラジルやフランスから勲章も授与されている。僕はそういうものとはまったく無縁なんで、うらやましい限りですね(笑)。

坂本さんとの初対面は1996年に行われた雑誌の対談企画でした。翌年、僕のソロアルバム「TRUTH?」(1997年発売)でピアノを弾いていただいたり、坂本美雨ちゃんのデビューアルバム「aquascape」(1998年発売)では僕が曲を書いて坂本さんがプロデュースしたり、坂本さんが手がけた中谷美紀ちゃんの作品(1999年発売の「クロニック・ラヴ」や「フロンティア」)でギターを弾かせてもらったりと、いろいろご一緒させていただき、多くを学ばせていただきました。坂本さんは文系のイメージがあると思いますけど意外と体育会系の人で、「ピアノは格闘技みたいなもんだ。バーン!って弾かなきゃいけないんだよ」と言ってましたね。考えてみればそうですよね、学生運動に身を投じてた人ですから。だから根はめちゃめちゃロックなんですよ。権威とか古いしきたりに中指を突き立てる感性にとてもシンパシーを感じますね。その結果坂本さんがどうなってるかと言うと、環境やエネルギーに関する第一人者になってるんです。僕の場合はそれと同時に人権や難民の問題にコミットしていますけど、音楽家としてそういう活動を物怖じせずに積極的にトライしていいというスタンスは、坂本さんの背中を見ていて感じたことかもしれません。

坂本さんのオススメ作品を挙げるのは、フェイバリット作が多すぎてチョイスがあまりに難しいんですけど、僕の思春期でもっとも重要だったのはやはり「音楽図鑑」ですね。1980年代の超一級レベルの音が詰まっています。近年の作品で言うと「out of noise」(2009年発売)が好きです。近年の坂本さんは達観してらっしゃって、それこそさっきのザッパの話に通ずるんですけど、コマーシャリズムを気にしなくなっていると思うんです。本当に坂本さんのそのときの心象風景をただただ綴ったような美しい作品で、それはそれは素晴らしいです。

SUGIZO

1969年生まれ。1992年、ロックバンドLUNA SEAのコンポーザー、ギタリスト、バイオリニストとしてデビュー。2000年代後半よりX JAPAN、Juno Reactorのメンバーとしても世界規模で活動している。ダンスミュージックをベースにおいたソロワークをメインに発表しながら映画音楽や舞台音楽を手がけるほか、現在「機動戦士ガンダム」の誕生40周年プロジェクトの総合音楽プロデューサーを務めている。7月7、8日に東京・中野サンプラザホールでバースデーライブ「SUGIZO 聖誕半世紀祭」を実施。12月にはLUNA SEAのオリジナルアルバムを発表するほか、埼玉・さいたまスーパーアリーナでクリスマスライブ「LUNATIC X'MAS 2019」を開催する。音楽と並行しながら平和活動、環境活動、難民支援活動に積極的に参加。アクティビストとしても広く知られている。

文中登場アーティストの関連情報

プリンス

プリンスが他アーティストに提供した楽曲のオリジナルバージョンを集めた楽曲集「Originals / オリジナルズ」が販売中。
Prince / プリンス「Originals / オリジナルズ」 | Warner Music Japan

YELLOW MAGIC ORCHESTRA

結成40周年を記念したリイシュー企画「YMO40」が展開中。
YMO40 YELLOW MAGIC ORCHESTRA ALFA YEARS

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