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the scene of RAP IDOLS 第3回 [バックナンバー]

ラップアイドルの開展(前編)

続々と登場した注目すべき才能

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lyrical schoolとライムベリーの登場によって、音楽シーンの中に“ラップアイドル”という存在が誕生したことは前回に記した通り。やがてアイドルシーンの拡散と広範化によって、ラップをアートフォームとするグループが数多く登場するようになった。3回目では2017年までのシーンの動きを中心に、注目すべきラップアイドルたちを紹介していく。

/ 高木"JET"晋一郎

「仕事したくないOL」が起点の双子アイドル

2013年11月にシングル「FUNKY OL~仕事したくないよ~」をリリースしたMIKA☆RIKA(現Mika+Rika)は、双子のMIKAとRIKAによるアイドルユニット。彼女たちのプロデューサーは、いわゆる“ジャジーヒップホップ”と形容される、ジャズを基調にした洒脱で流麗な楽曲制作を手がけるサウンドプロダクションチームのROMANTIC PRODUCTION。同チームは以前にtengal6「CITY」収録の「bye bye」のトラックを手がけた流れがあってかアイドルワークにも本格進出し、MIKA☆RIKAを全面プロデュースすることに。「FUNKY OL~仕事したくないよ~」は、「仕事したくないよ / 二度と 仕事したくないよ / バカバカしい」という、当時、大手企業のOLとアイドルという二足のわらじを履いていた彼女たちの気持ちを代弁する……には強烈すぎるワードが炸裂した1曲。この完全に“どうかしている”リリックを手がけたのは、餓鬼レンジャーのポチョムキンだった。

Mika+Rika。こちらの写真は2015年のライブ時のもので、当時はMIKA☆RIKA名義で活動していた。

Mika+Rika。こちらの写真は2015年のライブ時のもので、当時はMIKA☆RIKA名義で活動していた。

2ndシングル「下っ端」は、ジェームス・ブラウンのシャウトをオマージュしたり、ジャジーヒップホップの要素を生かした「ホシノフルマチ」を収録するなど、さまざまなアプローチで楽曲が制作された。その後、彼女たちはROMANTIC PRODUCTIONのプロデュースから離れ、肖像権や著作権を放棄した“フリー素材アイドル”としての活動を本格化。16年6月には作詞にポチョムキン、作曲にGP(餓鬼レンジャー)を迎えた「ただの女」を無料配信している。並行してSONY「Xperia」のテレビCMへ出演したり、名古屋市が手がけた骨髄バンクドナー登録啓発ラップ動画「<勇気を出してみよう>」へ起用されるなど、現在もさまざまな形で活動を展開している。

ビッグネームとのコラボが際立つうどん兄弟

ライブアイドルANNA☆Sから派生したラップユニットがこのグループ。公式サイトからその成り立ちについての説明を引用すると、結成はANNA☆Sよりうどん兄弟が先。DANCE NUTS'(2009年に結成されたキッズダンスチーム。ANNA☆Sの前身)のライブの1コーナーに登場するグループとして、当時小学3年生だった涼夏、優奈、由乃の3人で結成された。長く続けるつもりはなく、ネタでラップするだけだったので、変な名前を付けることになり“うどん兄弟”と命名される。ANNA☆S結成後は「ANNA☆Sワンマンライブ」のハーフタイムショーに1、2曲ほど歌っていた。のちに杏奈がサポートメンバーに加入。4人編成でライブを行うようになった……とのこと。

うどん兄弟

うどん兄弟

ユニットとしての初の作品は12年9月にライブ会場で販売された「スタジオへ行こう!」となるが、彼女たちが大きな注目を集めたのは、カーネーションのトリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」への参加だろう。岡村靖幸や曽我部恵一、スカート、森高千里らが名を連ねるこの作品にうどん兄弟 with カメラ=万年筆名義で参加し、カーネーションの中でも屈指の名曲「Edo River」をカバー。もともとラップ / ポエトリー的なアプローチの楽曲をアイドルがラップで表現したこの曲は、大きな驚きをもって受け入れられた。

14年9月発表のソロアルバム「ラストアルバム vol.1」には、柴田聡子や直枝政広(カーネーション)が参加し、アルバムの1曲目となる「ママが歌うアイドルの歌」は鈴木慶一(ムーンライダーズ)が作曲。メンバーのほぼ全員が中3だったことを考えるとどこまでその豪華さが伝わっていたかは定かではないが、“わちゃわちゃしたラップ”は特にアイドル的な要素を感じさせた。

以降も、16年2月に発売されたムーンライダーズのトリビュートアルバム「BRIGHT YOUNG MOONLIT KNIGHTS -We Can't Live Without a Rose- MOONRIDERS TRIBUTE ALBUM」に、ANNA☆S(うどん兄弟)名義で「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」で参加。以降うどん兄弟名義でのリリースはないが、本体であるANNA☆Sおよび派生ユニットのWAY WAVEのライブでは、うどん兄弟としてのパフォーマンスもときどき披露されているようだ。

大きな潮流を生み出す“トライブ”

現在ラップアイドルシーンで大きなうねりを起こしているのが、校庭カメラガール、通称コウテカを祖にする“コウテカトライブ”であろう(“トライブ“というのは記事構成の便宜上、筆者が勝手に呼んでいるだけなので、どんな呼び方でも構わない)。“トライブ”と書いたのは、加入、脱退やグループの構成変更、グループ間でのメンバーの行き来など、メンバーの流動性が非常に高く、そういった流動性とグループの歴史の連綿性は“一族”と表記するのにふさわしいと思ったからである。また、その流動性や変化がダイナミズムをもたらしていることは間違いなく、周辺を一括する表現として“トライブ”と表記させてもらった。プロデュースや運営などの面において校庭カメラガールからの歴史に紐付く“トライブ”としては、18年9月現在では校庭カメラガールドライ、校庭カメラギャル、校庭カメラアクトレスの3組が挙げられる。ちなみに校庭カメラガールに所属していた“もるももる”のソロプロジェクト“あめとかんむり”もあるが、彼女はアイドルとは自認していないようだ。

このトライブの歴史は、もるももる、しゅがしゅららを中心に、ましゅりどますてぃ、ののるるれめる、ミレニムの5人で14年末に結成された校庭カメラガールから始まる。「Ghost Cat」「Leningrad Loud Girlz」といった彼女たちのアルバムを聴いて驚かされたのは、そのソリッドなサウンド性。コウテカトライブの作品を手がけるプロデュースチームALTY-のメンバーjasが、グループ名について「テクノグループAutechre(オウテカ)に語感の近い言葉としてコウテカ、そこから“校庭”と“カメラ”という言葉が出てきた」と大意で話す通り、彼女たちのサウンドはいわゆるヒップホップ的なビートよりも、エレクトロやテクノなど四つ打ち系のダンスミュージックが基本になっている。そしてラップ(特に1stアルバム)のリリックは、アイドルラップシーンや先行グループを“ディス”するような意思も含まれており、その刺激的な内容にも驚かされた。

2015年の校庭カメラガール。

2015年の校庭カメラガール。

その後、らみたたらった、ぱたこあんどぱたこによる校庭カメラギャルが結成される。こちらは「全然分かってないくせに分かってるぶってるおじさんウザい」など、ギャル的な視点と世界観で構築されていた。一方校庭カメラガールは16年2月にうぉーうぉーとぅーみーが加入し再編成。ドイツ語で“2”を表す言葉を付けた校庭カメラガールツヴァイにグループ名を変更し作品をリリースするが、17年1月にグループは解体されることとなった。

2017年の校庭カメラギャル。

2017年の校庭カメラギャル。

解散発表時の校庭カメラガールツヴァイ。

解散発表時の校庭カメラガールツヴァイ。

また校庭カメラギャルは、校庭カメラガールへの合流と再独立などを経て、17年4月にフルアルバム「スマイルアゲイン」をリリースするが、同年8月にぱたこあんどぱたこがグループを卒業。そういった離合集散を経て、10月には、らみたたらったを中心に、新メンバーのきゃちまいはー、さっぴーはろうぃんを迎えた、コウテカの第3形態である校庭カメラガールドライが結成。11月には、らみたたらった、きゃちまいはー、による校庭カメラギャルが再構築される。一方で、2017年5月には同運営による姉妹ユニット、校庭カメラアクトレスが活動を開始。現在は真田真帆、森下果音、今城沙耶、園田あいかの4人で活動している。

現在の校庭カメラガールドライ。

現在の校庭カメラガールドライ。

校庭カメラアクトレス

校庭カメラアクトレス

また、コウテカツヴァイのメンバーだったしゅがしゅらら、ののるるれめるの2人は、しゅがーしゅらら、のんのんれめるに名前を変更し、ROMANTIC PRODUCTIONのプロデュースのもと、17年に新ユニットO'CHAWANZを結成。17年3月には「オツカレサマ」をリリースした。しかし、8月にのんのんれめるは卒業。その後、幾度かのメンバーチェンジを経て、現在はしゅがーしゅらら、いちこにこ、じょしゅあんぬ、りるはかせ、の4人で活動している。上記では恐ろしく複雑なコウテカトライブの動きを、かなり簡略化して書いたので、細かい脱退加入についてや文字表記の揺れに関してはご容赦願いたい。

O'CHAWANZ

O'CHAWANZ

このように数々のラップアイドルが登場してきたが、その波は地方に、そして男性アイドルにも及んでいく。

<つづく>

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高木"JET"晋一郎

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