lyrical school

the scene of RAP IDOLS 第4回 [バックナンバー]

ラップアイドルの開展(後編)

地方へ広がり、性別を超え、拡散していくラップアイドル

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アイドルシーンの中で1つのジャンルとして大きな潮流となったラップアイドル。その流れは地方にも広がっていき、各地にラップアイドルが生まれていく。今回は前回に引き続き注目のラップアイドルたちを紹介する。女性だけではなく、男性アイドルの中にも数多くの才能が誕生し、その拡散はとどまるところを知らない。

/ 高木"JET"晋一郎

九州から出発し、東京でも活躍する963

963

963

“ラップアイドルといううねり”は、地方にも広がっていく。福岡のローカルアイドルとして活動をスタートさせた963(くるみ)は、久留米市の地域ケーブルテレビ局「くーみんテレビ」の企画「久留米恋日和」で生まれたアイドルユニット。2013年に4人組で活動を開始させ、ポエトリーっぽさのある「くるくるくるみ」というオリジナル曲を持っていたが、14年に活動停止となった。しかし翌15年にぴーぴる、やーぷんの2人組ユニットとして活動を再開し、現在まで至る活動のひな形とコンセプトが形成されていく。作詞にlyrical school「RUN and RUN」などを手がけた岩渕竜也、作曲にESNO名義でもリリースを展開するKenichiro Nishiharaを迎えたオリジナル曲「夢? 幻? ドロップス」のリリースや、risetteの常盤ゆうと元トルネード竜巻のなかまきこによるユニットぱいなっぷるくらぶの「すけるとんがーる」のカバーなどを行いつつ活動を展開していくが、16年にはやーぷんが脱退。その後、幾度かのメンバーチェンジを経て、現在はぴーぴると17年12月に加入したれーゆるの2人で活動している

ちなみに、オリジナルメンバーである古賀哉子はテレビ朝日「ラストアイドル」に参戦。安達葵紬は“彼女のサーブ”としてアイドル活動をしている。さらに脱退したやーぷんは“せるふちゃいなしすてむ”として「ミスiD2018」で佐久間宣行賞を受賞したり、テレビ東京「ゴッドタン」に出演したりと、活動の幅を広げている。

地方都市を活性化させる7人組

ハイタッチガールズ

ハイタッチガールズ

非常に短期間ながらラップアイドルとして活動を展開したのが、群馬県前橋市発のハイタッチガールズ。メンバーはめぐみ、すみか、そして、あき、小粋、まな、みらの、ゆずの7人。SNSを起点に、前橋市で行なわれているコミュニティ活動「○○部」から生まれた“前橋アイドル部”の活動の一環として2015年5月に結成された。前橋を中心に活動を展開したが、16年3月に活動停止。1年に満たない活動期間を終えた。しかし唯一のアルバム「This is N.E.O Local City Pop」に見られた、地方色を生かしたラップのアプローチは、ヒップホップの大きな要素でもある“フッド(地元)ミュージックとしての側面”をラップアイドルにも持ち込んでいる。さらにハイタッチガールズの運営チームやクルーが新たにFEATURESというユニットを立ち上げた。9月9日のワンマンライブを皮切りに始動したようなので、その動向に注目したい。

沖縄からも登場するラップアイドルグループ

Chuning Candy

Chuning Candy

2013年に活動を始め、今年3月にポニーキャニオンからデビューした沖縄発のガールズユニットChuning Candy。インディ時にはラップ曲を中心にライブを展開し、フィメールラッパーを集めたイベント「自撮りラップ」にも参加していた。メジャーデビュー曲「Dance with me」はダンスポップ路線ではあったが、今後またラップ曲が聴ける可能性に期待したい。

琉球QT-BLUE

琉球QT-BLUE

同じ沖縄では、“リアル系ダンス&ラップボーカルユニット”と宣言する琉球QT-BLUEも見逃せない。公式ブログに「日本語と北京語のパフォーマンスで南国沖縄よりアジアへ元気を届けます」という惹句が書かれているように、台湾などでも活動を展開中。

大阪から飛び出した最終兵器

UNDERHAIRZロゴ

UNDERHAIRZロゴ

異色の存在としては、大阪で活動するUNDERHAIRZが挙げられる。なにしろアイドルにも関わらず、とにかく歌詞が下ネタ下ネタ下ネタ!なのだ。もちろんそれだけではないが、筆者の体感的には歌詞の8割が下ネタといった具合で、中でも阪神タイガースの鳥谷敬選手への屈折した愛を歌った「鳥谷」は、「あーホンマにヤリたい / 鳥谷と」という、直情にも程があるリリックでスタートする……と言うか、そもそもグループ名からして下ネタなのである。

そんなUNDERHAIRZのメンバーは“今ヤれるアイドル”藤本ぽやなと、“酒クズアイドル”宮城ゆかの2MCに、トラックメーカーでDJ(再生ボタン押し係)のラミーによる、2MC&1DJという由緒正しきRun-DMC、もしくはRHYMESTERスタイルのアイドルラップグループ。そもそもはツインテイルズ(作家、ラジオパーソナリティの竹内義和がプロデュースする大阪のアイドルグループ)の対抗勢力として、宮城と藤本が共通の友人だったラミーを誘って2015年6月に結成。以降、コンスタントにライブ活動を展開している。

先ほど「とにかく下ネタ」と記したが、その一方で「働いても働いてもお金ない / だから最近あんまり働かないようにしてる」というワーキングプア問題にも接近する「OKANE」や、世界の中でもっとも高額と言われる日本の学費問題にもつながる「アートヒル宝塚」など、ポリティカルな感性や、彼女たちがそれを体験として書き出す皮膚感のリアルさを感じる歌詞もあるので、「お笑いでしょ?」と切り捨てられない部分も彼女たちの魅力だろう。

中でも、身体としては男性として生まれたが、現在は戸籍上も女性となっている、いわゆるMTFであるラミーの体験に基づいた歌詞であろう「夢野パイセン」は、本当に瑞々しく鮮やかな情景を描き出した素晴らしい内容。その中の「スカートが揺れた / おちんちんも揺れた」というリリックは、その一節ですべてを表現する、まさしくラップならではのパンチラインだ。また8月の東京ワンマンで発表した新曲では、Migos的なラップアプローチやジュークっぽいビートを展開するなど、グループとしての音楽的進化も目を見張るものがある。音楽シーンの台風の目になるかも知れない、一方でなったらなったで困るかもしれない存在だ。

男性ラップアイドル

MAGiC BOYZ

MAGiC BOYZ

超特急やDISH//などを擁するスターダストプロモーションの男性アーティストチームEBiDAN。ここから生まれたラップアイドルが、音楽ナタリーでもおなじみのMAGiC BOYZだ。2014年にトーマ、リュウト、フウト、ユウト、そして2015年にマヒロが加入し、メンバー全員が中学生という、5人体制で活動を本格スタート。全員がラップ初心者、しかも13、4歳にもかかわらず、作品制作のバックアップにはNIPPS(BUDDHA BRAND)やVIKEN(TETRAD THE GANG OF FOUR)といった超ハードコアなラッパーが参加したことでも話題となった。「illson feat. NIPPS、オカモトレイジ(OKAMOTO'S)」などに顕著だったタフな楽曲スタイルと、変声期真っ只中のおぼつかないラップの奇妙なバランスが非常に興味深く、これもラップアイドルという構造でしか生まれないオリジナリティを感じさせた。

 初期のMAGiC BOYZ。

 初期のMAGiC BOYZ。

フウトとユウトが卒業、小学生だったジョーとミロがDJとして加入するが、ミロは短期間で卒業し、3MC&1DJスタイルに再編成。ヒップホップビートに加えて、「Do The D-D-T!!」などに見られたベースミュージックやバウンスなどを取り入れたフロアライクな楽曲も数多く発表し、さまざまなライブに参加していった。また2016年11月には、“中学25年生”としてベテランラッパーZEN-LA-ROCKが正式メンバーとして加入。「Oh!!!受験☆Night Fever」を共に制作するが、1人だけオジサンだったせいか(失礼)、2017年3月に卒業。そして、EASTEND×YURIの市井由理を迎えたMAGiC BOYZ×YURI名義の「パーリーしようよ」や、TOKYO HEALTH CLUBやSUSHIBOYS、ENJOY MUSIC CLUBなどの気鋭のアーティストが制作した楽曲を発表し、日本語ラップの歴史を辿る側面と、シーンの先端とのコラボという側面で、音楽的にもアグレッシブな活動を見せた。そしてフルアルバム「第一次成長期 ~Baby to Boy~」をリリースしたものの、2018年8月をもって活動を停止した。しかしメンバーのトーマ、リュウト、ジョーの3人は新プロジェクトHONG¥O.JPを即時に結成、新たな展開を見せている。

さらに広がるラップアイドルグループ

Mash Berry

Mash Berry

ウクライナ×日本のハーフである、ひめな、ななみによる2MC小学生アイドルユニットMash Berryは、活動は非常に散発的だが、アイドルグループMELLOW GREEN WONDERとのスプリットアルバム「発見」を2017年にリリース。小学生らしいはっちゃけたラップが聴きどころだ。

前回に続き駆け足で2017年までのラップアイドルグループの登場を解説してきたが、次回では2018年により動きを加速させた、激動のラップアイドルシーンを紹介していきたい。なお本連載はスタート当初に全4回を予定していたが、回数を増やしてシーンの様子を伝えていく。

<つづく>

バックナンバー

高木"JET"晋一郎

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