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映画二人道中 ~名コンビに聞く制作秘話~ 第2回 [バックナンバー]

映画監督・山崎貴と作曲家・佐藤直紀の道中 | 「ALWAYS 三丁目の夕日」で出会い、「ゴジラ-1.0」に至った“感覚的に通じ合う”2人

「〇〇が意外と正解なんだよ」佐藤をびっくりさせた山崎の対応とは

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プロデューサーは反対、山崎は「これでいこう」

山崎 そのあとは2013年の「永遠の0」のときに、佐藤さんの曲の雰囲気が変わった感じがしたんですよね。

佐藤 「永遠の0」のサウンドは「ゴジラ-1.0」に通じていると思います。それまではメロディアスなものを作ることが多かったんですが、「永遠の0」のメインテーマはもうちょっとストイックな曲にしたいと考えて。でもいわゆる名曲と言われるような類の曲ではなかったのと、「三丁目」のようなキャッチーさはなかったので、プロデューサーたちからは反対されました。そんなときに山崎監督が「これでいこう」と言ってくれたんです。

山崎 打ち合わせにいたプロデューサー3人が全員NGを出したという(笑)。その理由も理解できましたが、一方で佐藤さんの作った曲だから大丈夫だなっていう思いがあったんです。煽るようなメロディが合う映画にするつもりはなかったので、ストイックな曲がちょうどよかったですね。

佐藤 今でもすごく覚えているんですが、その打ち合わせのときに監督が「観客を信じていいんじゃないか」とおっしゃったんですよ。つまり、わかりやすい曲で手取り足取り説明するのではなく、こういう曲を当ててみてもいいのではと。

山崎 そんなこと言ってました? そのときはそういう気分だったのかな(笑)。真面目に言うと、求められたものを作って安住するのは楽だと思うんですが、佐藤さんは毎回かなり攻めてきてくれる。この作品にはこういう音楽がいいんじゃないかという実験的な提案が、予想外のものを生み出すと思うんです。ただ曲を作ってくれているのではなくて音楽監督なんですよね。

山崎貴

山崎貴

佐藤 いくら僕がチャレンジして曲を書いても、「これはダメ」「そうじゃない」と言う監督もいます。でも山崎監督は作ったものを「面白そう」と受け入れてくれるので、僕も思い切り自分の信じる曲を書くことができます。「こういうのが好きだろうな」と考えて音楽を作ることも可能なんですが、それって物作りとしてはよくない。いろんな音楽を作るチャンスを与えてもらっているからこそ、新鮮な曲を作り出すことができます。

山崎 まあいいものはいいですからね(笑)。

佐藤をびっくりさせた山崎の対応

──その後は「寄生獣」シリーズや「海賊とよばれた男」、「DESTINY 鎌倉ものがたり」「アルキメデスの大戦」と続いていきます。

山崎 「アルキメデスの大戦」のメインテーマが本当に好きなんですよ。徐々に盛り上がっていって、ドーンドーンと上がっていく構成がすごくよくて。最初に会社(※編集部注:山崎が所属する映像制作会社・白組)でデモ曲を聴いたとき、ヘッドフォンをしていたので自分では気付かなかったのですが「かっこいい」と口に出ていたらしく、周りにいたスタッフから「なんかすごいかっこいいってつぶやいてましたよ」「興奮してるじゃないですか」と言われました(笑)。あれはよかったなあ……作品の本質を突いた曲が来たなっていう感じで。

佐藤 ありがとうございます。

──佐藤さんは山崎さんとの記憶に残っているエピソードはありますか?

佐藤 2022年公開「ゴーストブック おばけずかん」のラストシーンの音楽を、どのタイミングで流し始めるかという議論をしたことがあって。山崎さんは遅らせたいという考えだったんですが、僕はどうしても現状でいきたかった。ただ最終的には監督の意見を尊重するべきだと考えて引き下がったんです。そんなとき、現場にいた音楽とは関係のないスタッフの方が「遅らせないほうがいいです」と言ったら、監督はあっさり「じゃあそうしよう」と。曲を作っている僕の意見を汲まずに「それはないんじゃない?」と最初は感じてしまったんですが、山崎さんが「監督や作曲家じゃない人の感覚に任せるのが意外と正解なんだよ」と言っていて、なるほどなと思ったんですよね。

山崎 お客さん視点で言ってるような気がしたので委ねようかなと。あとは2対1というか、佐藤さんとそのスタッフのように関係性のない2人から同じ意見が来たときは耳を傾けるようにしているんです。人為的ではなく自然発生したものだと思うので。

佐藤 それが映画監督としてすごいと思いました。僕の場合、周りに何か言われたとして音符1つたりとも変えない気持ちで曲を作っています。自分の曲に関しては自分が一番正しいと考えてしまいがちなので、監督の対応を見てびっくりしました。

山崎 確固たる自分を持って突き進むのも素晴らしいと思います。ただ映画監督にとっては“選ぶ”ことも大きな仕事なので、お客さん目線で言っているいい意見があれば採用してもいいんじゃないかと。自分の中で譲れないものを踏まえて何が最善なのかを考える作業はずっとやっていますね。

音楽は言葉では伝えられない

──もう少しで「ALWAYS 三丁目の夕日」から20年が経ちます。お話を聞いている限り、このタッグはまだまだ長く続きそうです。

山崎 ルーティンになるのはよくないですが、いろんなタイプの佐藤さんがいるので、毎回別の方にお願いしてるような感覚なんです。何を出してくるかわからないと言いますか。

佐藤 音楽って難しくて、言葉では伝えられないんです。例えばカメラだったら「もっとアップにしてほしい」と伝えることができますが、「ノスタルジーな感じの音楽」と言われても育ってきた時代・環境によって懐かしいの意味は変わってくる。感覚的に通じ合う関係にならないと映画音楽を作り上げるのは難しいので、実は同じ監督と作曲家がやり続けることはいいことなんじゃないかと思ってます。「前の作品を評価してもらえたから今回も呼ばれた」と思うと前作を超えないといけないプレッシャーがありますし、なあなあになることはまったくなくて、山崎監督の作品に参加することはどんどん怖くなりますね。

山崎 それはかわいそうなのでじゃあ次は別の人に(笑)。

佐藤 ここまで一緒にやってきて次呼ばれなかったらショックです(笑)。

山崎 こんなに素晴らしい関係はなかなかないですからね。佐藤さん抜きは無理だなあ。

左から山崎貴、佐藤直紀。

左から山崎貴、佐藤直紀。

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映画「ゴジラ-1.0」

「ゴジラ-1.0」ポスタービジュアル (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」ポスタービジュアル (c)2023 TOHO CO., LTD.

2023年11月3日に公開されるゴジラ70周年記念作品。戦後のすべてを失った日本に、追い打ちをかけるようにゴジラが現れるさまが描かれる。山崎貴が監督・脚本・VFXを担い、神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介がキャストに名を連ねた。

山崎貴(ヤマザキタカシ)

1964年6月12日生まれ、長野県出身。2000年に「ジュブナイル」で監督デビューした。主な監督作に「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「永遠の0」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」がある。

佐藤直紀(サトウナオキ)

1970年5月2日生まれ、千葉県出身。2005年公開の「ALWAYS 三丁目の夕日」で、第29回日本アカデミー賞の最優秀音楽賞を受賞。映画だけでなくドラマ、アニメ、CMなど幅広い分野で音楽を手がける。

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𝑡𝑜𝑘𝑢𝑠𝑎𝑡𝑠𝑢_𝑗𝑝 :|| @tokusatsu_jp

山崎「曲が品格を上げてくれたと言いますか、大人が観るべき怪獣映画になった感覚があって、佐藤さんのアプローチは正しかったんだなと思います」 https://t.co/tdHFzWF1WA

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