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映画二人道中 ~名コンビに聞く制作秘話~ 第1回 [バックナンバー]

映画監督・前田弘二と脚本家・高田亮の道中 | 長いおしゃべりから生まれるタッグ作と、2人“だけ”が面白いと思うこと

「婚前特急」「まともじゃないのは君も一緒」など数々のタッグ作を振り返る

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映画界には、たびたびタッグを組んで作品を制作する“名コンビ”がいる。何年にも、何作にもわたり力を合わせ、作品に向き合うプロフェッショナルの2人組。本連載では、そんな映画界の名コンビに着目し、2人の制作方法やタッグを組むことで生まれた名作の数々を振り返る。

第1回に登場するのは、映画監督・前田弘二と脚本家・高田亮。2011年に映画「婚前特急」でともに劇場公開映画の商業デビューを果たし、「わたしのハワイの歩きかた」「セーラー服と機関銃 -卒業-」「まともじゃないのは君も一緒」など、数々のタッグ作を発表している。10月27日に新作「こいびとのみつけかた」の公開を控える2人に、これまでの歩みや思い出を語ってもらった。

取材・/ 尾崎南 撮影 / 小原泰広

前田弘二と高田亮のタッグ映画(一言メモ付き)

2006年「古奈子は男選びが悪い」

「(脚本を前田が)気に入らなかったんですよ!」(高田)

2007年「遊泳禁止区域」

2011年「婚前特急」

「コメディは、高田さんの腰が重かったんですよね?」(前田)

2014年「わたしのハワイの歩きかた」

「アメリカンコメディが大好きだったので、ノリノリで書きました」(高田)

2015年「セーラー服と機関銃 -卒業-」

「まったく違う作風で試したい部分もあった」(前田)

2020年「まともじゃないのは君も一緒」

「初心に戻って、本当にくだらないものを書こう」(高田)

2023年「こいびとのみつけかた」

「脚本を読んで、今回が一番感動したかも」(前田)

※年は製作年

なんで評価されないのかな?(前田)

──お二人が知り合ったのは、前田さんがテアトル新宿でアルバイトしていた頃だそうですね。どのようなきっかけだったのでしょうか。

高田亮 バーベキューだよね?

前田弘二 違いますよー(笑)。テアトル新宿の前に僕は、新宿のTSUTAYAでバイトしていたんです。そこの先輩で山田広野さんという活弁映画監督がいらっしゃって。僕は映画の手伝いをしていたんです。あるとき、上映会のトークショーに(高田と)共通の知り合いが参加していて。そのあとの飲み会で出会ったんですよね。まだ映画を撮る前で、22~23歳くらいでした。

高田 そうか。僕が30歳くらいだね。

前田 ガッツリ仲良くなったきっかけは、三浦景虎(現・フランク景虎)さんですね。景虎さんは「こいびとのみつけかた」にも出演しているんですけど、彼が山田さんの映画に出演したことで仲良くなって。家に遊びに行ったら、VHSがいっぱい置かれていたんです。聞くとそれは、当時高田さんが撮っていた自主映画で、主演が全部景虎さんだったんですよね。借りて家で観たらめちゃくちゃ面白くて、すごい脚本を書く人がいるな……と思いました。「なんで評価されないのかな?」と(笑)。

高田 やんわりバカにしてるよね?(笑)

前田 そんなことない!(笑)すごく面白かったんですよ、僕には書けないところがたくさんあって。それで景虎さんに(高田を)紹介してもらったのかな。ちょうど高田さんが自主映画で新作を撮るタイミングだったので、僕は録音として手伝いに行ったんです。そのときに、森崎東監督の話で意気投合しました。

※森崎東の崎は立つ崎(たつさき)が正式表記

高田 当時は森崎東とか、映画の話ができる相手に飢えていて、それで盛り上がったのは覚えていますね。

左から高田亮、前田弘二。

左から高田亮、前田弘二。

──お二人は、2006年に「古奈子は男選びが悪い」という作品を手がけられていますが、こちらが最初のタッグ作ですか?

高田 「古奈子は男選びが悪い」の前に、(前田が)三浦景虎主演で「ボクキミスキー」という映画を撮っていて。一部、脚本の男女の言い争いシーンを手伝ったんですよ。それを(前田は)いいと思ってくれたのかな?

前田 当時、楽しくて僕も自分で脚本を書いていたんですけど「何か変えたい」「もうちょっと広げたい」と思っていて。高田さんの監督作「結婚二年前」のセリフが面白くて、エッセンスをお借りしたいなと考えました。

高田 「『結婚二年前』で登場人物が無駄な会話をしている部分だけで1本作るってどうですか?」「それ面白いね」という話になったのでそのように書いたんですけど、(前田が)気に入らなかったんですよ! ほとんど感想もなく「こういうのもいいんですけど、こういうのはどうですかね?」って違う話を始めて……(笑)。その脚本は自分で撮ればいいやと思って、監督に提案された案でもう1本の脚本を書いたんですよ。そしたら、最初に書いたものと、次に書いたものを監督がミックスして、「古奈子は男選びが悪い」にしたんです。「俺が撮るつもりだったのに、こんな細切れに使って……!」と思い、最初はあまりいい関係じゃなかった(笑)。

前田 でも「古奈子は男選びが悪い」を第10回水戸短編映像祭に出品したら、グランプリをいただいてテンションが上がりました。

高田 さんざん文句言っていたのに、「やったね前田くん! 最初からいいと思ってたよ!」みたいな(笑)。

前田 うれしくてその翌日に、もっといろいろできるんじゃないかと考えたのが「婚前特急」ですね。今度はラブコメやるか!となりました。

これが面白いって思ってるんですけど……(高田)

──その「婚前特急」で、お二人は劇場公開映画の商業デビューを飾りますね。

前田 当時僕は、どんな道に進むかちょっと悩んでいたんです。しっとりした作風だったり、殺人ものだったりいろんな企画がありましたが、結局成立しなくて。コメディは、高田さんの腰が重かったんですよね?

高田 コメディって難しいじゃないですか。こっちが笑えると思ってもノリが合う人同士じゃないと難しい。僕と前田くんの間で「面白い」と言っていても、プロデューサーに「もっと面白い会話になりませんかね?」と言われたりして。「これが面白いって思ってるんですけど……」となるじゃないですか。

「婚前特急」DVDジャケット(Blu-ray / DVD発売中、発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス)。(c)2011「婚前特急」フィルム・パートナーズ

「婚前特急」DVDジャケット(Blu-ray / DVD発売中、発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス)。(c)2011「婚前特急」フィルム・パートナーズ

前田 コメディって、その場のギャグみたいに思われちゃうから。そうじゃないんだよな……もはや別に笑わせたくないんだよな……と(笑)。なんとなく面白ければいいというか、“愉快”な話が作りたい。

高田 「これがギャグです!」っていうんじゃなくて、変な人が本気でいろんなことをやる、みたいな話が好きなんですよ。その人たちは至って本気なんだけど、周りからするとおかしいよね?みたいな。だけど最終的には人間ドラマになっていくというのが、前田くんの好みでもある。「婚前特急」もこの形になるまでけっこう時間が掛かりました。

前田 そうですね。「婚前特急」の主人公は現実的な人だけど、展開はフィクション要素も多めだったりするので。

高田 それで根岸洋之さんというプロデューサーが前田くんに声を掛けてくれて、「こういうコメディがやりたい」と相談したら乗ってくれたんだよね。でも僕はそのときにはすっかり嫌になっていて。いろんな企画を提出してはダメになっていたし、前田くんも(脚本を)切り張りして使ったりするような人じゃん?(笑)もういい!と思って、僕は全然違うところで脚本を書いていたんですけど、宇野祥平くんに「根岸プロデューサーはいいプロデューサーなので、絶対にやったほうがいいですよ」と説得されて。もう一回だけやるか……と。

やっぱり前田くんいいよなー(高田)

──そんな紆余曲折があったのですね。「婚前特急」後も、お二人はコンスタントに組まれていますが、プロデューサーからのご指名ですか?

高田 基本的には、前田くんに(プロデューサーから)話が来るよね。

前田 そうですね。「わたしのハワイの歩きかた」「セーラー服と機関銃 -卒業-」は、声を掛けていただきました。「わたしのハワイの歩きかた」は、「『婚前特急』みたいな映画をハワイで1本撮らない?」と話が来て。コメディはやっぱり感覚がそれぞれ違うので、もう一度高田さんと一緒にやりましょうという流れになりました。

高田 僕はアメリカンコメディが大好きだったので、ノリノリで書きましたね。

──この頃になると、何作も組んでいるので関係性が変わってくるものですか?

高田 どうだったかなあ。このときが一番険悪だったかな? このときはよかったかな?

前田 この前に「太陽は待ってくれない」「ラブ・スウィング ~色々な愛のかたち~」とかコメディドラマを一緒に作ってるんですよね。

高田 そうそう、段々コメディに疲れちゃってね。深夜ドラマの案件を「休ませてくれ」と断ったこともあったね。「わたしのハワイの歩きかた」の頃はいい雰囲気だったけど、その手前の時期はあんまりよくなかった。

前田 僕はあまり、そんな印象が残っていない(笑)。

高田 でもね、その深夜ドラマも結局参加したんですよ。そしたらまた出来がよくて。「やっぱり前田くんいいよなー」みたいな(笑)。

左から前田弘二、高田亮。

左から前田弘二、高田亮。

──2016年公開の「セーラー服と機関銃 -卒業-」は、これまでのタッグ作とは作風が違うように感じました。

前田 高田さんはもともとヤクザ映画が好きで、高田さん好みの企画かと思いお声掛けしました。僕はこれまでコメディを作っていたので、まったく違う作風で試したい部分もあったんです。

高田 このときは銃撃戦のシーンを書くと、前田くんが「銃撃戦って必要ありますか?」ってピンとこない感じだったよね。

前田 「セーラー服と機関銃」の続編であり、現代劇であり……「どういうこと?」みたいな、企画自体が不思議で。主人公の女の子が人を殺しちゃいけない、でも銃撃戦はある……と訳がわからなくなっちゃった(笑)。でも、とても面白かったですね。

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“てんぷら知っています”に「いいじゃないですか!」(高田)

読者の反応

佐藤佐吉 Sakichi Sato👀 @sakichisato

私が初監督した短編『ウルトラマソ刑事』は高田亮さんが助監督、前田弘二監督が録音で参加してくれて、制作部として参加していた宇野祥平くんと前田監督はその現場で運命的な出会いをし、彼ら3人は私を置き去りにして売れっ子になっていったのでした https://t.co/88MZW2Pl4i

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