小池健が監督を務める「ルパン三世」のアニメ「LUPIN THE IIIRD」シリーズより、配信アニメ「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」が6月20日にリリースされ、劇場アニメ「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」が6月27日に公開された。
「LUPIN THE IIIRD」シリーズ新作の配信・公開に際して、映画ナタリーでは宇多丸(RHYMESTER)に取材を実施。これまでもラジオなどで「ルパン三世」作品に言及してきた宇多丸が自身の“ルパン原体験”を語り、長年「ルパン三世」が愛される理由、「LUPIN THE IIIRD」シリーズにおける小池の狙い、作品から読み取れる実写映画のリファレンスを独自の批評眼で分析してくれた。最後にはシリーズを完結させた小池への大胆な提言(!?)も。
なお今回の記事には「銭形と2人のルパン」「不死身の血族」の内容に関するネタバレが含まれているため、未鑑賞の方はご注意を。
ナタリーでは映画「不死身の血族」と配信作「銭形と2人のルパン」を中心に、「ルパン三世」の情報を届ける特設サイト「ルパンナタリー」を展開中。「ルパン三世」の最新ニュースや、キャスト・著名人へのインタビュー、作品をより楽しめるコラムを掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。
取材・文 / 内田正樹撮影 / 間庭裕基
あらすじ
「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」
ルパン三世たちは、これまで刺客を送り続けてきた黒幕の正体、隠された財宝のありかを暴くため“謎の島”を目指してバミューダ海域へ向かう。しかし飛行機は狙撃され、島に不時着することに。“24時間以内に死をもたらす毒”が充満する島で彼らは、兵器として使われ今は捨て置かれた“ゴミ人間”、不老不死を掲げる島の支配者・ムオムに対峙する。
「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」
ルパン三世がロビエト連邦に現れたという情報をつかみ、現地へ赴いた銭形警部。彼はそこで無差別爆弾テロに遭遇し、現場から立ち去る犯人──ルパンの姿を目にする。しかし実は爆弾魔はルパンに瓜二つの容姿を持ち、「ルパン三世」の名を騙る偽者だった。銭形は犯人逮捕、ルパンは自分の名を取り戻すため、国家に渦巻く陰謀と事件の真相に迫る。
「ちょっと大人っぽい感じ」から興味が湧いて…
──まずは宇多丸さんと「ルパン三世」シリーズの出会いからお聞かせください。
子供の頃、テレビでファーストルパン(アニメ「ルパン三世 PART1」)の再放送を観たのが最初でした。僕らの世代には、マンガ「サーキットの狼」の2巻や「俺の空」の1巻といった“エロい認定”されていたコンテンツがいくつかあるんですが、ファーストルパンの第1話「ルパンは燃えているか…?!」も、まさにその1つ。組織に捕まった峰不二子が台の上に拘束されてコチョコチョマシンでくすぐられちゃう、有名なシーンですね。そういう「ちょっと大人っぽい感じ」から興味が湧いて。その後、赤ジャケットのルパン(「ルパン三世 PART2」)や「ルパン三世 ルパンVS複製人間(クローン)」(監督 吉川惣司 / 1978年)はリアルタイムで観てたんですけど、「ルパン三世 カリオストロの城」(監督 宮﨑駿 / 1979年)に関しては、恥ずかしながら「ぴあ」の「もあテン」(※オールタイムベストテン企画)で上位(※1984年の第1位)だったことがきっかけで、あとからテレビ放映時に観た記憶です。そこから、「ルパン三世 DEAD OR ALIVE」(監督 モンキー・パンチ、アニメ監督 矢野博之 / 1996年)までの劇場用長編は一通り、映画館に観に行っていると思います。
──宇多丸さんが考える「ルパン三世」シリーズの魅力とは?
小池ルパンとは異なるポイントですが、1つにはやはり、ルパン一味と銭形警部という「固定メンバーでわちゃわちゃやる」心地よさがあることは間違いないですよね。ただ、僕はやっぱりファーストルパンのちょっと大人っぽくてヤバい雰囲気が好きです。ファーストルパンで石川五ェ門が最初(第5話「十三代五ヱ門登場」)に出てきたとき、「うわ、感じ悪いやつが来たな」って感じだったじゃないですか。小池ルパンもそう。最初から仲間なわけじゃない、あの緊張感がすごくいい。
小池ルパンの狙いは“ファーストルパンと原作が持っていたムードの再現”
──宇多丸さんには今回の企画に際して、「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」を含む小池監督の「LUPIN THE IIIRD」シリーズを一気にご覧いただきましたが、いかがでしたか?
近年だと小池監督がキャラクターデザイン・作画監督を担当したテレビシリーズ「LUPIN the Third~峰不二子という女~」(監督 山本沙代 / 2012年)は、菊地成孔さんが音楽を手がけるなど話題になっていたので拝見していましたが、その後はちょっとブランクがあったんです。今回改めて「LUPIN THE IIIRD」シリーズを観て、もっとちゃんと履修しとかなきゃいけなかったなと反省しています。小池監督のお仕事は「REDLINE」も劇場で観ていたのに、チェックを怠っていた。狙いは一目でわかりました。端的に言えばファーストルパンとモンキー・パンチ先生の原作が持っていたムードの再現。それを、劇画を土壌に、アメコミやバンドデシネの垢抜けた感じを混ぜてアップデートしている。オープニングも、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の冒頭みたいに共通の映像で統一してあって、それぞれの作品で、完結に向けての布石も置き続けていた。10年以上掛けて、映画まで5部作という遠大なシリーズを、ものすごい根気で着々と作ってこられたんだなと。
──そうですね。
そもそも原作の「ルパン三世」のキャラクターは、モンキー先生がいろんなエンタメから要素をサンプリングしてぶち込んだものだった。ルパン三世や不二子は「007」シリーズ、次元大介はマカロニウエスタン、五ェ門は市川雷蔵の「眠狂四郎」シリーズあたりの影響が大きい。そんなふうにファーストルパンは、山下毅雄さんの音楽も含めて、1960年代から70年代の世界的なエンタメの雰囲気をまとっていて、そこに“ルパンらしさ”が生まれた。もちろん、そこから外れたシリーズのよさもあるんですが、やっぱり基本はそこ。それを「ゴジラ」シリーズと同じで、それぞれのクリエイターがそれぞれのルパン観で描いてきた。僕は小池監督と同世代だし、小池さんの「これがルパンだ」という感じがすごくよくわかる。自分が観てきた映画たちがベースになっていて、「日本でもこういうの、できんじゃね?」とか、「ああいうのをルパンでやりてえ」という、ある意味無邪気な遊び感覚があるのもよくわかります。
──小池ルパンでツボにはまったポイントはありましたか?
冷戦下を想起させるシリーズ全体の時代設定ですね。例えば、「ジョン・ウィック」(監督 チャド・スタエルスキ / 2014年)が出てきたとき、「これ、世界観がルパンぽいぞ」と思った。ただ、僕はガンマニアでもあるので銃器の取り扱いにも目が行くんですが、「ジョン・ウィック」は最新の銃器や実戦技術をベースに荒唐無稽を積み上げることで独自の世界観を作り上げていた。一方ルパンの場合、次元のように古いリボルバーをああいうふうに実戦的な場面で使うのは現代では正直ちょっと考えづらいし、当然、ルパンのワルサーP38ももはや骨董品です。でもルパンをやる以上、そこはずらせない。そういう意味でも1960年代から70年代頃にグッと的を絞ったのは大正解じゃないかと。それによって、おそらくモンキー・パンチ先生自身もかつて意識していたであろう、和製ジェームズ・ボンド感も際立っている。あと、栗田(貫一)さんのルパンが脱・山田康雄というか、トーンを抑え、おどけることなく、硬派なルパンになっていたのもシリーズと合っていて印象的でした。ジェイムス下地さんが手がけるインストゥルメンタル中心の劇伴も、シリーズと合っていていいですね。
──まさに栗田さんは、「峰不二子という女」で脱・山田さんのスタイルに開眼されたと取材で発言されています。
そこも、僕みたいにしばらくルパンから離れていた人が観たら、意外かつ「いいね!」となるポイントだと思います。やっぱりルパンって、よくも悪くも赤ジャケルパンや「カリオストロの城」のイメージがあまりに浸透しすぎちゃっていて、そのイメージの型に、ある意味、シリーズが本来持っていたポテンシャルが引っ張られちゃうようなきらいがあったと思うんです。たぶん、小池監督には「ルパンはもっといろいろできる作品なのに」という思いがあったんじゃないでしょうか。だから毎回ちょっとずつ物語のジャンルも違うんじゃないかな。「次元大介の墓標」は次元が主役なのでマカロニウエスタンのようになるし。
──「血煙の石川五ェ門」は東映の任侠モノっぽいし。
「峰不二子の嘘」は「グロリア」(監督 ジョン・カサヴェテス / 1980年)ですよね。同時に、「峰不二子の嘘」に登場するビンカムは、浮世離れした敵キャラクターなのに、明らかにオニツカタイガーっぽいスニーカーを履いているのも、おそらくはブルース・リーのオマージュ的で、面白い。今日は僕もビンカムリスペクトで、黄色いオニツカタイガーを履いてきました。
──すごい! そうしたディテールは、クリエイティブ・アドバイザーを務める石井克人さんの貢献が大きいそうです。
なるほど。そうして細部に至るまで時代感やコンセプトを反映させているあたりも、「お!」となりました。実写映画からのインスパイアもふんだんで、いろいろな映画を観ている人も楽しめるシリーズですね。