左から櫻井紘史、岸田一晃、阿部豪。

「ゴジラ-1.0」をもっと楽しむ!ゴジラ+1.0(プラスワン) 第3回 [バックナンバー]

時代は古いけど新しい!プロデューサー3人が明かす、山崎貴版「ゴジラ」ができるまで

ファーストプロットの設定から、きらめいていた

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ゴジラ70周年記念作品「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」が、全国の劇場で上映中。

永遠の0」「アルキメデスの大戦」の山崎貴が監督を務めた「ゴジラ-1.0」は、すべてを失った戦後日本を舞台にした物語。主演を神木隆之介、ヒロインを浜辺美波が務め、山田裕貴青木崇高吉岡秀隆安藤サクラ佐々木蔵之介も参加した。

同作は、2016年公開の「シン・ゴジラ」以来、7年ぶりに日本で制作されたゴジラ映画。このたびプロデューサー / ラインプロデューサーとして携わった東宝の岸田一晃、ROBOTの阿部豪と櫻井紘史による鼎談を実施し、企画の成り立ちや山崎を監督に抜擢した経緯、戦後日本を描くために重ねた時代考証、制作時のエピソードなどを語ってもらった。

取材・/ イソガイマサト 撮影 / 小坂茂雄

山崎監督はゴジラ愛が強い(岸田)

──「ゴジラ-1.0」の制作に至った経緯と、山崎貴監督にオファーされた理由からまずはお話いただけますか。

「ゴジラ-1.0」ビジュアル  (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」ビジュアル (c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田一晃 前作の「シン・ゴジラ」(2016年)があまりにも偉大な作品だったので、次をどうするのか?ということは社内でもずっと課題で。いろいろな企画が立ち上がっては消え、立ち上がっては消えという状況が続いていました。一方、東宝には「ALWAYS 続・三丁目の夕日」(2007年)の冒頭でゴジラを登場させていた山崎監督に次の「ゴジラ」を撮ってほしいという悲願があって。当時も一度打診したみたいですが、そのときは描きたい内容に技術がまだ追いつかなくて実現しなかったんです。でも、僕たち3人が参加した「アルキメデスの大戦」(2019年)の完成後に市川南(東宝の取締役専務執行役員)が再度お話をしたところ、快諾をいただけて。そのときすでに「今ゴジラを作るなら戦後がいいと思う」というアイデアがあり、2019年の3月にもらったファーストプロットの設定から、企画としてもきらめいていました。

──どんなところにきらめきを感じました?

岸田 山崎監督はゴジラ愛が強くて、ゴジラをすごく理解されているのが大きかったですね。「ゴジラってどういう存在なんですかね?」という話は企画当初からずっとしていますが、監督の中には「ゴジラは人間の過ちが生み出してしまった存在で、戦争の化身。そこには反核反戦のメッセージがある」という強い想いがあって、そこは我々が70年間大切にしてきたゴジラというキャラクターの根幹と違っていなかった。「アルキメデスの大戦」の冒頭5分半の映像のクオリティを観たときに、山崎監督ならそれを技術的に視覚化できるという確信もありました。

左から櫻井紘史、阿部豪、岸田一晃。

左から櫻井紘史、阿部豪、岸田一晃。

阿部豪 僕も最初のホン(台本)を読んだときに、山崎監督が「永遠の0」(2013年)、「海賊とよばれた男」(2016年)などで積み上げてきた海や山の表現がふんだんに盛り込まれていると思いました。その経験値があったから「行ける!」と判断したんでしょうけど、これは大変なことになるんだろうなと思いましたね(笑)。

櫻井紘史 僕もホンを読んだ段階で、山崎監督の現時点での集大成的な作品になるんだろうなという感じがしました。空や海だけではなく、ゴジラが襲う戦後の銀座は「ALWAYS」シリーズを彷彿とさせるものでしたから。

──「シン・ゴジラ」の影響もありますか。

岸田一晃

岸田一晃

岸田 「シン・ゴジラ」はめちゃくちゃ意識しました。あの映画は3.11(東日本大震災)の影響を受けて作られていますが、現代を舞台にした「ゴジラ」として大正解だと思うし、当時はすべてやりきられた感じがしました。それだけに、山崎さんが「戦後」と言ったときにハッとしたんです。多くの「ゴジラ」シリーズは「国や政府、自衛隊VSゴジラ」を描いてきました。一方、戦後の日本はGHQの占領下で国が機能していないし、軍隊も持っていない。ゴジラが襲ってきたときに、攻撃する術が何もない。そこで我々はどう戦うのか?というアプローチが、時代設定は古いけど、新しかったんです。それが制作に踏み切った一番のポイントだったと思いますね。

──脚本を開発していく中で、最初のものから大きく変わったところは?

岸田 コロナの影響を大きく受けました。「ゴジラ」はスタッフ、キャスト総勢600人以上が関わるビッグプロジェクトですが、コロナ禍では群衆シーンを撮るのも難しく、制作準備を延期した時期があるんです。当時の議事録には、「無政府」「誰も助けてくれない」「貧乏くじを引く」「現場が疲弊する」なんて言葉も増えていきましたね。そのときに抱いた、「未曾有の災害が起きたときに国は頼りにならない。現場の人間が結局戦うことになるよね」という思いが戦中・戦後を生き抜いた人々にコミットしてきて。それが「この国は変わらねえな」「今度は未来を生きる戦いなんです」というセリフに落とし込まれていった気がします。

阿部 神木隆之介さんが演じた、主人公・敷島浩一のキャラクターも当初の設定から変わりました。完成した映画では戦いから逃げた男になっていますけど……。

「ゴジラ-1.0」神木隆之介演じる敷島浩一。(c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」神木隆之介演じる敷島浩一。(c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田 初期の台本の敷島はもっと好戦的な男で、彼がゴジラに機銃を撃ってしまったために多くの人々が死んでしまうという、完成した映画とは正反対の始まりだったんです。でも、ゴジラを目の前にして人は機銃を撃つことができるのか? ゴジラと対峙した人間は恐怖を感じて動けないのではないか?という考えに変わって。そして敷島という人間がどう生きてきたのか?という物語のセットアップともリンクしました。さらにその敷島の設定がこの作品が体現するメッセージ性にもうまくつながると判断しました。

広い駐車場さえあればなんとかなる(阿部)

──エンタテインメントの面で目指したことは?

岸田 映画館で観るべき体感型の映画です。1作目の「ゴジラ」(1954年)にゴジラが電車をくわえる有名なシーンがありますが、今回は電車の中にカメラを入れたり、倒壊するビルにいる人たちの目線で捉えたり、踏み進んでくるゴジラの巨大な足に近付いたりして。この時代はスマホもなければテレビも普及していない。ラジオもそれほど広く情報を伝えられない。何が迫っているのか?その答えがすぐにわからず、例え肉眼で捉えることができてもその正体は理解の範疇を超えている。迫って来るゴジラの恐怖を大きなスクリーンで体感してもらうために、思いっきり寄って、実際にゴジラに遭遇したときの目線や感覚を取り入れることがクリエイティブの面での一番のテーマでした。打ち合わせのときには、「ジョーズ」(1975年)がリファレンスとしてよく上がっていましたね。

阿部豪

阿部豪

阿部 ゴジラが来襲する当時の銀座を再現するのは大変です。でも、山崎さんのもとで仕事をしてきた僕らには経験値があって、山崎さんの作品は広い駐車場さえあればだいたいのシーンはなんとかなるみたいな感覚も確立されているんです(笑)。

櫻井 今回も駐車場と映画の中盤に出てくる新生丸のベースになる漁師船を探すところから始めたし、それにいちばん時間が掛かっていますからね。

──人々が逃げ惑う銀座のシーンはどこで撮影したのでしょうか。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

阿部 茨城で見つけた駐車場です。

櫻井 アスファルトの質感だけを見て、検証するロケハンを繰り返し、ようやくそこが見つかったんです。

岸田 そんなロケハンはあまりないですよね!

櫻井 山崎監督は役者の足とアスファルトの接地面に違和感がないかを気にしていたと思うのですが、地面までCGにしたらさらに大変な作業になってしまいますからね。実際のアスファルトにCGの服部時計店や当時のデパートなどを合成していきました。

阿部 露天商などはオープンセットに建てて、人が絡む建物の壁の一部などは作りましたけどね。

──ゴジラがくわえた電車の中で、浜辺美波さん演じる大石典子が大変な目に遭うシーンはどこで、どうやって撮影したんですか。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

阿部 あれは実際の半分ぐらいの車輌を作って、東宝スタジオで撮影しました。

櫻井 でも、実はあのシーンは、アクションに耐えうる電車を車両丸ごと制作することの困難があり、検討を重ねた部分でした。

阿部 監督は「ここは絶対に実現したい」と強い思いを持っていて。車輌を半分にすることで成立するかもしれないという光明が見えて、撮影に踏み切りました。

岸田 車輌のセットは傾くように作ってあって、乗客役の俳優さんたちはリアルに落ちているんです。グワンって大きく動く臨場感が、浜辺さんの演技にリアリティを持たせることができているのだと思います。

阿部 そのカットから川に落ちるシーンにつなげているんですが、今は実現してよかったと心から思います。

岸田 ゴジラ映画の面白さって、リアルとフィクションの間を行くところにあるような気がするんですよね。大胆なアクションは実際にはあり得ないかもしれないけど、周りの建物との対比からわかる強大さやゴジラが迫って来るときのスピード、人間との距離感みたいなところはリアルで。その相反する要素を融合させているところが“ゴジラエンタテインメント”の真髄ではないかと思います。

櫻井 でも、当時の銀座の再現は大変でした。

阿部 時代考証を重ねながら、まずは演出部とCGを担当する白組(※山崎も所属する映像制作プロダクション)でどこの交差点を再現するのか検討して。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田 ただ、あの銀座四丁目の交差点を俯瞰で広範囲にわたって撮った写真や映像があまり残っていなかったんです。なので、スタッフがいろんな雜誌や本に載っていた当時の写真をかき集めて。ここがこうなっているから、この道幅はこれぐらいだろうとか、この時代にこの看板が出ているのはおかしいな……といったことを1つひとつチェックしていきました。

阿部 みんなで調べまくりましたからね。ここの看板にはこう書いてあったとか、当時は進駐軍がいたからこうなっていたとか……。

岸田 山崎組は、そういうところに強いこだわりを持っています。細かく時代考証をして再現をしていく。今作の銀座の街並みは映像資料としての価値もあるかもしれません。

櫻井紘史

櫻井紘史

櫻井 調査のあとに地図を起こして、台本と絵コンテを見ながら「このカットはこのあたりを歩いていることにしよう」と決めていきました。それをもとに、今度はロケハンに出るんですが、実際にある建造物やワープステーション江戸(※茨城にある野外型ロケ施設)のセットは縁石などの細かい部分が当時のものと違っていて、結局すべてさっきの駐車場で撮影しています。

阿部 それも、ゴジラが吐く熱線の方角や距離なども計算しながら、なるべく嘘がないものを目指しました。

主人公とヒロインを、観客から遠い存在にしたくなかった(岸田)

──神木さんと浜辺さんをキャスティングされたポイントも教えてください。

岸田 戦後の日本を生き抜こうとしている本作の主人公とヒロインを、なるべく観客から遠い存在にしたくなかったんです。これまでのシリーズでは30~50代の方が主演を張ることが多かったけれど、今回は若い人たちがゴジラ映画の頭に立ちました。実際、そういう若い人たちがたくましく生きていた時代だと思いますし、遠い政府の人間ではなくて我々とともに生きているような空気感がこの映画の臨場感を担保しているのだと思います。実はNHKの連続テレビ小説「らんまん」よりも先にオファーしていました(笑)。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

阿部 だから、2人が「らんまん」の主人公とヒロインに決まったときはびっくりしましたよ(笑)。

櫻井 ゴジラを引き立てる人間側の中心人物として、神木さんと浜辺さんは最適でしたね。

阿部 もともと仲が良くて、撮影の合間もずっとしゃべり続けていた彼らの関係性が、戦後を描く今回の世界に自然となじんでいった気がします。

櫻井 ゴジラに向かって叫ぶ神木さんもよかったですね。

阿部 あんなに鬼気迫る神木さんはなかなか見られない。

岸田 ほかにも、見たことのない神木さんの表情がいっぱいあったような気がする。

阿部 浜辺さんも戦後が似合いましたね。

「ゴジラ-1.0」より、浜辺美波演じる大石典子。(c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」より、浜辺美波演じる大石典子。(c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田 この令和の時代で、往年の昭和女優のような雰囲気も持ち合わせている稀有な存在で。予告編にもある「あれが……ゴジラ?」と典子がつぶやく電車のシーンは、脚本段階から監督と僕がずっと「やりたいね」と話していたものです。寄りの画で、あのキラーゼリフを絶対に言ってもらいたかったんですよ。車窓に映るゴジラとの演出も相まってインパクトあるシーンになったと思います。

──ゴジラ自体のデザインは、山崎監督のこだわりによるものですか。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田 僕は、西武園ゆうえんちの「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」も山崎監督と一緒にやらせていただいて。そのときに監督と目指したのは、過去のシリーズで積み上げられてきたゴジラのデザインにリスペクトを持ちながら、監督が考える“This is ゴジラ”を目指そうということだったんです。ライド版ゴジラはけっこう好評でソフビも多く売れました。映画ではあのライド版のマッシヴなスタイルを踏襲しながら背ビレをよりとがらせ、今回の設定に合わせておどろおどろしさや再生する能力を象徴する全身の傷跡を加えていきました。山崎監督が考える“This is ゴジラ”を提示させてもらったわけです。

──熱線を吐く前に、ゴジラの背ビレがバンバンバンって立つのもかっこいいですね。

「ゴジラ-1.0」場面写真

「ゴジラ-1.0」場面写真

岸田 山崎監督が書いた「小説版 ゴジラ-1.0」でも触れられていますが、あそこには原子爆弾の“インプロージョン(爆縮)方式”の要素を取り入れました。バンバンバンと飛び出した背ビレをいったん押し込んでから熱線を吐くあのディテールは、核の申し子であるゴジラのモーションとして採用しています。

──先ほど、新生丸のベースになる漁師船を探すのにも時間が掛かったとおっしゃっていましたが、何がそんなに大変だったのでしょうか。

阿部 海で実際に走行させる必要があったんですけど、漁師船を僕らが0から作るわけにはいかない。だから、僕と櫻井の2人で新生丸のベースになりそうな漁師船を日本全国駆けずり回って探しましたが、なかなか見つからなかったんです。

櫻井 でも、愛知県でやっと、僕らが求めていたFRP(繊維強化プラスチック)でできた漁船が見つかって。

阿部 サイズがピッタリで、木でできた外側はそのまま生かせると思ったんです。なので、業者さんから買い取ったその船の現代っぽい部分を造船所で取っ払ってもらい、東宝スタジオで美術さんに木造船に作り変えてもらいました。

──その船を使って、実際の海でも撮影されたんですよね。

櫻井 人が絡む海のシーンは、浜松の外洋まで出て行ってすべて撮りました。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

阿部 僕らはこれまでにも「海猿」シリーズなどで海洋ロケはやったことがありましたが、それらはすべて湾内での撮影でした。今回初めて外洋まで出て、外洋ならではの荒れた海を撮ることができたんです。

櫻井 迫力のある画が撮れました。ただ、海が荒れているだけならいいけれど、船ももちろん大きく揺れたので、船酔いする者が続出して(笑)。

阿部 それに、晴れていても突風が吹いたり、その影響でうねりが残っていたりする日はロケに出られない。雨が降ったあとは海の色が変わるので、もっと遠くまで出ないと前日までに撮った画とつながらない。そんな問題が続出したので、海ロケの期間は現場がけっこうピリピリしていました。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

櫻井 海の上の新生丸で芝居をした秋津淸治役の佐々木蔵之介さんや、野田健治役の吉岡秀隆さんも大変だったと思います。油断すると本当に船酔いしちゃうし……。

阿部 撮影が終わったあとに苦楽をともにしたみんなで飲みに行きたいと思っても、コロナ禍でできない。それで翌朝はまた5時に出発する本物の漁師みたいな生活でしたから、けっこうしんどかったと思います。

櫻井 蔵之介さんなんて、リテイクになったシーンもありましたからね。明日の天気がどうなるかわからないので、曇りでしたが外洋まで行って、がんばって撮ったんです。でも、やっぱり光がつながらなくて結局リテイクになりました。

阿部 そのことを当日に「すみません、リテイクになります」と伝えに言ったら、蔵之介さんは大きな声で「嘘だろ!?」って叫んで、本当に落胆していました(笑)。

「ゴジラ-1.0」より、佐々木蔵之介演じる秋津淸治。(c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」より、佐々木蔵之介演じる秋津淸治。(c)2023 TOHO CO., LTD.

岸田 そんな現場で一番ひどい目に遭った佐々木さんは、初号試写で本編を観てすっごく喜んでいました。それこそ、放心状態になっていて。「これはとんでもない映画だ」と静かに興奮していたのが印象的でした(笑)。

櫻井 現場では伝えきれなかったほど、仕上がりが壮大でしたからね(笑)。

岸田 試写でゴジラと戦っている自分の姿を初めて観て、「こんなことになっていたのか!」と思われたんでしょうね。

「ゴジラの声が聞こえる」とSNSに書き込みが(櫻井)

──音楽まで観客を意識した、今回の体感型のスタイルは海外でもウケるでしょうね。

岸田 そこに関してはVFXの力もそうですけど、体感型を目指した音響スタッフたちの努力もものすごく大きいです。

阿部 例えば、ゴジラの咆哮ですよね。令和版ゴジラの声を表現するために、音響デザインの井上奈津子さんがいろいろがんばってくれて。彼女から出てきたプランは、千葉・ZOZOマリンスタジアムを借り切って、そこで100デシベルぐらいの吼え声を出し、そのファーッと回っている反響音を録るというものだったんです。それを今回のゴジラに当てているんですよ。

櫻井 録音時には「スタジアムからゴジラの声が聞こえる」とSNSに書き込みがありました(笑)。

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」場面写真 (c)2023 TOHO CO., LTD.

──そのやり方の効果は出ていると思いますか。

岸田 そもそも響いている音をさらに響かせていますから、内側から揺さぶられる感覚があります。

櫻井 あの声を聴いたときに、改めて思いましたね。井上さんと録音の竹内久史さんが「こういうやり方はどうだ?」と話し合いながら出した、あのプランで録ってよかったなって。

阿部 球場の候補はほかにもあったけど、最終的にZOZOマリンスタジアムでやることになったのは、海沿いで周りの音をあまり拾わないから。2人も「ゴジラ」シリーズには初参加だったのですが、ものすごく高い意識で臨んでくれたので、本当にとんでもない音になったと感じますね。

岸田 ダビング中は、音響チームが妥協しないようにと「世界が待っている」って書いた半紙を山崎監督の席の前に貼っていました。作業をする井上さんたちが監督に意見を聞くために振り向くと、絶対に目に入るようにしていたんです。それくらい高い意識でずっとやってくれていましたね。

──そういう意味では、12月1日に公開が決まった北米での反応も気になりますね。

「ゴジラ-1.0」版ゴジラのフィギュア。

「ゴジラ-1.0」版ゴジラのフィギュア。

岸田 僕たちも、向こうの方々の反応に正直びっくりしています。(10月上旬の取材時点で)海外版の予告編がYouTubeで806万回ぐらい再生されているんですよ。スクリーン数も公開が迫るにつれて増えていって、ハリウッド大作と同じぐらいのスクリーン数になります。しかも、北米のゴジラファンの方々が、ゴジラの造形も含めて「東宝のゴジラが帰ってきた!」と熱いコメントをアップしてくれていて。「脅威としてのゴジラをこの造形で見たかった!」といったコメントを書いてくれる人もいたし、あちらでの期待も高まっているのを肌で感じます。

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映画「ゴジラ-1.0」

「ゴジラ-1.0」ポスタービジュアル (c)2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」ポスタービジュアル (c)2023 TOHO CO., LTD.

2023年11月3日に公開されたゴジラ70周年記念作品。戦後のすべてを失った日本に、追い打ちをかけるようにゴジラが現れるさまが描かれる。山崎貴が監督・脚本・VFXを担い、神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介がキャストに名を連ねた。

岸田一晃(キシダカズアキ)

1991年2月25日生まれ。東宝所属の映画プロデューサー。「君の膵臓をたべたい」「アルキメデスの大戦」「思い、思われ、ふり、ふられ」「ゴーストブック おばけずかん」「今夜、世界からこの恋が消えても」などを手がけた。

阿部豪(アベゴウ)

1978年1月16日生まれ。映像制作会社・ロボット所属のプロデューサー。担当作品に「海賊とよばれた男」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「アルキメデスの大戦」「ゴーストブック おばけずかん」などがある。

櫻井紘史(サクライヒロフミ)

1982年4月21日生まれ。映像制作会社・ロボット所属のプロデューサー。制作に携わった作品は映画「デイアンドナイト」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「アルキメデスの大戦」「Daughters」、劇場版「きのう何食べた?」、ドラマ「さよならぼくたちのようちえん」「クールドジ男子」ほか多数。

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