ステージ上には、3人が滞在しているホテルの部屋を表現した舞台美術が組まれ、衣服が無造作に置かれたベッドや、大きなソファなどが設置されている。場面が移り変わるごとに、舞台正面の左上に日付が表示され、時間の経過が示される。
前半の山場とも言える、友理が岳人に自身の性自認についてカミングアウトするシーンは、橋本と黒木が根気強く対話を重ねる形で進んでいく。この場面では、友理から重要な告白がなされるたびに、ゴオオという海鳴りのような音が流れ、舞台上の緊迫感をさらに増幅させた。
黒木は、家族に申し訳なさを感じながらも、自分の“本音”と向き合い、自身の行く末を決定していく友理を力強い演技で立ち上げる。橋本は、友理の意思を尊重したい気持ちがありつつ、一般的な価値観に捉われてしまう岳人の葛藤を、セリフの端々ににじませた。また中田は、友理の告白によって変化する“家族の形”をフラットな目線で見つめる真琴を、巧みなバランス感覚をもって演じた。物語の中の時間が経過するにつれて、友理の服装や声色、仕草に変化が生じ、“彼”が新たな一歩を踏み出したことが明らかになっていく。
開幕に際し、加藤は「この物語は、性別を変更したいと家族から告げられた第二の当事者を描いた小さな物語です。家族は暮らしかたも多くの人が経験しているような暮らしかたをしていません。そして『変わっていく人を受け入れることができる』という信頼を、変わっていく人の中に少しずつ積み重ねていく家族の話でもあります。劇場でこの作品を一緒に観れることを楽しみにしています」と思いを語った。
上演時間は約1時間40分で、公演は10月12日まで。出演者のコメントは以下の通り。
橋本淳コメント
開幕まで辿り着くことができたのは、関係者の皆様、そしてお客様のおかげです。心より感謝申し上げます。
演じる側として、しっかり自覚し考え、現時点での明確な答えを表現に乗せるために尽力します。もちろん観た方の数だけ、感じるものや考えがありますので、ただ純粋に鑑賞を楽しんでいただけたら幸いです。
素晴らしいスタッフ・キャストに囲まれていることに感謝しつつ、いつもの作品以上に、その場で起こることに正直に反応し続け、その時間や空間の中で存在出来ることを、より意識して届けられたらと思います。
ぜひシアタートラムにお越しください。お待ちしております。
黒木華コメント
長かったような短かったような稽古期間を経て、いよいよ本番です。
岳人、友理、真琴。
三人でとても濃密な時間を過ごした気がします。
共演のお二人の感情を取りこぼさぬよう、
また一緒に友理を作って下さった方々の気持ちも乗せて、
見てくださる方に葛藤や愛情が伝わりますように精一杯演じたいと思います。
中田青渚コメント
稽古を重ねるごとに作品が少しずつ立体的になっていく感覚がすごく不思議であっという間の稽古期間でした。
舞台に不慣れな私にも、演劇の初歩的な部分から皆さんに沢山のことを教えていただき、難しいけれど演劇って面白い!と感じました。
いよいよ開幕するということで緊張ももちろんありますが、皆さんに観ていただけることがとっても楽しみです!
人と人との関わりを丁寧に描いた作品ですので、ぜひ観に来ていただけると嬉しいです。
ここが海
開催日程・会場
2025年9月20日(土)〜10月12日(日)
東京都 シアタートラム
スタッフ
作・演出:
出演
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リンク
ステージナタリー @stage_natalie
変わっていく人を受け入れる…加藤拓也が描く家族の物語「ここが海」開幕(舞台写真 / コメントあり)
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