読売演劇大賞贈賞式、「フェイクスピア」大賞受賞に野田秀樹が50年分の“大感謝”

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第29回読売演劇大賞の贈賞式が、昨日2月25日に東京都内で行われた。

第29回読売演劇大賞贈賞式の様子。

第29回読売演劇大賞贈賞式の様子。

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左から那須凜、緒川たまき、高橋一生、野田秀樹、本多一夫。

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読売演劇大賞は、演劇文化の振興のために1992年に創設された賞。第29回読売演劇大賞の大賞・最優秀作品賞に選ばれたのは、NODA・MAP「フェイクスピア」で、最優秀男優賞を「フェイクスピア」の高橋一生、最優秀女優賞を「砂の女」の緒川たまき、最優秀演出家賞を「Oslo(オスロ)」「森 フォレ」の上村聡史、最優秀スタッフ賞を「反応行程」「友達」「ジュリアス・シーザー」の美術で伊藤雅子、杉村春子賞を「アルビオン」「春の終わりに」「ザ・ドクター」の那須凜が獲得し、芸術栄誉賞を本多劇場グループ、選考委員特別賞を「桜姫東文章」が受賞した。

小瀧望

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読売演劇大賞では、各賞の最優秀賞受賞者が翌年の同賞プレゼンターを務める。杉村春子賞のプレゼンターを務めたジャニーズWEST・小瀧望は「コロナ禍で作品をやり遂げることには、想像を絶するストレスとプレッシャーがある。作品を作り上げた皆様を心から尊敬します」と話した。

那須凜

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杉村春子賞の那須は緊張した表情で登壇。俳優の両親を持つ那須は「父と母のお芝居を観て憧れを持ち、演劇を始めました。なんとなくずっと、自分が俳優として認められていないような気持ちでしたが、『自信を持って良いよ』と神様に言われた気がします」と述べ、「関わってくださった皆さんに心から感謝します。誰より、女手ひとつで娘3人を育ててくれた、厳しいけれど私の一番の味方である母・那須佐代子にありがとうと伝えたいです」と言葉に力を込めた。

松竹の山根成之専務取締役。

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選考委員特別賞に輝いたのは歌舞伎「桜姫東文章」。松竹の山根成之専務取締役は「『桜姫東文章』という伝説の封印を解くのは勇気がいりました。令和の世にこの作品をよみがえらせることができたことを誇りに思います」と胸の内を明かし、「松竹の代表として私が頂戴しましたが、これは間違いなく片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんがお受けになった賞。お2人とも、本当にありがとうございました!」と笑顔を見せた。

伊藤雅子

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最優秀スタッフ賞に選ばれた舞台美術家の伊藤は、高校3年生のときミュージカル「オリバー!」を観て舞台美術を志したという。プレゼンターの照明家・斎藤茂男からブロンズ像を受け取った伊藤は「『オリバー!』には子役時代の高橋一生さんが出演されていた」と会場の高橋に視線を送り、「このような偶然を強くかみ締めて、これから先の出会いを大切に、1つひとつの作品に寄り添って舞台をデザインしたい」と意気込んだ。

上村聡史

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最優秀演出家賞では、プレゼンターを藤田俊太郎が務めた。上村は「Oslo(オスロ)」について「つきなみですが、異なる者同士がお互いを理解して生きていくということを見つめて作りました。その思いをキャストもスタッフも共有してくれて、今上演するのにふさわしい作品になった」とコメント。また「森 フォレ」は、ワジディ・ムワワドによる“「約束の血」4部作”を、上村が演出するシリーズの最新作だ。上村は「レバノン出身の彼が、世界の分断を目の当たりにして紡いだ言葉を日本でも届けられたと思うと、表現者として感慨深い」と話し、「世界では時計の針を逆戻しにするような事態も起きていますが、偏りのない目線で世界と向き合っていけたら」と決意を述べた。

鈴木杏

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最優秀女優賞のプレゼンターは、昨年大賞・最優秀女優賞を獲得した鈴木杏。鈴木は「式に来ると、大好きな人たちに会えてうれしい」と顔を輝かせ、「逆境が続きますが、今はぐくまれているものが、新しい時代でどうスパークするか楽しみ。そんな希望を持たせてくださる皆様が、今ここにいらっしゃる。本当におめでとうございます!」とあいさつした。

緒川たまき

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最優秀女優賞の緒川は、鈴木と目を合わせると、弾けるような笑顔でブロンズ像を受け取った。緒川は「久しぶりに鈴木さんの顔を見て真っ先に浮かんだ言葉は“信頼感”。彼女は常に信頼で満たしてくれる」「共演者やスタッフの皆さん、お客様1人ひとりの心に信頼を届けることで、作品の強度を高める。そういう俳優になれるよう努力しようと誓いました」と思いを口にする。さらに緒川は「コロナ禍で、会場になかなか来られない方もたくさんいらっしゃいます。もし画面の向こうで(今自分を)観てくださっていたら『あなたのおかげで進むことができた』とお伝えしたい」とメッセージを送った。

高橋一生

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山崎一から最優秀男優賞のブロンズ像を渡された高橋は、マネージャーから受賞の知らせを電話で聞いたと言い、「受話器越しに、マネージャーが1人、大声で万歳三唱するのを聞きました(笑)。芝居をやってきて良かったと、そのとき初めて思えた気がする」と感慨を述べる。高橋は「フェイクスピア」カンパニーメンバーの名前を1人ずつ呼んで「1人でも欠けていたら僕はここにいない」と感謝を口にし、「たとえ大勢に評価されなくても、できることに一生懸命で、有事の際も“右ならえ”せずよく考え、時に孤独になっても楽しく生きようとする。これからもそんな、“ひと塊”にならない1人ひとりにとって、ともしびとなるような演技ができたら」と意気込みを語りつつ「“頭を上げ”て、芝居に邁進していきたい」と、「フェイクスピア」のセリフを引用しながら締めくくった。

左から本多一夫、本多慎一郎。

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芸術栄誉賞に選ばれた本多劇場グループからは、代表の本多一夫と総支配人の本多愼一郎が出席。1982年に本多劇場が開場して以来、下北沢での劇場運営を続けてきた本多一夫は「下北沢が日本のブロードウェイになれば良いなと思います。あと3・4軒劇場を作ろうかとも思いましたが、なんたって私は88歳ですから……息子がやるかも(笑)。これからも演劇の街を支えたい。大きな賞をありがとうございました!」と謝辞を述べた。

野田秀樹

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最後は大賞と最優秀作品賞を受賞した「フェイクスピア」より、作・演出を務めた野田秀樹が登壇。野田は1983年に岸田國士戯曲賞を受賞したときのことを回顧して「同時受賞の渡辺えりから『私は式典のために白いドレスを新調したのに、あんたはジーパンだった』と、いまだに言われる。ジーパンではなかったはずですが、“感謝知らずの男”というイメージがあるんでしょうか」と笑いを誘う。1972年、高校2年生のときに初めて戯曲を書いたという野田は「あれから50年。大感謝祭をしようと(「フェイクスピア」の)みんなの名前を覚えてきましたが、高橋一生が全部言ってしまった」と再び会場を笑いで包み、「ぜひ感謝を伝えたいのが、出ずっぱりで舞台を支えてくれるアンサンブルの皆さん。彼らはこうした賞を個人でもらうことはないですが、支え続けてくれたことに心から感謝します」と語った。

さらに野田は「自分は昔からずっと、死者と対話しながら戯曲を書いてきたと『フェイスクスピア』で気付きました。若いときは亡き父母と対話しながら創作し、『足跡姫』では中村勘三郎さんのことを書きました」と明かす。「フェイクスピア」執筆の際は、2020年に80歳で死去した藤木孝への思いが胸中にあったと打ち明け、「藤木さんはよく私の芝居を観て『元気が出た』と言ってくれた。彼の死を知ったとき、自分の正直な気持ちとして最後の『いい天気だ』というセリフができました」と言い、「これからも死者と会話しながら、生きている人々と良いものを作っていけたら。50年分の感謝を込めて、ありがとうございます」と締めくくった。

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第29回読売演劇大賞

大賞・最優秀作品賞

NODA・MAP「フェイクスピア」

最優秀男優賞

高橋一生

最優秀女優賞

緒川たまき

最優秀演出家賞

上村聡史

最優秀スタッフ賞

伊藤雅子

杉村春子賞

那須凜

芸術栄誉賞

本多劇場グループ

選考委員特別賞

「桜姫東文章」

作品賞

  • 劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」
  • 「桜姫東文章」
  • ケムリ研究室「砂の女」
  • ブロードウェイミュージカル「ニュージーズ」

男優賞

  • 阿部サダヲ(NODA・MAP「THE BEE」)
  • 佐藤B作(二兎社「ザ・空気 ver.3 そして彼は去った…」)
  • 松尾貴史(二兎社「鴎外の怪談」)
  • 村井國夫(劇団桟敷童子「獣唄2021改訂版」、トム・プロジェクト プロデュース「にんげん日記」)

女優賞

  • 板垣桃子(劇団桟敷童子「獣唄2021改訂版」、劇団桟敷童子「飛ぶ太陽」)
  • 倉科カナ(こまつ座「雨」、「ガラスの動物園」)
  • 長澤まさみ(NODA・MAP「THE BEE」)
  • みやなおこ(TRASHMASTERS「堕ち潮」、TRASHMASTERS「ガラクタ」)

演出家賞

  • 岡田利規(KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「未練の幽霊と怪物―『挫波』『敦賀』―」、全国共同制作オペラ「團伊玖磨 / 歌劇『夕鶴』(新演出)」)
  • 野田秀樹(NODA・MAP「フェイクスピア」「THE BEE」)
  • 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」、劇団チョコレートケーキ「一九一一年」)
  • 眞鍋卓嗣(劇団俳優座「インク」、PARCO PRODUCE「音楽劇 海王星」)

スタッフ賞

  • 国広和毅(「Oslo(オスロ)」「「森 フォレ」「ザ・ドクター」の音楽)
  • 塵芥(劇団桟敷童子「獣唄2021改訂版」、劇団桟敷童子「飛ぶ太陽」の美術)
  • 長田佳代子(「森 フォレ」、劇団チョコレートケーキ「一九一一年」の美術)
  • 松本大介(劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」、オフィスコットーネプロデュース「母 MATKA」、風姿花伝プロデュース「ダウト ~疑いについての寓話」の照明)
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