大阪松竹座「初春大歌舞伎」出演の松本幸四郎、“復活狂言”と“問題作”に挑む

1月に大阪・大阪松竹座で上演される「壽 初春大歌舞伎」の取材会が、昨日12月23日に東京都内で行われ、松本幸四郎が出席した。

幸四郎は昼の部の幕開けを飾る「九十九折（つづらおり）」で木谷屋手代清七、「大津絵道成寺」では矢の根の五郎、夜の部の「大當り伏見の富くじ（おおあたりふしみのとみくじ）」では紙屑屋幸次郎を演じる。

「九十九折」を「不思議な作品」と表現した幸四郎は、清七の役どころを「忠義を尽くした主人から見捨てられても、怒るでもなく常に『自分はそういう運命なんだ』と自分に言い聞かせて生きているような男」と分析。「クライマックスである殺しのシーンも、『女殺油地獄』のような迫力があるわけではない。カッとなって殺してしまった、ということならドラマチックなんでしょうけど、清七の場合、そこに意思があったのかすら不透明。そういった部分に、逆にリアリティを感じますね」と作品の魅力に触れる。

さらに「『九十九折』は昭和50（1975）年8月に南座で上演された演目なのですが、資料が少なくて……」と苦労を明かしつつ、「書き込みのある台本や、上演記録を集めて、どこまで復元できるかが勝負ですね。復活狂言という捉え方で取り組みたい」と意気込みを述べる。また、上方歌舞伎の印象を「音楽の使い方が特徴的。江戸の作品では、義太夫で劇中の情景や場所がBGMのように唄われますが、上方はより主張が強いというか、演じ手を操ったり、象徴するものとして合方が存在している。そこが面白いですね」と語った。

そして2012年に初演されて以来、約8年ぶりの再演となる「大當り伏見の富くじ」に対しては、「これは……問題作です。まさか正月に再演できるとは。チラシに“熱いご要望にお応えして再上演”と書いてありますが、これは主に“僕の”熱い要望です（笑）」と話し、報道陣の笑いを誘う。大量の金紙が使われる演出については「前回、この演目のあとに『すし屋』が上演されたのですが、切腹のシーンで、取り切れなかった金紙が降ってきてしまって……（笑）。それで今回、最後の演目になったんです（笑）」とエピソードを明かした。

幸四郎は、「富くじ」の脚本・演出を担当する齋藤雅文と打ち合わせした際に、改めて戯曲の完成度の高さに驚いたと語り、「タイトルにもある富くじは、“夢を持つこと”の象徴。そのメッセージ性と、愛嬌があるけれどどこか影のある鳰照太夫の存在の2つを柱にしましょう、ということを齋藤さんとお話しました。喜劇というのは、人間ドラマがしっかりあったうえで初めて上演し続けられるもの。コントになってしまわないよう、そこを大事にしたい」と言葉に力を込める。

記者から、現在上演中のチャールズ・チャップリン原作「蝙蝠の安さん」や、「八月納涼歌舞伎」での“弥次喜多”など、喜劇作品への出演が続いていると指摘を受けた幸四郎は「“松本幸四郎”って本来そういう人じゃないと思うんですけど……（笑）。でも嫌ではないので、松竹さんが示す方向性に乗っかっていきます！」と笑顔を見せ、報道陣から笑いが起きる。最後に「松竹座の正月公演が盛り上がるよう、初日に向かって準備を進めています。できる限りのことを勤めますので、よろしくお願いいたします」と決意を新たにし、取材会を締めくくった。

「壽 初春大歌舞伎」は大阪松竹座にて、1月3日から27日まで。

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。